表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/28

3話 ハンドスキル

 どうやらここはデスゲームの世界らしい。


 その事実を突きつけられたプレイヤーの対応は様々だ。狼狽する者、仲間を募る者、ストライキを起こそうとする者。ああ、なかなかに滑稽だ。


「なぁ! あんた! パーティを組まないか!?」


 そんななか、一人のプレイヤーが私に声をかけてきた。装備を見るに、剣士だろう。


「どうして私?」

「おいおい、惚ける必要はねえぜ。同じβテスター、仲間だろ?」

「仲間?」

「そう、リリース直後に初期装備以外ってことはデータの引継ぎをしてんだろ? そこかしこにいる有象無象とつるむより、あんたと組んだ方がよさそうだ」


 野武士面の男はそう言った。


「お断りよ」

「へぇ、どうして?」

「他人に預けられるほど、私の命は安くないのよ」


 彼らはプレイヤーで、私は彼らを狩るエネミー。

 背中も命も預けられるはずがない。

 そんな奴とつるんだって意味がない。


 そんな理由で断ると、男は「なるほどなぁ」と言った後、こんな風に続けた。


「だったら、こうしようぜ。俺はあんたに耳よりの情報を売る。それであんたを雇わせてくれ?」


 ……情報、か。

 確かに、それは欲しいかもしれない。

 古今東西、情報を制すものが世界を制すのは絶対不変の真理である。それが価値のある情報ならば、ここで手に入れておくに越した事は無い。


 加えて、関係性がドライなのも良い。

 仲間になってくれと言われたら断る他なかったが、彼の要求はあくまで雇用就労関係。信頼なんて不確かなパラメータではなく、情報料という明確な指標で成り立つ関係性。


「情報次第ね」

「おっ、乗り気か。いいね! じゃあまず。あんた、製品版になって使えなくなったスキルは無いか?」

「……あるわ」


 正確に言えばβ版の時から使えなかったわけだが。

 いや、どうだろう。

 逆に、β版ではなくなったから使えるという可能性もあるだろうか?


「【斂葬術式(れんそうじゅつしき)・一ノ型】、«花天月地(かてんげっち)»」


 ユニークアビリティ【斂葬術式】を試用してみる。

 が、結果は大体予想通りだった。


――――――――――――――――――――――――

 【ERROR:コード 1015-FW】

――――――――――――――――――――――――

 レベル不足

 この技能の使用は制限されています

――――――――――――――――――――――――


 発動しないよね、……あれ?

 この半透明のアラートウィンドウは知ってる。

 見覚えがある、だけど、このエラーコードは?

 違う、あの時のコードとは別物だ。


 私が殺された時のエラーコードは2757-GB。

 内容は、β版で弱体化させているから使用不可というものだったはず。


「レベル不足?」


 そんなはずは……、無いだろうに。

 改めて、私はステータスを確認した。

 右手でジェスチャをする。

 アラート同様に、半透明のプレートが現れる。


――――――――――――――――――――――――

 【エリュティアノルン】Lv1

――――――――――――――――――――――――

 HP  5320/5320

 MP  2723/2723


 STR  581

 INT  371

 AGI  448

 VIT  357

 DEX  413

 LUK  272


・アビリティ

 【斂葬術式】Lv0(使用制限)

――――――――――――――――――――――――


 レベルが1に戻っている?

 しかも、ユニークアビリティ【斂葬術式】の熟練度が落ちてる。


「そう、製品版ではレベルが1からに戻されて、β版の時に使えたスキルに使用制限が掛かってるんだ」


 プレイヤーのレベルが落ちるのは分かる。

 先行プレイヤーと、製品版からの参入プレイヤーの隔たりを減らすつもりだろう。

 だが、NPCである私にまで適用されるのだろうか?


「……あ」


 思い出したことが、一つある。

 あれは私が殺された時の事だった。

 私を殺したプレイヤーの一人が、こんなことを言っていたのを覚えている。


 ――“すげー! めちゃくちゃ経験値貰える!”


