20話 通りすがりのラスボスよ
模倣犯から脅迫を受けているんだけど、どうしたらいいと思う?
群青色に染まる空、優しい風の吹く草原。
陽光は麗らかで気温も快適。
心の療養という名目で休憩していた時の事だった。
一人のプレイヤーが近づいてきた。
珍しく心が穏やかだったから、今日は見逃してやろうと思った私。だが、どうしてだろうね。こういう時に限って相手から噛みついてくるのは。
「私は【エリュティアノルン】! ExArkate Onlineのラスボスよ! 殺されたくなければおとなしくレアアイテムをよこしなさい!」
「……はぁ? もっとまじめにやりなさいよ模倣犯」
「なっ!? も、模倣じゃないし!!」
なんなの、この、悪役令嬢モノのヒロインに踏み台転生したみたいな尊厳の無さは。傍若無人が人の形をしたような薄っぺらさは。
「……今すぐ立ち退きなさい。私の機嫌を損ねないうちにね」
「はぁ!? むっかー! あんた自分の立場分かってんの!? 野生のラスボスが現れた状況なのよ? さっさと命乞いしなさいよ!」
「どっちの命の?」
「あんたの!」
いや、多分あんたじゃ私を殺せないし。
2000を超えるプレイヤーをキルした私のステータスはなかなかすごいことになっている。
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【エリュティアノルン】Lv52
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HP 17150/17150
MP 9030/ 9030
STR 1988
INT 1239
AGI 1526
VIT 1183
DEX 1379
LUK 903
・アビリティ
【斂葬術式】Lv2
【風花雪月】Lv9
・称号
【プレイヤーキラー】
【ボス討伐者】
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既にβ版で実装された時のステータスは超えた。
また、プレイヤー達は【経験値半減】の呪いを受けているが私はエネミー故に今まで通りに稼げている。おかげで攻略組ともかなり差が開いてきている。
たしか今のトッププレイヤーのレベルが30後半。そしてプレイヤーのステータスは私の大体7分の1程度(職業補正で大きく変動するが)。いよいよレイドボスらしく成長してきたところである。
ぶっちゃけ、一対一なら誰にも負ける気がしない。
「もう、めんどくさいな。
【風花雪月・一ノ型】、«双頭鴉»」
襲撃イベントで使用した阿吽カラスを呼び出す。
一匹一匹がトップ層ではない攻略組程度のステータス。その阿吽カラスを50ペア、つまり100匹召喚。
「えっ、ちょっ、は!? はぁ!? あんた何者よ!?」
「人間ってさ、相手の名前を尋ねるようにプログラムされてるわけ? いちいち答えるのめんどくさいんだけど」
まあいい。
彼女の最期の願いだ。
聞き届けてあげようじゃないか。
「エリュティアノルン。通りすがりのラスボスよ」
「え、は? はぁ!?」
クロークを外して、名を名乗る。
彼女は私を見て目をぱちくりさせて、目に見えて狼狽した。
「うそ、嘘ウソウソ! そんなはずないじゃない!」
「そのリアクションも見飽きたのよね。ねぇ、教えてよ。私たち組み上げられた電子データと、プログラムのような応対しかできないあなた達。どちらの方がより生物らしい?」
「うるさいウルサイうるさい!! 『帰還の羽根』!!」
「あ」
……逃げられた。
『帰還の羽根』は、近場の街に転移するアイテム。
恫喝なんて真似をしているからてっきり犯罪プレイヤーだと思ったのに、街に入れるってことは違ったのか。
「……あれ? これもしかしてまずい?」
プレイヤーには掲示板という情報を即時共有する手段があるという。それを使われて私がフィールドエンカウントエネミーとして暗躍している事がバレるんじゃ……。
(あいや、待って。彼女をエリュティアノルンに仕立て上げられたら?)
そうすれば私という存在が意識からはずれ、よりPKのしやすい状況が生まれるのではないか?




