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怪物のいる街  作者: こうみ
鬼と異形
8/26

第五話

 星月夜。

 青月は霧生が眠るベッドの上に座り、彼の様子を覗いた。

「いい顔して寝るね、ヨウスケくん」

 くすりと笑う。心地よく寝息を立てる霧生のあたまにそっと手を添えた。

 すると、ゆっくりと目が開かれる。

「おはよう。よく寝ていたね」

 まだ苦しそうな表情だが、霧生は口角を上げた。

「なにがおはようだ。今は夜だろ」

 霧生は上半身を起こす。

「で、どうなったんだ?」

「異形は倒したよ。師匠は、しばらく様子を見る必要があるってさ」

「……そうかよ。なんだー。おもしれえことになると思ったのによお。見物なんざつまらねえ」

 あたまの後ろで腕を組み、霧生は寝転がる。

「仕方ないよ。なにが起こっているかわからないんだ。はっきりするまでは、向こうに任せておけばいいさ。……そうだ。そういえば師匠が、きみのことを話したよ、日向に」

 霧生は目を見張るも、それほど驚きを見せなかった。

「なんだよ、話したのか。まあ、見られちゃ聞かれるわな。あいつ、なんて?」

「感謝したそうな顔をしていたよ」

「そうか。バケモノ呼ばわりされてきたから、お礼言われんのに慣れてねえや」

 束の間、沈黙が流れる。

 青月は、考えた。以前、彼女に人形を操れることを話した。知らないことが多く好奇心旺盛な彼女のことだ。霧生の次に聞いてくるに違いない。目を輝かせながら――。できれば、知らないほしいと望む青月。瞼を閉じ、あがってくる感情を殺す。

「俺のことを知ったってことは、次はお前だろうな」

 霧生が、青月の考えていたことを代弁した。

 青月の詳細を知るのは東堂だけだ。霧生たちには、生まれつき物を操れるということまでしかいっていない。話したことがない。だとすれば、もしも彼女が聞いてきたときに語るは、青月か東堂のどちらかである。

「そうだろうね。まあ、俺のことを知るのはもっと先だろうけど」


     ×


 昼休みの予鈴が鳴る。

 日向はさっさと昼食を食べ終えて、図書室へと向かった。

 図書室は広めになっていて、本棚からたくさんのタイトルがこちらを向いている。そんな中、滅多に読まない資料本を取り、椅子に座ってそれを広げた。分厚く、すべてを読み終えるのに時間がかかるものだ。それを、眼鏡をかけて捲っていく。知りたいのは、鬼のことだった。

「平安時代……空想上のもの。「悪しきもの」の総称として鬼と呼ばれていた」

 独り言のように呟きながら、文の羅列を読み上げていった。

 鬼とは、その言葉の語源を「穏」とする。目に見えない超自然的な存在である。平安時代には、人の負の感情を鬼に見立てて書かれた書物がある。超自然的な存在といわれるが、悪に落ちた人間を鬼と呼んでいた時代もあるのだ。「よくないもの」の総体こそが、「鬼」という存在なのである。

