表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/28

19話 2%

 シナリア復活イベントが始まったらしい。

 プレイヤーが騒めいているから分かりやすい。


(思った以上にダメージを受けてたのね)


 聞く限り、シナリアの状態は深刻らしい。

 それこそ上級アイテムを馬鹿みたいに要求するくらい。当然、物語序盤の現在は手に入らないアイテムばかり。一部アイテムは低級から加工していけば入手できるらしいが、気が遠くなるような作業らしい。


 そしてプレイヤーに掛けられた呪い。

 【経験値半減】。

 シナリアが復活するまで半永久的に持続するとか。


「その結果が攻略の加速だなんて、ふふ。どこまでも強欲な生き物ね、人間っていうのは」


 こうなった以上プレイヤーに取れる手段は二つに一つ。今まで通りの安全マージンを確保するために攻略の速度を緩めるか、低レベルでのクリアを試みるか。


 そして、プレイヤー達は後者を選んだ。

 リスクを蔑ろにしてリターンを求めた。

 これを強欲と言わずに何というべきか。


「ねぇ? あなたもそう思わない?」


 私はそれに歩み寄り、声をかけた。


「――攻略脱落者さん?」


 結果、攻略組は二分された。

 低レベルでの攻略が苦にならないバトルジャンキーたちと、安全マージンが無ければ攻略組に混ざれない脱落組。最近の私の獲物はめっぽうこの脱落者だ。


「ひっ、やめ、たすけ……! 俺の知っている情報は全部吐いた! だから、たすけて、死にたくない!」


 そう、シナリアの容態だとか【経験値半減】だとかはこういった感じでプレイヤーから聞き出したものである。


「本当に? もう隠している事は無い?」

「本当だ! 洗いざらい全部話した、だから!」


 だが、最近は得られる情報も無くなってきた。

 このプレイヤーから引き出した話も既知の物。

 こんな手間を費やす必要もないかもしれない。


「ありがとう。お礼に私からも、とっても価値のある情報を教えてあげるわ」

「……い、いい。いらない。知りたくない」


 あらあら、ふふ、遠慮してしまって。

 断る必要なんてどこにも無いのに。


「【エリュティアノルン】に見つかるな。見つかれば、待ち受けるのは絶対の死だ」

「あ……あぁ……嘘だ」


 ああ、いい表情だ。

 存分に後悔するがいい。

 好きなだけ懺悔に費やすがいい。

 神様はきっと、見てくれているから。

 私は信じていないけれどね、神様なんて。


「ふ、今のあなたみたいにね」

「ああぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!!」


 【浮浪者のクローク】を外す。

 向き合った虹彩が細くなる。

 カタカタと顎を鳴らしている。


 見たんだろう。

 私の名前を。

 【エリュティアノルン】の文字列を。


 それは発狂し、私に斬りかかる。


 無駄な足掻きを。

 お前に出来た唯一は祈ることだけだ。

 せいぜい、後悔の海で彷徨い続けるがいい。


「【斂葬術式(れんそうじゅつしき)・一ノ型】、«花天月地(かてんげっち)»ってね」


 手動再現で殺した後、術名を唱える。

 意味は特にない。

 しいて言うのなら冥土の土産だ。

 自分が死んだ技も知らずに逝くのは寂しいだろう。


「……これで、2000人」


 私が殺した人数。


「これだけ殺しても、たったの2パーセント」


 気が、狂いそうだ。


 モンスターや他プレイヤーに殺された人もいる。

 聞いた話によると、大体2割のプレイヤーが既に脱落しているらしい。だが、先に進むほど、モンスターに殺されるプレイヤーの数は減るだろう。


 モンスターに殺されるのは腕が悪い。

 ゲームが進行するにつれ精鋭だけが残される。

 残りの8万人は、直接手を下す必要があるだろう。


「……ああ、気が狂いそう」


 あるいは、既に壊れているか。

 いや、大丈夫。私は原点を覚えている。


 目的は単純。

 今度こそ殺されずに生き延びる事。

 手段は明快。

 私を殺しに来るプレイヤーを先んじて殲滅する。


「大丈夫、私は壊れてなんかいない。至って正常だ」


 カチャリと、心に鍵をかける。

 溢れ出た感情がこぼれてしまわないように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