第五話
星月夜。
青月は霧生が眠るベッドの上に座り、彼の様子を覗いた。
「いい顔して寝るね、ヨウスケくん」
くすりと笑う。心地よく寝息を立てる霧生のあたまにそっと手を添えた。
すると、ゆっくりと目が開かれる。
「おはよう。よく寝ていたね」
まだ苦しそうな表情だが、霧生は口角を上げた。
「なにがおはようだ。今は夜だろ」
霧生は上半身を起こす。
「で、どうなったんだ?」
「異形は倒したよ。師匠は、しばらく様子を見る必要があるってさ」
「……そうかよ。なんだー。おもしれえことになると思ったのによお。見物なんざつまらねえ」
あたまの後ろで腕を組み、霧生は寝転がる。
「仕方ないよ。なにが起こっているかわからないんだ。はっきりするまでは、向こうに任せておけばいいさ。……そうだ。そういえば師匠が、きみのことを話したよ、日向に」
霧生は目を見張るも、それほど驚きを見せなかった。
「なんだよ、話したのか。まあ、見られちゃ聞かれるわな。あいつ、なんて?」
「感謝したそうな顔をしていたよ」
「そうか。バケモノ呼ばわりされてきたから、お礼言われんのに慣れてねえや」
束の間、沈黙が流れる。
青月は、考えた。以前、彼女に人形を操れることを話した。知らないことが多く好奇心旺盛な彼女のことだ。霧生の次に聞いてくるに違いない。目を輝かせながら――。できれば、知らないほしいと望む青月。瞼を閉じ、あがってくる感情を殺す。
「俺のことを知ったってことは、次はお前だろうな」
霧生が、青月の考えていたことを代弁した。
青月の詳細を知るのは東堂だけだ。霧生たちには、生まれつき物を操れるということまでしかいっていない。話したことがない。だとすれば、もしも彼女が聞いてきたときに語るは、青月か東堂のどちらかである。
「そうだろうね。まあ、俺のことを知るのはもっと先だろうけど」
×
昼休みの予鈴が鳴る。
日向はさっさと昼食を食べ終えて、図書室へと向かった。
図書室は広めになっていて、本棚からたくさんのタイトルがこちらを向いている。そんな中、滅多に読まない資料本を取り、椅子に座ってそれを広げた。分厚く、すべてを読み終えるのに時間がかかるものだ。それを、眼鏡をかけて捲っていく。知りたいのは、鬼のことだった。
「平安時代……空想上のもの。「悪しきもの」の総称として鬼と呼ばれていた」
独り言のように呟きながら、文の羅列を読み上げていった。
鬼とは、その言葉の語源を「穏」とする。目に見えない超自然的な存在である。平安時代には、人の負の感情を鬼に見立てて書かれた書物がある。超自然的な存在といわれるが、悪に落ちた人間を鬼と呼んでいた時代もあるのだ。「よくないもの」の総体こそが、「鬼」という存在なのである。
「時代によって違うのね、鬼の存在は」
資料から目を離す。読んだ文章を、あたまの中で順に整理していく。
「リン」
背後から声をかけられる。振り返った。
「律華、なに?」
律華が、日向の読んでいる資料を手に取って斜め読みをする。
「難しいの読んでいるのねえ。あんた、こういうの読んでたっけ」
「急に鬼のこと知りたくなって。ほら、もうすぐ授業でやるじゃない?」
「そうだっけー? 平安時代の本のことは、もう少し先だと思うけど」
「あはは……」
自分が本の中にいる空想上の鬼と関わっているとは言えなかった。
学校が終わり、帰路に入るときだ。ぞくりと日向の背中に悪寒が走った。
「まさか……」
辺りに目を配る。治まらない寒気に耐えながら、恐怖の根源を探す。
