28話 世界の半分をくれてやろう
「それで、君は僕を殺すのかい?」
私がそれを望むなら、それを受け入れよう。
そう言わんばかりに彼は笑う。笑う。笑う。
ああ、今なら分かる。
態度というのは口よりずっと雄弁だ。
「……人と人は分かり合えない。それがあなたの持論じゃなかったの?」
「そうさ。だから僕は受容することもできる。たとえ君が納得できなかったとしても、僕はそれを受け入れられる」
ロキの態度は揺るがない。
彼は趨勢の決着を運否天賦に任せている。
ただ、無為自然に。
彼の在り方は変わらない。
「『生に対する執着っていうのは思っている以上に強いもの』なんじゃなかったの?」
「そうさ。だから僕はヒトデナシのプレイヤーキラーなのさ。人並みの執念すら僕は持ち合わせてなんかいない」
ロキの態度は揺るがない。
恐怖という感情が一ミリだって表層化しない。
そして、それはきっと内側にも。
「……」
「もう尋問はいいのかい? それなら、そろそろ、君の答えが知りたいな」
「……一つ、あと一つだけ聞かせて」
「なにかな?」
人工知能は人に追いつけない。
人は好き嫌いで物事を判断する。
時に論理的でない道を選ぶ。
「……働かないアリの話は知っているかしら」
「もちろん。仲間づくりをしてゴチルゼルの起点を作るアイアントのことだろう?」
「いや、違うけれど」
なんだ、ゴチルゼルにアイアントって。
全く関係無いゲームの話してるだろ。
話を誤魔化そうとしているだろ。
「働き者のアリを集めても怠け者のアリを集めても、2割のよく働くアリが8割の餌を集め、2割のアリはサボっている話よ」
「2-6-2の法則だったっけ? 知ってる知ってる」
「そう。だから、まだ終わっちゃいない」
確かに、私たちはトッププレイヤーを駆逐した。
それで? だから何だというのだ。
「攻略組がいなくなったなら、街に籠っているプレイヤーの一部が働きだす。全体の割合は変わらない。何度攻略組を潰しても、攻略しようとするプレイヤーは一定数現れる」
人もアリも社会性の動物、集団的な生き物。
働き手がいなくなれば怠け者でも重い腰を上げる。
そういう風に出来ている。
「そのプレイヤー達を殲滅するために、あなたの力が必要なのよ、ロキ」
「……やれやれ、それじゃあ君の目的が達成されるまで僕は働き続けなければいけないじゃないか」
「頑張れ働きアリ」
「ふぅ、君が正しかったね。君はジョーカーより女王の方がお似合いだ」
大仰にため息を吐くロキ。
けれど、その表情はずっとずっと晴れやかだった。
「私が女王なら、王を逃がすつもりも無いわよ」
「ははっ、ならきちんと楔を打ち込んでおいてくれ。僕がふらっとどこかに行ってしまわないように」
そういう彼に、私は手を差し伸べた。
「……よく来た、ロキよ。私はEAOの女王【エリュティアノルン】。私は待っていた、そなたのような若者が現れる時を」
さしあたり、様式美として。
「私と契りを結ぶのならば、王の座をくれてやろう」
魔王らしく振舞ってみようと思う。
「私の手を取り、一曲踊ってくださるかしら?」
私の告白。
ロキは少しも驚かない。
やはりロキは気付いたのだろう。
私が電子データだと、EAOのラスボスだと。
彼は、いつも通り、皮肉めいた様子でこう言った。
「……もちろん。一曲と言わず、何度でも」
――道化を演じてみせる。
そう言いたげな彼の副音声に、私は耳に蓋をした。




