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二、朝食。

二、朝食。

寝室に戻りクローゼットを開いた。すると康義用のスーツがズラッと並んでいる。

「今日は、さてどの服にしようか」

 そういうと並んでいる洋服をまじまじと眺めていた。性格的に明るい色を好んでいたのだが、今日はなぜか灰色のスーツが目に入ってきた。他の色に比べ、断然地味だ。

しかし、それがなぜかその服を着たい気分になっていた。そして、その服を手にした。そのままベットの上に置いた。

 次にズボンに康義は目を向ける。先ほど選んだ灰色の上着に合わせるかのように灰色ズボンを合わせる。その次に靴下にTシャツと今まで選んだものと対応する服を選ぶ。

寝間着を脱ぐと白Tシャツと白ブリーフパンツの姿になった。そしてまずTシャツを手にし、まず最初に着る。次にズボンに手を伸ばし、そして靴下と順々に身に着ける。

一通り全ての衣服を身に着けた康義は、近くの充電器に差し込まれた電動髭剃りを手にして、親指でスイッチをONにした。

全身が映る鏡に康義自身の姿を投影し、青々と髭の生えた顎を電動髭剃りを持っていない逆の手で二度、三度となでた。

「濃いなぁ」

 髭を髭剃り機で剃り始める。

ヴィーヴィーとフル回転をするモーターの音と同時に回転する刃が康義の髭とぶつかり削りあう音がする。その音は部屋の中に数十秒間の間、響き続けた。

「ふう」

音が止まったと同時に康義の顎は、長い髭はなくとてもさっぱりした様子だった。

使い終わった髭剃り機はは元の充電器の位置に戻すと充電中のランプが灯る。

着替える前に着用していた衣服を全て片手に抱え、康義はベッドルームをあとにした。

朝食を食べる為にキッチンへと向かう。その途中に洗濯機に寝間着を放りこんだ。

キッチンに到着すると寝間着姿のままのさゆみが朝食を準備を終えていた。

テーブルの上には、四つの皿にできたての鮭の焼き魚、目玉焼きが。そして、おかずの周辺にご飯とお味噌汁が並べられている。

少し前まで温めてあったのだろう湯気が少しゆらゆらと上っていた。

「康義さん。ごはんできていますよ」

「ああ、頂きますよ」

 そのまま康義は、いつも座っている位置に座る。

「はい。麦茶」

「ありがとう」

 康義の前に冷蔵庫でひんやりと冷え、ガラス製のコップ表面に水滴が点々と伺える麦茶が差し出された。

康義は、お礼の言葉を口にしたあと、なみなみと注がれた麦茶を喉に流しこんだ。

康義の喉仏が動き、麦茶が体に流れ吸収されていっている様子が伺えた。

「ふうっ」

 これがいつもの康義がする朝の習慣だった。。

 そのとき、背後から支度を終えた恵が姿を見せた。

「恵。早く自分の席に座りなさい」

「はいはい。今日は目玉焼きかぁ」

「恵。ところで司は?」

「あいつまだ寝ているんじゃぁないの」

「起こしてあげなさいよ」

「もう高校生なんだがら、自分で朝は起きるようにならないと駄目よ」

「あらあら、恵は真面目なお姉さんだこと。けれど、高校の時に起こしてもらっていたのは誰だったかしら?」

 さゆみはいつもの手馴れた手つきで作業しながら言葉を恵に応える。

さゆみの唐突な口撃に口に含んでいた麦茶を今にも噴出しそうになる。

「ちょっと、お母さん。何をいっているの」

「おほほほ。今までの事実を言ったまでよ」

「お母さんたら」

 恵は仏頂面で一言を呟いた。

「さゆみさん、司をそろそろ起こしてやってもいいんじゃないか?」

「そうね」

 さゆみは朝食の準備を終えると司を起こそうと扉の方向に体を向けた。

すると、まるでタイミングを見計らったかのように電子音で同じリズムを刻む目覚まし時計の音が鳴り響いた。

 その後、少しの間だけ鳴り響き続いた時計は、急に止まった。

「あれ、起きたわよね?」

「そうね。起きたようね」

「起きたみたいだな」

 その場に居た三人とも同じような言葉をそれぞれに口にした。

今度は、約数十秒程経過後に勢いよく扉を開け、壁に思いっきりぶつける音がすした。

間髪いれず次にドタドタと音を響かせながら階段を降りてくる様子が伺えた。