「リン? どうしたの?」
見つけた。ここから遠目のところに、異形がいる。建物ではっきりと視認できないけれど、確かにいる。逃げなくては。
日向は身を引き締めて、律華の腕を掴んだ。
「ちょ!? どうしたのってば!」
戸惑う友人の手を引っ張りながら、人目のある大通りへと向かった。
律華を危ない目に遭わせるわけにはいかない。日向は、竦んでいる足を無理矢理動かして走り続けるのであった。
学校から離れたところの通りへと出る。通りは、たくさんの人と音で賑わっていた。そこで足を止め、日向と律華は息を整えた。
「なんでいきなり、走ったのよ」
「ごめん。でも、そうしないといけなかったから」
「え? なんて?」
乱れる呼吸のまま話したからか、日向の言葉は律華に届いていなかった。
「いいの。気にしないで」
日もう一度周囲を見渡した。異形のすがたがない。どうやら、気付かれずに済んだようだ。日向はほっと一安心する。
「律華、お願い。真っ直ぐ家に帰って」
「なんでよ? ねえ、さっきもいきなり走ったし、今もそうやって私を注意した。もしかして、なにかあるの?」
鬼のことは他言無用。東堂からいわれた約束を破るわけにもいかなかった。わけを話すことを堪えて、友人をなんとか家に帰らせた。そのあと、自分も家に帰ろうと来た道を戻る。悪寒も収まり、緊張から解放されるのだった。
しかし、それも微々たる間だけである。おぞましい雄叫びが、大気を振動させた。その声を聞いた瞬間、日向の身体は動かなくなった。硬直し、小刻みに身震いする。
「……また、なの」
振り向きたくない。だが、その正体を確かめなければ。足を引き、背後を向く。
「――」
その恐ろしい光景に、日向は言葉をなくす。あたまが真っ白となり、足が地面に縫い付けられたように微動だにしない。
異形の牙が、生身の肉を喰らっている。皮を剥ぎ、肉を裂き、液体で地を汚す。喰われたその肉塊に息などなく、塊もない。
もしもあれが、食べられているあれが自分だったら――。
逸らしたいはずなのに、目はずっとその光景に釘付けとなった。
「やめ、て……」
異形が肉塊を食べ終わる。じゅるると音を立てて液体の付いた口を拭った。そして、次の獲物を探す。
「……逃げるな、私。せめて、ひきつけることぐらいは」
あれが狙っているのは少女。ならば、こちらに目を向けさせ、ほかに犠牲が出ないようにする。
思惑通り、こっちだ、と叫べば異形が大音声に笑い、彼女めがけ突進してくる。
「そう、そうよ。私を追いかけてきなさい!」
幸運にも、異形は鈍足だった。運動が苦手な日向が走っても距離が広がっていく。
だが、異形は勢いよく跳躍し、立ちふさがった。
「そんな――えっ」
ぼろぼろの無地の袖が視界に入った――刹那、軽々と人形が日向を持ち上げた。
敵の噛みつきを回避して、後退する。
「青月さん!」
「無茶なことをするんじゃない。あとは俺に任させるんだ」
「は、はい」
胸を撫で下ろしかけて、目を疑った。青月の横顔が怒りに染まっている。
いつもの彼とは違った。どうしてそこまで露わにするのか、日向にはわからなかった。
×
見回りをしているときだった。この時刻、彼女が帰宅するはずだと思い、青月はその道を歩いていた。そして、異形が日向を喰わんとするのを目撃する。
「……」
冷静な自分はいなかった。あたまに血がのぼって、なにも考えられない。考えるよりも先に、身体が前へ出ていた。
「さて、どうしようかな」
