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第5話 死の王との対話

 

 次に私が目を覚ますと──薄暗い部屋の中で、暖炉傍のソファに寝転がっていました。毛布でぐるぐる巻き──さながら手巻き寿司のようです。なんです、この状況?

 身じろぎすると髪は乾いており、足や喉には包帯の代わりに祭壇を飾る草(バーベイン)と呼ばれる薄青色の花と、濃緑色の葉を束ねたものがあることに気付きました。

 私が起き上がろうとすると──ふわり、と首元にあった祭壇を飾る草(バーベイン)が、床に落ちてしまいました。


 ──……って、この格好だと拾えない……。


 身じろぎをしても毛布から抜け出すことは不可能でした。


 ──それにしてもこの祭壇を飾る草(バーベイン)……。たしか……。


 祭壇を飾る草(バーベイン)とは古くから呪術にも使われ、冥界への入り口を清める草。古代ギリシャとかローマでは、神事や占いなどに使用され、草の汁を体に塗ると願いが叶う、敵との和解、病を治すとか。もっとも薬草としても喉の腫れ──つまり炎症を抑える効果があるのです。

 まあ、これも私ではなく精霊魔術師レムル(旦那様)の知識の恩恵ですが……。


 ──工房ではない?


 連れ戻された訳ではないと思いましたが、まだわかりません。周囲を見渡すと暖炉の炎がか細くも赤々と燃えていました。ソファはかなりの年代物ですが、毛布は新品のように新しい。

 古びた古城または屋敷でしょうか。大きな窓は汚れて、カーテンも古臭い匂いがします。

 石造りで出来た暖炉も古く、(すす)も目立ちますね。部屋の灯りが暖炉の炎だけだからか、薄暗く感じられました。


「目を覚ましたようだな」


 そう低い声に私はビクリとしました。声の方に振り返ると、ドアの傍に誰かが佇んでいました。闇を(まと)った死神のような男の人。琥珀(こはく)色の双眸がどこか恐ろしく、そして哀しくも見えましたが、工房に連れ戻された訳じゃないと気づいてホッとしました。


 ──あなたが、助けてくれたのですか?


 言葉にしようとして声が出ず、私は念話を試してみました。通じていると良いのですが……。彼はしばし思案した後で口を開きました。


「結果的にはそうと言える」


「ありがとう」と言いかけて、私は意識が飛びかけました。なんというか、視界がぐらりと歪んで──気づけば天井が見え、黒髪の彼が傍らに居たのです。どうやら私が倒れかけた所を抱きかかえてくれたようです。

 あらためてお礼を言おうと顔を上げると──。


「!?」


 近い。

 それに良く見たら目鼻立ちが整っており、彫刻のように美しい──のだが、眉間に皺を寄せているせいか迫力がある。マントを羽織っているが、それでも肩幅は広く威圧的に見えてしまいます。

 これはいろんな意味で心臓に悪いですね。


「……回復までにはまだ時間がかかる。今は体を休めるように」


 素っ気ない言葉は色も熱もなく、事実を告げていました。

 それから私を再びソファに寝かし、私が床に落としてしまった祭壇を飾る草(バーベイン)とは別の──新しく積んできたものを取り換えて首元にそっと置きました。


 ──あのぉ……。炎症を抑えるなら草の汁にしないと、効果が薄い気がするのですが……。


 手当てをしてもらったのに口を挟むのはどうかと思いますが、一応伝えてみました。気を悪くされるかもしれない、と身構えたのですが彼は私の言葉に──小首を傾げたのです。


「……そう言うものなのか。精霊たちはこれでも十分役割を果たしているといっていたが……」

 ──ああ、そう……なのですね。私の知識では薬にしていたので……。差し出がましいことを……言いました。すみません。

「いや、謝罪はいらない。人の身なら、そうするのだろう」


 抑揚のない声。

 けれど、それはただ冷たいだけの方ではないようです。安堵したせいか、一気に眠気が襲い──私は重たげな目蓋(まぶた)に逆らえず目を閉じました。


 ──ありがとう……ございます。

「……礼はいらない。私もお前に助けてもらいたいことがある」


 眠りに落ちる前に聞こえた言葉が耳に残りました。

「ホムンクルスの私に何が出来るのでしょう?」そう問い返すこともできぬまま私は夢の世界へと誘われたのでした。


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