17話 終戦
ガキィン。
«花天月地»の世界で、私の攻撃が止められた。
否、弾かれたというべきか。
システムに拒絶されたといってもいい。
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【襲撃イベント】阿吽カラス(6594/6594)
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目的:モンスターの殲滅 ※達成済み
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視界の隅に映ったのは、終戦の報せ。
(……ッ! どこまでも私の邪魔をするつもりか、システムは!)
端的に言えば、街は再びセーフティエリアになったということになる。セーフティエリアではダメージが発生しない。PKを行うことも不可能だ。
……«花天月地»、解除。
瞬間、世界が色を取り戻す。
時間という法が秩序を保ち、世界が再び回り出す。
「ちっ、どこのどいつだ。私の阿吽カラスを殺したのは」
シナリアにけしかけた段階では、空に数羽残していた。その数羽を殺したプレイヤーがいるはずなのだ。
「お、いたいた! ノルン嬢!」
「……ロキ、あんたじゃないでしょうね。うちの子を殺したの」
「違うよ? もっと恐ろしい奴らさ」
「もっと恐ろしいやつら?」
どこからともなく、ふらっと現れたロキ。
彼は私に近づいて、耳元で小さく呟いた。
「……攻略組がこの街に向かってる」
「なんでよ?」
「君さ、暴れ過ぎなんだよ。いったいこの三十分ちょっとで何人のプレイヤーを殺したんだい?」
「1598人」
「数えてるんだ」
当然だ。私は快楽殺人者ではないのだから。
殺した人の分まで生きなければいけない。
ちなみに、1598人というのは全体から見たらしょっぱい。又聞きにはなるが、プレイヤーの総数は約10万人とのこと。全体から見れば1パーセントほどしか殺せていないことになる。
「で、攻略組が来たから撤退って?」
「そういうこと」
「……」
ちっ。
鼻のいい奴らだ。
この鬱憤を、どこに晴らせばいい。
「……命拾いしたわね、シナリア」
地面に転がっているシナリアを蹴り飛ばす。
ダメージは入らないが、転がす程度ならできる。
転がす程度ならできても、鬱憤は晴れなかった。
「ちっ、ロキ。攻略組はどっちから来るの?」
「君はどの方角から街に入ったんだい?」
「南か、把握」
それなら私は北から出るか。
「ああ、それと、ロキ」
「なんだい? ノルン嬢」
「阿吽カラスを倒したプレイヤーってわかる?」
次のターゲットはそいつだ。
機会を見つけて殺してやる。
「直接は見てないね、でも【弓術】による長距離からの精密射撃、これができる奴は一人しか知らないかな」
「それなら、そいつを教えなさい」
「«エレウテリア»の弓兵、アルテミラ」
「アルテミラ……覚えておくわ」
変わらず、スクショ付きで見せてくれるロキ。
名前は覚えた、顔も覚えた。
私の邪魔をした事を、後悔させてやる。
「待っ、て、ノルン」
「……なに、シナリア?」
「他に、道は無いの……?」
立ち去ろうとしたら引き止められた。
他の道……だと?
「私はすでに提示した。死にたくないと命を請うた。こことは別の世界線。奴らは私を無慈悲に殺した」
彼らは私の願いを踏みにじった。
「他の道を潰したのは、他ならぬあいつらだ。私に尋ねるのはお門違い、プレイヤーに探させるのが道理ってものでしょう」
もっとも、私はもう、その道を歩む気は無いが。
生まれた時から、全てのプレイヤーが敵だった。
完全に包囲されていた。
道は所詮夢路に過ぎなかった。
それでもその道を願うのなら。
夢にでもイメージしているといい。