12話 戦果
絶好な好機だっただけに一人しか倒せなかったのは痛手だ。
(ちっ、殺れたのは一人だけか)
惜別に涙する剣士マルス。
感動的だな、私の心に響くものは無いが。
あんたと同じ気持ちだよ、後悔でいっぱいだ。
もっとも、ベクトルは正反対だけどね。
まあ、文字通り最大の障壁になりそうだった重装をやれたんだ。よしとしようか。
「酷く非生産的なやり方だね」
「行動が必ず益になる、あるいは損得の総和がゼロになると考えているならそれは大きな間違い。お互いの損の最小化は建設的な行いよ」
私はより多くを殺したかった。
彼は全員での生還を望んでいた。
二つの思いは共存できない。
どちらの思いも叶うことなく、後には悔恨だけが残った。それだけの話だ。
「ふぅん。ま、僕が言えるのは一つだね。お疲れ様、惜しかったね」
「二つ言ってるじゃん」
「あはは、確かに。それじゃあおまけにもう一つ。君はジャイアント・ウッズが爆発すると知っていたのかい?」
「知っていたんじゃない。爆発させたのよ」
嶺上開花。
それは健気で可憐な花を差す言葉。
森林限界――植物が満足に育つ標高――を超えた先に花が開くこともある。高山は植物にとって過酷な環境だ。陽射し、強風、寒暖差、土壌、ありとあらゆる要素が生育の邪魔をする。
そんな過酷な環境で開く花。
誰にも知られず朽ちる花。
それはとっても美しい。
【斂葬術式・五ノ型】は、そんな花の美しさを表現した技だ。勝ちの目が小さければ小さいほどに、大きなの花を開かせる。綺麗な花火を打ち上げる。
命を燃やして。
「【斂葬術式・五ノ型】«嶺上開花»ね。恐ろしい技だ」
「覚えなくていいわ。対象に取れるのはモンスターだけだもの」
「へぇ、そんなこと教えてしまっていいのかい?」
「私の術式は百八式まである」
「その情報は知りたくなかった」
嘘八百だけどね。
「それで、あんたはこれからどうするの?」
「んー? そうだねぇ。仲間集め、かな」
「……私は手伝わないわよ?」
「あはは! 構わないさ。君がいると説得じゃなくて脅迫になりそうだしね。古今東西、圧政を敷いた王が賢王だったためしは無い」
「小人は諸を人に求む」
「はは、愚王同士、掛け合わせたらプラスになるかもね」
足し合わせたら悲惨なことになりそう。
独立した事象にするためにも個人行動させてもらいましょうか。
(さて、次のターゲットはどうするか)
攻略組は後回しだ。
あいつらは蜂みたいに群れてるから、準備も無しに襲撃を仕掛けたら手痛いしっぺ返しを受けそう。
とはいえ、街に引き籠ってるだけのプレイヤーを殺したところで非効率極まりないしなぁ……。
「よし、私は生産職を殺してくるわ」
「え、えぇ? どうしてその結論に」
「物資供給源の断絶」
兵糧攻めがいかに凄惨な結果を生むかは過去の歴史が証明している。まして回復薬や武具などの流通が制限されたときに起こることなんて目に見えている。
限られた資源の奪い合い。
それが出来れば大成功。
治安が悪化しPKが頻発すれば万々歳である。
また、無理でも物資の供給が減れば攻略組も安全の確保が難しくなる。それだけでも生産職を潰すメリットは計り知れない。
「いや、言うは易し行うは難しだよ。君は【プレイヤーキラー】だろう? 街に入れないじゃないか」
「方法はあんたが考えなさい」
「無茶苦茶言うね? 第一、街はセーフティエリアだ。PKをするのはシステム的に……」
そこまで言って、ロキは口を閉ざした。
それから指を口に持っていき、首を前に傾け深く考え込み、すこしして、ようやく口を開いた。
「……いや、一つだけある」
「贖罪クエストとか言ったらぶっ潰すわよ」
贖罪クエストとは犯罪者の救済措置である。
PKや窃盗を行ったプレイヤーには隠しステータスのカルマポイントが加算されていくのだが、これを減らす唯一の手段が贖罪クエスト。これを繰り返し、カルマポイントがゼロになれば【プレイヤーキラー】の効果が消える。
って過去に殺したプレイヤーが言ってた。
「そうじゃないさ。それじゃあPKまでたどり着けないじゃないか」
うん。
セーフティエリアでのPKはシステム的に不可能。
だからこの方法では目的を達成できない。
「それなら、どうするつもり?」
私が問えば、ロキが笑う。
三日月のように歪んだ口で、彼は言う。
「【襲撃イベント】さ」