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4 「本当に腹が立つ」

「本当に腹が立つ」


 イチヤはろうそくの明かりしかない部屋で窓を殴りつけた。

 いつもならば煌々と魔力灯がつき、夜でも読書ができるほど明るいのに、父が王宮に呼ばれてからずっと暗い。最低限の魔法しか使わないように、そう言って旅立った父にイチヤとニコラは癇癪を起した。

 こんなに暗くては、なじみの子息たちとカードをすることもかなわない。

 夜は眠るものですよ、とか言いながらそそくさと街に出かけた吟遊詩人を呪ってやりたい気分だ。


「これもすべて、アレのせいだ」


 ギリギリと歯ぎしりをしながら外を見る。


 王宮での噂話は誰からというわけではないが耳に届いていた。

 アレを三女と呼ぶすべての人間に腹が立って仕方がない。

 父はどうしてそれを許しているのか、まったくもって理解もできない。


「やっぱり、伯爵家からの養子はダメって、母様が仰っていたのは本当なのね」


 この家でケネスは養子として子どもたちからも馬鹿にされている。

 女に見境がないから、あんななりそこないのアレをここで飼うことになるのだ。


 イチヤの視線の先、庭の奥のほうの森に近く特にうっそうとした場所に、アレがいる。

 アレの魔力はとても便利だけど、アレの存在はうっとおしい。

 アレを殴り飛ばしたり蹴ったりするとストレスがすうっとなくなってとても爽快な気持ちになるのだけど、あそこに行くと全身が臭くなるのがネックだ。


 先日もニコラと二人で手を取り合って出かけ、アレを踏んづけたり蹴飛ばしたりして遊んだ。

 ニコラは最近貴族令息の間で流行っている蹴鞠のようと言って笑った。可愛い妹だとイチヤは思った。ちなみにイチヤとニコラは双子である。ピンクのリボンがイチヤで紫のリボンがニコラ。二人に似合う高貴な色だとエメラインは常に褒めてくれる。


 この汚物のようなモノと血がつながっているなんてありえない。

 母様の言う通り、父とは一切の関係がないモノ、そうな違いない。

 蹴れば足についた鎖が引きちぎれそうになるくらいのところまで転がり、つつけば汚い液を吐いて悶える、ただの魔力袋が、高貴な私たちと同じだなんて。


「お嬢様方、ダメですよ」


 そんな私たちの遊びにたまにケントが口を出してくる。

 ダメ、というのはアレに対する仕打ちに対してではなく、勢いをつけて転がしていると腕に着いた管が取れて魔力の回収に支障が出るからだ。

 私達がはぁいと答えて舌を小さく出すと、ケントは顔を歪める。


「不器用でこのような笑みしか送れず、申し訳ありませんなあ」


 と、言い訳のように言うケント。我が家の魔術師だけあってとても優秀な彼は謙遜が得意だとニコラは笑う。ニコラは優男がタイプだから、ひょろっとしたケントは射程範囲内なのだ。


 そんなある日、最近はあまり表情がなくなったアレといつものように遊んでいると、ケントが来てこう言った。


 いわく「アレの感情をもっと動かしてほしい」。

 どういうことかわからなかったが、イチヤはニコラと知恵を絞って効率的な痛みを与えてみた。考えながらする遊びはとても楽しくて、イチヤとニコラはくすくすと笑った。


「おお、やはり」


 ケントが呟く。

 何事かと聞けば、感情が動いた時のほうが魔力の質と量がよいのだと言う。


 おもしろくなった。


 これでしばらく遊びには事欠かない、双子の姉妹はそう言って帰っていった。


「新しい実験ができますね、お嬢様」


 魔術師は猫のようににやにやしている。高らかに笑いながら去るその手の中には、いつもより輝いている瓶があった。


 後には倒れたまま動けない少女の苦し気な咳の音だけが残った。






魔術師の名前間違えてました……。自分でつけたのに。

ケイン→ケントに修正しました

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