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地球の破滅を知らされた白瀬防衛隊司令官と井上日本国総理大臣は日本人を助けるため僅かな手掛かりを追って宇宙帝国と接触する

第一章地球の危機 官邸での話し合い

高島は井上からの呼び出しを受け総理官邸にやって来た、「高島だが総理はいるかな」

「はいお待ちです」島田は高島を応接室に案内し井上を呼びにいった。

「総理来ました」

「ふむ分かった」井上は執務室の机から立ち上がると応接室へ「やあー久しぶりだな」

「総理も元気そうですな」

「高島君、早速だが君はなんで加納についたのかな」

「ははははこれはなんと答えるべきですかな、俺は日本国民を助けるにはこれしかないと判断したんだ」

「ホー何から助けるのかな」

「総理―まだ誰も知らないが地球は太陽に変るから日本人は他の星に脱出しないと助からない、その手段を持っているのが加納だ」

「例の死に絶えると言う話ですな、どこまで真実ですか」

「総理そのような疑問を持たれるのは構いませんよ、信じなければここに残ればいい、だけど俺の話を信じてついてくる人間を俺は助けたいのです、加納からそのための手段を得るのが俺の計画です」

「ははぁーこれは儂も考える必要がありますな、その手段とは何ですかな」

「俺は加納から宇宙船の秘密を探って作る計画ですがなかなか掴めませんな」

「ほーう難しいですか、これからも加納について行きますか」

「ハハハハ加納から家族の脱出は確約されていますからな」


立花から地球に住めなくなると聞いて絶望感に襲われた白瀬は漠然とある考えが浮かんできた

「最近自身の周辺に起きた事変はすべてエニーがからんでいる、あの女は俺に何かさせたいのかー俺だけではない、総理も今回の人事に不審を抱いていた」

白瀬は事態の報告に官邸に向かった。

総理官邸の広場に車を乗り入れ玄関前に停車運転手の兵曹がドアを開ける。「司令官到着しました」

「ふむありがとうーすぐに終わるから待っていてくれ」

衛視の鈴木は黒い軍服に金ぴかの肩章をつけ、腰にぶら下げたサーベルをガチャガチャ鳴らしながら近づいてくる司令官を見つめ緊張気味にドアを開けた「司令官お入りください」

ホールは新年の挨拶に来た人たちでいっぱい、彼らを横目で睨みながら無視して補佐官を捕まえた。「島田君緊急の報告がある総理を呼んでくれ」

白瀬はそのまま応接室に入ったが来客から顰蹙を買ったのは気づかない。

井上は白瀬が先客を無視して応接室を占有したことで不機嫌な顔して応接室に向かった。

「司令官ー何事ですかな」

「総理、地球が太陽になると知らされた」

「どういうことですか」

「俺もまだ詳しいことはわからないが今日関東大学の深海艇が事故で六千メートルの海底に沈んだ普通では助からない、わかりますか」

「もう少し詳しくお話できますか」

「深海艇が小笠原海溝を調査して海底爆発に会った」

「火山噴火ですか」

「いいえその場所には火山がありませんな、突然官邸の前の庭が噴火したと思えば理解できますか」

「そんな―バカな、火山のないところがなぜ噴火するのですか」

「深海艇はその馬鹿なことに巻き込まれたのですわ、その結果海底六千メートルの砂の中に埋もれてしまいましたが普通なら乗員は助かりませんな」

「どおしてですか助かったのでしょ」

「総理、アメリカの原潜でさえ潜れるのは千メートルだ、救助作業できる船などない、救助には海上にターミナルを設置してクレーンで海底まで装置を降ろして行うがクレーンが来る頃には酸素が無くなって死亡しています」

井上は白瀬の説明に疑問を感じた「司令官それならなぜ助かったのです」

「彼らの話によると偶然ですな、海底付近を航行していた巨大な潜水艦が助けてくれたそうです、銀河帝国のセルジア号という潜水艦です」

「司令官さっきは千メートルも潜れないと言っていたではありませんか、それに銀河帝国とはどういうことですか」

「総理それが問題ですわ、航行していたのはアメリカ原子力空母と同程度の大きさの巨大潜水艦です、彼らの話によると宇宙から来て地球で何か事業をしているらしい、彼らは潜水艦の乗員から地球が太陽になるから施設を撤収にかかっているということを聞きました」

「事実ですか」

「それはこれから調査をすればわかります、それで調査には金がかかりますがしますか」

「どれほどかかりますか」

「太平洋にセンサーを置かなければなりませんから少なくとも数十億ですか」

「司令官もし事実だとして対策はありますか」

「はい潜水艦の指揮官らしい女が植民できる星があると言ってたそうです」

「女ですか連絡は取れますか」

「後日連絡をくれると言って分かれたそうです」

「分かりました、別のルートから同じような報告を受けていたが事実確認が出来なかった、司令官の話でつじつまは会いますな」

井上は白瀬の報告と高島の話を検討し地球が太陽に成る様子が分って来た。

「ほーうそれはどこからですか」

「高島君が加納の娘から聞いて来たのですよ、高島君は加納が地球を脱出する手段を持っていると言っていたな」


太陽の孫姫リヤ故郷の別れ

東京で防衛隊と官邸が動き出したころ大王と乗員を春の海号に引き渡したリヤとサーシアは南の海上を三本マストの帆船が近づいているのを眺めた。

「姫ーテラルーラ号が迎えに来ましたわ、乗り換えましょう」

サーシアはリアをシフトに乗せセルジア号に戻り二百枚の白い帆を満開に開いてくるテラルーラ号を待った。

テラルーラ号の船首に赤紫の豪華なドレスを身に着け、髪に巨大なダイヤの宝冠を乗せたセリナが長くブルーに輝く髪を風に吹かれながら立っているのを春の海の乗員は固唾をのんだ。

セリナは神族イメルダ家の次姫、リヤの叔母で一般人に姿を現すのは異例だ。

テラルーラ号は勇壮な曲「勇猛なるレムリア」を轟かせ航行、セルジア号に並らび止まるとセリナは腕を上げ潜水艦を見据えて振り下ろした。

二つの船の間にエネルギー性の空中回廊が光を放って繋がりドレスを着た女官たちが飛ぶように乗り移る。

見ていた春の海の乗員たちはその様子を天女が舞っているようだと後日話していた。

女官たちはテラルーラ号に乗り移ると母であるセリナのもとへ行き、取り囲むように片膝をつき休んだ。

彼女たちはセリナから産まれてリヤ姫とはいとこ関係にある、彼女たちも外観的には女性に見せていたが実態は熱を発しない太陽そのもの寿命は太陽のように長くセリナに代わり人類を指導し発達を導いて来たため、地球で魔女・天女と呼ばれていたのは彼女たちの事だ。

姫たちのあとから護衛部隊の一等家臣団が乗り移りリヤ姫は最後に渡った。

「王女様乗艦いたしましたー」デッキ士官がキャビンに報告した。

「テラルーラ号に王女様御帰還」艦長が吠えた。

リヤは船首でセリナを囲っている女官たちの前に出ると腕を高く上げ水平に開き体を回したードレスの裾がボタンの花のように大きく開き静かに腰を落としてセリナに深々と挨拶。あまりに華麗なしぐさに眺めていた春の海の乗員は感動しそれから数日間忘れられず茫然となっていた者もいた。

「姫ーお戻りお待ちしてましたわ」セリナは白魚のような腕を差し伸べリヤを立たせて言葉をかけた。

「乳母様ーこれが見納めですのね、母はいつになったら離れるのかしら」

「お姉さまは日本人をギニアに移すと言われましたわ」

「帝国を預かるって大変なのね、わたくしはレムリアの宮殿で待つしかありませんですか?」

「リヤあなたは人生を歩きだしたばかりよ、お姉さまの生まれた時代は氷河期人生の大半は氷の時代でしたけど耐えて今の世界を作りましたのよ」

「乳母様わたくしも耐える事を学ばなければなりませんの」

「そうよ姉上は母上の作られた世界に人類を加えましたわーその世界をあなたが成熟させなければならないの」セリナはリヤに神族イメルダ家の孫姫として生まれた運命を説いた。


絶対の信頼

エミリヤの側近で一等家臣のサーシアはリヤ姫一行をテラルーラ号に送り届けると快速艇でエニーに戻り屋上のヘリポートを経て七十階にある指令センターにいた。

部屋の中央部には直径十メートルの地球模型が置かれそれを囲うように操作盤があり大勢の係官が世界にある拠点三百か所が示されて資材の運び出し状況を監視して大気圏外に待機している輸送船へ撤収の指示していた。

その様子を検分し終えたサーシアは皇后府に銀河回線を開きスクリーンでエミリヤと悪だくみの会談に入った。

「サーシア―ギニアには五億人くらいは欲しいわー植民させたいのはルビリアに対抗できるだけの知識と教養があって統制が採れる民族よ」

「王妃様ご希望はわかりましたわ、わたくしにお任せくださいな」

「頼むわよーえり分けるのは大変だけど誰かがしなければギニアは混乱の星になってしまいますもの、日本に影響しないようにね伯爵」

エミリヤはうまく成し遂げれば銀河帝国最高位の貴族にすると暗に示した。

「伯爵よね、銀河の執政官よそれにしても皇后様の悪だくみには感心しますわ、地球がダメと知ると防衛の穴だった星域に追い立ててルビリアの楯に使うのですもの」


井上総理の暗躍

井上は白瀬にこのことは直接加納と話し合うから方針が決められるまで公表しないと伝え、白瀬が同意して帰ると加納に会うため島田を連れずに本部ビルの前に来たー七十階建てガラス張りの外壁は太陽の日差しを浴び輝いている。

「すごい建物だ、さすが宇宙帝国の企業だけある、これほどの本社を自社ビルで持っているのは財閥系でも数は少ないな」

井上は考えながらホールに入ると二千平方メートルはある空間は床から天井まで白一色、目が痛いくらい明るい。

奥のほうに見えるインホメーションカウンターに行った。

「総理の井上だが会長はいるかな」

カウンターで受け付けをしていたのは目がくりくりしているまだ高校生くらいの少女、職員には見えない。

「総理って本物なのー?」

「本物です」

「フーンお母さまはいないわよ、忙しくってここにはひと月に一度くらいしか来れないわ」

「あなたの母親が会長ですか」井上は録音テープの娘だと思い出した。

「そうよー用があるのならあたいが聞いてもいいわよ」

「災害とか脱出の意味を知りたいのだが」

「ああーあの事ね、地球が燃えるのよ・・・」

ミリヤが部屋でスクリーンをみてると井上にリリカがペラペラ話している。

補佐官タリヤの忠告を思い出した。「大変だわあの子なんでも喋っちゃうわ」

ミリヤは慌ててホールに降りて来るとリリカに言った。

「リリカ―あとはわたくしがお相手しますからあなたは奥でケーキでも食べてなさいな」

「はーい」リリカはカウンターから降りるとスタスタ後ろの扉を開けて消えた。

「会長にどんな要件かしら」ミリヤは改めて井上に尋ねた。

「あなたはどなたですか」

「支配人のミリヤですわ、この本部を預かっていますの」

「それでは地球が太陽に変わると言うことはどれほどご存じなのですか」

「ほほほすべて知っておりますわ、ですからエニーは撤退に忙しいのですわ」

「撤退と言われてもどこへ、地球のどこに行っても同じではありませんか」

「ほほほほ白瀬から報告を聞いていらしたのでしょ、なにが目的かしら」

「なるほど無駄な長話は無用ですな、宇宙帝国の皇后に会いたいどちらに行けば会えますか」

「エミリヤは火星の帝国宮殿におりますけどあなたにはお会いしませんわ」

「皇后さまはエミリヤと名前ですかなぜですか」

「エミリヤは何十万という惑星政府を統治していますのよ、地球にある島国の長に会うほど暇ではありませんわ話があるのなら惑星管理官がお相手しますわ」

「その方はどちらにいるのですか」

「月にあるアルファー基地ですわ、そこに太陽系の管理官事務所がありますわよーでもどのようなご用か知りませんが無駄よね、帝国は太陽系の住民とは関りを持たないわよ」

「なぜですか」

「ほほほほ太陽系はソラリス王国の領域だから帝国は内政に干渉しませんわ」

「ですがリヤと言う女性の話では脱出する惑星があるとか言ってましたが」

「ほほほほギニア星の事ねーソラリスの星で帝国のではないわ、その星に植民したいのならソラリスの女王陛下に従う事ね」

「女王陛下にはどうしたら会えますか」

「陛下はお会いしませんわ」

「日本人を助けるにはあなたたちを頼るしかありませんので」

「ほー仕方がないから頼みに来られましたの、ズーズーしいお方ねほほほほ」

ミリヤはあからさまに井上をあざあざ笑った。

「日本人が植民したいのなら今の政府を廃止してソラリスのルフトファルト王を盟主にした政府を作ればいいの」

「断ったらどうしますか」

「ほほほほ勝手に滅びるだけですわーどうしました、ご返事は後からでもいいですが時間は猶予がありませんからねホホホホ」


ソラリスの提案

井上は白瀬とソラリスの提案を話し合っていた。

「総理ーエニーは俺が話した事を知っていたのですか」

「そうだ、帝国からエニーに連絡がいっているのだろー帝国は関わらないから太陽系の宗主国のソラリス王国に植民の許可をもらえと言われたよ」

「総理ーその王国とは連絡は取れるのですか」

「エニーが仲介をしてくれるそうだ」

「総理―ソラリスが植民を認めるのは現在の政府を潰して新しい政府を建てなければならないのですか」

「そうだ王国に天皇はいらないからな」

「総理ーこれはクーデターみたいなものですぞ、覚悟はありますか」

「司令官他に日本人が生き延びる方法がなければやるしかない、幸い国防軍は加納に牛耳られているから天皇廃止の妨げにならんよ」

「総理-国防軍が反対に回らないと分かれば残りは警察です、高島さんは警察を抑えられますか」

「高島では無理だ、やつはサラリーマンで人を引き付けるカリスマ性がない」


円盤

井上は政治的環境を整えるため個別に支持者と密談を重ね閣僚を入れ替えて反対者を外していたがエミリヤには動きが遅いと映った。

「サーシア使者を関東大学の立花教室に派遣して植民を促しなさい」

関東大学の裏庭に大きな円盤が着陸して軍人が降り大学の受付窓口に現れた「立花先生はいるかな」

「教授お客様です」

「うんー誰ですか」

「サーシアという方の使いだそうです」

立花は驚いて立ち上がったから机の上にあった書類はパーラバラ「行きます、どこにいますか」

「こちらです」事務員の桜井は立花を応接室に案内した。

「立花です、サーシアさんの使いと聞きましたが」

「レオラだ侯爵は日本政府に期待していない、君にギニア植民を任せたいというがどうかな」

「おれにですか、おれはしがない学者て金もないから大王も直せないそんな俺には重荷です、白瀬にやらせてくれませんか」

「白瀬とは誰かな」

「防衛隊の司令官をしている男で変わり者です」

「ふむ検討してみよう、それから姫から預かったものを裏庭に置いてあるから自由に使いたまえ」

「なんですか」

「海溝を調べられるボートだ、君のはおもちゃだと笑っていたぞ」レオラはパソコンに似た装置と携帯操作装置を机の上に並べ部屋を出て行く。

レオラが帰ると立花は装置を調べた、使い方が表示されどのようなものか解説を読み終えると研究室に戻り叫んだ。

「手の空いている者ついてきてくれ」

「なんなのー」出しゃばりの篠田がそのあとを柴山が続き男性陣は離れてぞろぞろ、裏庭に回ると直径十メートルパンケーキ型の乗り物がおいてあった。「これだよ君たちーリヤさんが気の毒がってくれたんだ」

