32章 「反乱、セロ・カシュラー編 1」
僕達が基地に帰ってくる頃、時刻は既に深夜だった。だが、基地内は何だか騒がしかった。
「……何だか騒がしいですね」
隣にいるサラがそう言う。僕は別の兵に事情を聞いた。
「ああ君。一体この騒ぎは何だい」
「……それが……カシュラー基地長がいなくなったんです」
「……本当か?」
彼はその後、全てを話してくれた。
今朝、カシュラーは戦闘機庫に居たらしい。何をしているのか兵が聞くと、彼はこう答えた。
「……完成したんだよ」
そう言うと、彼は置いてあったIl2に乗って、飛び去ったそうだ。
何かのテストかと思い、黙認していたそうだが、昼になっても帰って来なかったらしい。
道理で騒がしい訳だ。治める者がいなくなった基地は、暴走状態に等しい。
上に立つ者が必要だ。
「……まずいな。……兎に角だ。……皆さん! 聞いてください!!」
僕は声を張り上げた。周りの人達が、何とか僕の方に注目した。
「今日はもう遅いですから、皆さん就寝しましょう!! 本部に連絡をしてから、各自部屋に戻って下さい!!」
その言葉を聞くと、周りの兵達も納得した様で、おずおずと部屋に戻っていった。
リロサヤが目を輝かせて、僕に言った。
「流石隊長! かっこよかったです!」
僕は少し反応に困りながら彼に言った。
「あはは……こういうのは慣れてるさ。僕が本部に電報打っておくし、皆ももう寝てくれ」
そう言うと、皆お休みなさいと言って、廊下を歩いていった。
三人が並ぶ姿が、まるで家族の様に見えて、何だか微笑ましかった。
・・・・・・
僕は個室に入り、電報を打っていた。
「ワークスから本部へ。基地長のセロ・カシュラーが今朝戦闘機を持ち出し脱走。対応を求む」
僕はそう電報を打った。一通り作業を終えると、気が抜けて欠伸が出た。
ふと窓を見ると、雲一つ無い空に三日月が浮かんでいた。
……カシュラーも同じ月を見ているのだろうか。……何を考えているのか、それが気になって仕方無かった。
・・・・・・
翌朝も結局カシュラーが帰って来る事は無かった。
確かな不安感を皆が覚えているのを、僕達は何となく理解していた。
だがそれでも日常は過ぎていく。替えの基地長が来るのを待つしかない。
全員が起床し、朝食を皆が食べ始めた時だった。
一人の兵士が、窓に向かって瞬間叫んだ。
「おい! 何だあれ!」
思わず僕達もその窓の方向を見る。もう一人が席を立ち、窓にへばりつくのを皮切りに、皆が席を立って窓の方を見た。
窓の外には、あの失われた基地長……セロ・カシュラーの姿が映っていた。
「……あれは……レンサーエネルギーのプロジェクター!」
どうやらレンサーエネルギーを使い、カシュラーの姿を投影しているらしい。
リアルタイムで投影しているらしく、プロジェクターに映るカシュラーは瞬きをしていた。
皆の息にタイミングを合わせる様に、奴は口を開いた。
「……ソビエトの兵士達よ。今日は素晴らしい日だ。太陽が皆を祝福している。……そんな素晴らしい日に、この事を発表出来るのを嬉しく思う。……私は、ソビエト連邦軍を裏切り、君達の敵となる」
誰もがどよめきを隠せなかった。……まさかこの軍から裏切り者が出るなんて。
「私は元々、ナチスから派遣されたスパイだった。……その事を疑いもせず、私を信頼してくれたソビエトの兵の皆には感謝しても仕切れない。……はは。ありがとう」
カシュラーは皮肉に笑う。……前に言っていたリロサヤの勘は当たっていたのだ。
だがそれを知った所で、今更どうこう出来る問題では無いが。
「……だが今の私には、もはやナチスも興味は無い。……ここで宣言しよう。私は、今からナチスから脱退する。そして、私は新たに反乱軍を設立し、ナチス、ソビエトに宣戦布告する!」
皆が口々に話を始めた。……今ここに、新たな敵勢力が出来てしまった。
「ふざけんな! そんな事出来るわけねえよ!」
一人の兵士が叫ぶ。だがその声は届かず、カシュラーは変わらず話を続けた。
「……私は、基地長をしていた基地から、羽根を盗んだ。皆知っているだろう。……英雄カラナタ・エンブラス少将が操縦していたIl2の羽根だ。……私はあの動きに興味を持ち、密かに研究をしていたのだ」
カシュラーは淡々と語る。……奴に英雄扱いされる少尉も心外だろう。
「……そして、私はある技術を獲得した。……さあ、ワークス基地の兵士達、見るがいい」
その瞬間に、カシュラーの姿が消え。
そこには三機の戦闘機の姿があった。
「何だあれ! さっきまで無かったのに!」
僕はじっと目を凝らし、その戦闘機を見る。
……よく見ると、その戦闘機は半透明に透けていた。……これがカシュラーの、手に入れた技術。
その時にカシュラーの声が聞こえた。
「……これはレンサーエネルギーを利用したホログラムだ。……幻影だが、攻撃も出来る。私は逃げた先でレンサーエネルギーが湧き出る場所を見つけた。……このホログラムを使い、……貴様らナチスとソビエトを壊滅させる」
その瞬間に、戦闘機が機関銃を放つ音が聞こえた。
僕達は真っ先に持ち場につき始める。
……大変な事になってしまった。
「……ははは!」
カシュラーの高笑いを聞きながら、僕は戦闘機庫に走った。




