35章 「反乱、セロ・カシュラー編 4」
僕は彼の毅然とした態度に動揺しつつも……持っていたピストルを向けた。それでも彼は表情を変えず、ゆっくりと変わらず僕を見つめながら手を挙げた。
「……武器を捨てろ。そしてしゃがんで、後ろを向け」
すると彼は怖気付く事なく、所持していた小銃を地面に捨てると、指示通りの体勢になった。
僕は彼にゆっくりと近付き、依然銃口を頭に向けながら、質問した。
「答えろ。……何故にここに来た」
「……ビラにある通りです。同盟を結びに来ました」
彼はそう淡々と告げた。後ろを見ると、様子を見に来た人達がこちらを見ている。二人の兵がこちらを見て、そしてベルガーに銃を向けている。
僕はその様子をしっかりと確認すると、気を抜いてピストルを下に向けた。大きく息を吸って……敵兵がここにいる事、そして僕が生かされている事を確認すると、彼等に言った。
「……捕えろ」
二人は駆け出して、ベルガーの両腕を掴み基地へと連れて行った。
その様子を見送り、僕はその突き刺す様な痛みが喉を走るのを堪えて、息を吐いた。
会議室に入る前、中はがやがやと騒いでいた。……当然だ。僕はノックをして、ドアを開けた。
僕が入って来たのを見て、仲間達は自分達の席にゆっくりと戻った。その中の一人が僕に聞いた。
「……どういう事です? 誰なんです、彼奴は……」
僕はふっと息を吐き、一息で言った。
「シンプルに言おう。彼はナチスドイツ陸軍の兵士、アンドレアス・ベルガー一等兵だ。彼はビラで書かれていたワークス基地とボルケ基地の同盟を円滑に進める為に派遣されたんだ……」
部屋中がざわつく。
「何を言うんですかサーライト兵長! 俺達が何の為に戦って仲間を失ったと……カラナタ少将だって! 俺達にゃジュネーヴ条約なんか目じゃねえ! 今すぐ殺さなくては!」
一人の大柄な兵が僕に向かって叫ぶ。それを黙って見ていたサラが立ち上がって、彼らしくもない大声で叫んだ。
「馬鹿野郎! そうやって僕達は何度尊い命を失ったんだ! そうだ、そんな精神がなかったら、きっとロンガーシャ軍曹だって……! 隊長! 今こそ手を結び、強大な敵に立ち向かう時です!」
そうして、この部屋は七部隊とその他の兵の穏健派と、残りの兵の強硬派に分裂してしまった。
僕は顔を伏せて周りの口論の声をよくよく聞いた。……そうだ。この中に間違った事を言っている者なんていない。誰も……。どちらの言い分も納得出来る。けれど僕は……。
僕は立ち上がった。やはり皆良い奴だ。すぐに静まって、僕の方に注目した。
「……やっぱりそうだ。この中に間違った事を言っている人なんていない。皆敵は許せないし、無駄な殺生は嫌だ。……けれど、僕達が今出来る事は、新しい事……。外れた事をする事だと思う。反乱軍の存在自体がイレギュラー。……なら僕等もイレギュラーに走らないと、きっと奴には勝てない」
僕はそう言い終えると、強硬派の大柄な兵の元に近付いた。彼は眉を顰めて、僕をじっと見つめる。……だがそれに敵意はない。僕はそう信じていた。
「……もし納得がいかないのなら……。ここで僕を好きなだけ殴れ」
僕は抵抗しない事を示す為、後ろに腕を組んだ。彼は、歯を食いしばると、大きくその拳を挙げて……僕に振り下げた。
その瞬間に、周りが一斉に目を瞑る。
……だが、会議室に打撃する音が響く事はなかった。……彼の拳は、彼の込み上げる何かしらの感情に揺さぶられ、震えていた。
僕は彼が不快な衝動を堪えているのを真っ直ぐ見つめていた。……そして、彼にゆっくりと言った。
「……そうだよ。……君の拳は、仲間じゃなくて……この世の愛と平和を掻き乱す『真の敵』に振りかざすんだ……」
僕はそう伝えると、崩れ落ちる彼をよそにして、ベルガーのいる房へと歩みを進め、会議室を出て行った。




