六、恵 午後二時。その2
六、恵 午後二時。その2
柵の近くに立っていた恵だったが、巨人兵との距離を更に取る為に徐々に離れた。足元で軽く水が跳ねる。恵は更に歩き、近くの階段を上り、先程居た場所から一メートル程上の高さで、高層ビルとの間の位置に居る。
恵は振り返り、巨人兵の様子を確認した。
巨人兵の頭部にあるスピーカーがまたも康義が目撃したように小さな稲妻をつくり始めた。そして、蛍光ピンクの光を放った。
光は恵の近くに立っていた高層ビルを打ち抜いた。光が直撃し、その数秒後に高層ビルは爆発を起こした。
「キャアッ!」
爆発した高層ビルは崩壊し、瓦礫や割れた窓ガラスが地面へと降り注いでいく。地面に直撃し、人や地面を激しく損傷させる。
恵は爆発の振動にふらついたものの、身体への外傷はなかった。
爆発の衝撃や音に怯え巨人兵の視線を外していたが、再び確認する為に巨人兵へと視線を戻した。
「!」
恵は驚いた。この現状でも驚愕すべきものではあるのだが、恵の視界にはさらにまるで噴水のように水を巻き上げ、その中から別の巨人兵が姿を現した。その一体で終わりでない。同じような状況が、次々と海で起き、同じように巨人兵が姿を見せた。
「増えた!」
恵の目で確認できたものでも十数体は海に居る。海を掻き分けながら進む。その様子は漁解禁で漁に向かう漁船のようだ。違うのはその漁の対象は人間であることだ。
恵が目撃した一体目と同じように、発射口からエネルギーを生みだし、光を放った。
近くにある高層ビルが次々と爆発するだけでなく、恵が先程まで立っていた道も次々と光が直撃し爆発した。恵が現在立っている場所の前にも光が直撃し爆発する。その衝撃で、恵の身体は宙を舞い地面に叩きつけられる。
恵は光が直撃する寸前に、そこに居た人々を目撃した。
恵は体中の痛みに我慢しながらもゆっくりと立ち上がり、人々が居た位置に視線を戻した。そこには、光が直撃したその位置にはあの人々の山は消え去っていた。
「嘘」
多くの巨人兵達はずんずんと海水をき分け前に進んでいく巨人兵の頭部からは、幾つもの光が周囲に向けて放たれる。直撃した光は、次々と爆発が起き、火花が炸裂する。火花と煙が広がった数秒後、建物や直撃したビルや橋は激しく破損していた。
破損から生まれた亀裂は徐々に広がり損傷は酷くなっていく。終いには柱全体に広がり、その部分から折れて、バランスを失った橋は崩れ海面に没した。細かい粒子の水飛沫が高く上がった。
「信じられない」
目の前で繰り広げられるこの光景は、恵にはまるでSF映画のワンシーンにしか思えなかった。しかし、身体に残る痛みや痺れが、夢や幻などではなく現実だということを実感させられる。
巨人兵達は前進を続ける。近くに停泊していた屋形船を光で爆破させ炎上させた。燃え上がる船は真っ赤な炎と煤汚れの黒の二色にどんどん染められていく。すると、燃え上がる屋形船の奥から一隻のミニボートが巨人兵に向かってきた。それに気づいた巨人兵はゆっくりと身体を向きをミニボートへ向けて動かした。頭部からまたも光を放った。光がミニボードを照らした瞬間にまたも巨大な水柱を作った。爆発と同時に大きな波紋が広がっていた。
光を放った巨人兵はまた陸地に方向へと向きを変え、どんどん進んでいく。陸地と巨人兵との距離は更に縮んでいく。
「あいつらが来る」
恵の周囲は巨人兵によって破壊されて発生した建物の残骸や炎が埋め尽くしていた。この状況が恵に対し、危険信号を発していた。
「逃げなきゃ」
恵は徐々に後ろに下がる。そして、身体を振り向き、巨人兵から背を向けた。恵は瓦礫が埋まっていない道を進んでいく。時には、転がっている小石に躓くこともあったが、なんとか体勢を維持し走り続けた。全身は海水で濡れており、埃に粘り気がおきていた。
巨人兵の速度があまり速くなかったことが幸いしてか、最初に巨人兵を見た時以上の距離を確保できた。一旦、振り返り距離を確認する恵。
巨人兵は、荒れた陸地を重そうな足で踏みつけ、上陸しようとしていた。当然、それは一体だけではない。何体もが上陸をしようとしている。
数秒の間、巨人兵を見つめる恵。そんな恵の耳に別方向から爆発音が届いた。
「なに?」
恵はその音がする方向を見た。するとそこには、あの巨人兵が先程と同様に暴れていた。
「海からだけじゃないの?」
思いがけず呟く恵。
幸い、今恵が立っている場所には巨人兵はいなかった。ただ、このままではこの場所も安全とは言えないだろう。
恵は、また移動する決意をし、今居る場所から更に遠くへと離れていった。