「へぇー円盤みたいだ何かな」

「説明書には空を飛べて海底一万メートルまで潜れるし標本採取用の格納式のアームもある」

「へぇーすごいんだ先生これをもらったのですか」

島野はズーズーしく円盤の中に入り装置を確かめ動かしてみる、「すごいー動くし十人は乗れそうだー先生操縦はできますか」

「ああーこの装置の扱い方があるから研究すれば動かせるよ」

「ほほーう俺に貸してください、動かしてみますよ」

「おいーかまわないが壊すんじゃないぞー」

「へへへこういう最先端のものは先生には無理だからな俺が引き受けますよ」言いたいことを言いながら島野は立花からコントロール装置を受け取ると研究室に戻り操作データーをダウンロード読み始めた。

「島野ちゃん読めるの意味はわかるー?」

篠田は馬鹿にしたようにペチャクチャ喋りながら島野の回りをうろうろ。

「ぐぐぐぐ篠田―静かにしてくれー」

島野は操縦の教本を作り全員に渡した。「君たちこれをみて飛ばし方を覚えてくれ」

立花は早速乗り物が得意の山下助手に操縦を任せ太平洋の海底を這いずり回った。

「先生これはすごいですなんでもできますよ」

「そうか君はすっかり慣れたようだな、これから君に任せるか」立花は気楽に言ったが現実は早いもの勝ちだと毎回操縦キーの取り合いが起きた。

それからは柴山は週に一度海底調査に出かけデーターを集め桜の花が満開の季節になるとコンピューターで現象をシュミレーションが出来るようになり、ガヤガヤ意見の突っつきあいをしていると助手の添田が喚きながら入ってきた。


二千一年四月アラビアの壊滅

「みんな―テレビを見ろ、始まったぞー」

「なにがよー」篠田は勇んでテレビを付けながら嘯いた。

「アラビアでマグマが原因だーすごいぞー」

テレビは黒煙に包まれ炎が立ち昇っている景色を映した、遠く離れたアラビアの砂漠地帯で地下から爆発を伴い炎が噴き出した模様だ。

「何だー油田の爆発かー?」助教授の島野が吠えた。

「島野さんマグマが地表近くで油層に触れてドっカーンさ」

アラビア半島砂漠の国で産業はただ一つ石油だ、国全体で石油に頼り今まで長い平和をむさぼっていたつけがついに訪れた。

ドカーン激しい爆発音が半島全域に響き地中海沿岸の油田地帯が燃えて半島全域に点在する油井から炎が上がり黒煙に包まれた、地盤がコンクリートやアスファルトで覆われている都市部ではガスが逃げられず爆発、アラブのリゾート都市モルジブは炎とばい煙につつまれた瓦礫の都市に変わった。

市民は飛行場や港に殺到して半島からの脱出を試みたが逃げられたのはほんのひと握りの人たちだけ、逃げ場がない人たちは建物の高層階に逃げるが電源は切れて部屋の中は猛毒の熱気が渦巻いて避難民を襲った。

軍と消防は総動員で消火活動をしているが鎮火のめどは立たたず、専門家はしたり顔で石油が燃え尽きるまで止まらないだろうとテレビで解説していたがそれから一週間もたたず北海で海底爆発が起こり巨大な津波がすべての石油プラットフォームを押し倒した。

国連で緊急総会が開かれ対策を話し合ったが科学者は佐往右往するだけ、現象は彼らの知識を超えていたが至急原因を突き止める必要があった。


井上の決断

アラビアの状況を知った井上はエニーに石油の購入を打診した。

「総理閣下、確かに石油はありますが日本は銀河共通通貨を持っていませんわー支払いをどうしますか」

「そうか円では通用しないのか」

「お金に換えられる財物なら交換できますわ、そのほかには植民すればその惑星からご自分で採って来れるわね」ミリヤの話で日本が生き残るには植民は避けられないと知り、井上は白瀬を官邸に呼んだ。

「司令官ーギニアの石油が必要だが採って来るには植民が前提になる、無茶だがやるしかないみたいだ」

「総理ー防衛隊は俺が押さえる」

「わかった頼むぞ、わしは密かにソラリスと協定を交わすから惑星に調査に行けるよう準備を頼む。それからできるだけ早く事態を公表したいから海底の調査をエニーの名前で関大の先生に頼んでくれ」

「わかりました急いでかかりますので吉報をお待ちください」

白瀬が官邸を去ると井上はミリヤに連絡をした「井上だが例の話を進めたい、女王と会えるか」

「ホホホ大分困っているようね、いずれベニーから連絡が行きますからそれまで事を勧めなさいな。欲しいものがあれば聞くわよ」

井上はこの話し合いで宇宙船を借り受けアルフェ―基地の利用を許された。


日本の宇宙船

次の日の朝防衛隊の滑走路には二隻の全長二百メートル巨大な葉巻が並んだ。

一見飛行船に見え物珍しさから出勤してきた藤田は兵士が回りを取り巻いているのをかき分け近寄った。

「なによーこれ風船じゃないわー」

「藤田さん騒ぐなー」

藤田は声がする方を振り向くと警備隊の指揮官高木が立っていた。

「高木さんなんなのー?」

「俺が知る訳ない、司令官も知らないみたいで今官邸に連絡している」

スタスタ連絡兵が走って来て高木の前で敬礼「少佐ー司令官がお呼びです」

高木の後を藤田は呼ばれてもいないのにズーズーしくついて行き司令官室に入った。

「高木君ー表にある船は見たな総理が帝国から得た宇宙船だ、月に帝国の基地があるらしいから兵士を訓練に送ってくれ」

「司令官簡単に言われますがどうやって月まで行くのですか」

「俺もよくわからんが船に乗せてあるコンピューターに要望を伝えるといいそうだ、空軍に応援を頼むから運行は彼らに任せればいい」

白瀬は国防軍空軍に操縦チームの派遣を要請したが宇宙船だと伝えても相手にされない。

「大将どうでした」

「ダメだ信じてもらえんよー総理から貝原さんに頼んでもらおう」

午後に空軍から参謀の三田がやって来た。「司令官はいますか」

「こちらでお待ちです」衛兵は三田を宇宙船へ案内した、船に隊員が資材の積み込みに忙しい。

「空軍の三田ですが司令官はどちらにおりますか」

「ああーやっと来たかこっちだ」高木は三田を操縦室に案内したが唖然ー兵士が群がりスクリーンでゲームまがいに興じていた。

「お前たち何してるやめろー」

兵士の一人角田陸士が振り向くと言った。「少佐もやって御覧よ面白いぜ」

「グググこれはお前たちのおもちゃじゃないぞ」高木の顔は空軍参謀にみっともない姿を見られ怒りで真っ赤、三田も呆れていた。

「高木ー怒るなたまに気晴らしをさせてもいいだろー」

「大将―司令官が許可したのですか」

「ああーそうだ、少しでも異星の装置に慣れさせるには遊ぶのが一番だ」

白瀬の話を聞き兵士を見るとみな変わったヘルメットをかぶり目はギョロギョロしていた。

「司令官どういうことですか」

「高木君もそのヘルメットを被ってみたまえ」

高木は命じられたように被るとスクリーンと一体になった感覚ー思ったようにスクリーンの中の船が操れる」

「司令官これは何ですか」

「異星の技術だ、彼らは思考で戦艦を操縦している戦闘もだ。

ありとあらゆるものがこのヘルメットからの指令で動くこのヘルメットを自在に操る事が出来ればどのような操作も時間のロスなしに実行できるのは大きいぞ」

高木は白瀬の言う意味は理解できる、戦闘ではコンマ何秒が生死の分岐点だ。

「わかりました、司令官空軍からお客様です」

高木は三田を白瀬に引き渡すと兵士と一緒にいつの間にかゲームにはまり込んでいた。

三田は白瀬から要望を聞き電子技術研究所からエンジニアと操縦クルーを手配翌日には五チーム三十名が到着し直ちにエンジニアは船に搭載されている電子脳に国防軍のシステムを書き加え、クルーは学習から入りその日の午後には試験的に飛ばし一週間後には新たに結成された宇宙海兵団二千名を乗せアファー基地へ訓練に向かった。


立花教室―災害に挑戦

ポロンポロンー電話がなったー柴山が出る。「立花研究室よ誰ー」

「防衛隊の白瀬だ、立花はいるかな」

「先生防衛隊でーすなにかしら、白瀬さんという方でーす」

「あーわかったどれ」立花は狭い通路を通り電話に出た。

「なにですとー白瀬さんかかっていいのですね」

「立花ーアラビアが吹き飛んで政府は慌てたようだ、調査の依頼主はエニーと言う事にしてくれ」

立花はその日のうちに観測装置を取引のある精密機器製造会社に注文、数百台の機器の発注は十億円にもなる巨額な予算投下は立ちどころに全国の大学に知れ渡り東大物理学教室では主任教授の木村に助手の川野恵子が噛みついていた

「先生ー関東大学の明子が天下をとったみたいに政府の特命だって嘯くのよー悔しいじゃない」

「俺は知らんよ」

「ここを差し置いてなんでよ、総理は頭おかしくなったのかしら」

「川野さんそんなに気になるのなら聞いてくればいいよ」

川野はひょこひょこと関東大学の研究室に行くとあばら家がきれいな建物に建て替えられていた。「何よーいつの間に建て替えたのー」

玄関から入り廊下に出ると左に扉、なにかなーと開けて覗くと篠田が大きな物体の中に入るとこだった。「明子ーそれなんなのー」

声が聞こえたらしく出入口から篠田が顔を出した。

「恵子来たのー世界で一台しかない飛行深海艇よ」

「嘘よーとても深海艇には見えないわー」

「フーンあなたにはこれを理解する頭がないからよー」

学会でも角を突き合わせている二人の口論は際限なく続き様子を見に来た柴山はあきれて立花に報告すると立花は毎度のことかとつぶやき研究室の窓を開けて篠田を呼んだ「篠田さんもういいかな」

「あー先生ごめんなさい今戻ります」

篠田は大王二号から出ると川野にさよならもいわず研究室に戻ってしまい残された川野は暫く思案していたが開いている出入口から中に入りキョロキョロ「すごいわーなんなのこれ」

視界の良い大きな窓の下に装置やスクリーンが配置され飛行機の操縦室のようにみえたから写真に撮り東大に戻ると木村に報告。

「先生、明子が空飛ぶ深海艇って言ってましたわー関大はこんなものまで持っていてここにも欲しいわ」

木村は写真をじっと眺め嘘ではないと感じたのか文科省に尋ねた。

「関大の持っている飛行深海艇ですがいつ作られたのですか」

「先生ー何ですか飛べる深海艇など在りませんよハハハ」

文化省の係官から笑われた木村は確かめようと立花に電話した。

「木村先生ですか円盤の船はありますよー私たちの研究室に支援してくれた方が寄付してくれたのですわ、太平洋まで一時間で行かれるのですから大変重宝してますよハハハハ」

「もしよければ一度乗せてもらえませんか」

「そうですなー今は毎日使用していて定期整備に出す余裕もありませんからな、研究の目途が立った後ならお貸しできますよ」

「そういえば先生は政府からの特命を受けて研究されているのですな、どのような内容ですか」

「ハハハハお教えしたいが政府から口止めされているのでな」

電話を切り木村は重大な研究が進められていると感じてなぜ関大なのか知りたくなった。

「あいつに聞けばわかるか」木村は関大で海洋気象の研究をしている友人の相馬を呼び出した。

「木村さん話ってなんだ」

「相馬ー立花先生のことだ、政府からどんな研究を頼まれたか知っているか」

「ハーン東大でも興味があるのか、やめておけ深入りすると職を失うぞ」

「それはどういう意味だ」

「完全に政府からかん口令が出ているから総長すら近寄れないんだ」

「それでは君も知らないのか」

「ああー知らんがだいたい想像がつくよ、立花さんは太平洋の海溝で何か異変を見つけたみたいだ」

「君ー太平洋は広いぞ」

「大王二号があるだろー、あれなら一時間で太平洋を一周するって言ってたな」

「信じられない、そんな性能なのかどこから手に入れたんだ」

「ほほーん政府の秘密装備さ、国防軍の兵器研究所が開発したと噂があるぞ」

木村は防衛隊の司令官と立花の仲は知っている、小学生のころからの友人だからその手ずるで立花に特命が降りたのかー、木村はこのような理由で負けたのが悔しかった。


木村と庶民党

嫉妬心から不正を暴こうと知り合いの国会議員庶民党の山岸議員にチクッタが彼は浅はかだった、手柄を独占しようと裏付けを取らずに議会に持ち込んだ。「総理ー防衛隊と関東大学が極秘の活動をしている理由を知りたい、目的は何ですか」

「お答えします、質問の要旨が分りません具体的にお話ください」

「総理とぼけないで欲しい、関東大学にこのような飛行物体を提供しているのはわかっているのです」

山岸は空飛ぶ円盤の写真を振りかざして言った。

「ホーウそれは何かな、ホットケーキに見えるが」井上は写真を手に取って発言に場内は沸いたワーー

「もう一度聞きます彼らへの特命は何ですか、関東大学に二十億も支出する調査を国会で審査をせず発注するなど前代未聞私物化していると思われてもしかたありませんよ」

「お答えするがその前に議員は国会を私物化していると思われないのか、このような根も葉もないうわさで貴重な時間を浪費しているのはどうかな」

「根も葉もないとはどういうことですか」

「ハハハハ議員はその円盤が政府から関東大学に譲られたと言うが証拠はあるのかな」

井上の追及に山岸は顔を真っ赤にして睨みつけた。

「どうしました証拠を見せて欲しい」井上は厳しい眼差しで山岸を睨む。

「うっ、証拠ですか」山岸は息を飲み言葉に詰まった。

「議長ーこのような冗談にはいつまでも付き合ってられませんな、証拠があるのならこの場に提出させてほしい」井上は議長席に振り向き発言、これに対し各党の国会対策委員長が議長の前に集まった。