「時代によって違うのね、鬼の存在は」

 資料から目を離す。読んだ文章を、あたまの中で順に整理していく。

「リン」

 背後から声をかけられる。振り返った。

「律華、なに?」

 律華が、日向の読んでいる資料を手に取って斜め読みをする。

「難しいの読んでいるのねえ。あんた、こういうの読んでたっけ」

「急に鬼のこと知りたくなって。ほら、もうすぐ授業でやるじゃない?」

「そうだっけー? 平安時代の本のことは、もう少し先だと思うけど」

「あはは……」

 自分が本の中にいる空想上の鬼と関わっているとは言えなかった。

 学校が終わり、帰路に入るときだ。ぞくりと日向の背中に悪寒が走った。

「まさか……」

 辺りに目を配る。治まらない寒気に耐えながら、恐怖の根源を探す。

「リン? どうしたの?」

 見つけた。ここから遠目のところに、異形がいる。建物ではっきりと視認できないけれど、確かにいる。逃げなくては。

 日向は身を引き締めて、律華の腕を掴んだ。

「ちょ!? どうしたのってば!」

 戸惑う友人の手を引っ張りながら、人目のある大通りへと向かった。

 律華を危ない目に遭わせるわけにはいかない。日向は、竦んでいる足を無理矢理動かして走り続けるのであった。

 学校から離れたところの通りへと出る。通りは、たくさんの人と音で賑わっていた。そこで足を止め、日向と律華は息を整えた。

「なんでいきなり、走ったのよ」

「ごめん。でも、そうしないといけなかったから」

「え? なんて?」

 乱れる呼吸のまま話したからか、日向の言葉は律華に届いていなかった。

「いいの。気にしないで」

 日もう一度周囲を見渡した。異形のすがたがない。どうやら、気付かれずに済んだようだ。日向はほっと一安心する。

「律華、お願い。真っ直ぐ家に帰って」

「なんでよ? ねえ、さっきもいきなり走ったし、今もそうやって私を注意した。もしかして、なにかあるの?」

 鬼のことは他言無用。東堂からいわれた約束を破るわけにもいかなかった。わけを話すことを堪えて、友人をなんとか家に帰らせた。そのあと、自分も家に帰ろうと来た道を戻る。悪寒も収まり、緊張から解放されるのだった。

 しかし、それも微々たる間だけである。おぞましい雄叫びが、大気を振動させた。その声を聞いた瞬間、日向の身体は動かなくなった。硬直し、小刻みに身震いする。

「……また、なの」

 振り向きたくない。だが、その正体を確かめなければ。足を引き、背後を向く。

「――」

 その恐ろしい光景に、日向は言葉をなくす。あたまが真っ白となり、足が地面に縫い付けられたように微動だにしない。

 異形の牙が、生身の肉を喰らっている。皮を剥ぎ、肉を裂き、液体で地を汚す。喰われたその肉塊に息などなく、塊もない。

 もしもあれが、食べられているあれが自分だったら――。

 逸らしたいはずなのに、目はずっとその光景に釘付けとなった。

「やめ、て……」

 異形が肉塊を食べ終わる。じゅるると音を立てて液体の付いた口を拭った。そして、次の獲物を探す。

「……逃げるな、私。せめて、ひきつけることぐらいは」

 あれが狙っているのは少女。ならば、こちらに目を向けさせ、ほかに犠牲が出ないようにする。

 思惑通り、こっちだ、と叫べば異形が大音声に笑い、彼女めがけ突進してくる。

「そう、そうよ。私を追いかけてきなさい!」

 幸運にも、異形は鈍足だった。運動が苦手な日向が走っても距離が広がっていく。

 だが、異形は勢いよく跳躍し、立ちふさがった。

「そんな――えっ」

 ぼろぼろの無地の袖が視界に入った――刹那、軽々と人形が日向を持ち上げた。

 敵の噛みつきを回避して、後退する。

「青月さん!」

「無茶なことをするんじゃない。あとは俺に任させるんだ」

「は、はい」

 胸を撫で下ろしかけて、目を疑った。青月の横顔が怒りに染まっている。

 いつもの彼とは違った。どうしてそこまで露わにするのか、日向にはわからなかった。


     ×


 見回りをしているときだった。この時刻、彼女が帰宅するはずだと思い、青月はその道を歩いていた。そして、異形が日向を喰わんとするのを目撃する。

「……」

 冷静な自分はいなかった。あたまに血がのぼって、なにも考えられない。考えるよりも先に、身体が前へ出ていた。

「さて、どうしようかな」

 怒り交じりの笑みを口元に浮かべる。手を構え、人形に戦闘体勢を取らせる。

 一瞬の沈黙。人と異の形が同時に地を蹴った。踊るように飛ぶ人形と拳を振るう異形がぶつかり合う。

 先に一撃を決めたのは異形だった。人形を掴み叩き付ける。

 人形に与えられたダメージが振動となって青月を襲う。怯むも、人形を砂煙から這い出す。パーツが壊れた人形はすぐさま再生した。刃を構える。そして、迎撃する。刃と腕が擦れ金属音が響き渡った。

