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嗚咽
一日をすり潰した
貴方の面影を探し、見つめるためだけに
沢山のところを一人で歩いた
あの川の土手には桜が咲いていた
強い日差しは神社の神木から降り注いでいた
坂の上から刺す西日に染まって帰って
窓から雪を眺めていた
何処にも貴方は居なくて
でも、何処にでも居る
不思議でしか無い
もう、私の手があの人に触れることが無いのに
青い右手で、あの人を描きたかった
赤い左手で、本を手にしてみたかった
別けることなんて無かった
混ざりあって曖昧な私を見て欲しかった
紫色の私
その両手でよく貴方の手紙を読んだ
曖昧な私を見せられなかった
見せるのがとても怖かった
私じゃない僕が貴方を傷つけて
僕じゃない私が取り乱していた
そうなることが怖くて
もう何も言えなかった
一度だけ
一度だけで良いから、紫色の手で貴方に触れたかった
そしてその手を握り返して欲しかった
頰に暖かいものが伝った
胸の奥底に花が咲いて苦しい
色んな色が、喉から溢れて
色が形になって、名前を呼んだ
貴方の名前
貴方の前でしか言わなかった
大事な名前
私の、僕の光
ねえ
まだ私、生きてて良いみたい
次が、最後です。