「庶民党に聞きます証拠はありますか、あるのなら提出願えますか」

「議長少しお待ちください」高田は議席に振り返り山岸を呼んだ。

「山岸君あるのだろー出したまえ」

「エッ委員長ー出さなければだめですか」

「当然だろー君が持ち出してきた案件だ」

高田の要求に山岸はもじもじ、今考えれば木村教授の話だけで裏付けはなにもなかった。

国会の取材に来ていた東日放送の釜戸記者は編集部に連絡を入れた。

「デスク関東大学に円盤があるか調べに行かせてください」

たまたま編集部に戻り記事を仕上げていたのは新井田一人だけ。

「君ー聞いていたな行ってくれ」

「えーあたしがですか」 

「そうだ君しかいないだろー」

「げーわかりました行きますよ」

新井田は渋々遣り掛けの原稿をしまうと関東大学まで二時間かけひと走り、大学に着くとすでに多くの社から記者が押しかけていた。

事務棟の集会室に集められた記者たちの前に立花教室の南助教授がのったりと現れ話し始めた。

「みなさんわたしは南ー助教授をしているが今日は教授が留守のためわたしがお相手する用件は何かな」

「先生円盤です、あるのですか」

「ふーんそんな事誰に聞きましたか、学生のサークル活動で作ったものだが倉庫の中にありますよ」

「見せてもらえませんか」

「あんなもの見てどうするのかな?」南は首をかしげながら記者たちを倉庫にのなかにある棚に案内した。

「これですが見ますか」南は両手でガシッと掴むとゆっくり降ろして記者たちの前に置いた。

新井田は写真と見比べ確かに間違いはないが模型だ。「先生ーこれなの?」

「そうだがーどうかしましたか」

「人が乗れるものではないのですか」

「皆さん何を期待したのかなー、これば学生たちが地球の磁気力で円盤を飛ばせるか研究して作ったものですよ、まだ人を乗せるまではいきませんな」

新井田はプリプリ怒りながら社に戻ると編集長にかみついた。

「編集長―あんなもの見るためにあたしを何時間もかかる田舎の大学までいかせたのーもう頭来る、残業代貰うわよ」

「まて新井田何を怒っているんだ円盤はあったのだろー」

「ええーこれくらいのがありましたわ」

新井田は床に円を描いてみせると編集長の鎌田は頭を捻った。

「これくらいなのか、なんだったー?」

「ふーん学生が遊ぶために作った円盤の模型よー、あんなもの写真に撮って本物らしく国会で言うなんてどんな頭しているのかしら」

夜のニュースは円盤の模型で盛り上がり、国会では議事が停止して休会。

釜戸は大学の様子を聞きあきれた。「庶民党は学生の作っていたおもちゃを見て喚いていたのか、こんなもの二十万くらいでできるぜ」

山岸は顔を真っ赤にして震えていた。


翌日の国会本会議で山岸は欠席し東大の木村研究室にいた。

「木村さん政府は知らないと言っていますどういうことですか」

「それは俺の方が聞きたいな、何にも調査せず証拠を持たずに国会にかけるから模型を見せられても何も言えないのだろー、呆れるな」

「先生それはないだろーあなたが確実だというから持ち出したのだよ」

「山岸さん、円盤は関大の倉庫にありますから張り込みをして飛んでいる場面などビデオで撮られたらどうですか、一つ暴けば国権調査ができるでしょう」

国会では庶民党党首の高田が代わって質問に立っていた。

「総理にお聞きします、山岸議員は官邸費に使途不明金が見られると追及したかったがすり替えた模型を見せられたと言っております、本物がどこにあるのか教えて欲しい」

「どうやら昨日の醜態を隠すための質問ですか、官邸費は総理職に認められた秘密費ですぞ、国会といえども三権分立を崩す質問には答えられませんな」

「ググググ答えられないと言われるのですか、あなたはアメリカさえも保有していない強力な戦力を整えつつあるのを掴んでいるのですぞ、その費用に官邸費が当てられているのではありませんか」

高田の質問を聞いて井上はわからなかった「この男は何を言っているのだ」

研究者たちは井上の答弁を聞き逃さないよう見つめていたが異例の答弁にあっけにとられた。

「質問の意味が分かりかねます、どういうことなのか詳しく教えて欲しい」

「総理とぼけないで欲しいー総理はアメリカさえも持っていない深海に潜れる超大型の潜水艦を極秘に開発し建造しましたな」

議場では全員唖然、テレビカメラは井上をクローズアップするが余裕のしぐさ

「防衛省遠藤大臣」遠藤が手を上げ発言を求めたのを議長は認めた。

「はいお答えします、防衛省としてそのような深海に潜れる潜水艦を建造する技術は持っていません、アメリカも持たない技術を必要とする潜水艦をなぜ我々が建造したと思われたのか疑問に思います」

「ここに関東大学の深海艇大王の事故報告書があります、六千メートルの深海底で事故を起こし直後に潜水艦に救出されている、通常では考えられない深さでの救助活動です誰に助けられたのですか」

「それは関東大学で聞けばよいではないのか」井上はとぼけて動じない、続いて文部科学省から秋山大臣が手を挙げた。

「文部科学省秋山大臣」

「はい、文科省として大王の事故は報告を受けましたが人的被害がないわけですから一般的な破損事故として処理し深海事故の事実確認はしておりません」

「深海での事故はなかったと言われるのですか」

「まーあーあなたが言われる深さでの事故ではなかったと判断しております」

「深いか浅いかここで議論しても決着はつかんだろー各党の党首の方たちだけで会談をしたいがどうかな」井上は話し合いで解決しようと提案した。

井上提案に質問者高田議員の顔は真っ赤、会場内は議場はがやがや罵声にあふれたが井上の決断は揺るがず次の日の午後緊急会議が行われ会議室にマスコミと各党の代表が集まり井上は説明を始めた。

「皆さんいいかな関東大学への特命だがそのような事実はない、手元に配った決算書類を見てもらえればわかる通り一円も支出していない」

「総理それではその話はどこから出たのだ」社会党の山本委員長は尋ねた。

「それは庶民党に聞くべきだな」

「山岸君が持ってきた話しだがニュースソースは口を閉ざしている」

「庶民党では出所が不明な事案を持ち出して煽っていたように思えるが何か意図があるのかな」

「グググわが党がねつ造したと言うのか」

「フフフ出所不明ならそう思われても仕方ありませんな」

テレビカメラは庶民党の高田党首をクローズアップ、視聴者は庶民党のねつ造を疑った。

「違うのなら出所を明かすか質問を取り下げるかどちらにしますか」井上は質問の背景に植民計画が漏れているのではと危惧していたが高田は決定打を持たないため答弁にあぐねた。

「庶民党は事実無根を取り上げ国会を混乱させた、政府として懲罰委員会に審理を付託したい」井上の懲罰動議に高田は顔を紅潮させ井上を睨みつけるが取り下げを承諾し井上は庶民党への制裁をみおくると宣言した。

「高田さんこれは温情のある決定だ、二度とこのような事をされると懲罰動議を出しますからな」

その日夜のニュースは庶民党のねつ造疑惑で花が咲き、党首の高田は幹部会を開くと山岸議員を呼んだ。

「山岸君、どのような根拠であのような質問をしたのか」

「したのかと言われても俺は政府と関東大学の癒着を追及しただけです」

「癒着とは二十億円の支出をでっちあげてか、それとも証拠はあるのか」

「それはーーー」山岸は木村教授の口車に乗せられた事を悔やんでいた。

「委員長時間が欲しい、必ず証拠を見つけるから」

「山岸君ーこの件は終わりだ従えないのなら党をでて行くのだな、記者会見を開いて事情を説明したまえ」山岸の釈明会見はテレビで放送され次の選挙に赤信号がともった。


エミリー対井上

国会が空振りに終わり失点を取り戻すため山岸は以前から親交のあるアメリカ大使のエミリーに知っていることを知らせた。

「山岸ー先日は国会で追及していたけどそれは本当なの」

「本当ですよ、確かに日本政府は関東大学に空飛ぶ円盤を渡して極秘の研究を委託してるんです」山岸は円盤の写真をエミリーに渡した。

「それも大王が海底に埋まる事故の前からです、偶然通りかかった潜水艦に助けられたと言ってましたがあり得ない、巨大な潜水艦は日本がひそかに建造した大王の母艦と考えるのが自然です。そのような船を建造してまで調査をしているのは重大な異変が海に起きているからです」

山岸の話を聞いてエミリーは調べてみようと考え官邸に出向いた。「総理はいませんかー」

「大使何用ですか」

「総理に用があるの、いるんでしょ」

この時井上は立花の研究室から送られてきた観測データーを独自に調べていたがいやに外が騒がしい、

「島田君どうかしましたか」

「はいエミリー大使が話があるとものすごい勢いではい」

「よろしい会いましょうか」井上は資料を金庫にしまい応接室へ入った。

「大使どうかしましたか」

「総理閣下大王の事ですわ、何が有ったのか詳しい事を聞かせてくれませんか」

「ほーう大王とは誰の事ですかな」

「とぼけないで教えてくれませんか」

エミリーは睨みつけていたが井上はどこ吹く風、煙草を一服すると用事があると部屋を出て行ったあと残されたエミリーは大使館に戻ると情報員のウォリア書記官が待っていた。

「大使大王ですが情報通りです、推進器が壊れ船体は凸凹でした」

「ふーんやはり事故していたのね」

「噂通り小笠原海溝に沈んだのならどうやってあんな深い場所から助けられますか、俺はあり得ないと思います」

「フーンあなたは事故を疑っているのね」

「はい、わが国でも深海に潜れる潜水艦を建造できませんのに日本がつくれるなんてありえない、夢物語です」

「そうよね、あたしそれが引っ掛かっているの、事実かどうか関東大学のメンバーをあたってよ、あたしは防衛隊を調べるから」

ウォリアは関東大学を監視して三日目研究室に使っている倉庫から低く重い音が腹に響き、研究室に隣接する格納庫のシャッターが開いて巨大な円盤が姿を現した。

学生たちがうらやましそうに集まり格納庫の中の大王を眺めていると研究員四人が部屋から出て来た。「みんな忘れ物はないよな」

「今井先生大丈夫だよ、今日はフィリピン海溝だよね」ガヤガヤ話しながら大王二号の搭乗口に着いた。

「川野君早く開けなさいよ」篠田が催促する。

「えーとキーは何番でしたっけー」

「どいてあたいが開ける」篠田は学生の川野を押しのけピポパー扉が開いた。

物陰から見ていると立花がのっそりと現れ研究員たちに注意を与えた。

「君たち現場は動きが激しくなっているから気を付けるんだぞ」

「先生わかってまーす」

搭乗口が締まり無音でゆったりと浮上する、一メートルくらい浮き上がると浮遊しながら格納庫から出て来たがジェットの噴出やプロペラがない。

「どうやって浮いているんだ」

ウォリアの目の前から忽然と消えた、発進と同時に透明化スクリーンが自動的に張られたのだ。

立花は見送ると倉庫の中に戻って行き、ウォリアは慌てて円盤のあった場所をキョロキョロ何もない、エミリーに撮って来たビデオを見せながら報告した。

「山岸の言っていたUFOねー本当にあったのね」

「はい大使とても大きな円盤であれはまさしくUFOに間違いありません」ウォリアは手足を使いジェスチャー交じりで説明した。

「UFOをなぜ持っているのかしら、大学の関係者から情報を集めてきて」

エミリーはウォリアに指示を与えると防衛隊司令部にやってきた。

「司令官ーエミリーですわ、大王の事故の事を教えて欲しいわ」

「大王の事故とはなにかな俺は知らんぞ」

「隠さないでよUFOも実在するのを確認しましたのよー何がありましたの」

「ほーう知りたければ関東大学に聞けばいいだろー」

エミリーは睨みつけるが白瀬は動じない、仕方なく帰ろうと科学捜査部の部屋の前まで来るとヒステリックな声が聞こえたー「キーーあたいを置いて行くって言うのー許さないわよ/」

「藤田さん司令官が女性は危険だからと言うんだ」

「なによー差別だわセクハラよー、太陽系から二百光年も離れた惑星に行くのよー地球人でそんな遠くまで行くのは初めてなんだからあたいには行く権利があるのよ、それに誰が細菌を調べるのよー司令官に文句を言ってくるわよ」

藤田はプリプリ司令官室に行こうと部屋から出たら目の前にエミリーがいた。「あんたーどきなさいよ」

「アメリカ大使のエミリーよ、他の惑星って何のこと」

「へぇーあんたがズーズーしいと評判の大使ね、何かの聞き間違いじゃない」

「ごまかさないでよ、今聞いたのよ」

「そんな事知らないわよー営倉に入りたくなければどきなさいよ」

「なんですってー大使を捕まえると言うの」

「へ―ン、あんたを豚箱に放り込んでどうしようが誰にも知られないわ」

「なんて高慢ちきな女ね、教えてくれれば退くわよ」

廊下で女同士の喧嘩が始まり宮城はやれやれ傍観を決め込んだ。

エミリーは三十分間口撃を繰り返したが自意識の高い藤田を崩す事はできず大使館に戻り集めた情報を整理すると地球科学を超える科学技術が見えて来た。

「防衛隊は太陽系の外に行こうとしているわ、そんな事あり得ない間違いよ」


アメリカ大統領クラーク動き出す。

二千一年五月エミリーは日本で起きている大王の事故と巨大な潜水艦の出現そしてあり得ないUFOの存在を大統領のクラークに報告した。

「エミリー君は日本が宇宙の社会と関係を持っているというのか」

「分からないわ、だけど円盤や宇宙船は日本で開発するのは技術的に不可能よー高度の文明を持っている社会から手に入れたのよ、それを利用して太陽系から二百光年も離れた惑星に行こうとしているわ」

「分かったエミリー俺のほうから専門の部隊に捜査させるから」

電話を切るとクラークはデービスを呼んだ。

「大統領こんな朝早くから何かありましたか」

「デービス君、急ぎで悪いが日本がなにか不穏な動きをしているらしい、突き止めてくれないか、資料はこれだ」クラークはエミリーから聞いたことを書き留めたメモを渡した。

「デービスはぺらぺらとめくりクラークを睨んだ。「大統領これは事実なのですか、もし事実ならエミリーはまだ若い娘なのによく調べたものですな」

「俺もそう思うよ、奇想天外な報告でエミリーの間違いならそれでいいが事実ならこれらの正体を調べなければならん、デービス相手は防衛隊だ事実なら彼らは必至に秘密を守るぞ、命をかけて取り組んでもらわないとならんができますか」

「大統領わかりました、戦争そのものですな」

「そうだ、日本人は七十年前と変わっていない、国を守るためなら平気で命を懸ける民族だからな」

デービスはその日のうちにエイワード少佐のチーム五人とともに日本に乗り込むため韓国経由で九州に上陸し大使館に入るとエミリーと打ち合わせ。

チームの五人は防衛隊の司令部が覗ける隣接するビルの部屋をアジトに張り込み白瀬と藤田をマークした。


初めての宇宙

宮城がリーダーに科学調査部のメンバーに高木の警備隊が同行して総勢二十八名が基地滑走路に集まり輸送船の到着を待っていた。

「もう来るよね」藤田は時計を見ながらウキウキ。

「ああー藤田は司令官をやり込めたそうだな、桑田の野郎が君が怖いって逃げなければ来る頃だ」

「何ですってーあたいが何したっていうのよフーン」

「ほれ来たぞー」宮城は東の空を指し叫んだ。キラッとひかりぐんぐん大きくなり五分後巨大なシリンダー脚を伸ばして輸送船は彼らの前に降り船体は遥か上、隊員は見上げてうろうろ。

「どうやって乗るのよー?」藤田は呆れて叫んだ。

船体の底が開きエネルギー方式の重力エレベーターが光りを放し降りてくる、隊員は自分の荷物をエレベーターに積み込んでいたが藤田は一抱えもありそうな壺を指し喚いた。「こんなもの何をもっていくのよー」