異形が空いている方の手を伸ばし人形を掴もうとする。しかし、空振りに終わった。

 宙に舞う人形は異形の後ろを取る。反転して相手の背中を縦一文字に斬った。泥の飛沫が飛び散る。仰け反ろうとする異形の隙をついて、懐に入り込む。胸部に一撃を決めた。さらに、黒い泥が流れ出てくる。

「終わりだ!」

 胸部を抑える異形の手ごと貫いて二撃目を与えた。

 静寂。異形は蒸発し、徐々にすがたを消すのであった。

 肩を竦め、青月は一息つく。辺りを見渡して、ほかに異形がいないことを確認した。

 日向はというと、先のグロデスクな光景が目に焼きついているのか、小刻みに震えていた。

「あ、青月さん?」

「もう、大丈夫だよ」

 不思議だった。けれど、目の前にいる彼女を見た途端、自然とそうしていた。

 安心させたい。もう怖くないと、教えてあげたい。

 青月は少しの間、日向の温もりを肌に感じるのであった。

「ごめん。しばらくこうさせて」

「はい……わかりました」

 日向も力を抜く。そっと、彼の背に手を回す。

 二人だけの時間が、ゆっくりと刻まれていった。

 だがそれは、すぐに奪われる。どこか遠くから、聞き慣れたおぞましい声が耳に届く。

「……またか」

 青月は緩んでいた警戒心を結ぶ。日向から離れて、その声をした方角へ走る。

「あ、待って!」

 日向も後を追った。

 駆けつけると、霧生が一体の異形を倒し終わっていた。こちらに気付き、振り返る。

「どうなってやがんだ。時間帯的にあいつらが動き出しそうだけどよ、数が多すぎる。それに、あっちに気配が集中している」

 霧生が示す場所は、日向が通う学校だった。日向と青月もそこだとわかった。

「ヨウスケくん、さっきので何体目?」

「俺は三体目だぜ。たぶん、黒鋼さんと暁華さんがどっかで戦っていると思う。とりあえず、俺たちでリーダーを叩こうぜ」

 こくりと、青月は頷く。もとから、そのつもりである。

「じゃあ、いこう」

 青月は後ろを見た。そこに、日向のすがたはない。

「……どこにいった? まさか」

 彼を追っていたはずの彼女のすがたはどこにもなかった。青月は、日向が学校に向かったのではないかと考え、急いで、そこに向かう。

 学校には、重い空気が溜まりに溜まっていた。グラウンドでは十体近くの異形がそぞろ歩いている。

 青月と霧生は、校舎の影に隠れ、それの様子を伺った。

「さあて、全部やるか?」

「そうしたいけど、こっちの体力が持たないよ。とにかく、まずは日向を探そう」

「そうだな。しっかし、どこにいったんだか」

 二人は手分けして学校内のどこかにいる日向を探すことにした。

 青月は日向のクラスへ一目散に目指す。教室のドアを開けるも、そこに人影はなかった。代わりにいたのは、青月の腰まである鬼だった。逃げようとする鬼を、青月は切り裂いた。

「どこだ!」


     ×


 青月とはぐれたのではない。霧生の指す方角へだれよりも先に向かったのだ。

 ――あの方角は間違いなく、学校だ。

 もしもだれかが居残っているのなら、はやく知らせなければ!

 焦るなか冷静に校内へ入り込んだ。日中とは異なり、怪談話よろしくその類が出てきそうな雰囲気が漂う。それに怯えはしたものの、各階、各教室を見ていく。校内にはどうやら、居残っている人も異形もいないようだ。

