1 私の足には太い鎖が着いた足かせが、腕には細い針が付いた管がつけられている
私の足には太い鎖が着いた足かせが、腕には細い針が付いた管がつけられている。
長い間、屋敷の端にある厩舎の隣の小屋に閉じ込められていたけれど、それももうじき終わりそう。もう何日も動けないままだし、頭もぼーっとしているし、何も食べられない。腕から流れる魔力だけを感じる長い時間が終わりそうなのが嬉しい。
生きている限り魔力を吸い取られ、自由を奪われ、家畜以下の食事と生活環境しか与えられず、朽ちていくのも許されない。時折訪れるのは、最低限度の世話をしてくれる背中の曲がった老婆と、管の先に着いた瓶を回収しに来る白い服を着た人と、醜く顔を歪めて殴ったり蹴ったりに来るだけの人だけ。
8歳の時からずっとそうだったから、今はそれしか知らない。
少なくともそれまでは母さんと暮らしていたはずなんだけど、あるとき、母さんが大人の人を連れてきて、私を渡してどこかに行った。何かじゃらじゃら音がする袋を引き換えにもらったみたいだけど、扉が閉まったとたんにものすごい大声をあげていたので嬉しかったのかもしれない。その後母さんを見てないからわからないのだけども。
一日の大半を床に転がって過ごし、たまに来た人に蹴られて起きて、何かを食べさせられて、殴られて転がる。
毎日ではないけど、それがないと何も食べられない。
たまに来る白い服の人はこっちを見ない。瓶を見て、頷いて、回収して、空っぽの瓶をつけて、出ていく。瓶に溜まるのは私の魔力だそうだ。瓶にためると持って帰れるんだとか。
最初のころは一人ぼっちで知らないところに置いて行かれた上に、鎖と管をつけてくじ込められたことが不安で怖くて仕方なかったけれど、泣けば殴られたので我慢した。
我慢しているうちに、怖くなくなった。
怖くなくなった代わりに、何も感じなくなった。
おなかが空いたのも、喉が渇いたのも、暗いのも、暑いのも、寒いのも、臭いのも、痛いのも、全部、感じなくなった。
何も感じなくなったら魔力の瓶がたまるのが遅くなったらしい。
白い人が来ることが少し増えた。
その分、痛いことをする人も増えた。
たまに体を触っていく人も出てきた。触るだけの人は痛いことはしないけれど、痛いことをしに来る人よりずっと怖い。
どのくらいそんな日が続いているかわからない。
ただ。
多分私はもうすぐ死ぬ。
それだけはわかる。
いつもは体の中をぐるぐる回っているだけの魔力がギュッと真ん中に集まって熱い塊になってきているのがわかるのだ。それが爆発したら死ぬ。そういうこと。
腕につながれた管は暗いところでも薄く光る。
その光は私の命につながっているみたいだけど、今日はいつもより眩しいかもしれない。
ふっと、輝きに反して、目の前が暗くなる。
ああ、やっと終わるんだな。
そう思ったら、とてもいい気持になった。
今までのことが全部夢のようだ。
痛いのも。
苦しいのも。
怖いのも。
全部、夢の中にしまってしまおう。
ああ、体中が燃えるよう。熱いけど、苦しくはない。痛くもない。
やっと、鎖から解放されるんだ。
自由に歩き回れるんだ。
そうして、やっとゆっくり眠れると思ったら。
バアン!!
「ここか!?」
「うっ!!」
「な、なんてひどい……」
近くで大きな物音と、男の人たちの叫び声がした。
もう目を開けても何も見えなかったけど、私はただこの人たちが痛いことをしないといいなと思った。