怒り交じりの笑みを口元に浮かべる。手を構え、人形に戦闘体勢を取らせる。
一瞬の沈黙。人と異の形が同時に地を蹴った。踊るように飛ぶ人形と拳を振るう異形がぶつかり合う。
先に一撃を決めたのは異形だった。人形を掴み叩き付ける。
人形に与えられたダメージが振動となって青月を襲う。怯むも、人形を砂煙から這い出す。パーツが壊れた人形はすぐさま再生した。刃を構える。そして、迎撃する。刃と腕が擦れ金属音が響き渡った。
異形が空いている方の手を伸ばし人形を掴もうとする。しかし、空振りに終わった。
宙に舞う人形は異形の後ろを取る。反転して相手の背中を縦一文字に斬った。泥の飛沫が飛び散る。仰け反ろうとする異形の隙をついて、懐に入り込む。胸部に一撃を決めた。さらに、黒い泥が流れ出てくる。
「終わりだ!」
胸部を抑える異形の手ごと貫いて二撃目を与えた。
静寂。異形は蒸発し、徐々にすがたを消すのであった。
肩を竦め、青月は一息つく。辺りを見渡して、ほかに異形がいないことを確認した。
日向はというと、先のグロデスクな光景が目に焼きついているのか、小刻みに震えていた。
「あ、青月さん?」
「もう、大丈夫だよ」
不思議だった。けれど、目の前にいる彼女を見た途端、自然とそうしていた。
安心させたい。もう怖くないと、教えてあげたい。
青月は少しの間、日向の温もりを肌に感じるのであった。
「ごめん。しばらくこうさせて」
「はい……わかりました」
日向も力を抜く。そっと、彼の背に手を回す。
二人だけの時間が、ゆっくりと刻まれていった。
だがそれは、すぐに奪われる。どこか遠くから、聞き慣れたおぞましい声が耳に届く。
「……またか」
青月は緩んでいた警戒心を結ぶ。日向から離れて、その声をした方角へ走る。
「あ、待って!」
日向も後を追った。
駆けつけると、霧生が一体の異形を倒し終わっていた。こちらに気付き、振り返る。
「どうなってやがんだ。時間帯的にあいつらが動き出しそうだけどよ、数が多すぎる。それに、あっちに気配が集中している」
霧生が示す場所は、日向が通う学校だった。日向と青月もそこだとわかった。
「ヨウスケくん、さっきので何体目?」
「俺は三体目だぜ。たぶん、黒鋼さんと暁華さんがどっかで戦っていると思う。とりあえず、俺たちでリーダーを叩こうぜ」
こくりと、青月は頷く。もとから、そのつもりである。
「じゃあ、いこう」
青月は後ろを見た。そこに、日向のすがたはない。
「……どこにいった? まさか」
彼を追っていたはずの彼女のすがたはどこにもなかった。青月は、日向が学校に向かったのではないかと考え、急いで、そこに向かう。
学校には、重い空気が溜まりに溜まっていた。グラウンドでは十体近くの異形がそぞろ歩いている。
青月と霧生は、校舎の影に隠れ、それの様子を伺った。
「さあて、全部やるか?」
「そうしたいけど、こっちの体力が持たないよ。とにかく、まずは日向を探そう」
「そうだな。しっかし、どこにいったんだか」
二人は手分けして学校内のどこかにいる日向を探すことにした。
青月は日向のクラスへ一目散に目指す。教室のドアを開けるも、そこに人影はなかった。代わりにいたのは、青月の腰まである鬼だった。逃げようとする鬼を、青月は切り裂いた。
「どこだ!」
×
青月とはぐれたのではない。霧生の指す方角へだれよりも先に向かったのだ。
――あの方角は間違いなく、学校だ。
もしもだれかが居残っているのなら、はやく知らせなければ!