 深呼吸をする。おもむろに窓に近づき、グラウンドを見下ろした。そこに広がるおぞましいものに思わず、口を両手で塞ぐ。後退ってから、すとんと座り込む。

「あ、あんなにも……私じゃ、相手にできない」

 目が潤みかけ、手で拭う。

「泣くな、泣くな、私。なにかできることを、探すんだ」

 グラウンド方面とは逆方向の、学校の裏側へ移った。

 ――「決して死なないことだ」

 暁華の言う通り、死なない道を選ぶ。日向は、怪物蔓延る学校から抜け出そうとした。

 竦む足に鞭打って、出口へ向かおうとした瞬間、身体が仰け反った。地面に倒れる――のではなくて、青月の腕のなかへすっぽりとおさまった。

「心配させないでくれ! 勝手に、いなくなったりするんじゃない」

 冷静沈着な彼がいきなり声をあげた。

「あ、青月……さん」

 日向を抱きしめる手の力が強い。その手に手を添えようとすると、彼が離れた。

「……異形に、なにもされていないみたいだね。いずれここにも、異形がくるだろう。グラウンドのあいつらは俺たちが排除する。きみはここを動くな」

 青月はすぐさま異形を倒しに向かった。

 入れ替わりに、暁華がくる。

「日向、無事か」

「はい」

「よかった。きみに今の状況を説明しよう」

 暁華は言った。今のところ怪物が集っているのは表のグラウンドだけだという。幸い、校内には害のない鬼が隠れている以外は問題ない。かといって、異形が近寄らないわけではない。日向に魅かれた異形たちが、彼女を食べにくる。ゆえに、どこにいても同じ――。

「今、青月たちが数を減らしている。ともかく、きみはここにいてくれ」

「わかりました。ここにいます」

「私もここにいよう。きみを守る」

 暁華が一枚の紙を取り出す。そこには黒い線で五芒星が描かれていた。日向には理解できない言葉で呪を詠唱する。すると、五芒星がすっと紙から消える。

「きみに結界を付与した。異形からの攻撃を防げる」

 日向の周りに、薄っすらと青光りする結界が張られる。

 戦いの音が校舎を挟んだ向こう側から聞こえた。地が揺れる。

 彼女は、今、非日常の真っ只中にいると悟った。あの怪物と青月たちが交じり合う。そこに無力な少女が入る隙はない。否、たとえ武器があったとしても、彼らのように真っ向から挑む精神はないに等しいだろう。日向はわずかに、劣等感を憶えるのであった。

「暁華さんは、怖くないんですか。あんなバケモノと真正面から向き合うこと」

「怖いさ」

 間髪入れずに返ってくる。

「でも、戦わなければ死んでしまう。それでは元も子もない。だからみんな、戦うんだ」

 たくましい笑みがあった。日向も、ぎこくなくはあるけれど、笑ってみせた。

 ――そのときだった。暗闇裂く赤い光が迫る。

「!?」

「このっ!」

 二発の銃弾が光にのまれ、爆発する。

 危険を察知した日向はさっと、暁華の背に隠れた。

「邪魔をするな、女」

 すがたを見せたのは、長身に赤いコートと銀色の髪、鋭い茶色の目をした男だ。さらに、その隣に日向より背が低い少女がぼうっと佇んでいる。ぼさぼさの髪に装飾のない紫のワンピースすがたで、目に光はない。