警備隊の分隊長ー島田兵曹はにやにやしながら言った。「沢庵だー梅干しもあるから食いたければやるぞ」

「あんた遠足じゃないのよー、わかっているの―」

藤田が他人の荷物にケチをつけていた時隊員達は構わず自分の荷物を運び込んでいたから藤田の荷物だけが取り残されエレベーターは上に上がってしまった

「あたいの荷物よーどうにかしてよー」

「藤田―格納庫に入れとけ、広いからいくらでも入るぞ」宮城が嘯く。

藤田は格納庫まで百メートルはあるー眺めてゾ~とした。

「どうやって運ぶのよー」

「木村ー手を貸してやれ」

指名された木村兵曹ぶつぶつ言いながら台車を転がし藤田の前に。

「少尉これ持ってきたから使えばー今は部屋の取り合いの最中で俺は忙しいんだ」この時船内ではすごろくで部屋を決めていた。

アジトから宮城達をうかがっていたエイワード少佐の部下エリントとガートは目の前に降りてきた巨大な船に茫然、五百メートルは離れていたのにビルが目の前に建ったようだ、船体には大きく日の丸が描かれていた。

「こんな大きなものが飛んで来たなんて何トンくらいあるんだーー」

「ガート、大型のフリゲート艦くらいだ二万トンかなー」エリントは考え意見を言う。

「こんなものが空を飛んできたなんて信じられないぜ」

「間違いない日本は宇宙人と手を結んでいるぜ」

二人が見ている前で船は音を立てずに浮き上がり飛び立っていくのを見送りアジトに戻った。

「少佐ー科学調査部のメンバーが船で出発しました、行先は不明で白瀬を拉致して吐かせますか」

「その前に具体的な確証が欲しい、日本は何をしようとしているのかだ」

「隊長関東大学のグループをあたれは聞けるのではありませんか」

マッシ―とカーブスは立花教室のメンバーが通う小料理店に張り込み来るのを待ったが二日目に島野がやって来たのを見て店に入り話を盗み聞きした。「マッシ―聞いたか」

「ああーあの先生店主に店をたたんで逃げる支度をしろって言ってたな」島野が店を出ると二人は跡をつけ背後から襲い掛かったドカッードテッー。

「誰だー俺は金なんか持ってないぞ」

「先生よ―静かにしてくれれば何もしないからな」マッシは島野の腕を背後から押さえつけ手錠を掛けた。

ドカッー、うあーマッシ―とカーブスはいきなり鉄腕に弾き飛ばされ、島野はよろけるがロボット兵士の腕に抱きかかえられた。

「あんたは帝国のー」島野は潜水艦の中でロボットを見ていた。

「そうだ、君たちは我々がガードしている」ロボット兵士はそれを言うと倒れている二人を担ぎ飛び去り、エドワードは部下二人を失った。


加納美幸と白瀬

二千一年五月の末、海底の調査とギニアの調査ともに出来ることはした白瀬は久しぶり自宅の庭でビールを飲みながら幸子が庭いじりしているのを眺めていた。

「あなたー暇があるのなら草を抜いてくださいな、もう秋っだというのにやけに伸びるのが早いのよね」

幸子が文句を言っていた時娘の智子が友達のみどりとそのお母さんと一緒に帰って来るのが見えた、まさかあの女性宇宙帝国の人間かー白瀬は赤毛で丸い目は写真で見たサーシアの特徴によく似ていると感じた

「あなたーどうしたの」幸子は白瀬の目線を手繰り智子に気づいた。

「智子だわーあれは加納さんよねーうちの人加納さんに見とれているの―」

「あなたー誰を見てるの加納さんに気があるのー」幸子は突然切れた。

「おいなんだよー関係ないよ」

「嘘よ見とれていたわ、あたしの眼はごまかせないのよ」

「ただいま―お母さん何で怒っているの」智子は友達と別れ庭から帰ってきた。

「智子ーお父さんはみどりちゃんのお母さんに色目を使ったのよ」

「へぇーお父さん白状したほうがいいよ、みどりのお母さんは男の子に人気なんだーしかたないから謝ったほうがいいわよ」

「智子ー俺は無実だ幸子あの人が加納なのか」

「そうよーエニー会長だけどあなたいい加減にしなさいよー」

「俺は悪くない関係ないんだ」

「ならなぜ聞くのよーおかしくないー?」

白瀬は携帯を取り出すと白石を呼んだ。

「司令官なにかしら」

「白石さんーエニーの加納だ知ってるか、俺の感だが加納は異星から来ているのか調べてくれ」

「あなたー捜査なの加納さんが何かしたの」

「まだわからないから黙っていてくれ」


出しゃばり智子

お父さんはみどりのおかあさんを調べているのはなぜかな、智子は急いで隣町にある緑の屋敷に行き探った。ーみどりいるかなー

門の前を行ったり来たりしてると扉が開いた。

「智子―何かようなの」

「あなたのお母さん何か悪い事したの、お父さんが調べているみたいよ」

「ふーんお母さまもあんたのおやじさんをどうしようかサーシアおば様と話していたわ」

「なぜなのあなた理由知っているのー?」

「だいたいは知っているわよ、総理を誘ったけど諦めたみたいだからおやじさんに的を変えたみたい」

「どういうことよー詳しく教えて」

「うん教えてもいいけどあなた聞いたら自殺しないよねー」

「ばか言わないで教えてよ」

「地球が燃えるのよ、だからお母さまは日本人を手に入れるチャンスだと喜んでいるわ、お母さまに従う人たちだけを他の星に移住させようと計画してるの、だからこのことは黙っていてね、お母さまの足を引っ張ったらあたい怒られるから」

「あなたのお母さんって誰なのよー他に星があるなんて信じられないわ」

「本当よーお母さまは偉いんだからね、教えてあげるからあたいのボートで出駆けるわよ」

「ボートってなによーどこによ」

「お母さまの基地が月にあるのよ、そこまで十分くらいで行けるから」

みどりの後をついて裏庭に回ると直径五メートルくらいの円盤があった。

「これよー乗んなよ」

みどりについて智子が円盤の中に入ると結構広い、操縦席の後ろにソファーとテーブルがあった。

「座ってよ出発するからね」みどりはソファーに座って智子にも座れと言う。

「あなたー誰が操縦するの」

「いるわよ心配しないでーメリーお願い」

みどりの声に反応しどこからか女性の声がこえてきた。「姫ー行きますわよ」

円盤は音も振動もなく浮き上がりあっという間に大気圏の外へ、智子は目を丸くして驚いた。

「みどりー地球の外に来たわよ、これは映画なの」

「あははは本当の事よ、すぐに基地に着くからわかるわ」

円盤はあっという間に月の裏側に回り地下に潜った。

「着いたわよ、降りようよ」みどりにつづいて乗船口から外に出ると軍人が待っていた。

「姫何の用かな」

「こんにちはーメルガ―少佐、遊びに来たのよお母さまはいるかなー」

「ハハハハベニーは火星の皇后さまのところに行ってますよ」

「そうー残念ね」

「姫はまだ国にお帰りにならないのですか」

「面白くなってきたのよ当分帰らないわ」


智子は夕方住まいに戻りジーと母の幸子の顔を見て想った。おかあさん地球はもう住めないのよ、あたしたちはみどりが他の星に連れて行くって言ってくれたけど残される人はどうなるのー?

「どうしたの智子あたしの顔に何かついてるの」

「ううん違うわ、お父さんよー」お父さんはこのことを知っているのよね、なんで平然としていられるの

「お父さんがどうしたのー」

「みどりのお母さんは誰だか知らないの、だからいじめないほうがいいわよ」

「美幸はあたしのお友達よ、智子からもよく教えときなさいよ」

「お母さん―違うのソラリス王国の女王様なのよ、だからお父さんに頼みたいことがあるんですって」

「なによー変な事言わないで、どこの女王なのよ」

「あたしみどりに聞いたの基地にも連れて行ってもらったわ」

「どういう事はっきり言いなさいよ」

智子は月に行って見て聞いたことを幸子に話した。

「それ本当の事なの」

「本当よあたしお母さんをだましてももうからないわ、それでみどりのおかあさんがお父さんを家来にして脱出の指揮を取らせようと動いているんだってーだからおばさんと話をしていてもお父さんをいじめないほうがいいわよ」

「本当なら大変だわー明日さっそく聞きに行ってくるわ」


加納の正体

健一が翌日司令部に出勤すると白石が報告を持ってきた。「司令官加納美幸ですが民族別検査で間違いありませんわ帝国の人間です、資産を調べましたがすごいです日本の国家予算を軽くオーバーですわ」

「そうかあの女は日本の経済を牛耳っていたのか」

「司令官どうしました」

「すまん、どうやら帝国は日本にかなり食い込んでいるみたいだ、総理と話をしてくる」白瀬はそれだけ言うと官邸に急いだ。

井上は不満顔して応接室に現れた「司令官何かな」

「エニーの会長ですが帝国の人間に間違いありませんな、資産状況からかなりの大物に見えます」

「白瀬さん今まで知らせていなかったが加納はある宇宙帝国の女王だ、俺は加納が君を司令官に推したとき高島君に調べさせて知った、加納は君の奥方をこの計画に引き込むぞ」

「総理ー幸子を加納はどうしようと考えているのですか」

「君は奥さんの素性を知っているか二人は生まれた時から一緒に育ったんだ、この計画の責任者にするのに相応しいと思わんかね」

話を聞き白瀬は井上を侮っていたと知った、あと何を知っているのだ。

井上と白瀬のやり取りは虫ロボのタラに知られた。

「タラーそんな事を相談してましたの」ミリヤが報告を受けた。

「はははは俺様の耳はいいのだ、井上はソラリスの女王陛下に的を絞ったぞ」

「分かりましたわ、早速お知らせしますから」ミリヤはスクリーンを閉じると携帯でベニーを呼んだ。

ツーツーツー「誰ですか急がしいのよ」

「ベニー厄介ごとよー井上が探しているわよ、それからアメリカのスパイが動いているわ」

「わたくしをですか、何のためにですか」

「帝国のことが知りたいのよ」

「ふーんしかたがありませんわ、教えて差し上げますか」

「ベニー何を考えてますの」

「ほほほほ大したことではありませんわーリリカが余計な事をぺちゃくちゃ喋ったのよ、だから間もなく幸子が来ますから手なずける機会ですわ」

「まあーやはり幸子を利用するの井上の洞察通りだわあきれたー」


幸子地球の災害を知る

幸子はさっそく新宿にあるエニーの本部ビルにやって来た、何度も遊びに来ているから受付で声をかけるだけで七十階に上がる。

「美幸さんはいるかしら」ズーズーしく会長室と書かれたドアをノック返事があったから幸子が入るとベニーはデスクにいた。「幸子なんのようなの」

「智子から聞いたわよ、あんたどこかの女王だと今まであたしに隠していたのねーなぜなのよ。地球が燃えるって智子が言ってたわよどういうことなの」幸子の疳高い声が廊下に響いた。

「幸子落ち着いて座ってお話ししませんか、わたくしが女王だとは違いますわ、結婚した相手が王様だから王妃と言うのが正しいわ。地球が丸焼けなるのは核実験の影響よ自業自得よ誰にも止められないわー、わたくし同胞を助けようと政府に植民用の惑星と宇宙船を提供しましたわ、だけど一向に進みませんのこのまま彼らに任せていたら間に合わないのにわたくしは地球にある資産と市民を避難させているからあなたたちに構っている暇がありませんの」

「ふーんだとしたらどうするつもりなの」

「日本人を助けたいのならあなたがやればいいわー?お話が信じられなければ防衛隊に行って聞かれれば納得しますわ」

「わかったわー聞いてくる、返事はそのあとでいいわね」

幸子は他の人なら馬鹿らしいと相手にしない話でも友人の頼みは受け入れる性格とベニーは知っていた。

幸子はマイカーの青い軽自動車でエニービルから防衛隊司令部にやってきた、正門の前で止まり甲高い声を張り上げる「白瀬よー司令官はいるわね」

「司令官と同じお名前ですか」正門の受付係の兵士は尋ねた。

「そうよー夫ですもの」

「失礼しましたどうぞ」兵士は門扉を開け幸子を通した。

「司令部の建物はどれかしら」幸子は広場に車を止め辺りを見まわし歩哨の立っている建物を見つけた。

「あそこだわー司令官の部屋はどこかしら」歩哨に聞こえるよう叫んだ。

「はっーこの三階です」玄関前に立っていた歩哨は答えた、すでに幸子の情報を受けていたのだろう。

幸子は建物の中に入り部屋の前を通ると声が聞こえた「高木ーギニアはどうなってる」

「言われても俺は答えられんよ、予算がつかないんだ動けないよ」

「総理は何してる一億の国民をギニアに植民させなければならんのにあと十年しか残されてないのだぞ」

「宮城―そうなったら船をかっばらって俺たちだけでギニアに逃げるしかないだろー」

「なにーこのことね」

ガラ―ッ扉を思い切り開けて叫んだ「高木さん地球は何が起きているの」

「奥様来られたのですか」

「そうよ一向に進まないからと加納さんに散々文句を言われてまいりましたのよ」

「加納ってエニーの加納美幸ですか知り合いなのですか」

「そうよー子供のころからの友達よ、惑星とか宇宙船とか言ってましたけどなんでできないの」

「奥様はいろいろとご存じのようだ、地球が太陽に変わり始めたのですそれで加納美幸から日本は避難の惑星と宇宙船をもらいましたがー」

「やはり本当なのね、それでなんでもめてるのサッサっと避難しなさいよ」

幸子は部屋のなかで喚き散らし廊下は人の山、施設の雑役をしている草間は幸子の話に引かれ観察していた、「惑星とか宇宙船とか言っているが何のことだ、少佐は女に言いまくられているぞ」

白瀬も様子を見に来て幸子がいた「幸子ー来ていたのか」

「来てたのかではありませんわ、美幸さんはあなたたちがだらしないからしびれを切らせてあたしに指揮を採れと押し付けましたのよ、美幸さんはソラリス王国の女王であたしは女王の代理なの、日本の政府なんか村議会よさっさっと始めるのに何が問題なの」

「幸子―政府から命令が出ないんだ、始めたくともできないんだ」

「命令ですってーそんなものあたしがだしますから始めなさい拒否するなら船も惑星も返しなさいよ」

「幸子ー返してどうするんだ」

「これからはあたしが指揮をとって避難させますわ、どっちみち政府は消える運命なのだから口出しさせませんわ」幸子はベニーの実力の一割も理解していなかったが勢いからべらべらしゃべり続け白瀬達はポカーン。

「分かったが資金はどうする」

「あなた惑星一つあるのよ資源は未曽有ですわー美幸さんから借りて後で返せばいいのよ、さしあたりいくら必要なの、そうー一億もあればいいのね」

幸子は予算を聞くと急いで新宿へ向かったが残された健一は井上の指摘を思い出した。「加納は幸子に指揮を取らせるため俺を司令官に付けたのか」

草間は自分の詰め所に戻りイリヤへ情報を流した。ロシア大使の秘書イリヤは父親が長く日本駐在大使を務めていたから日本に友人は多く草間もその一人。

イリヤは地球の異変を知り驚いたが大使に報告する前に事実か探ろうと官邸に出かけた。


幸子は王国の侯爵様

防衛隊司令部を出た幸子はとことこ新宿にあるエニーの本部ビルに再びやって来た、エレベーターで七十階に上がり絨毯敷の廊下をてくてくと長い距離を歩いて突き当りの会長室と書かれたドアを入る、待っていたベニーはソファーを勧めた。「幸子どうでした」