「降りてるわね」

「降りてきているわね」

「降りてきているな」

 またも一律の同じような言葉を口にする。

その何秒後「あっ」と言葉が三人の耳に届いた。その言葉と被るぐらいにゴロゴロと音がし、そして何かが激突する音で終わった。

「だ、大丈夫か?」

「絶対に、転げ落ちたわよね?」

「とても凄い音だったわね」

 三人がまじまじともの音がした方向を見ていた。

三人の視線の先から、今時の流行なのか、それとも転げ落ちたからなのかよれよれとなっている青色のブレザー、それにずり落ちたズボンがワンセットになっている高校の制服を着込み、 百八十セントメートルあろう身長を腰からすこし曲げ、背中を摩りながら三人が居る部屋へと司が足を踏み入れて来た。

「いてて」

「大丈夫か司?」

 康義はそう言いながら、背中を摩る司の手を視線を移していた。 司の表情からまだ痛みは引いていない様子だった。

「まあ、なんとか」

「それにしても派手に転んだわね」

「だって、誰も起こしてくれないじゃん。もう、こんな時間じゃん。朝、早く起きなきゃいけない日なんだからさ」

 司は、不満を口々し、その表情には、痛みと不満が入り混じったものであった。

「あんた、もう高校生でしょ。自分で起きなさいよ」

「姉ちゃんも高校の時はそうだったどろう」

「あら、私と同じこと言っているわ」

「うるさい! お母さんもそんなことも言わないで!」

「あらあら」

 同じことを言われ、恵はイライラが溜まっていった。そして、手元に持っていた湯気が昇る艶やかな白米を荒く、口に駆け込んだ。

「そんなに激しく食べると喉に詰まるわよ」

 そうさゆみが口にした次の瞬間、恵は急に表情を変えた。苦悶の表情を浮かべ、数回、咳をして喉を押さえる。

「ほらほら、姉ちゃん。母ちゃんが言った通りになった」

「あんたは……お母さん! 水!」

 恵は、厳しい表情を変えぬまま、手をさゆみの方向に差し出した。

「手元に麦茶があるでしょ」

 本当にと言わんばかりの表情をした恵は、自分の手元に視線を下げる。

視線の先には、表面に水滴が出来ている麦茶が注がれたガラス製のコップが置かれている。

恵はそれを遠心力をつけ、まるで漫画の擬音に”グワシッ!”とでも付きそうな力強さでコップを片腕で握り掴んだ。

その勢いを止めることなく自分の口元まで、持っていくと口につけて喉に音を”ゴキュ!ゴキュ!”鳴らしながら水を流し込む。

 次の瞬間には、恵は安堵の表情を浮かべていた。

「はあ。死ぬかと思った」

 安心した表情を浮かべた恵は、数秒後には司の頭を思いっきり引っ叩いた。

 叩かれた司は、痛いばからりに意味不明な言語を口にした。

「司の言葉、意味不明」

「姉ちゃんが叩くからだろ!」

 司は少し痛みで、一瞬視界が暗くなるがまた元の状態に視界が晴れた。

司は鋭い視線を恵に向けた。今にも噛み付かんという表情だ。

「姉ちゃん!」

「何よ!」

 お互いに顔を真正面から睨み合っていた。

その状況は、まるで野生動物が互いに牽制しあう様子と瓜二つだった。

「はいはい。二人ともいい加減にしないと朝食取り上げるわよ」

 さゆみの言葉が二人の間に割って入る。

互いに表情や空気は変わらないものの、さゆみに朝食を取り上げられたくないばかりに我慢し従うしかなかった。

「いただきます」

食事の挨拶をシンクロさせた二人は、前に出された朝食に手を出し始める。その脇でコーヒーを飲む康義。

いつも流れる朝食風景の光景だ。

 なにも変わらない光景。

 時計の針が午前七時三十分を指している。

「そろそろ時間だな」

 社会人の康義と恵の二人は出勤へ、学生で春休みの中で学校へ登校しなければならない為に家を出なければならない。

リビングに置いていた鞄を握り、康義は玄関に向かっていく。

恵もバッグを肩に襷がけをし、廊下を歩いている。

司も自分の部屋に戻り、学生カバンを取る。

三人は外の世界へと向かった。

今日はいつもの一日になるはずだった。

なるはずだった。

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