23話 第二回ボス攻略会議
嘘か虚構か。
私、エリュティアノルンの討伐報告から数日後。
プレイヤー達は二番目のレイドボスまでたどり着いていた。
いや、その表現は適切ではないかもね。
レイドボスの部屋自体は随分前から知られていた。
今まで挑まなかった理由は別にある。
「ボス攻略会議に集まってくれた40人のみんな、よくぞ立ち上がってくれた。生きて帰るために、女神シナリアを呼び戻すために、必ず勝とう!」
そう、単純に人数不足である。
女神シナリアが眠りについて弱体化。
その影響でプレイヤーは現在【経験値半減】中。
一部のバトルジャンキーを除き、多くのプレイヤーが慎重にならざるをえなかった。
「本来であれば50人のフルメンバーで挑みたいが、俺達には一刻も早い攻略が求められている。それでも、俺は信じている。俺達なら、絶対に生きて帰れると」
……絶対に生きて帰れる、ねぇ。
(それはまぁ、随分と重みの無い「絶対」ね)
私はそうは思わない。
最近はまたステータスも伸び、攻略組の何人かをさらに追加で討ち取った。«エレウテリア»、«不撓不屈»、«おかあさんといっしょ»の三強パーティを除けば、パーティ対私でも私が勝てそうな所ばかり。
「また、前回の失敗を無駄にしないためにも、今回は入念に作戦会議を行う。敵が予想外の行動を起こしたとしても、対応できるように……っ」
前回の重装の死が相当重く圧し掛かったのね。
歯をギリギリとならして。
まあ、剥き出しの感情は嫌いじゃないわ。
特に、内側に向かう感情は。
「だってさ、ノルン嬢」
「そうね、私たちも、今回は入念に作戦を立てましょうか? ロキ」
「うん、ノルン嬢ならそう言うと思ったからさ、今回は入念に準備してきたんだ」
「準備?」
ロキは不敵に笑っている。
顎に手を当て斜に構え、盤を見下ろすように。
「そ、僕と君を除いた38人のうち、8人は僕の手駒だ」
「……は?」
あ、そう言えば前回そんなこと言ってた。
――それで、あんたはこれからどうするの?
――んー? そうだねぇ。仲間集め、かな。
言ってた、確かに言ってた……。
え?
前回は私とロキの二人だけだった。
50人中の二人だけ。
それでも最強プレイヤーの一人が命を落とした。
それが今回は、40人中10人がPK……?
(う、うーん。この場合ボス攻略の25パーセントをPKで埋めた手腕をほめるべきなのか。それとも8人しか連れてこなかったことを責めるべきなのか)
「あはは、怒んないでよ。勧誘自体はたくさんやったんだよ? それこそ、三桁に上ろうかという数に声を掛けたさ。理解を得られたのはこれだけだけどね」
「……あのさ、人の思考読まないでくれるかしら」
「読まれないように努力してみたら?」
「そうね、まずあなたの口を縫い合わせましょうか。それとも、覚めない夢をご所望かしら?」
「物騒だなぁ」
ひらひらと手を揺らし、おどけてみせるロキ。
私がそうしないと確信しているようにも見える。
「その余裕っぷりが癪なのよ」
「あはは。顎あげて斜に構えてる時の方が強いってのが自己評価でね」
「ふーん。虚飾を張らないと生きられないのね」
「……憐れに思うかい?」
「別に、憐れだなんて思わないわよ」
ただ、思うことが無いかと言われればそれも違う。
「ただ、あんた、現実が辛いとか言ってたでしょ」
「戻りたくないとは言ったねぇ」
「同じよ。こっちの世界でも、あんたの生き方はそう変わらないんじゃないかって、そう思っただけよ」
虎口を逃れて竜穴に入る。
一難去ってまた一難。
ロキは現実よりこの世界を選んだ、と言っていた。
だが、そんな性格をしていて、生き方を変えられないのであれば、場所が変わったところで息苦しさは変わらないだろうに。
「君は僕に帰ってほしいのかい?」
「確かにあんたウザイものね。そう思わないことも無いわ。……でも」
……。
「今は、逃がさないわ」
ロキから視線を逸らす。
【浮浪者のクローク】を目深に被り直す。
自覚している。
言葉足らずだと、曖昧な言葉だと。
はっきり伝えるべきだと理解している。
だけど、言葉で取り繕うのは負けたようで。
これ以上の説明はしたくなくて。
「もしかして、これは告白かい?」
「……あんたのそういうとこが嫌いって言ってるの」
「なんだ、ちがうのか」
告白ではない。
ただ、必要なだけだ。
私の目指す攻略に、全滅エンドに。
手足となる駒が必要不可欠というだけだ。
「ま、そうだね。現実で過ごした年月を考えれば、僕はこの世界をまるで知らないといってもいい」
横目に、ロキの様子を見る。
彼は両手を頭の後ろに組んでいた。
「しばらく生きてみるさ。生きる目的も出来たしね」
そう語る彼は少し、穏やかな口調になっていた。
そんな気がした。