「引き受けるからお金貸して」

「へぇー借金ですかいくらくらい」

「とりあえず一兆円、女王ならそのくらいあるでしょ」

「へぇー大したものね、そんなに借りて返せるかしら」

「大丈夫よ百年かければ返せるわよ貸すの貸さないの」

「分かったわ、それでは幸子はいまからソラリス王国の侯爵よいいわね」

「なんなの侯爵って?」

「宇宙帝国の貴族よ、一兆円も貸しますのよ貴族という鎖に結んでおかなければ怖いわほほほほ。

貴族になればわたくしの家臣よ、星は王の所有物だから一般人は所有できず貴族が王から預かって統治するのー幸子はギニア星系の女王よ、星系から採れるものは自由に処分していいわー」

「あなたは艦隊を持っていないから月の基地に配備してある艦隊を使えばいいわー紹介するからついてきなさいなー必要な時は司令官に頼めば便宜してくれるわよ」幸子は加納から侯爵の証である顕彰を受け取り月にあるアルファ基地を訪問した、屋上から飛び立ち十五分ー月の地下にあるアルファー基地に降り立つと幸子は目を丸くし聞いた。

「あんたこんなとこに基地を持っていたなんて今まで言わなかったわよね、智子が聞いて来るまではとぼけていたの」

「ホホホホ幸子をこの計画に引き込む予定はなかったのよ、あくまで白瀬を釣る鴨だわ」

「あたしが鴨ですってー、亭主を釣り上げて何させるのよ」

「ホホホホ決まってますわ防衛隊を働かせるのよ、着きましたわここよ」ベニーは司令官室と書かれたドアを開けて入る。

「これは陛下何用ですか」

「マクリガ―司令官ーギニア作戦を任せた幸子を連れて来ましたわ力を貸してあげてくださいね」

「陛下俺に任せてくれ」

幸子はマクリガ―から基地に保管してある侯爵としての品位を保つ品々を譲り受け自宅に持ってきた。

広くない居間に衣装や宝石のついた飾り物を広げため息をついている時智子が学校から帰って来たー

「ただいまー」玄関から居間に入ると惨状に唖然ダイヤやエメラルドなど宝石が部屋いっぱいにひろがっていた。

「お母さんこれどうしたの、地球がダメだと知ってやってしまったのー謝りに行こうよ」

「あんたー何言ってるのよー、美幸から渡されたの」幸子は月で起きたことを話し智子は口をパクパク。

「ねーもしかしてお母さんが女王になるのならあたしは王女様よねー」

「そうよーあんたのような跳ねっ返りがドレス着てチャラチャラしてるのって考えられないわ」

「なによーあたしはレディーよ、夢みたい」智子は宝石箱に詰まっている髪飾りの一つを取り出し頭に乗せ叫んだ「信じられないわー智子姫かー」

あっという間に日が暮れて健一が帰って来た「ただいまー」

智子がドレスを着て踊るような歩き方で出てきた、シャラシャラ。

「何だーお前」あっけにとられ智子を眺める健一。

「お父さんお帰りーこれ似あうかな」

「どうでもいいけどどうしたんだ」

「お母さんは侯爵様なんだってお父さん知っていたー?ギニアはねーお母さんの領地なのよ」

健一は智子の一言で井上の言ったことを思い起こしたー君は奥さんの出生の秘密を知っているのかー

「幸子は王国の貴族の生まれだったのか」


幸子の官邸訪問

翌日ー幸子は王国からもらった薄いグリーンのワンピースにダイヤのネックレス、結い上げた髪にもダイヤの髪飾りを乗せたキラキラスタイルでソラリス製の動く応接室六輪装甲車に乗り官邸の玄関前に入って来た。

エニービルの駐車場に止めていたが指定した時間に自宅まで電子脳が迎えに来て官邸に乗って来たのだ。

玄関前のロータリーを回り車止めに止まった時、ナンバーがないー警備の警官は驚いてみていたが隊長は部下を呼び玄関に向かった。

衛視の鈴木は玄関の前で見たことのない車に眼が釘付け、「あれはどこの誰が乗ってきたのかな」

鈴木が興味深く見てると車体中央部の扉が左右に開きルーフも大きく跳ね上がって幸子はソファーから立つー悠々と降りた後を大きく開いた開口から車の中を覗けたが豪華なキャビンに鈴木の眼は真ん丸。

幸子は誰もいない車内に話しかけた「サラー駐車場に入って待っていなさいな」

「ゲー誰に言ってるんだ」鈴木は幸子の指示を聞き頭を傾げていると不思議ー車は走り出し官邸前のローターリーを回るが警官たちは運転席に誰もいないと気づいて茫然。

車がガレージに入るのを幸子は見届けると踵を返して玄関に向かうが駆けてきた警官たちが取り囲んだ。

「何ですかどきなさい」

「失礼ー車の事でお尋ねしたいのですが」

「なに事ですかわたくし忙しいのでそのような事にかまっておられませんのよどきなさい」

侯爵になり切った幸子は構わず目の前にいる警官を押し除け鈴木に命じた。

「あなたドアを開けなさい」

「はっはい」ポカーンとしていた鈴木は気づいて扉を開けると幸子はそそくさとホールに入るが警官たちもあとから走りこみ叫んだ「まてー女ー」

「しつこいわねーいい加減にしなさい」

幸子は追ってきた警官の腕を取り後から来た警官の列に投げ飛ばした。

ドターンバターン警官たちは倒れ狭い通路に山になり、騒動に気づいた島田が駆け寄って警官を助け起こす。「どうしたのですか」

「グググ補佐官女はどこにー」

「何なのまだ懲りずにわたくしに用がありますの」

島田は幸子を睨み尋ねた「あなたはどちら様ですか」

「ソラリスから参りました、この無礼な警官たちを追い出しなさい」幸子は甲高い声を張り上げ叫ぶ。

ゲっ宇宙帝国からかまずい「失礼しました、ただいま呼びますので応接室でお待ちください」

島田は警官をその場に置き捨てると幸子を応接室に案内し慌てて総理の執務室に飛び込んだ。

「総理来ました、帝国から来ました」

「島田君外がずいぶん外が騒がしいようだな」

「総理帝国からきた女が警官たちを投げ飛ばしまして大変でした」

ホールにいたロシア大使の秘書イリヤはソラリスと言う言葉に反応した。

「草間の言っていた言葉よあの女がそうなのね」イリヤは幸子を観察し草間が報告した女だと確信した。

ソファーで雑誌を見ていたデービスは幸子をチラリ、エミリーに聞いた。

「あの女を知っているか」

「知らないわ誰かしら」

「宇宙帝国からの客ですか、会いましょう応接室に案内したのですね」

井上がデーターを片付け応接室に入ると幸子はソファーに座り乱闘で乱れた髪を手鏡を使い整えていたので観察し思ったーこの女見たことが有るー

「私が総理の井上ですがどちら様ですか」

「ソラリス王国の侯爵幸子ですわ、一向に植民が進まないと陛下はお怒りです、今後はわたくしが指揮をとりますので政府は従ってください」

ーギクッ侯爵の幸子だとー司令官の奥方に間違いない正体を現したなー。

「政府は従えと言われますかどうしようと言うのですか」

「ホホホホ惑星ギニアはわたくしの所有星系にある惑星ですのよ、まだ原野の惑星ですから開発はわたくしが仕切ります、あなたは指示されたことをすればいいだけですわ」

ー奥方の領地だとー地球の災害を利用して俺たちに開発させる計画だったのか、この女したたかだぞー

「わかりましたが国民の反対はどうしますか」

「ほほほほ必要なら各地にわが王国軍の部隊を置きますから案じる事はありませんわ」

ギクッやはり力で抑え込むのかーなんとかやめさせなければ「費用が出せませんどうしますか」

「ホホホホ政府はできるだけ早く事態を公表できるよう環境を整える初期費用が必要ですわねーギニア王国はあなたに金塊五十トンを貸し付けますわ」

「五十トンですか」井上は円に換算し金額をはじいた、現在の金価格で一千億円を超えると知りビックリ井上は喜んだが疑心暗鬼、この女儂を担いでいるのではないのかと思いが頭の中をよぎった。

「あらご不満のようねー少なかったかしら、様子を見て増資も可能ですわよ」

「いいえ十分でございます」

「そうーならどこに届けますか、官邸は人目に着きますわね」

「あのー日銀で受け取りたいのですかどうですか」

「いいわよ、それでは一時間後にお届けしますわ」

井上と幸子の話は部屋の外に漏れずデービスはドアのそばに行き耳をそば立てていると島田が見とがめた。「長官ーみっともないですよ」

「君は儂の事を知っているのか」

「ええーCIAのデービス長官ですよね」

「それなら今入って行った女性は誰かな教えて欲しいのだが」

この時応接室から幸子の疳高い声が響き島田はビクッとした。

「総理ー王国は基準に達しない種族は受け入れません、たとえ達していても自力でギニアまで来れない種族を迎えに行くほど余裕はありませんわ、努力してギニアにたどり着いた者を植民させます。

これが提供する宇宙船の資料で政府にお渡しできるのは二十隻です、最大限の効率で輸送方法を検討してください」

「侯爵様、エニーでは百隻と言っておりました、もう少しいただけないでしょうか」

「井上総理ーエニーの船は客船よ、それも一航海一人三十万円運賃がかかるわーお金のある人はこの船に乗ればいいけど平和な時しか就航しないわ、災害が起これば止まるの」

「費用が掛かるのですか」

「当然よーエニーは商売しているのよ、こんな時に百隻も走らせて稼ごうなんて業突く張りよね」

「お金の払えない人はどうするのですか」

「運賃が払える人はエニーの船に乗せなさい、払えない人は王国が提供する船に乗せればいいわ」幸子はそれだけ伝えると部屋を出てホールを探し島田に命じた。

「あなたー警官たちを外に並べさせなさい言っておくことがあります、それから日銀に行って金塊の受け取りに立ち会いなさい」


幸子の警視庁乗っ取り

幸子の甲高い声はホールにいる来館者たちに金塊が日銀に届くと知らせたから注目の的、突然デービスが声を掛けた。「待ってくれ話を聞きたいのだが」

「あなたはどなた?」

「儂はアメリカから大統領の意向で派遣されたデービスと言うものだ、今漏れた話を聞くと植民惑星とか船とかいっていたがあなたはどういう方ですかな」

来ていた虫ロボのミンが幸子にささやいた「CIAのボスよ」

ありがとうミン、「ほほほわたくしの事に興味がありますの?だけど既婚者ですのよ残念ね」

ギクッ何でそうなるんだ。「違うそういった意味ではありませんぞ、どこの誰かとお聞きしたのです」

「ほほほほ彼の姉ですわ」幸子は島田を指して言ったが当人は違うと手の動作で伝えていた。

幸子はそれだけ言うと官邸を出て行き、井上は資料を抱え執務室にこもった。

島田が警官たちを呼び整列させ、それをデービスはドアの影から見ていた。

「補佐官何をするのですか」警官たちは呼ばれて集まると尋ねた。

「俺は知らんあの女性の命令なんだ」島田は玄関から出て来た幸子を指して言った。

「あの車で来た女ですよねー総理がペコペコしていたみたいですが誰ですか」

「俺からは言えんがあの女には逆らうな、妻や子供の事を考え何を言われても耐えろよ」

幸子が警官たちの前にやって来た。「ありがとう補佐官戻っていいわ」

島田が建物の中に入って行くと幸子は警官たちを眺め命令した。

「あなたたちは今からわたくしの命令に従う事、反抗は許しません」

「あなたは誰ですか、どうして命令するのです」

「日本政府はわたくしが支配しているのですわ、反抗する者は処罰しますわかりましたか」

「そのような事は認めない、政府は国民が選んで作られるんだ」警察隊の隊長飯田警視は吠えた。

「ほほほほほわたくしに逆らうというのですか、痛い目を見ないとわかりませんか」

「なにを女ーお前たちこの女は国を支配していると暴言を吐き警官を脅した、逮捕しろ」

ドドドドド警官たちが手に警棒がにぎり幸子を取り巻き、その様子を見て白いロボット兵士が恐ろし気な銃を抱え幸子の周りに現れた。

「侯爵ー命令は」

「警官たちを帝国に従うよう教育してくれませんか」

「任せてもらおう」ロボット兵士は銃を鞭に持ち替えビュンビュン音を鳴らし地面を打ちながら警官たちを睨み付け言い放った。

「お前たちを侯爵様の兵士になるよう俺が訓練してやる、整列しろー」

飯田が銃を抜くが狙いをつける前に鞭が鋭く飛んだ。

「馬鹿者めー、王国の我らに銃を向けると命はないぞ」

鞭は飯田に巻き付き引くー飯田はコンクリートの土間の上を何メートルも引きずられ制服はボロボロ、起き上がろうとすると鋼鉄の足でけり上げられた。-げほっー口から血の塊を吐くがロボット兵士の攻撃は止まらない。

部下の一人が叫んで兵士の前に飛び込んできた「やめてくれー死んでしまうじゃないか」

「ほほほほわかりましたか、わたくしに反抗すればあなたも同様よ」

「ググググあなたは誰ですかなんでこのような事をするのですか」

「言いましたでしょーわたくしは日本を支配していますのよ、わかりましたらあなたたちは今からわたくしに忠誠を誓いなさい、反対の者はいますか」

幸子は並んでいる警官たちを見渡すが兵士に叩きのめされた隊長を見て反抗心はぐらついていた。

「ほほほほ宜しいですわ、これよりは警視庁を掌握しますからあなたたちはローゼッタ大尉に従って動きなさい」

「無茶だーできるわけない」

「ほほほほ簡単ですわ、あなたたちは大尉を警視庁の虫垂に案内すればいいのです、安全は彼らに任せれば心配無用よーただちに出動しなさい」

幸子は警官たちの代わりにロボット兵士が官邸の警備に着くと警官たちを車に乗せ出動させた。

それを見て満足そうにサッサと車に乗り官邸を去ると島田は執務室に飛び込み喚いた「総理あの女は警官を自分の兵隊にして警視庁を襲うよう命じましたーそして俺には金塊の受け取りに行けって命令しました」