焦るなか冷静に校内へ入り込んだ。日中とは異なり、怪談話よろしくその類が出てきそうな雰囲気が漂う。それに怯えはしたものの、各階、各教室を見ていく。校内にはどうやら、居残っている人も異形もいないようだ。
深呼吸をする。おもむろに窓に近づき、グラウンドを見下ろした。そこに広がるおぞましいものに思わず、口を両手で塞ぐ。後退ってから、すとんと座り込む。
「あ、あんなにも……私じゃ、相手にできない」
目が潤みかけ、手で拭う。
「泣くな、泣くな、私。なにかできることを、探すんだ」
グラウンド方面とは逆方向の、学校の裏側へ移った。
――「決して死なないことだ」
暁華の言う通り、死なない道を選ぶ。日向は、怪物蔓延る学校から抜け出そうとした。
竦む足に鞭打って、出口へ向かおうとした瞬間、身体が仰け反った。地面に倒れる――のではなくて、青月の腕のなかへすっぽりとおさまった。
「心配させないでくれ! 勝手に、いなくなったりするんじゃない」
冷静沈着な彼がいきなり声をあげた。
「あ、青月……さん」
日向を抱きしめる手の力が強い。その手に手を添えようとすると、彼が離れた。
「……異形に、なにもされていないみたいだね。いずれここにも、異形がくるだろう。グラウンドのあいつらは俺たちが排除する。きみはここを動くな」
青月はすぐさま異形を倒しに向かった。
入れ替わりに、暁華がくる。
「日向、無事か」
「はい」
「よかった。きみに今の状況を説明しよう」
暁華は言った。今のところ怪物が集っているのは表のグラウンドだけだという。幸い、校内には害のない鬼が隠れている以外は問題ない。かといって、異形が近寄らないわけではない。日向に魅かれた異形たちが、彼女を食べにくる。ゆえに、どこにいても同じ――。
「今、青月たちが数を減らしている。ともかく、きみはここにいてくれ」
「わかりました。ここにいます」
「私もここにいよう。きみを守る」
暁華が一枚の紙を取り出す。そこには黒い線で五芒星が描かれていた。日向には理解できない言葉で呪を詠唱する。すると、五芒星がすっと紙から消える。
「きみに結界を付与した。異形からの攻撃を防げる」
日向の周りに、薄っすらと青光りする結界が張られる。
戦いの音が校舎を挟んだ向こう側から聞こえた。地が揺れる。
彼女は、今、非日常の真っ只中にいると悟った。あの怪物と青月たちが交じり合う。そこに無力な少女が入る隙はない。否、たとえ武器があったとしても、彼らのように真っ向から挑む精神はないに等しいだろう。日向はわずかに、劣等感を憶えるのであった。
「暁華さんは、怖くないんですか。あんなバケモノと真正面から向き合うこと」
「怖いさ」
間髪入れずに返ってくる。
「でも、戦わなければ死んでしまう。それでは元も子もない。だからみんな、戦うんだ」
たくましい笑みがあった。日向も、ぎこくなくはあるけれど、笑ってみせた。
――そのときだった。暗闇裂く赤い光が迫る。
「!?」
「このっ!」
二発の銃弾が光にのまれ、爆発する。
危険を察知した日向はさっと、暁華の背に隠れた。
「邪魔をするな、女」
すがたを見せたのは、長身に赤いコートと銀色の髪、鋭い茶色の目をした男だ。さらに、その隣に日向より背が低い少女がぼうっと佇んでいる。ぼさぼさの髪に装飾のない紫のワンピースすがたで、目に光はない。
「津雲川、お前なにをしにきた?」
津雲川が鼻で笑った。
「なにを? 愚問だな。滅鬼師としての仕事をしにきたまでだ」
「嘘をつけ。そこの少女はなんだ? この異形の数はなんだ?」
「質問ばかりするな。だが、答えてやる。この少女は、そっちにいるクソガキと同じだ。半人半鬼。そしてこの異形の数は、この少女が増殖させた結果だ」
「異形に人を噛ませただと……。お前、大量殺人でもするつもりか。異形化した人間は、もう元には戻らん。倒したとしても、それは――」
