【しょうしつとし。】 桜堂 和利
テレビではどこのチャンネルも、軍艦島で発生した光、ミイラ死体や消えた赤子のニュースを流している。軍艦島の特徴でもあった、船のようにも見えるコンクリート群は、影も形もなくなっていた。あそこには妻の愛子もいたはずだ。もちろん、あの男も。
施設内に、けたたましいアラート音が鳴り響いている。
「新生物の誕生を確認しました。恐怖を感じると、物体の存在エネルギーを吸収するタイプと予測されます」
電子音とは思えないほど、滑らかな音声で報告をするのは、今回導入された最新型のAIだった。緊急時に似つかわしくないほど、穏やかなトーンでアナウンスを続けている。
「新生児を強くするためのパラメーター調整が、裏目に出たようです。新生物は存在エネルギーを成長エネルギーに変換しながら、現在もなお、東へ進み続けています」
あの予言の書はフェイクだったはず。なのにどうして。
こんなはずではなかった。
いや、違う。この世界は変わってしまうのだ。私たちが望んだ通りに。私こそが、愛子の死を願ったのではなかったか。
「このままでは成長した新生物に、すべての物体の存在エネルギーが吸収される可能性があります。ただいまより緊急メンテを行います。終了時間は今のところ未定となっています」
「緊急メンテなんて、やめてくれ」
「修正が終わり次第、順次リブートを行いますが、かつてない大規模メンテとなるため、データの保証ができません。安全にコンバートを行いたい場合は、速やかにログアウトされることをお勧めします。ただし今回のコンバート処理は緊急のため、金銭、アイテム類は引き継がれません。ご注意ください」
冗談じゃない。やっとこの世界で頂点まで上り詰めて、莫大な財産と、寿命を延ばすチートコードまで手に入れたのに。すべてをなかったことにしろというのか。どれだけの時間を費やしたと思っているんだ。ふざけるな。
すべてを放棄するなんて嫌だ。戻りたくなんかない。絶対に嫌だ。あちらの世界の私は、ただの社会のお荷物でしかないのに。
「繰り返します。ただいまより緊急メンテを行います。終了時間は今のところ未定となっています。修正が終わり次第、順次リブートを」
急にアナウンスが止まった。壁が崩壊していく。壁だったものが、砂利や水、石膏のような素材に、どんどん戻っていく。まるでコンクリートが完成するまでの経緯が、巻き戻されているかのように。
私の体も、急激に潤いを失っていく。顔も手も足も、シワシワにしなびていくのを止められない。体から力が抜けていく。体の重みに耐えられず、立っていることもできない。崩れ落ちるように倒れ込んで、床に這いつくばった。
嫌だ。待ってくれ。私の居場所を奪わないでくれ。ここに存在させてくれ。
必死にログアウトするためのメニューを出そうとしたが、私の干からびた手には、そんな力は残されていなかった。




