孤絶
気がついたら俺は一人横たわっていた..
その後は異常な日々が続いた..
体は確かにあった..でも俺は存在していないみたいだった..
通りかかった人はいた..しかし彼らは俺を認識出来ないようだった..
そして体は俺の言うことを聞いてはくれなかった..
ただ何もない砂漠に俺は一人..目を閉じることも..耳を塞ぐことも出来ない..
逃避すら許されなかった..
なぜこうなってしまったのか..俺にも分からない..
物心二元論なんて現代は否定されがちな近代思想を思い浮かべてみる..
俺が操っていたはずの身体は一体どこにいってしまったのだろうか..
もう生きているのか死んでいるのかも分からない..
まさに地獄..終わりが見えない..
理解者のいない世界..思い通りには動かない体..突きつけられ続ける現実..
社会から切り離された孤絶という苦しみ..
泣きたくても泣けない..怒りの感情も表には出せない..
そうかい..わかったよ..
もはや俺は既に..「人間」ではないんだな..
「なあ、もう代わってくれよ」
「じゃあ鬼ごっこね♪」
「は?いや俺は壺を持..」
「はい!スタート!!」
こんな状態になってからどれくらいの時間が経過しただろうか..久しぶりに人の声を聞いた..近くに誰かいるのか..
いつぶりだろう..まぁそんなことはどうでもいい..
どうせまた気付かれない..
だって俺は存在して...
なっっっ!!!!
「はやく来なよ~!」
少女に真上から腹を踏まれたようだ..
勿論体が無いのだから苦しさはない..
でも感触としてはかなり気持ちの悪...
いっ!!!
「ちょっ..待てって!!あっ..」
少年にはすねをガッシリ踏...
まっっ!!
空から壺が降ってきた..
いや流石に空からというのは嘘だ..少年が壺を下にして倒れてくる..
このままいくと壺のフチが俺の顔に当たりそうだ..
こりゃ当たったら死ぬな.. まぁ当たるはずがないんだがな!
な~んてフラグを...
ゴツッ
った~~!!!!
てて、即回収してしまったようだ..
へ?回収?
「痛い..」
思わず口に出た言葉..今までは出したくても出せなかったもの..感じたくても感じられなかった感覚..
そうか..ようやく解放されたのか..目が涙を留められずに吐き出した。頬が濡れる。
少年は俺の存在にビックリして跳ね起きたようだ。驚きを通り越して声も出ないといったような表情をしてこちらを見ている。
そこは仲間になりたそうな目をしていてほしかったな..なんて涙を拭いながら愉快なことを思ってみる..
あ~現実逃避をしてしまっているな..一旦状況を整理しようか..
まずは俺の状況..
身体が存在を取り戻した。なぜか..壺にぶつかったからか?いや、俺が濡れていることから考えて、壺の中に入っていた液体が原因かな..いやどんだけスペシャルな液体なんだよ!まぁ現時点ではその確率が圧倒的に高いかな..
さ!取り敢えず横にいる少年にでも話しかけてみよう..
俺は体を起こし、呆然としている少年の肩を叩いた。
「やあ!最近どうかな?」
「え..」
ハッ!人と話すのが久しぶり過ぎて、嬉しさのあまりよく考えずに発言してしまったけれど、これじゃ明らかに変人じゃないか!やってしまった~!自分の理解者いない歴を恨む..
タッタッタッ
少年が私の場違いな問いに答える前に、彼を見捨てて先に行ってしまっていた少女が戻ってきたみたいだ。話題が逸れてくれるとありがたい。
「え?君誰?シュウ!知り合い?」
なるほど、この少年はシュウというのか。
彼らはむこうを向いて二人だけで話し始めた。情報を共有しているのだろう。そして振り返る。
「えっとね!あっそうだ!君の名は..」
なんだかツッコミを入れたい衝動に駆られるがここは我慢しよう。
「ああ..俺の名前は」
ここで俺は気付いてしまった。今さら過ぎて自分でも驚きなのだが、俺には全くと言っていいほど自分に関する記憶がなかった。
「エイムだ!よろしく!」
咄嗟に口から出てきたのはエイム..つまり目的、狙いといった意味のある名前だった。