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私は孤独な勇者。一人夜はつらいなって話

作者: 三須美ソウ


私は勇者。冒険者として過ごしていたけど、とある偶然により勇者に選ばれた者。

仲間は募集中。どなたか一緒に魔王を倒しませんか。



**********



夜を迎え、近場で拾ってきた小枝で焚き火を作る。

共に火を囲む仲間なんていなくて、三角座りをして揺れる炎をぼーっと眺めていた。

腕には切り傷、膝には擦り傷、回復薬を飲むまでもいかない軽傷なら自分で応急処置をしている。

一人で持てる道具数なんて限られているもの、慎重にやりくりしないとね。


ここ一帯は日中は穏やかな気候だったけど夜は少し冷えてくる。

例えば仲間がいたら、少し冷えてきたね、なんて言い合ったりして。

身を寄せ合ったり、温かい飲み物でも入れようか、なんてやりとりがあったりするんじゃないかな。

そういうの、私にはありません。なんせ、一人ですから。

ひんやりとした夜風が体感よりも身に染みる気がする。気の持ちようなのかな、さみしい。


『そう落ち込むでない、勇者よ』


身を守るように膝を抱えていると頭の中で声が響いた。

導きの声と私が勝手に呼んでいるそれは、勇者として選ばれたときから時々聞こえるものだった。

王より賜った聖剣を通して話しかけてきているようなんだけど、私からコンタクトはとれなくて、話しかけられた時のみ会話できるみたいだった。

そんな一方通行なコミュニケーション!余計さみしさが募る!

それにこのコミュニケーションスタイル、端から見たら私が独り言ぶつぶつ言ってるみたいに見える大変危険なスタイルなのだ。それに気づかなかった当初、周りからとても変な目で見られていた。悲しい思い出の一つです。


「落ち込むよぉーなんで私には一緒に戦ってくれる仲間がいないのぉー」


単身魔王に乗り込むとか自殺行為でしかなくない??

普通は頼れる仲間がいて、助け合いながら苦難苦労を乗り越えていくものじゃない??海越え山越ええんやこらじゃない??

まだ魔王へたどり着くための道が見えないから今すぐってことじゃないと思うけど、このままじゃ一人で乗り込むことになりそうなんですけど!


『我がおるではないか』

「人のぬくもりがほしいのぉー私から話しかけられないそんな世の中はポイズンなのぉー」

『お主は何を言っておる」


こんな軽口叩いてなきゃ孤独な夜は過ごせない。

せっかく導きの声の主が話しかけてきてくれてるのだ、できるだけ会話を楽しみたい。ひとりの夜をやり過ごしたい。

勇者に選ばれて魔王を倒す旅に出るはいいけど、魔王側の敵に狙われることが増えた。

私だってこれまで冒険者やってきたしある程度は力もあると自負してるけど不安になってくる。やり遂げられるのだろうか、とか。倒されてしまうのではないだろうか、とか。

こういうとき、分かち合える仲間がいたらいいなって。思ったりするわけですよ。それがゼロ。わたし一人旅。つらい。


そりゃあ私だってそれなりに仲間を増やす努力はしておりますことよ。

冒険者の拠り所である酒場にだって仲間募集をかけてるし、行く先々で人々の困りごとには積極的に首を出しいいところを見せてきている。……つもり。

成り行きで困りごとの解決を共にする冒険者とか、幾度か顔を合わせて顔見知りになる旅人とか、盗賊かと思いきや人情味ある義賊やってる一匹狼とか知り合うのに……

俺も、私も一緒に魔王を倒します!なんて声をかけてもらうこともなかった。

こういうのって、旅を続けていくうちに自然と仲間が増えていくものじゃないの??

どこ情報か、ですって?それは……なんか、私の第六感がそう呟いてるんだけなんですけど。


『思うことがひとつあるぞ』

「え!なに?!」

『我が思うにな、なんやかんや結局お主が一人でなんでも解決してしまうところじゃないか』

「んん?どういうこと?」

『なにかあっても「私は大丈夫!」と周りを頼らないではないか』


まぁ、そうですね。導きの声にうんうんと頷く。

勇者に選ばれる前の私、冒険者をやってたけど、基本ひとりだった。


『成り行きで誰かと共におっても共闘はしない。強敵には率先して自らが挑み、そして勝つであろう』


うんうんと頷く。

パーティを組むのも憧れるけど自分が足を引っ張らないか心配で。

まずは一人で身を立ててからだなと経験を積むのにずるずる引きずって結局ひとりのままだったっていうね。人の懐に飛び込む勇気がなかったんだと思う。


『助けてやらねばと思われないため、声をかけられないのではあるまいか』

「!!」

『そばで見てきたが、お主はなかなか腕が立つようで有名なようであるな』

「そ、そうですね!ひとりでの冒険が多かったので経験はたくさん積んできましたね!」

『お主に釣り合う冒険者もなかなかおらんように見える。しかもソロの冒険者として有名なようであるし皆敬遠しているのではあるまいか』

「!!!!」


そんな、まさか……!

衝撃が走った。ビカビカッと痺れた。気がする。

ひとりで頑張ってきたことがまさか仇になるとは……


『真実は定かではないがな』

「心当たりは……ないことも……ない……そっか……自業自得だったのか……」

『率先して強敵に向かう姿勢や培われた技量も含め、そういうお主だからこそ勇者として選ばれた要因の一つであるかもしれぬ。あまり気落ちするものではない』

「……ありがとう」


涙に濡れる日もあったけど、私を見てくれる人はいるんだ。いや、正確には人ではないけど……

少なくとも今日の私は導きの声の主に慰められた。


だがそれでも。私は諦めない。ひとりで魔王に突っ込むなんてしたくない。さすがにこわいです。

問題点が見つかったんだ、改善することだってできるかもしれない。

さぁ涙をふくのだ、私。旅はまだまだこれからだ。



***************



私は勇者。ワケがあってひとりで魔王討伐の旅をしている者。

仲間は募集中。いつでも声をかけてくださいね。



****END****


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