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7話 ボス攻略会議

 フィールドに設定されたセーフティエリア。

 ダメージや状態異常を発生させられない聖域に、クラフトで仮設された会議場が作られていた。

 その会議場の中心、壇上で、男が演説をしている。


「ボス攻略会議に集まってくれたみんな、ありがとう! このデスゲームを終わらせるために、俺たちが生きて帰るために、必ず勝とう!!」


 プレイヤー達は、いよいよ最初のボスまでたどり着いた。私を含む、いわゆるレイドボス相手には、一度に50人まで参戦することが可能である。そのため、普段は6人程度で行動しているプレイヤー達も、打倒ボスのために一堂に会していたのだった。


 ちなみに私はプレイヤーに混じって攻略会議に参戦している。


(【浮浪者のクローク】って装備、なかなか便利ね)


 この数日間、私は前線に立つプレイヤーから優先的に殺して回った。今現在前線にいるものは、将来的にも前線に立っている可能性が高い。要するに、私にとっての脅威も同様に高いからだ。


 そんなプレイヤーを殺して回るうちに気付いたことが一つある。それは、その手のプレイヤーにはβテスターが多いということだ。


 βテスターはアイテムの一部を製品版に引き継いでいる。だから、倒したときに得られる戦利品も比較的珍しいものが多かった。


 珍しいといっても、βテスト期間中に得られるアイテムなんてたかが知れているけれど、【浮浪者のクローク】というアイテムだけは例外だ。


(名前も称号も隠せるだなんてね)


 通常は注視すると、オブジェクトの名前とHPと称号が浮き上がる。この装備品は、その内の二つの漏洩を防いでくれるということになる。


(おまけに顔も隠れるし、人型の私がエネミーだなんて誰も思わないでしょうね)


 あるいは、思い至る者もいるかもしれないが確信は得られないはずだ。もしそう考えてるやつがいたとしても、問題は無いだろうが。


(この装備をしている人間、全員がPKなのかしら?)


 この場に集まった人間の、およそ1割は【浮浪者のクローク】を身に纏っている。【浮浪者のクローク】は効果が優れている代わりに、装備としての性能はめっぽう低い。つまり、低性能の装備を纏ってでも、名前か称号のどちらかを隠したいということになる。


 隠したいのがどちらか、そんなのはすぐに分かる。称号の方だ。名前がバレたところでやましいことがある者など殆どいまい、私は例外側の存在だけど。


 問題は、何故称号を隠そうとするかだ。

 考えられる理由は二つ。

 私のようなPKの場合と、公開されてない強称号を使っている場合だ。


 もっとも、後者である可能性はすこぶる低い。

 このゲームがデスゲームであるという性質上、称号を隠すよりも強い装備を身に付けた方が得策だ。

 そうしないということは、よっぽど壊れ性能の称号か、よっぽどレアで数に限りがあるような称号のどちらかだろう。


 ようするに、殆どは【プレイヤーキラー】の称号を隠すために装備していると考えるのが妥当だ。




「……と、いうことで、これからここに居る者たちでパーティを組んでもらう。少なくとも二人以上のパーティで行動する事。これを守れないものにはここから出ていってもらう」


 ん、話終わってたわね。

 あんまり話聞いてなかったけれど、そっか。


(無駄足だったかしらね、プレイヤーを各個撃破するチャンスかと思ったのだけれど)


 実を言うと、ここ数日はPKの機会が減ってきた。

 というのも、発売数日も経ってしまえばどこもかしこもフルメンバーのパーティを組んでいるからだ。

 役割が分担されたパーティというものがいかに厄介かは良く知っている。

 それ故、最近は手をこまねいていた。


 そんな折、思いついたのが「ボス攻略のどさくさに紛れて各個撃破」作戦である。ボスとプレイヤーの戦い方は知っているが、そこに至る過程は知らなかったから、道中であれば一人ずつ殺して回れないかと考えたのだ。

 もっとも、実際はかなり集団で行動するらしい。

 これじゃあ奇襲も難しそうだ。


 席を立とうとした。

 そしたら、隣にいた奴に声をかけられた。

 私と同じ【浮浪者のクローク】を身に付けた男だ。


「おや? 君は攻略からはずれるのかい?」

「……ええ、あなた達となれ合う気は無いわ」


 黙って立ち去ろうとしたのに、どうして引き留めるのか。


「それはやめておいた方がいいかもしれない。今の説明を受けて立ち去るなんて、最初から攻略する気が無かったと言ってるようなものだからね」

「……何が言いたいのかしら」

「んー? 僕の口から聞きたいのかい?」


 クロークから覗く口元が、歪に歪んだ。

 男は耳打ちするように顔を寄せ、他のプレイヤーに聞かれないように声を潜めてこう言った。


「君、プレイヤーを殺しにここに来ただろ?」

「……」

「ははっ、やっぱりね。睨んだ通りだ」

「どちらとも言っていないけれど?」

「沈黙は肯定ってね」

「呆れていただけよ」

「普通は驚くものだろう?」

「あなたの物差しで測らないで」

「こりゃ失礼」


 想定していなかったわけではない。

 自分の目的を看破されることなんて。


 想定していなかったのは、男からの提案の方だ。


「僕なら君の手助けができるよ」


 ――は?

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