 あの時は、何を言っているのか分からなかった。

 だけど、こうして、この世界がゲームの中だと理解した今なら、あの時何が起こったかはっきりわかる。


(……奪われた、経験値を……!!)


 死んだとき、体から何かが抜けていくのを感じた。

 あれは私の経験値だったに違いない。


 ……返せ。それは私の。


「で、ここからが本題だ」


 野武士面の剣士が、眼光をぎらつかせて言った。


「俺が教えるのは、そのスキルの疑似的な使用方法。どうする? この情報であんたの命は雇えるかい?」

「……」


 私は黙った。

 黙って目を閉じ、思考にリソースを割く。

 逡巡ののち、全条件を網羅したAIが導いた結論。

 それを私は口にした。


「……いいわ。交渉成立よ」

「オッケー。実戦で証明してみせるから、街の外まで着いて来てくれ」


 そう言う彼に続いて、私も町の外に出た。

 外には草原が広がっていて、ガタイの良い猪が闊歩している。多くのプレイヤーは街の中にいるか、あるいは経験値効率を考えてさらに先のマップに移動したのだろう。周囲に他のプレイヤーはいない。


 男は猪エネミーの一体に体を向けると片手剣スキルの構えを取った。


「見てな。まず、使用制限のかかったスキルを普通に発動しようとするとこうなる。«星剣(ミーティア)»」


 男はそう言ったがスキルは発動せず、最初の構えのまま固まっている。


「あんたも見たことがあるだろうが、【ERROR:コード 1015-FW】が出てスキルは発現しない。だが……」


 剣士は改めて«星剣(ミーティア)»の構えをとると、今度はスキル名を唱えずに動き出した。


「……はぁぁぁっ!!」


 彼がモーションに入った途端、スキルエフェクトが煌めいた。見覚えのある突進術が炸裂する。


「どうよ?」

「すごい、どうやったの?」

「いいか? この世界のスキルの行使には段取りが存在する。スキルごとに構えを取り、名を唱え、エフェクトを発しながらモーションが作動する。術師だろうと剣士だろうと、この原則はおんなじだ」


 だが、と。

 彼は続ける。


「実はExArkate Onlineでは、«詠唱破棄»が可能だ。本来は術師用のスキルなんだが、全職業で取得ができる」

「制限はスキル自体に掛かっているから、詠唱破棄ですり抜けられると……なにその壊れスキル」

「ははっ、そう思うよな。でも、それがそうでもねぇんだ。スキル名の詠唱は動作の補助を行うものだからな。詠唱破棄するには、システムのアシスト無しで動きを再現する必要があるんだ」


 男は「«星剣(ミーティア)»みたいに簡単なスキルならともかく、上級スキルになれば手動再現なんて実質不可能だな」と言った。

 ……むぅ、そんなものなのか。


「じゃあ、今後の事を考えたら«詠唱破棄»を取るのは下策ってことね」

「半分正解、半分外れだ」

「どういうこと?」

「«詠唱破棄»のスキルだが、これ自体も«詠唱破棄»できるんだ」


 私は目を見開いた。


「つまり、モーション再現だけでスキルは疑似的に発動できるっていう事?」

「ああ、そういうこった」


 ……そんな、そんな手が。


「ありがとう。すごく貴重な情報だったわ」

「いいってことよ。これからよろしく頼むぜ」

「ええ」


 差し伸べられた、彼の右手。

 私はその手を――


「もうあなたに用はないわ」

「……は?」


 ――取らずに、天地の構えを取った。

 そして、使用不可能と言われたスキルを行使する。


 次の瞬間、剣士のHPは消滅した。


「【斂葬術式(れんそうじゅつしき)・一ノ型】、«花天月地(かてんげっち)»ってね」

【本作をお読みくださっているあなたにお願い】


この方針で物語を加速させていこうと思います。


もし「面白い」「続きが気になる」と感じたら、少し下にスクロールしたところにある【☆☆☆☆☆】から、ぜひ応援してください!

ブクマもお待ちしております!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