「島田君ーあの女はそんな事をしたのですか、軍を展開されるより警察を手足に使う方がよいグググやむをえませんあの女の命令に従ってくれ」

「総理ここは日本なのにあの女は警視庁を自分のものにしようとしてるのですよー、黙っているのですか」

「島田君ここは耐えてくれ、侯爵は計画を進めるためには警視庁を抑える必要に気づいたんだ、事を荒立てると国民は死ぬしかなくなるぞ」

「それはそうですが俺たちが我慢しなければならないのですか」

「生き残るにはそれしか方法がないんだ、我慢しろ」

警視庁に向かった警官はエレベーターで総監室のあるフロアーに上がり部屋に行こうとしたが呼び止められた「警部補ー君たちはどこへ行くのだ」

「ハッ総監の部屋に」

「何の用がある、君たちの来るところではない、帰りたまえ」

「秘書室長、怪我したくなければいかせてくれ」

「何を言っている、戻って上司に申告した前」

突然遮っている秘書室長が血反吐を吐き倒れるドサッ。

―キャー受付にいた女子職員は甲高い悲鳴を上げ廊下の角で震え顔色は真っ青。

「お前たち行くぞ」警官のリーダーは部下に伝えた。

総監室前室で秘書の安田は突然警官たちが押しかけビックリ、唖然としていたが彼らはドアをあけ入った。

「君たちは何しにきた」野村総監は驚いて叫ぶ。

「総監静かにしてください」警官は野村に命じた後見えない兵士にたずねた。「案内したがこれでいいのか」

今まで誰いなかったところに突然白いロボット兵士が現れた。

「よろしい、君たちはそこらでくつろいでいたまえ」

ローゼッタ大尉はずかずかと野村の前に行き見えない速さで鞭を振ったードカーン

「痛いーなにをするー」

「貴様が総監かー警察は今より我々の命令に従うのだ、わかったな」

「ふざけた事をいうなー、誰かこの乱入者を逮捕しろ」

「ハハハハこのフロアーは閉鎖している、誰も助けには来ないぞ」

「お前たちは誰で何が目的だ」

「俺たちは日本政府の要請で動いている、反抗すればお前は罷免する」

「政府の要請だとー嘘いうな」野村は叫ぶとビシッ―鞭が鳴りうめいた。

「きゃーやめてー」前室にいた秘書がドアから覗いて野村が鞭を打たれるのを見て泣き叫んだ。

「キナル少尉ー幹部を広場に集めろ」

「命令に従います、大尉」命じられたキナルは総監のデスクに行きパソコンを操作して警視庁の重要事項を記憶すると各部署に命令を発した。

「大尉命令を出した」

「よしー間もなく侯爵が来る、安全にお連れしろ。総監ーきみは我らの命令を警官たちに伝えるのだ」

「ググググ誰が従うか」

「まだ教育が足りないようだなコリンー君は総監に化け侯爵を迎えるのだ」

七変化能力を持つコリンはあっという間に野村に化けた、見ていた女性秘書は声を立てようとしたがローゼッタに睨まれうつむく。

「女ーコリンと一緒に一階に行きたまえ」秘書の藤代に向き命じた。

「総監は助けてくれるのですか」

「君次第だ、この反逆者は政府の施設に拘禁するから君は我々に従うのだ」

警視庁正門に儀仗隊が慌ただしく歓迎の演奏を始めると全職員が整列、警視総監に化けたコロンは幸子をエスコートして検閲をおこなった。

「職員の皆様、わたくしはソラリス王国の女王陛下から派遣された侯爵幸子ですわ、日本国はソラリス王国に併合しましたから警視庁はただいまからわたくしが指揮いたします、不満のある人は止めませんから辞職しなさい」

職員は総監と幸子を眺め戸惑っているが誰も動こうとしない、誰もが動けば損をすると感じていた。

「ほほほほわたくしに従うのですねー解散します」幸子は満足そうにコリンと其の場を離れ総監室に向かうが残された職員たちは総監が偽者だと知らない。

そのころ官邸で井上は島田を向かわせた後科学技術庁の担当技官を官邸に呼びつけていた。


イリヤは島田より一足早く日銀に出向くと友人の中野を呼び出し尋ねた。

「中野さん間もなく金塊が大量に運ばれてくるわ、どこから来たのか調べられるかしら」

「何だーイリヤ金塊の出どころを知りたいのか、そういう事は秘密ではないから調べればわかるよ」

「そうーじゃ後で教えてね」

「いいけどこんどの休みに付き合えよいいな」


エイワードーのチーム失跡

デービスは大使館に戻ると幸子から聞いたことを考えたが腑に落ちない「何かおかしいなぜ総理は船が足りないって言うのだ、単なる植民ならある船で計画を立てるはずだが足りないのは期間内に運び終えなければならないからだ」

デービスは幸子の写真を顔認識装置にかけたが引っかからない。

「知られていない女だな、官邸の周辺から探すか」

張り込みに入って三日目、再び六輪車が官邸の玄関前に止まり幸子が降り立った、来るのを見た衛視の鈴木は緊張しさっとドアを開けると玄関を入り受付の窓口で尋ねた。「総理はいらっしゃいますか」

「はい侯爵様、ただいま国会に出ておりますが」女性の職員が答えた。

「そうなの、それでは補佐官を呼んでください」幸子はそれを告げるとすたすた応接室に入って行った。

「こんこん総理補佐官の井上奈津子です」

「あら井上さんというと総理の娘さんかしら」

「はい」

「よろしいわ、これから神奈川の大間港に専用ふ頭を作り、わたくしの基地にしますから邪魔をしないように願いたいの、これが完成図ですわーそれでは失礼しますわ」幸子はそれだけ告げて官邸から帰っていくのをデービスはエイワード達と跡をつけた。

エイワードは地下駐車場で幸子の車を見張り、デービスはエニービルの玄関に行きホールを見回すとエレベーターに乗りこんだので受付に尋ねた。

「今の女性はどこにいったのですか」

「あなた誰ですか、何で聞くのですか」

「いや大した用事ではないが話を聞きたいと思って」

エイワードは幸子の車をパンクさせようと銃でタイヤを狙ったが跳ね返され、警報システムが探知して虫ロボのミンが様子を見にきた「あいつらね」

物陰に隠れている男たちを見つけると高電圧を撃つドカッー倒れた男たちをミンは透明スクリーンで覆い連れ去った。

インホメーションで山崎とにらみ合っていたデービスはあきらめ駐車場に戻りエイワードを探した。

「エイワードどこだ」呼んだが返事がなく携帯をかけたが区域外と表示が出た。


ロシア大使館

デービスがインホメーションで追い返されるのを見てイリヤは大使館に戻り話を整理した、「五十トンの金よ草間の話は間違いないわ」

大使のマルクはイリヤから報告を聞く「イリヤー君は日本が宇宙帝国と繋がりがあると言うのか」

「そうよー信じられないけど井上は帝国の女から五十トンもの金塊をもらったわ、純度はナインナインで最優良品よ、刻印は魚ー見たことがないから多分帝国の紋章なのよ」

「なんでそんなに渡したんだ」

「日本政府は女が所有している星系に植民すると言ってその準備に使うらしいわー円の代わりよね」

「女の正体はわかっているのか」

「ええー防衛隊の司令官夫人だわ、司令官は帝国の女貴族と結婚していたのよ」

「イリヤこんなことは今日だけにしてくれ、怪我でもされたら部長におれは殺されるからな」

「ハハハハお父さんはそんな事しないわよー」イリヤは笑って部屋に戻ったがマルクは冷や汗をかきながら考えた。ーイリヤはこんな情報をどうやって仕入れたんだーマルクは本国の大統領に極秘電を打った。


大間港

二千一年六月ー幸子はガラスウォールで仕切られたガラス扉を開けて入り接客のための長いカウンター脇の入り口から事務室の中へ、二千平方メートルの部屋では器材が積まれ作業員が電子機器の接続をしていて歩く隙間がないほど、パテーションで仕切られた委員長室が落ち着ける場所だった。

席に着きアルファー基地へ連絡を入れた。「幸子よーマクリガー司令官、港の工事頼むわ」

「了解、これから向かう」マクリガ―は工作部隊の出動を命じた。

三浦半島の相模湾に面する大間港は小さな漁村、五トン未満の漁船が数隻あるだけでさびれていた、漁港に隣接する岩礁地帯を掘削し宇宙船が悠々と回遊できる港を新設する。

住民が朝早く海岸の方からの騒音に驚いて出てみると巨大な怪物が岩の上や海の中で岩を砕いているのを目にした。

「なんだー見たことのない機械が動いているぞ、あれは怪物なんかー」

「父ちゃんそんなことないよ、きっと新しいタイプの機械さ」

住民は集まってガヤガヤしていたが瞬く間に岩が崩されるのに舌を巻いたところに地元のローカル新聞みうら新聞社の谷口記者が情報を聞きやって来た。

「こんな田舎に港など作ってどうしようと言うのかなー」つぶやきながら崖の上から工事個所の全景を見た。

「すごいあんなに海底を掘っているぞ」

谷口は一キロくらい先から海水が帯状に変色しているのを見た、明らかに掘削した跡の濁りだ。岸では激しい音と振動を出しSF映画にでてくるような八本脚の作業機械が岩礁を砕き、海底掘削船がローターを回して海底を三十メートルの深さに掘って漁港より広い四百二十ヘクタールの港を作っている。

掘り出され砕かれた岩が外海との境にエネルギーシールドを張って作られた仮囲いの中に集められ熱線で溶かされて溶岩の防波堤や桟橋に変わっていくのを記事にした。

全国紙やネットに乗ったから翌日から毎日大勢の人たちが集まり見たことのない工作機械やロボット作業員が空中を飛び回っての作業に声援を送っていた。

港湾局では大間港の記事を読みビックリ、誰が始めたのか調べようと係官の吉田が現地に来ると昨日まで海だったところはきれいに整地され広大な敷地と長さが一千メートルもある広い桟橋が二本作られていた。

吉田は工事事務所を見つけると入って行き聞いた。「責任者の方はいますか」

「おれがここの工事責任者だが君は何の用かな」

「港湾局のものです、この工事は誰に頼まれたのですか」

「この国のトップだわかったら怪我をしないうちにおとなしく帰れ」責任者が手を振るとロボット兵士が現れた。「リーダー用か」

「ああーこいつが邪魔しに来た、追い出してくれ」

「帰れ、次はないぞ」

吉田はロボット兵士に睨まれ追われるように出て行くと漁民に取り囲まれた、その中にデービスは混って様子を探った。

「惑星と繋ぐ宇宙船の専用港の建設を始めて本格的に植民を進めるのだな」

デービスは調べたことをクラークに報告した。

「デービスー日本は宇宙帝国と繋がっていて他の惑星に脱出すると言うのか」

「そうですー間違いないがどうしてなぜしなければならないか宇宙帝国の侯爵と言う女を捕まえて聞き出したいので許可願いたい」

「やむを得んな日本政府に気づかれずにやれるか」

デービスは失ったエイワードのグループの代わりにジャクソン中佐のグループを呼び寄せた。東京にあるCIAの隠れ屋にジャクソンのグループが集合し、デーヒースは睨みつけた。

「ジャクソンーこの女がターゲットだ表向きは防衛隊司令官の婦人だが実際は宇宙帝国の貴族、日本政府はこの女に操られている」デーヒースはこれまで話すとメンバーの顔を見た。

「長官ー女を拉致する理由は分かったがなにが問題ですか」

「この女の背後には帝国の部隊が動いていることだ、彼らは一度も姿を見せないが何の痕跡も残さずエイワードのグループを消した、俺が離れていた僅か三十分の間にだ」

「何か気づいたことはありませんか、争ったならなにかしら痕跡が残っていたと思いますが」

「何もない、きれいに消えた」

デービスの話を頭の中で検証しジャクソンはエイワードの消えた駐車場に来てみた。「平日の午後なのに結構車の出入りがあるなーこんな場所で誰にも知られず六人も消えただと」見ている間になん台も通っていた。

隠れ屋に戻ったジャクソンは部下が調べた幸子の行動を検討し大間港での作戦を決めた。

「君たちここで女を拉致する、いいか」

「ボスー港でですか、女は来ますかねー」

「女は新宿の委員会とマンションを往復しているだけだ、隙が無い」

「ボスーマンションはダメですか」

「マイクはマンションが要塞に等しいと気づかないのか、一階のホールに入るには生体認証で扉を開け十五階までエレベーターで上がるしかない、エレベーターを降りるとカメラがある。

長官の話では女はロボット兵士を護衛に置いているらしい、だから女の部屋には間違いなくロボットが配置されているはず、君はロボットにそれもエレベータを降りた時から監視されている状態で勝てると思うのかー

それから女の車だあれはただの車ではない装甲車だよ走っている重量感から五トン以上はあると睨んだな、機関銃の弾など通用しないぞ」

ジャクソンの報告に部下は黙り込んだ。

ジャクソンのチームが計画を立てていた頃港湾局では作業に入っている業者を探し出し、関係者を探ると発注者はギニア開発と突き止めた。

「局長現地では政府のトップとか言ってましたけど工事の発注をしたのはこの団体です」

「ギニア開発か、知らないなー」

「今までに三度現地の担当者に工事中止命令を出していますが無視されました、強制執行できませんか」

「上と相談してみるか」

武田局長は大臣に許可を求め、清水運輸大臣は無造作に採決した。

港湾局は警察に応援をもとめバスを連ねて港に向かった。

「リンゴ―やつらは懲りずに実力行使する気配だぞ」

「フーンバカな奴らに懲らしめが必要だな」リンゴと呼ばれた護衛部隊の指揮官は途中の道路に岩を転がし透明スクリーンで隠した。

強制執行の一団は何も知らずに現地に向かっていたが突然岩に衝突乗り上げてバスは横転した、乗客たちは脱出しようとしたがドアのある面が路面に塞がれて出れない。「助けてくれー」

「バスが事故だー客が閉じ込められた―」住民は家から出て来て助けようと運転席の窓をハンマーで割っていたが五分もたたずエンジンから火がでてバスは一瞬に炎に包まれた、漏れた燃料に引火したのだ。五分後に消防団が放水し救急車でけが人を病院にピストン搬送して閑静な部落は朝から喧騒につつまれた。


総理官邸では島田がニュースを見て執務室に飛び込んできた。

「総理ー大間港で重大事故です」

「港の工事で事故ですか」

「それがー違うようで、港湾局のバスが交通事故を起こし多数の死亡者がでました」

「意味が分かりませんが警察から報告をもらってください」

島田は急いで所轄の警察本部に連絡を取る。

「ただの交通事故ですが総理に関係しているのですか」

「いいえ直接はありませんが事故現場の近くで国防軍の港湾工事がされていますから」島田は事故の詳細を知らされると港湾局に尋ねた。

「はい事故を起こした車は大間港の現場に向かっていました」

「何のためですか」

「工事の中止命令の強制執行です」

島田は呆れ井上に報告した。

「清水さんに聞いてみますか」

井上から事情を聞かれて清水は暫く考えていたが次官の須田が書類を渡すとじっくり読み説明を始めた。

「ふむ清水さんあなたは大間港の工事は防衛が不十分な相模湾の安全を高めるために行っているのを知らなかったのですな、だから安易に判を押された」

「はいー勉強不足で申し訳ありません」

「清水さん、知っていると思うが国防軍は天皇直轄だー工事に政府は介入できんからな」

「はいこれからは気を付けます」

「犠牲は何人ですか」

「はい十二名が逃げ遅れて死亡、十五名が重度のやけどで入院です」

港湾事務所では職員が一枚の書類を見せられ悲しみに暮れていた。

「所長ー国防軍の工事だったなんて亡くなった仲間は無駄死にですか」

「諸君ー今回の事故は工事には関係ない運転ミスの自損事故だ、目の前に転がっていた岩に衝突だからどこにも責任を持っていけないとわかっているな」

「いつも慎重な田川が何で岩にぶっつかったんだ」友人の須藤は自問した。


幸子の宝物探し

鉱山技師の江田冴子が委員会から与えられた部屋を見に来て呆れた、一千平方メートルの部屋には机が無造作に置かれ床や壁にコネクターが無数につけられていた。「幸子ここなのー何もないわよ」

