【はいきょとし。】 朝比奈 涼
青いライオンの着ぐるみ人間たちに連行されて、目隠しをされたまま、エレベーターに乗ったことだけは憶えている。首筋に痛みを覚えて、気が付いたときには眠りに落ちていた。
再び俺が目を覚ました時、目の前は暗闇だった。
少し目が慣れてくると、かすかに月夜に照らされて、周囲の地形が見えてきた。それは見覚えのある景色だった。『はいきょとし。』というゲームで遊んでいたマップにそっくりだ。
ふいにポケットの端末が振動して、心臓が跳ね上がる。慌てて取り出そうとして、手からこぼれ落ちそうになって、必死に掴んで画面をタッチする。
ライトが点灯した。画面には周辺のマップらしきものが表示されている。やはりゲームで遊んだものと同じ地形のようだ。
これはどういうことだ。俺は今はゲームを遊んでいるということなのか。顔を触ってみる。ゴーグルのようなものは何もついていない。体も手足も触ってみるが、普通に自分の体だ。
つまりここは現実だということだ。いわゆる遊園地のアトラクションみたいな場所に連れてこられたということなのだろうか。だとしたら、ここで何が始まるのか。嫌な予感しかしない。
また端末が振動して、飛び上がりそうになる。画面にはメッセージが表示されている。
『サバイバルゲームを開始します。タイムリミットは二十四時間です。Hunter(狩人)を倒すごとに100ポイントを進呈いたします。頑張って戦ってください』
Hunter(狩人)を倒す? Hermit(隠者)を倒すの間違いじゃないのか。
そう思いながら、端末から顔を上げた瞬間、俺の目の前に、ハンドガンを構えた男が立っていた。こちらを見て笑っている。
「最初のゴミはお前か」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
銃声が聞こえた直後、頭を鈍器で殴られたような衝撃があった。いつの間にか、左目が見えなくなっている。
手で触ったら、そこにあるはずの肉がえぐれて、血が流れていた。こんなにひどい怪我をしているのに、どうして俺は立っていられるのか。不思議でならなかった。
まったく痛みを感じていない。俺の体はどうなってるんだ。やっぱりここは、現実ではないのだろうか。
「とっとと死ねよ、ゴミ野郎が」
ハンドガンを持った男が、笑い声をあげながら、何度も何度も俺の頭を撃ち抜いていく。必死に男から離れようとするが、足元を狙われて、そのまま倒れこんだ。
殺される。いや、何度もすでに死んでいても、おかしくないぐらい攻撃されているのに、俺は生きている。まさか、俺の体は……。
「涼……くん……」
離れた場所から、虚ろな目をして歩いてきたのは、看護師の貞子だった。俺の前に立ちはだかって、ハンドガン男の攻撃を受け止めている。
「にげ……て」
貞子は頭を吹き飛ばされて、動かなくなった。
「ゴミのくせに、まだ知恵が残ってるんだな。確かに鍛えれば、兵隊として使えそうだ」
ハンドガン男が、俺の額を狙っている。足を引きずりながら、必死に走ったが、逃げた先は行き止まりだった。
俺はこんなところで死ぬのか。そんなのは嫌だ。まだ女も抱いたことがないのに。人として真っ当な幸せも知らずに、このまま死ぬなんて、絶対に嫌だ。
潰れていたはずの細胞が再生していく。足も、左目も、頭も、どんどん元の体に戻っていく。
俺が隠者だというのなら、狩人を殺しまくって、逃げて逃げて逃げまくって、絶対に生きて帰って弟を殴ってやる。いや、殺してやる。
ありったけの力を振り絞って、ハンドガン男に飛びかかった。