人間を死なせてしまう。胸を二度貫くのは、異形としての心臓と人間としての心臓を止めるためだ。そうしなければ、異形は倒れることはない。
「だが、同じことをしているのはお前たちとて同じだろう。今更すぎる話だな」
ふと日向は考えた。ならなぜ、暁華や青月、霧生たちはそんなことをしているのだろうか。そこまでする目的が、あるのだろうか? 日向は、拳銃を持つ暁華を見据えた。
「お前とやっていることが違う。そこの少女を使って、なにをする気だ?」
日向は、その少女を見た。彼女よりも年下だ。少女らしい顔色ではなかった。生気が見受けられない。
津雲川は、口の前に人差し指を立てる。
「言うはずがないだろう。まあ、そこの小娘に興味があるだけだ」
立てた人差し指をそのまま、こちらに向けてきた。企みある目が、日向を縛る。
「手は出させない。早く去れ」
「くっくっく。こんなところで油を売っていていいのか。青月やクソガキの加勢にいけばいいものを。特にクソガキだな。まだ万全ではないはずだが」
津雲川が挑発じみた笑みをした。
「……」
じりじりと張り詰めた空気が漂う。初手は津雲川だ。
「灰ごと燃やしてやる」
津雲川の右手に赤い光――火の妖気が宿った。その手を振るえば、鋭い爪の手が暁華へと放たれた。暁華は式神を身代わりにし、それを交わした。続けて、もう一丁の銃にて相手に連射する。銃弾は、津雲川の額めがけ射出した。
「積み上がれ、土よ」
今度は茶色い光が輝く。敵の足元から土が積み上がって分厚い壁ができあがった。そして、銃弾を弾き返す。
津雲川と暁華の交戦は、わずかに津雲川が優勢を得る。
日向は、じっとその戦いの行く末を見守った。けれど、目の前の戦いより、動こうとしない少女が気になっていた。こちらを見つめているだけで、敵意もあるかないか定かではない。
怪しんでいると、乾いた音が耳をつんざく。なんだと目を向けると、暁華が、地面から生えている無数の蔓に縛り上げられていた。
「艶めかしい身体だ。……ナナシ、喰え。ただし、死なせるな」
ぴくりと小さな少女が反応する。細い腕を伸ばした次の瞬間、異様な音を立ててそれが形を変えた。幾度となく目にしてきた、異形たちの腕だった。人ならざる手が、暁華を掴む。
「くう……」
ミシミシと、骨から音がした。
「そのまま、握り潰せ」
ナナシがさらに力を加える。がくんと、暁華のあたまが垂れた。
「あ、暁華さん……」
どうする。どうする。助けなくては。でも、どうやって――。
ざしゅり。
「ああああああああっ!!!」
裂ける音と叫び声に、日向は身体を硬直させた。
ナナシの腕が斬られた。好機だと踏んで、無我夢中で暁華を蔓から引き剥がす。
「暁華さん! しっかり!」
「うっ……げほ、ごほ。なにが、あった」
ふたりの前に立つは、刀を握る霧生だ。顔に汗を滲ませており、かなり疲労しているようだ。
「ふたりとも、無事でよかったぜ」
「霧生、表はどうなっている?」
「表にいた分は、俺と青月、黒鋼さんでなんとかなった。けど、日向に魅かれているんなら、またここに異形たちが集まるだろうよ」
霧生はナナシを睨んだ。
「お前、俺と同じか。もう人間には戻れないっつうのに」
憐れみを含んで口角をあげた霧生の言葉を、日向はしっかりと耳にした。
戻れない。人のすがたでも、鬼の血が流れている。それが半人半鬼――。
「ああっ、あああ!!」
ナナシは再生した腕を構え、地面を蹴った。
霧生も戦闘体勢をとった。刀を構えて、相手の攻撃を受け止める。
「ちっさいくせして、よくやるじゃねえか」
火花散らす双方の衝突。拮抗しているのは錯覚だ。明らかに霧生が押されていた。
そして、壁際まで追い詰められた。少女の手は霧生を握りつぶそうとする。だが、ナナシと同じ手――霧生の鬼の腕が阻んだ。
「ちっ。クソガキが。ナナシ、まずは奴を葬れ。俺は表へ行く」
「日向、暁華さん! ここは俺に任せて、あいつを!」
日向は頷き、暁華とともに津雲川を追って、グラウンドへ疾走する。