「まだないわよ、でも設備はあるからあなたが使いやすいように配置すればいいのよ、楽しみだわ」

「ギニアって惑星の調査は本当のことなの、あたしを担いでいないわよね」

「本当よ、防衛隊が現地にいるからチームを揃えたら出発だからね」

江田は写真を食い入るように眺ていたが頭の中では疑問に思っていた。

「幸子は人を騙す様な女ではないわ、でもなぜこの人がこんな事しているのかしらこの部屋だって安くはないわ」

「冴子は石ばかりよね、石油がわかる人を知らないかしら」

「何言ってるのよ、石油も鉱物あたしの専門なの」

「そうなのーそれなら採掘のチームも連れていってね、油はここにあるから」幸子は地図に丸で囲った。

それから十日、江田は鉱業関係の企業に勤める友人に声をかけ総勢四十人が委員会に集まった。

メンバーの多さをみて幸子はビックリ「江田さんこんなに人が必要なの?」

「幸子ー何を言っているの―これでも足りないくらいよ、彼は栗原さん山師でモグラのオペレーターよ調査は彼の腕にかかっているわ」

六十過ぎの男性を紹介するが彼は幸子のキラキラと華やかな姿に見とれていた。

「なんなのモグラって?」

「ふふふ坑道を掘る機械よ、どこに鉱物があるか彼が長い間に身に着けた経験で探し当てるの、あなたたちは装置とか研究で探すと考えていると思うけど本当は違うの、彼のような山師と呼ばれる人たちが山を見て歩き感で探し当てるのよ」

「へぇー知らなかったわー、科学的ではないのね」

「あんたがこの組織の姉御か、わしがあんたに似合うダイヤを掘ってやるからな」栗原は幸子に惚れた。

「ありがとうー栗原さんわたくしダイヤは好きですわー期待していいのかしらほほほほ」

「期待していいわよ、研究者は栗原さんたちが掘って持ってきた石を調べるだけだからね」

幸子は一人ひとり挨拶に回った、がちがちの研究者や現職の鉱山技師山堀のプロまでいる。

「江田さん向こうに行けば国防軍の部隊がいるわー、移動の時の船の手配から操縦など彼らと連絡を取り合って進めて欲しいの、できるわよね」

「いいわよ任せて、あたしはみんなを現地に連れて行かなければならないからここに残ってくれるメンバーの世話は豊島さんに頼むけど幸子面倒見てくれるかな」

「いいわよ後方支援よね、豊島さんってあなたね、後で相談しましょうか」

「はいお願いします」豊島和子はニコリとわらい頭をペコリ。

「それじゃー江田さん、玄関にバスが待ってますから行きましょうか」

幸子は江田と現地に向かう第一次調査隊二十五名を案内して玄関前に停車していたバスに来た。

「みんな気を付けてね無理はしないでよーそれじゃー運転手さんお願いね」

「お任せください侯爵様」運転手の男性は大きな声て答えたから江田の耳に入った。ー侯爵様って幸子は貴族なのー?

江田が大間港の埠頭に出発したその日の午後健一が女性隊員を連れてやってきたが幸子は残った人たちを部屋に案内していた。

「ここがあなたたちのお部屋よ、足りないものが有ったら委員会の名前で買い揃えていいわよ、それから豊島さん

あなたには大変だけど現地への補充品やとれた製品の販売を任せたいのいいかしら」

「はい頑張りますわ」

「幸子ー俺はなにするんだー」幸子の後をついていた健一が聞いてきた。

「あらあなた来ていたの、連れて来てくれましたのね」幸子は健一の後に着いている女性隊員を眺めて言った。

「女性は四人ねーあなたたちは今日からここが仕事場よ、ギニアに業者を送り込むからあたしの補佐を頼むわ忙しくなると思うからよろしくね」

「はーいよろしくお願いしまーす」

それからあなたはアルファー基地に行ってスクラップを調べて欲しいの、使える船や機関があれば利用したいので整備をお願いしますわ」

「分かったが勝手に持ってきていいのか」

「基地から艦隊は撤収を始めていて、交換部品やスクラップは捨てて行くのよ、もったいないわ」


健一は司令部に戻ると留守を今井大佐に任せ兵器廠の技師を連れてアルファー基地に到着、基地の総務でスクラップ置き場への行き方を聞いた。

「白瀬かんたんだー車に行き場所を入力すれば連れて行ってくれるからこれを持っていきな」係員から端末を渡され仕事に戻ってしまった。

「司令官行かれますか」

「ああー何とかなるさ」健一は端末に入っている三次元地図を眺めため息。

車両置き場で車に乗り込む「どちらまで行きますか」

「あースクラップ置き場だ」

「どこのですか」運転脳は繰り返し聞いた。

「どこってそんなにあるのか」

「はいおよそ九十二か所あります」

健一はそれを聞くとうんざり、技師の隅田の顔をみた。

「司令官俺知りませんよ」

「しかたない船の保管してある場所は分かるか」

「はい二十七番置き場でいいですか」

健一はあきらめていいよと返事、車は月を半周し地下深く潜った。

置き場に着くと部品倉庫を開けピカピカの部品がきちんと並べてあるのを発見

「司令官ここは宝の山です、捨てるなんてもったいない」隅田は品物をみて叫んだ。

広い空間には何百と船が無造作に置かれている、船に乗り込み隅田は試運転をしてみた、一斉に照明がともり機関が低い音で回りだす。

「司令官壊れてません、使えます」

「なんで捨てたんだ」

「司令官ー多分古くなったからですな、機関や武装が旧式だからですよ」

「ふーん、武装はいらんから俺たちの役に立つなー」

「基地には整備の技術ロボットがいますから彼らに助けてもらえばなんとかなります、部品だってここなら探せばありますよ」

健一は基地の整備部門に行きスクラップ船の復帰を要請、整備スケジュールが作られることになった。

兵器廠から技術者を呼び寄せスクラップ置き場で修理作業が始まり数百人のロボット技術者が船に群がりあっという間に部品が交換されていく。

「あなたー何隻くらい使えそうなの」

「うん探せば百隻だってあるんじゃないかな、程度に寄るけどロボット検査官が完成検査をしてくれるから安心だよ、修理が済んで許可が出た船から試運転をする予定だよ」

白瀬は三日ぶりで司令部に戻ったが高木や宮城などと三森や片山大尉などのグループが睨み合っていた。

「お前たち何をしているんだ」

「大将俺たちにも宇宙に出る機会をくれ」片山が代表して要求を言った。

「片山―人員の関係で運航は国防軍に任せてある俺たち防衛隊の役割ではない、宇宙へは植民が始まったらいやでも出てもらう、それまで待てないのか」

「ですが宮城中佐の科学部門は頻繁に行き来しています、なぜですか」

「細菌と食物の調査活動だ遊んでいる訳ではないー君たちも得意の任務があるだろー片山できたのか」

「いえまだ検討中です」

「君にしてもらっているのは植民の根幹国民を早く送り込むためのシステム開発だ、放り投げて宇宙に行きたいのか。いま科学技術庁のチームも取り組んでいるぞー机の上でのうのうとしている連中に負けたら片山どう責任をとるのだ」白瀬に脅され片山のグループはすごすご引き下がって行った。


大間港

幸子は健一にスクラップ船の試験飛行の時に石油プラントの運搬を頼んだ。

「幸子ー本当に運ぶのか」

「そうよ‐空船でテスト飛行なんてもったいないわ、時間がないのよ」

幸子の言葉に健一は唖然「こんなにケチだったのか」


二千一年七月修理が終わったばかり三隻の輸送船は大間港に到着し幸子が買い取ったプラント部材を積んだトレーラーが続々港に着いたのをジャクソンは大間港を見渡せる小高い丘の上にあるホテルのロビーから観察していた。

ロビーでは大勢の客も熱心に宇宙船を見ていた、船の上部搬入口が大きく開きトレーラーからブラント部材やコンテナが空を飛び積まれ、乗客は乗船口から乗り込んでいた。

「あれらが宇宙船なのか、巡洋艦くらいの大きさだがここから見ると警備をしている様子はないから容易に奪取できそうだな」

「ボスここで引っさらうんですか」

「ああーそうだ」

「ここには軍はいないみたいですな、住民に様子を聞いてみますよ」

ワーーと周りにいるの人たちから歓声があがった、「きゃーきれいなお舟よ」

帆を満開に張ったクインシップウォシュッフレアー号が上空から蝶のように舞いながら降りて着水すると百メートル以上の水膜を立ち上げて海面を滑走して港に近づいてくるが港に入る頃には優雅にクルージングー港の中を一回りして桟橋に接舷し一斉に帆がたたまれた。

ロビーでは大勢の客が帆船に興奮しながらも落ち着きを取り戻してきた。

「すごいわーあの船はなんていうのー誰か知らない―?」

「帆船型の宇宙船なんて漫画の世界よ、桟橋に行ってみよう―よ」一人の客が桟橋に向かうとぞろぞろ他の客も付いていく、見学していた男女の若者は常識を超える現象を気安く受け入れていた。

帆船が桟橋に着くと十数台のバスが船の前に止まり乗客が帆船の乗船口へ殺到、乗り込んでいくのを眺めジャクソンは考えた。

「これはいつもの事なのかな、どこに行くのだろー」

「ボス、あの人たちの事ですか」

「ああーどういうことなんかなー」

「へへへ俺ホテルの従業員に聞きましたぜ、あの船が来たのは四回目だそうです、あいつらこのホテルに泊まっていてここには住めなくなるから国に帰ると言ってましたぜ」

陽が落ちて辺りは真っ暗になったが港は真昼のように明るい、プラント一基を積み込むのは簡単ではなく、ロボット作業員が何十人とかかりきり。

輸送船には人を乗せた車もひっきりなしに来ていた。

様子を見ていたジャクソン達は幸子が来ないのでイライラ。

「ボスこれでは待っていても来ませんぜ」

「そうだな積み込みが終われば飛び立つぞ、ベンー船に忍び込めないか」

「どうするんです」

「女の代わりに船を奪うのさ」

「搭乗口は生体認証でゲートをくぐるようになってました、ごまかしは利きませんな、貨物室の出入り口はロボットが警戒していますが強行突破しますか」

「突っ込んだらどうなるかな」

「ボスーロボットは武器を持っていません、コンテナに隠れればどうですか」

「それだー操縦室を確保すればこっちのものだ行くぞ」

ジャクソンは部下を引き連れ桟橋の上で積み込みに待機していたトレーラに忍び寄るとコンテナの中に潜んだ。

「よしこれで飛行を始めたら操縦室を占拠する、それまで体を休めておけ」

首尾よく船の中に入れたがコンテナは隙間なく積まれている、四十時間の宇宙飛行はジャクソン達を死ぬ直前まで追いやった、真空中の極低温は心身を痛めつけ、コンテナの扉が開いたときは凍死寸前ー作業員はまじまじ固まった彼らを見つめた。

「ノイーどうした」

「人間が凍っているぞ」

東京の防衛隊司令部でジャクソン達を捕えたが奥様の命令でジャングルの開拓地に送ったと報告を白瀬は受けた。

「幸子ーアメリカ人の兵隊はどうなったんだー?」

「ホホホホ温めたら生き返ったわ、人手不足だから開拓地で働いてもらいますわ」

「捕虜だぞー働かせるのはまずくないか」白瀬は国際協定の事を言った。

「関係ありませんわ、捕虜ではなく違法侵入者-犯罪人よ」


ギニアの奴隷

ジャクソンたちは目覚めると広い部屋の中で転がされていた。

「おいトーマス起きろ」となりで気を失っていた部下を揺する。

「あー中佐ーどうしました」

「どうやら捕まったらしいぞ」首に取りつけられていたリングを触り語った。

「中佐それは何ですか」

「このリングか俺には分らんが全員に付けられているのを見ると逃亡防止の装置だな」

「ははあー逃げても場所がわかるというものですか」

話をしているうちいつの間にか全員が起き上がり部屋を調べ始めた。

「ダメだなドアはここだけでカギがかかっているな」

ドアが開きロボットが入って来るとジャクソン達を部屋から出した。

「お前たちを作業場に引き渡す、しっかり働け」ロボットの士官が睨みながら命じた。

「働けってどういう事だ、捕虜に労働は禁止されているのだぞ」

「バカ目、帝国にはそのような規則などない、さぼれば痛い目に会うだけだ」

ロボット兵士に監視され士官の後をついて船を降りるとそこは原生林、未開の大陸の広大なジャングルを目の前にした。

辺りにはプレハブ小屋が建ち、大勢のロボットに混ざり人間もいる。

「ここで何をさせるんだ」

「ボスーやつらは俺たちをこき使う気ですぜあれを見てください」

ハーマンはロボットたちが見慣れない巨大な作業機械を動かしているのをさして叫んでいるとロボットが近づいてきた。

「お前たちー俺はケルフこの作業場の支配人だ、仕事は俺様が指示するから働け、逃げたりさぼっていたら首輪が罰を与えるから苦しむぞ」

ジャクソン達は目覚めた時首につけられていた首輪の用途に気づいた。

「これはそのための装置なのか」

「ボスこれでは奴隷だー」

「ははははやっと自分たちの立場がわかったか、あとで仲間に会わせてやる」

ケルフは士官からジャクソン達を引き取ると部下のロボット主任、マッシ―を呼んだ「マッシ―人間たちを君に預ける、作業をさせてくれ」

「所長ー任せてもらおう」

ケルフと打ち合わせを済ませマッシ―はジャクソン達を作業場に連れて行き製材作業をしていた男を呼んだ。「エイワード来い」

エイワードだってーここに連れて来られていたのかージャクソンは仲間との再会にビックリ

「主任ー何か用か」

「お前の友人たちだこれから一緒に働くからここの事を教えろ」

エイワードは集まっている男たちを改めて見てジャクソンと気づいた。

「中佐ーどうしたのですか」

「少佐元気そうだな」

「ええーここは逃げようとしなければ待遇はいいです」

「ここで何をしているんだ」

「ジャングルから切り出した木を割って皮をむいています、それらは別々に置き場に運んであとはロボットが作業車に乗せどこかにもっていきます」

その後宿舎に行き、ジャクソンはエイワードから知った事を聞いて脱出する方策を考えた。

「中佐ー脱走は不可能ですからやめた方がいい、それよりここに居れば安全です」

「少佐ー俺たちは地球に家族を残しているんだ、連れて来たいと思わないか」

「それは俺たちもここの所長に頼んでいますから待つしかないです、大丈夫ですから」

「連れて来てくれると言うのか」

「王国の責任者が時期になれば救出すると言ってくれてます」

「救出ってどういう事だ」

「中佐ー地球は数年後に太陽に変るから脱出しないとならないこの事を知っているのは日本の一部の人間だけです」

「本当かー俺たちはその事を探るため動いたのだぞ大統領に報告する」

「中佐ーよく考えてください、ここで騒ぎを起こせば地球にいる家族を見殺しにすることになります、国も大事だが娘を助けたい」

エイワードには六歳になる可愛い娘がいてジャクソンの部下のなかにも妻や子供たちがいた。

「中佐ー俺はスージーを死なせたくない、少佐の言う通りおとなしくしてましょうよ」

「グググ国を裏切る事になるぞ」

家族の事を幸子は考えていなかったがソラリス軍は長い歴史のなかで対処法を確立ー民生局が中心になり家族を送り出す手配が進んでいた。


石油騒動

二千二年一月江田のチームがギニアで調査を始めて六か月、石油が採れると以前から知られていた温暖な砂漠に建てた開発事務所で原油精製プラントの建設を管理しながら井戸の掘削を進めていたがこの日三十七本目の井戸が自噴して合計で日産百万トン採れるようになった。化学工業プラントができていないので原油のままソラリス宇宙運送会社のタンカーで毎日六十万トンをソラリスに運び販売している、収入は運送会社の支払いを済ませ幸子の手に残った。

