38章 「反乱、セロ・カシュラー編 7」
ブリーフィングから三日経ち……誰もが気を張り、常に仲間との結束を忘れないようにしながら、この日々を過ごしていた。初めて使われた地下牢にいるベルガーという存在にも慣れてきた様だ。
だが、こんな日々は早々に終わった。日が暮れ始め、太陽が山の方へ沈みかけている夕刻の頃だった。基地の全体に大きな声が響き渡った。
「敵襲! 反乱軍だ! 総員警戒体制!」
空間が一気に張り詰めた空気に包まれた。廊下に居た皆が一気に走り出す。僕は近くの兵に、
「地下牢の捕虜を上に連れてきてくれ! ピストルを持った兵も頼む!」
そう言うと、兵は返事をして地下牢の方へ向かっていった。僕は戦闘機庫に向かい……今から対峙するであろう、カシュラーの姿を思い浮かべていた。僕はあの男を超えなければならない。……技術的にも、精神的にも。
既に戦闘機庫には、僕以外の七部隊のメンバーが集まって、装備を整えていた。僕も慌てて、飛行服を付け始めた。やがて付け終えて、コクピットに乗り込む。
無線から声が聞こえた。
『……こちらは、ワークス基地。シュワーゲツ・サラ上等兵、聞こえますか?』
『こちらシュワ。聞こえている』
『ロンラワマ・スクワーデス一等兵、聞こえますか?』
『こちらロンラ、聞こえています!』
『エスカイア・リロサヤ一等兵、聞こえますか?』
『こちらエスク、聞こえます』
『ハワナ・サーライト兵長、聞こえますか?』
僕は返事をした。
「聞こえます!」
僕は焦燥感から、ふと横を向いた。横にはサラが居た。……彼は僕に気付くと、確かに頷き、……深呼吸をして、前を見た。
反対側を向くと、スクワーデスが居る。……彼女は俯きながらも……僕にグッドサインを向けた。
空は孤独だ。コクピットには僕しか居ない。……けれど、空には仲間が居る。……カシュラーの反乱軍は、奴を除く機体は、全てレンサーエネルギーで出来た傀儡。奴こそ、本当に孤独なのだ。
何も恐れる事はない……。僕には仲間が居る。
次々に機体が発進し、空に飛んだ。最後に残されたのは僕の機体だけだ。僕は操縦桿を握り締め……思い切り前進した。
「イーグル、出撃します!」
がたがたと機体が揺れて……やがて接地感が無くなった。僕はコンパスを見ながら、周りを見渡した。……目の前に、三機の機影が見えた。……左右の機体は青色に光り輝いている。あれは傀儡だ。……だが真ん中の機体は違った。明らかに他の物とは様子が違う。僕はしっかりと真ん中の機体に目を凝らす。
その瞬間に、はっきりと分かった。こんなに遠くに離れていても、肌がぴりぴりと痺れるプレッシャー。……間違い無い。……奴だ。
……ナチスのスパイでありながら……自国すら裏切り、全てを敵に回した、愚か者の天才。……セロ・カシュラーだ。
「こちらイーグル! 真ん中の機体はカシュラーだ! セロ・カシュラーだ! 何としても奴の機体を落とせ!」
僕は無線のマイクを手に取り、叫んだ。奴に対しての恐怖を紛らわせようとしていたのだ。その時、無線のスピーカーが明らかに異常なノイズを発し始めた。
「……何だ?」
すると、ノイズの中から……有り得ない、奴の声が聞こえたのだ。
『……久しぶりだな、ハワナ・サーライト兵長』
「……カシュラー!」
余裕ぶった、強者の風格を示す声だ。
『兵長の言う通り、真ん中の機体は私だ。……君達のil2だ。……反乱軍の機体が無限に飛べるのも、こうやって君と話が出来るのも、君達の好きだったカラナタ・エンブラス少将が残してくれた不死鳥の羽から抽出したレンサーエネルギーのお陰だよ。……彼は最後に良い仕事をしてくれた』
どうしても我慢できなくて、僕はコクピットの壁を叩いた。
「少将を侮辱するな!」
『……君。……ハワナ・サーライト。……私の反乱軍に入るつもりはないか?』
突拍子も無い話で、僕は動転した。
「……何の話だ」
『君と私はよく似ている。まるで前世では兄弟だったみたいにね。君とは分かり合えそうなんだ。……高度を落として、私の部隊の下を潜り抜け……Uターンし、私の仲間に加わればいい』
「……断る。お前みたいな奴とは、永遠に分かり合えない」
『……ふうん。……詭弁だ。無理をしてるね。……まあいい。精々頑張りなよ』
そこでノイズは途絶えた。無線が元に戻った様だ。……反乱軍との距離が刻々と近付いている。サラの声が聞こえた。
『こちらシュワ! 前方からの銃撃に注意しろ! いつナチスの援軍が来るか分からないが……とにかく僕達だけで何とかするんだ! こちらから見て右側の機体に集中砲火を仕掛ける! 衝突しない様に注意しろ!』
僕が酩酊している間に、サラが指示をした。……流石だ。僕は右の方に舵を取った。……僕は、あんな奴に絆されない。……されて、たまるか。