「津雲川、お前なにをしにきた?」

 津雲川が鼻で笑った。

「なにを? 愚問だな。滅鬼師としての仕事をしにきたまでだ」

「嘘をつけ。そこの少女はなんだ? この異形の数はなんだ?」

「質問ばかりするな。だが、答えてやる。この少女は、そっちにいるクソガキと同じだ。半人半鬼。そしてこの異形の数は、この少女が増殖させた結果だ」

「異形に人を噛ませただと……。お前、大量殺人でもするつもりか。異形化した人間は、もう元には戻らん。倒したとしても、それは――」

 人間を死なせてしまう。胸を二度貫くのは、異形としての心臓と人間としての心臓を止めるためだ。そうしなければ、異形は倒れることはない。

「だが、同じことをしているのはお前たちとて同じだろう。今更すぎる話だな」

 ふと日向は考えた。ならなぜ、暁華や青月、霧生たちはそんなことをしているのだろうか。そこまでする目的が、あるのだろうか? 日向は、拳銃を持つ暁華を見据えた。

「お前とやっていることが違う。そこの少女を使って、なにをする気だ?」

 日向は、その少女を見た。彼女よりも年下だ。少女らしい顔色ではなかった。生気が見受けられない。

 津雲川は、口の前に人差し指を立てる。

「言うはずがないだろう。まあ、そこの小娘に興味があるだけだ」

 立てた人差し指をそのまま、こちらに向けてきた。企みある目が、日向を縛る。

「手は出させない。早く去れ」

「くっくっく。こんなところで油を売っていていいのか。青月やクソガキの加勢にいけばいいものを。特にクソガキだな。まだ万全ではないはずだが」

 津雲川が挑発じみた笑みをした。

「……」

 じりじりと張り詰めた空気が漂う。初手は津雲川だ。

「灰ごと燃やしてやる」

 津雲川の右手に赤い光――火の妖気が宿った。その手を振るえば、鋭い爪の手が暁華へと放たれた。暁華は式神を身代わりにし、それを交わした。続けて、もう一丁の銃にて相手に連射する。銃弾は、津雲川の額めがけ射出した。

「積み上がれ、土よ」

 今度は茶色い光が輝く。敵の足元から土が積み上がって分厚い壁ができあがった。そして、銃弾を弾き返す。

 津雲川と暁華の交戦は、わずかに津雲川が優勢を得る。

 日向は、じっとその戦いの行く末を見守った。けれど、目の前の戦いより、動こうとしない少女が気になっていた。こちらを見つめているだけで、敵意もあるかないか定かではない。

 怪しんでいると、乾いた音が耳をつんざく。なんだと目を向けると、暁華が、地面から生えている無数の蔓に縛り上げられていた。

「艶めかしい身体だ。……ナナシ、喰え。ただし、死なせるな」

 ぴくりと小さな少女が反応する。細い腕を伸ばした次の瞬間、異様な音を立ててそれが形を変えた。幾度となく目にしてきた、異形たちの腕だった。人ならざる手が、暁華を掴む。

「くう……」

 ミシミシと、骨から音がした。

「そのまま、握り潰せ」

 ナナシがさらに力を加える。がくんと、暁華のあたまが垂れた。

「あ、暁華さん……」

 どうする。どうする。助けなくては。でも、どうやって――。

 ざしゅり。

「ああああああああっ!!!」

 裂ける音と叫び声に、日向は身体を硬直させた。

 ナナシの腕が斬られた。好機だと踏んで、無我夢中で暁華を蔓から引き剥がす。

「暁華さん! しっかり!」

「うっ……げほ、ごほ。なにが、あった」

 ふたりの前に立つは、刀を握る霧生だ。顔に汗を滲ませており、かなり疲労しているようだ。

「ふたりとも、無事でよかったぜ」

「霧生、表はどうなっている?」

「表にいた分は、俺と青月、黒鋼さんでなんとかなった。けど、日向に魅かれているんなら、またここに異形たちが集まるだろうよ」

 霧生はナナシを睨んだ。

「お前、俺と同じか。もう人間には戻れないっつうのに」

 憐れみを含んで口角をあげた霧生の言葉を、日向はしっかりと耳にした。

 戻れない。人のすがたでも、鬼の血が流れている。それが半人半鬼――。

「ああっ、あああ!!」

 ナナシは再生した腕を構え、地面を蹴った。

 霧生も戦闘体勢をとった。刀を構えて、相手の攻撃を受け止める。

「ちっさいくせして、よくやるじゃねえか」

 火花散らす双方の衝突。拮抗しているのは錯覚だ。明らかに霧生が押されていた。

 そして、壁際まで追い詰められた。少女の手は霧生を握りつぶそうとする。だが、ナナシと同じ手――霧生の鬼の腕が阻んだ。

「ちっ。クソガキが。ナナシ、まずは奴を葬れ。俺は表へ行く」

「日向、暁華さん! ここは俺に任せて、あいつを!」

 日向は頷き、暁華とともに津雲川を追って、グラウンドへ疾走する。

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