4話 花天月地
「【斂葬術式・一ノ型】、«花天月地»」
«花天月地»は【斂葬術式】の初期スキルである。
その為威力も控えめ、というわけではない。
«花天月地»はいわば、時間結界である。
そのスキルを発動した途端、世界は時間を失う。
私を除けば、何人たりとも動けぬ停止世界。
いや、正確には、世界は停止していない。
私が時間という制約から解き放たれるのである。
«花天月地»は攻撃技ですらない。
だが、ある意味では最高火力の技になる。
とても速い事を「目にもとまらぬ速さ」という。
だが、«花天月地»中の私の速度は、そんな言葉でも生ぬるい。どれだけ目を凝らそうと、スーパースローで確認しようとも、視認することすら不可能なのだ。
1Fという分解能(測定及び判別が可能な最小単位)よりも微小の世界で«花天月地»は成立する。その間に加えられた運動量は時間の加速と共に爆発し、冗談のような火力を生み出す。
「……かふっ、はぁ、はぁ。さすがに、このレベルで使うと反動がキツいわね」
ただ、いかんせんコスパが悪い。
この技は時間という法則から外れている秒数に応じてHPが減少していく。
今回、«花天月地»中にした事は掌底を打ち込んだことだけだ。だというのにHPは既に4割ほど削れてしまっている。これは熟練度が低いからなのか、再現度が低いからなのか、それとも十全な状態でも同様に削られるのか。今後の研究課題だね。
【レベルアップ!】
【戦利品を入手しました】
そのとき、ファンファーレが脳内に鳴り響いた。
一応確認しておきましょうか。
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【エリュティアノルン】Lv2
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HP 3262/5530
MP 2814/2814
STR 609
INT 378
AGI 476
VIT 371
DEX 427
LUK 281
・アビリティ
【斂葬術式】Lv0(使用制限)
・称号
【プレイヤーキラー】
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あれ?
称号欄が増えている。
効果を確認しておきましょう。
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【プレイヤーキラー】
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プレイヤーを殺した
街に立ち入れなくなる
プレイヤーから経験値を取得できるようになる
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ああ、なるほど。
デスゲームであれば殺人鬼と非殺人鬼の違いくらい判別できないと困るものね。
デメリットは、「街に立ち入れなくなる」の一文かな。とはいえ私はそもそもエネミーだから、街の設備が使えなくてもそれほど困らない、よね?
HPやMPに関しては自然回復できるし。
さて、始めますか。
プレイヤー狩りを。
どこから片付けようか。
始まりの街にいるプレイヤーから?
いや、冷静になろう。
私の目的は逆襲だけど、根本にあるのは生に対する執着だ。生きるためには、私を殺しうる存在から潰していくのが正解だ。
「とりあえず、前線目指して進みましょうか。その間に見つけたプレイヤーは片っ端から刈り取っていく方針で」
*
しばらく進むと、森があった。
ここまでプレイヤーは見つけていない。
ちなみにエネミーも一体も倒していない。
彼らは私の復讐対象ではないから。
経験値を得るのはプレイヤーからと決めたのだ。
相手から襲ってきた場合は抗うけどね、拳で。
――ザシュ、ブシャ。
(……いた、ようやくプレイヤーだ。人数は……二人か、勝てるかしら)
それも、おそらくはβテスターの手練れ。
比較的安全な街周辺を無視し、こんな森で狩りをしているという事はここでも安全マージンを確保できているという自信の表れなのだから。
(真っ向勝負は無理。するにしても【斂葬術式】のどれかのスキルを使ってという事になるけれど、ぶっつけ本番で発動するかどうか)
確実性を求めるなら«花天月地»を使うべき。だけど、未だ回復しきっていない体力、二人を一息で殺せるかどうか。
(どうしましょうか……ん?)
彼らが戦っている魔物は「ダンデシープ」。
小ぶりな羊だが、その羊毛は軽く、草原などを出歩けば風に吹かれて宙を舞うタンポポのような羊だ。
ダンデシープは雑魚モンスターに分類される。
どうして彼らはあんな魔物を狩っているのだろう。
「よっし! 【ダンデシープの角】10個集まったな」
「ああ、俺はいまからイベントボスを呼んでもいいがお前は?」
「俺も行けるぜ」
「よし、じゃあ始めるか!」
何? 何をしているの?
【ダンデシープの角】で何をするつもり?
「「いでよ! 低級劣等悪魔!」」




