37章 「反乱、セロ・カシュラー編 6」
会議室に第七部隊のメンバーと、対空攻撃部隊が集まった。皆緊張が走っているが、良い気の入り方をしていた。僕はベルガーの件を機に、今回のこの作戦の責任者となった。
テーブルの近くに立ち、その上の基地付近の空域の地図を眺めた。
「……では、これより今回の作戦の説明を始めます」
僕は先ず、赤色の戦闘機の駒を三つ、基地から離れた方に置いた。
「恐らく反乱軍はこれ以上の数で……攻めてくるでしょう。……予想もつかないし、考えたくもないですが……。とにかく、襲撃があれば捕虜がナチスドイツに電話を飛ばします。……しばらくしたら、援軍が来る筈です」
僕は更に、一本の煙草を基地の上に置いた。
「……同盟が決裂した場合は、捕虜を射殺する決まりになっています。……そんな事は起こらないで欲しいですが……よろしくお願いします」
皆の顔が一瞬曇ったが……直ぐに元に戻った。
「……そして、カシュラーが来た時は……僕が奴を叩きます。……周りのホログラムの相手は……サラ上等兵、スクワーデス一等兵、リロサヤ一等兵。……宜しく頼むよ」
「「「はい」」」
しっかりと三人は返事をしてくれた。……ここまで四人で戦ってきた。……今更、彼等に不安に思う所はない。
「……よし。以上でブリーフィングを終わります。……いつ襲撃に遭うか分かりません。……どうか皆さん、油断のない様に……」
皆が敬礼をした。……僕等は取り敢えず完璧だ。……だが一人だけ……たった一人、心配な者が居る。僕は会議室を出ると、地下牢の方へ向かった。
ベルガーは地下牢の中で体育座りをして待っていた。彼は足音で僕に気付いたらしく、話しかけてきた。
「サーライト。わざわざどうしたんですか?」
「……ああ。君にも作戦を伝えようと思って」
……僕はそれから作戦の内容を話した。……終始落ち着いていて……彼が人質になるという事を話しても、表情は揺らがなかった。
「……そうですか」
「……反乱軍が来たら、兵が地下牢に来て、君をここから出して電話をさせる筈だ。……それまでは待っていてくれ。……そして、どうか君の命を賭けてしまう事を謝罪させて欲しい。……申し訳ない」
僕がそう言うと、彼は皮肉混じりに笑った。
「いいんですよ。……こんな危ない仕事をさせられる時点で、僕は味方から信頼されてないですし……それにひ弱で力もない。……こんな僕は、いつ殺されてもおかしくないんですから。……ここで死ぬか、戦場で死ぬかなんて、そう変わりません」
「……でも」
「……こんな僕が、せめて戦場で死ぬのと同じ様に苦しまずに……銃で頭を撃ち抜かれて……祖国を思って死ねるなら、本望じゃないですか」
彼の目は遠くを見つめていた。……それは何か……故郷の風景か、それとも彼のハーケンクロイツかは分からないが、その目には明らかな憂いが含まれていた。
「……君を絶対に死なせはしない」
「……え?」
自分でも何を言っているのか分からなかった。……けれど今の彼を見ていると、どうしても言葉が浮かんでしまうのだ。
「こんな所で……無抵抗に、惨めに死んでしまうのなんて、幸せな訳がないだろう……。……今だけ同じ、祖国を背負う兵士として言おう。……『決して誇りを捨てちゃいけない』。……君は兵士である以上、死ぬなら戦って死ななくちゃならないと思う」
……この言葉は……信じられないかもしれないが、あのカシュラーからの受け売りだ。……僕は未だあの男に縛られている。
僕の言葉を聞いて、ベルガーはぷっと吹き出した。
「ははは……。そうか、兵士……。兵士ですか……。そんな生き方、考えた事もなかったなあ……。……はあ。良いですよ。分かりました。……それなら、どうか宜しくお願いします。……僕も、作戦の成功を祈ってます」
彼は牢から手を伸ばす。僕はその手を掴み、握手をした。ベルガーはドイツ人らしい蒼い瞳を僕に向けてきた。
……僕が求めている物は決して認められない事だ。……敵軍の兵士のベルガーの……幸福。……だが……同じ人間の幸福を祈って何が悪いと言うのだろう。……彼は落ちこぼれで……僕も落ちこぼれだった。落ちこぼれで、こんな実験組織の様なレンサー軍に飛ばされて来た。……彼とは背も……よく見ると顔つきも似ている。大きな瞳に、丸顔。よく男らしくないと言われる顔つき。……こんなにも似ている人間が……ドイツに居たなんて。……そんな人間の幸福を堂々と祈れない今の時代こそが……一番の不幸だ。




