10話 嶺の上で花は咲く
ボスの攻略当日。
私は真剣にゲームをクリアしようとしているプレイヤーに混ざり、攻略組としてレイドバトルに参加していた。
「みんな頼んだぞ! それぞれの役割と分担を全力で遂行すれば絶対に勝てる! 必ず、生きて帰ろう!!」
攻略会議で司会をしていたプレイヤーが、鼓舞するためかそんな言葉を口にした。ちなみに鼓舞で士気が上がるシステムなんて搭載されていない。つまり全くの無駄なアクションである。
「あれ? 参加プレイヤー49人? 一人足りない?」
と、そこでプレイヤーが一人足りないことに気付いたらしい。
「すまない! 点呼させてくれ。『アルテミラ』」
「はい」
「『アンナ=ハボット』」
「ん」
「『イーアル』」
「おう」
と、参加者を全員呼ぶことで欠席者をあぶりだす事にしたらしい。が、残念ながらその方法では49人になっている理由にはたどり着けない。
「『ノルン』」
「はい」
しばらくして、私が呼ばれた。
エネミーである私の偽名だ。
(プレイヤーが49人の理由は私が参加しているからなんだけどね)
そのことには気づかず、彼は点呼を続ける。
「『ロキ』」
「はいはい、いますよっと」
「んん? 50人全員いるな。バグか? GMコール……は出来ないんだったな」
バグではない。
プレイヤーの数は49で合っている。
男は延期すべきかどうかしばらく悩んだようだったが、仮にバグだったとしても修正される可能性が低い点、ここのボスであれば参加人数が一人少なくてもクリアできる点、追加補充する手間などを鑑みて、これから攻略することにしたらしい。
「皆聞いてくれ! 確かに50人いるはずなんだが、参加人数が49人になっている。バグで一人参加できない可能性が残っている。もしパーティメンバーがいなくなっていたらすぐに報告してくれ!」
そう言い、男は扉に手を掛けた。
ゆっくり、ボス部屋の扉が開かれる。
円形の広場。
中央にそびえ立つ巨大な大樹。
それこそが第一のボス。
ジャイアント・ウッズだ。
「各自! 配置につけ!!」
その言葉を皮切りに、ロキと外周に沿って移動。
周囲から無限に湧き出るトレントの相手をする。
モンスターを好んで殺す気は無い。
が、相手から襲ってくる場合は別である。
私の命を脅かそうとするのなら、それ相応の報いを受けてもらう。
「トレントのくせに頭が高い、【風花雪月・三ノ型】――」
初撃、掌底。音さえ置き去りにする一撃がトレントの中心線を捉えて爆ぜた。
二撃目、回し蹴り。重心を崩したトレントが倒れるより早く打ち込む一撃。さらなる衝撃を加えられたトレントが勢いよく地面に叩きつけられる。
三撃目、サマーソルト。叩きつけられたのち、反作用で宙に放り投げられたトレントを蹴り上げる。
終撃、オーバーヘッドキック。天に向かって加速するトレントと同時に跳躍。トレントが最高到達点に至った瞬間、速度がゼロになった刹那、大地目掛けて蹴りを穿つ。
「――«赤雪の舞»」
おとなしく地に伏せていろ。
植物にはそこがお似合いだ。
「うっは、君、めちゃくちゃやるね」
「これは警告。私の行く手を遮るやつは容赦しない」
「それはいいんだけどさ、目立ってるよ?」
「構わないわ。寧ろ、ちょうどいい」
ジャイアント・ウッズ攻略部隊を一瞥する。
案の定、どいつもこいつも「今は目の前の敵に集中しなければ」という表情をしている。
私は一秒たりとも忘れた事が無いのにね。
「感謝することね。今はまだ、あんたらに合わせて踊ってあげるわ」
*
それから、しばらくして。
いよいよ戦況は大詰めに入った。
「ジャイアント・ウッズのHPが25パーセントを切るぞ!」
「レイジモードだ! 攻撃パターンが変わることを忘れるな!」
『ウォォォォォォォン!!』
うるさっ。
これがジャイアント・ウッズのスキル«雄叫び»か。
防御貫通の固定ダメージ……だったかな。
プレイヤーキルを重ねてレベルの上がった私にとっては、ただの騒音に過ぎないけれど。
(期待はしていなかったけれど、案の定ジャイアント・ウッズは誰一人として倒せそうにないわね)
お前の太刀筋は見切った状態である。
ジャイアント・ウッズがいくら猛ろうと、既に攻略されている。詰み切っている。
「【斂葬術式・五ノ型】――」
しからばせめて華々しく散れ。
その為の後押しは私がしてやろう。
「――«嶺上開花»」
次の瞬間、フィールドを爆風が飲み込んだ。