19話 2%
シナリア復活イベントが始まったらしい。
プレイヤーが騒めいているから分かりやすい。
(思った以上にダメージを受けてたのね)
聞く限り、シナリアの状態は深刻らしい。
それこそ上級アイテムを馬鹿みたいに要求するくらい。当然、物語序盤の現在は手に入らないアイテムばかり。一部アイテムは低級から加工していけば入手できるらしいが、気が遠くなるような作業らしい。
そしてプレイヤーに掛けられた呪い。
【経験値半減】。
シナリアが復活するまで半永久的に持続するとか。
「その結果が攻略の加速だなんて、ふふ。どこまでも強欲な生き物ね、人間っていうのは」
こうなった以上プレイヤーに取れる手段は二つに一つ。今まで通りの安全マージンを確保するために攻略の速度を緩めるか、低レベルでのクリアを試みるか。
そして、プレイヤー達は後者を選んだ。
リスクを蔑ろにしてリターンを求めた。
これを強欲と言わずに何というべきか。
「ねぇ? あなたもそう思わない?」
私はそれに歩み寄り、声をかけた。
「――攻略脱落者さん?」
結果、攻略組は二分された。
低レベルでの攻略が苦にならないバトルジャンキーたちと、安全マージンが無ければ攻略組に混ざれない脱落組。最近の私の獲物はめっぽうこの脱落者だ。
「ひっ、やめ、たすけ……! 俺の知っている情報は全部吐いた! だから、たすけて、死にたくない!」
そう、シナリアの容態だとか【経験値半減】だとかはこういった感じでプレイヤーから聞き出したものである。
「本当に? もう隠している事は無い?」
「本当だ! 洗いざらい全部話した、だから!」
だが、最近は得られる情報も無くなってきた。
このプレイヤーから引き出した話も既知の物。
こんな手間を費やす必要もないかもしれない。
「ありがとう。お礼に私からも、とっても価値のある情報を教えてあげるわ」
「……い、いい。いらない。知りたくない」
あらあら、ふふ、遠慮してしまって。
断る必要なんてどこにも無いのに。
「【エリュティアノルン】に見つかるな。見つかれば、待ち受けるのは絶対の死だ」
「あ……あぁ……嘘だ」
ああ、いい表情だ。
存分に後悔するがいい。
好きなだけ懺悔に費やすがいい。
神様はきっと、見てくれているから。
私は信じていないけれどね、神様なんて。
「ふ、今のあなたみたいにね」
「ああぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!!」
【浮浪者のクローク】を外す。
向き合った虹彩が細くなる。
カタカタと顎を鳴らしている。
見たんだろう。
私の名前を。
【エリュティアノルン】の文字列を。
それは発狂し、私に斬りかかる。
無駄な足掻きを。
お前に出来た唯一は祈ることだけだ。
せいぜい、後悔の海で彷徨い続けるがいい。
「【斂葬術式・一ノ型】、«花天月地»ってね」
手動再現で殺した後、術名を唱える。
意味は特にない。
しいて言うのなら冥土の土産だ。
自分が死んだ技も知らずに逝くのは寂しいだろう。
「……これで、2000人」
私が殺した人数。
「これだけ殺しても、たったの2パーセント」
気が、狂いそうだ。
モンスターや他プレイヤーに殺された人もいる。
聞いた話によると、大体2割のプレイヤーが既に脱落しているらしい。だが、先に進むほど、モンスターに殺されるプレイヤーの数は減るだろう。
モンスターに殺されるのは腕が悪い。
ゲームが進行するにつれ精鋭だけが残される。
残りの8万人は、直接手を下す必要があるだろう。
「……ああ、気が狂いそう」
あるいは、既に壊れているか。
いや、大丈夫。私は原点を覚えている。
目的は単純。
今度こそ殺されずに生き延びる事。
手段は明快。
私を殺しに来るプレイヤーを先んじて殲滅する。
「大丈夫、私は壊れてなんかいない。至って正常だ」
カチャリと、心に鍵をかける。
溢れ出た感情がこぼれてしまわないように。