1章「スターリンの犬の軍曹」
鏡の前に立ち、軍服を整える。
赤色の襟章。初めて貰った時は嬉しかった物だ。
帽子には赤の鎌とハンマー、共産主義の象徴。
そう、僕はなりたての軍曹だ。
このソビエト連邦において。
・・・・・・
初めてレーニン閣下のお姿を見たのは、確かソビエト連邦が成立した時だ。
その頃僕は九歳だった。
赤色の共産の鎌とハンマー。足並み揃ったパレード。
近所の子供に馬鹿にされていた僕は、その時親よりも信頼出来る存在を見つけた。
『ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ』人は彼をレーニンと呼ぶ。
その彼の美しい声と、その目。なんと美しい事だっただろう。その時のロシアの人々も歓喜していた。
革命が起こった。
その後レーニン閣下と二度と会うことは無かったが、その頃軍に入る為の訓練を始め、士官学校に成績ギリギリで卒業、その後憧れのソ連地上軍に入った。
そして今は二十五歳だ。
だが、レーニン閣下はお亡くなりになられ、今はスターリンが政治を行っている。僕はスターリンが嫌いだ。公には言えないけど。最近軍で生きる価値を無くした。
・・・・・・
「失礼します」
多分失礼無く入れたと思う。きっと。
「やあ。待っていた」
そう顔を上げたのは、ソ連空軍、カシュラー軍曹だった。
右手を顔に上げ、停止した。
彼は今三十五だが、最速で成果を上げ、軍曹に昇格した、と聞いた。
精悍な顔付きで、女子兵からの人気は高い。
僕は昨日初めて知り、今日初めて出会ったが。
「まあ、座ってくれ。長くなるからな」
敬礼を戻し、背もたれに倒れず座った。
「今君の隊は忙しいというのに、よく来てくれた。・・・君を呼んだのは他でも無い。軍の異動命令が君に出た」
「私に・・・ですか?」
「ああ。・・・我がソビエト連邦の新しい軍の話は知っているね?」
「はい、レンサー軍でしたっけ」
戦っているナチスが、新たなエネルギーの開発に成功した。それがレンサーエネルギー。航空機に現在使われている。圧倒的な火力を生み出し、無限に飛ぶ。それをナチスがベルリンで発見し、ソビエト連邦もようやくレンサーエネルギーを見つけたという訳だ。
「そうだ。その一つの部隊の指揮を、君にやってもらう」
「・・・僕はまだ軍曹ですよ。指揮なんてそんな・・・」
基本指揮をやるのは早くても少尉からだ。僕には・・・あまりに荷が重い。
「偉大なるスターリン閣下の御指令だぞ?逆らうのなら、スターリン閣下の名前を使い、君を粛清してもいいんだ」
「・・・分かりました」
「それならいい。明日の朝、このサンボル基地からレンサー軍本部基地に移動だ」
椅子から立ち上がり、僕はそっと、
「・・・スターリンの犬が」
と小声で言った。
いつまで続くか分からない、見切り発車シリーズです。
ネットポリスを楽しみにしていた方、申し訳ありません。