「すごいわー加納さんに借りたお金なんか一年の売り上げで返せるわ」

日本には月に一千万トン程度を送り出してタンクに蓄えて石油会社などに販売していたが毎回同じコースを走るタンカーは沿岸諸国にとってネギをしょった鴨ー石油を奪い取る計画を練っていたが平和的には官邸に売却を求めて大使が日参していた。

井上は迷惑がり大使を集めて吠えた。「大使のみなさん、石油のことはギニア開発と話してくれ」

「総理閣下それはどういう意味ですか」

「石油は日本政府のものではないと言ったのだよ」

井上の発言に大使は面を食らった、どういうことなのかわからない。

「総理お聞きしますが、政府のものでないのなら個人なのですか」

「そうです企業と考えていい、だから欲しければギニアから買うのですな」

大使たちは不審の顔で幸子のいる開発委員会にやってきた、委員会の事務室に入ると相談コーナーで話を聞くと言われまたもビックリ。

「わたしは政府の代表で来ているのだが」

「それがとうしましたー石油が欲しいのなら他のお客と同じですわ、担当者にお話しくださいな」

大使は憮然と相談コーナーに着くがまさか営業の仕事をさせられるとは考えていないから話はまとまらない、ドイツ大使のアーノルドは怒りをみせ出て行ったが各国ともおなじような状況、幸子は売る考えはなかった。

「どっちみち滅びるのよ、もったいないわ」

蘭国の日本駐在大使のセオンは部下に石油油田を探さしていた。

「ウー君捜索はどんな具合だ」

「ダメです、タンカーは太平洋の真ん中で潜ってしまいます、海底にあるのではと思うのですか」

「四千メートルの深海だぞー潜れる船などない、もし海底にあるのなら我々には手のだしようがないぞ」

「大使ーそういう事です、あきらめるのですな」

「ググググ船を奪い取れないか」

「戦争になりますがそれでもやりますか」

「ウウウ―主席に聞いてみよう」

セオンから報告を受けたレンホ資源委員は会議の席で主席に伝えた。

「主席ー日本と話し合っても石油を分けるとは思えません、日本を急襲し占領すべきです」

「レンホー戦うとなったら石油が必要だぞあるのか」

「主席ー核ミサイルで降伏を求めるのです、日本人の核アレルギーは想像以上ですぞすぐに降伏するでしょうから石油の心配はいらないと思います」

「カン委員君はどう思うかな」

「レンホ委員のいうのは机上の論理だ、日本人はそんなにやわでないです」

会議はレンホとカンの意見のぶっつかりあいに終始ーワンは軍部に検討させるとしてこの日は終わり、面目を潰されたレンホはカンを睨みつけた。

レンホが日本攻略を有力者に説いて回っていた時大陸中央の砂漠で多数の火口が生まれ蘭国とモンゴルそのほかロシアの南一帯に火山礫の雨と亜硫酸ガスの雲が襲った。

リーンリーン「わしだどうした」

「主席大変です、砂漠が噴火しました、火山弾と毒雲の襲来が予想されます避難してください」

まだ外は夜明け前、うっすらと明るさがみえていたがワンは急いで支度を済ませているとすさまじい音が住まいの中に轟いた。

夫人や子供たちは叫び声をあげ下の階に避難、コンクリート製の建物だが屋上スラブを突き抜け岩が三階の部屋に落ちていた。

「あなた何が起きたの」

「砂漠で火山が生まれたらしい、ここは危険だから石がやんだら南に行くぞ」

ワンは家族を雲南の別荘に送り出し、自身は政庁に入るとワンの執務室の窓はガラスが割れ石が無数転がっていた。

「主席ここは危険です、地下にお移りください」

「シン君どうなっている」

「主席亜硫酸ガスで住民が死亡しています」

「何人くらいだ」

「はいーすでに億を超えていると予想されます」

「なんという事だ、防げなかったのか」

「主席ー自然の成した結果です、誰にも責任はありません」

蘭国で政府の機能がマヒに陥っていた頃砂漠に建設されていたヨーロッパに向かう石油のパイプラインはマグマの高熱で爆発し炎のラインに変わっていた。パイプに溜まっている石油は流れ出て地面を炎で覆いながら音速に近い速度で山林や市街地を焼き、西へ拡がり多くの住民が焼け死んだ。

アジアヨーロッパの各国は世界に災害支援を呼びかけたが昨年のアラビア壊滅によって各国は産業が大打撃を受け経済が落ち込み助ける余裕のある国は少ない。

日本ではギニアから石油が届きふんだんに有ったが井上は支援を拒否して国内での生産を需要の二百パーセントに上げて備蓄を増していった。

政策をみて過度な生産を政府は奨励しているのはなぜか人々の疑問をマスコミは取り上げたが誰も理由を探り出せないでいつしか忘れ去られた。

火山の噴火で家や畑を失った蘭国の人々は内陸からシナ海沿岸に移動してきた彼らは魚を捕るため小さなボートで海にでてやがて日本の島々に移って来た。

井上は沖縄方面軍からの問い合わせに頭を悩ませ防衛隊の白瀬に意見を尋ねた「司令官はいるかな」

「総理なんですか」

「司令官沖縄だ、蘭国からの難民をどうしたらいいかな」

「そのことですか、国民を本土に引き上げるのはどうですか」

「島を蘭国に明け渡すのか」

「ええー間もなく捨てる島です争いを起こすよりいいでしょうーギニア植民を発表すれば戒厳令を敷いて引揚は容易ですぞ」

「なるほどさすが軍歴が長い司令官だ、民間人では気付かないな」


アメリカの疑惑

二千二年五月日本の石油はどこから入るのか、クラークが疑問に思っていたが補佐官のチャールズが入って来た。

「チャールズ君何かわかったか」

「はい大統領ー日本に入って来る石油は信じられないでしょうが宇宙から入ってきています、一時間前偶然衛星が捉えました、これが写真です」

衛星が映した写真には何台もタンクを繋げて大気圏に入ろうとするタンカーが映っていた。

「デービスの報告通りだな、日本は宇宙帝国と手を結んでいる確かな証拠だ」

「はいそうと思われます、それで今までどこに持って行ったのかわからなかった超過日用品ですが地球の外に出しているのではないでしょうか」

「目的は何かな」

「大統領ー日本が植民を計画しているのならその惑星に食料や消耗品を事前に備蓄するのは自明の理屈です、ですから支援に回す余裕がないと言っているのではないでしょうか」

クラークがチャールズの報告を聞いていた時デービスが入って来た。

「デービス長官ー地球で何か起こるのか分かったのか」クラークは尋ねた。

「いえー調べていた部隊が消えてしまいました、どうやら侯爵と言う女に消されたものと思えます」

「何人失いましたか」

「はい合計で十九人です」

デービスの報告に執務室にいた人たちは損失の多さに驚きジーっと黙ってしまった。

「大統領気になる報告があります」ウェイト補佐官が一枚のメモを持ってきた。

「なにかな」クラークは受け取り読み始めると不思議そうな顔して尋ねた。

「ノアのバース博士からだが世界の海底がはらんできたらしい、どういう事かな」

「大統領ー海底は平方メートル辺り一万トンの海水で押されているので孕むなどあり得ません」

「ウェイト君バース博士に連絡を取ってくれ」

補佐官はテレビ電話でノアの研究室にいたバース博士を呼び出した。

「大統領ー繋がりました」

「大統領ーバースです、地球内部の圧力が高まっています最悪の場合地球が爆発するかもしれません」、

「博士原因はなぜですか」

「今は調べなければわかりませんが昨年から日本の学界でマントルが燃え出したと激論が続いておりマントルが溶けて容量が増加していると思われます。今まで世界の学界ではあり得ないと無視していましたが日本では太平洋全域に千台の観測装置を置き、すでに一年間のデーターを持っていて当然判断できる量ですから違うのなら活動は中止しているでしょう、しかしそうではなく活動はより高まっています、これは燃えているのが事実と確信したからに間違いありません」バースは熱ぽく訴えた。

「諸君はどう思った、博士の報告と日本にいるあの女の動きを合わせると何が見える」

「大統領ー地球はこれが原因で破滅に向かっているのを日本は知ったのが他の星に植民しようとしている理由に間違いありませんな」デービスは即座に答えた。

「ならばアメリカが次に打つ手はー」

「大統領ー女から情報と船を手に入れるのです」

「そういう事だ、誰を行かせるデービス君は話した事があるのかどんな女だ」

「一言で言えば高飛車な性格だな、口喧嘩ではメンズも手こずるぞ」

「メンズー相当な雌鶏らしいがやれるか」


井上燃える地球を公表

二千二年五月メンズ国務長官は大統領の親書を持ち日本にやってきた日は井上がマスコミを集め重大発表を始めるときだった、井上はテレビカメラの前で深刻な顔つきで話しかけた。

「国民の皆様へー日本政府は本日ただいまより国防軍に国境の閉鎖を命じます、海外からの入国には特別な査証を必要として入国制限を設け海外にいる邦人には速やかな帰国を命じます。

防衛隊は国内の治安対策に当たります、市内に軍の戦闘車両が警戒に着きますが見かけても戦争が始まるのではないので市民の皆様は安心してください。

閉鎖する理由は地下核実験の影響で地面の下地表殻に含まれる炭素原子が崩壊して高熱を出し数年前に発火したことを政府は確認しました。

炎は静かに燃え広がり昨年はアラビアでオイル層に達して爆発、今年に入ると大陸でくオイル層が燃え始め数年ごに地表まで達して炎の星に変わります。

海底は熱せられて海水を蒸発させ地球は熱い水蒸気の雲に取り巻かれます、日本政府はその事実を二年前に掴み今日まで対策を行ってきました。

わが国は銀河を支配する宇宙帝国と関係を持っていると報告します。

今回の災厄に対し宇宙帝国は日本人に植民する惑星と宇宙船を提供してくれました、惑星ギニアがその惑星です。

政府は列車を宇宙に走らせます宇宙鉄道です、ギニアは太陽系から二百光年離れ四十時間で走破します。国民のみなさまは無料で乗車する権利がありますのでそれに乗り惑星ギニアに移ります。

国民の皆様海に囲まれた日本は冷やされ熱がこもる量が大陸よりすくないために影響は出ておりません、列島は火山が多くマグマは流れ出すので圧力は溜まりにくく地下には油の層がありませんから爆発などもありません、安心してください。

政府は二年前から絶え間なく現象の進行状況を観測しており明日からは地殻の状況をテレビラジオで報道し非常事態になる以前に警報を出します、避難の方法などは全国の役所や役場で説明会を開きますのでご出席ください」

井上の声明が終わると国防軍総長竹沢元帥が特別声明を発表した。

「国民の皆様、国防軍は今より天皇指揮下を離脱し日本政府と行動を一致にし日本国を外国からの攻撃から守り国民の皆様の速やかな脱出を支援します」


木村は大学の研究室で聞き思わず持っていた本を落とした

「これが関大でやっていた研究なのか、官邸に行ってくるから君たちは今の発表の裏付けを取っていてくれ」木村は教室の研究員たちに伝えた。

「先生ー地殻が燃えているだなんて信じられないからあたしも行くー何でこんな重大な事を隠していたのか明子に文句を言うわ」

川野恵子が行くと宣言、二人で官邸に入るとホールには大勢の人たちが押しかけ事務職員が受付をしていた。

「川野さんこんなに人が来ているよ、これでは総理に会うのは時間がかかるなー」

「来られても総理には会えませんよー」受付の女性職員が答えた。

「俺は東大の木村だけどダメですか」

「ダメだわ、総理は脱出計画にかかりきりなの」

「東大の木村先生ですね、総理から来られたら渡すようにいわれてましたので」補佐官の石川がメモを渡しにきた。

「なにかな」木村が開いて読むと立花教授が指揮する全国的な観測体制を作るから木村先生は加わるかどうか検討するようにと書かれていた。

「先生どうしますか」

「立花さんからデーターをもらわないとなーだけど宇宙帝国と繋がりがあったとは知らなかったな」

「教授それどこではないでしょどうするの」

「川野さん本当にこのようなことが起きるのなら立花さんの研究室だけでは観測はカバーできない、俺たちの教室も参加するようになるから忙しくなるぞ」

「先生ーそれでは立花先生の下で働くのですか」

「川野さん日本の危機なんだ、上も下も無いんだ」


空港では仕事や行楽などで出かける人たちは自宅に戻り出先にいる人たちは帰宅のため手段を模索した。

羽田で飛行機を降りたときメンズは井上の発表があったと聞いた。それまで飛行機に乗ろうと待っていた人たちは一斉に帰宅したり搭乗受付カウンターに行き家に帰るための便をもとめ長蛇の列を作った彼らの動きを見ながらメンズは大使館に急いだ。


国連本部では日本政府の発表を寝耳の水、驚いた大使が集まり対応を協議。

噴火災害の後始末に追われている蘭国は日本の発表した事態は今回の噴火と関連があるのではと考えた。

「総長ー日本に情報の提供を求めてください」

蘭国の提案は多くの国の賛成を得て日本に事情説明を求めたが政府から返ってきた返事は以外な内容だった。

「日本政府は非常事態にあたり自国民の保護で手一杯、他国を助ける余裕はないからそれぞれ自助努力でこの難局を乗り越えられたい」

「総長ー日本は国を閉ざしました、入国査証が出ません」

「ルノン博士ー日本の発表したことは事実ですか」

国連総長のウラブレルは地質学者でもあるフランス人の議長に尋ねた。

「はい総長日本の学界では二年前よりそのような事を述べていましたがどの国も事実とは考えてません」

「なるほど日本は調査を公然としていたのですかールノン博士ー日本の言うような事態にはならないのですね」

「はいフランスの地質学会を代表してわたしはそう考えています」

「わかりましただがこれは世界の人々に不安を与えます、日本にこのような事を発表した真意を問わなければなりませんから安全保障理事会に諮り日本政府の真意を問いましょう」ウラブレルは議長提案で安全保障理事会に提案したがアメリカとロシアは拒否、結果を知らされたウラブレルはわなわな震えながら問うー「どうしてですかなぜ彼らは反対するのですかールノン博士」

ルノンはアメリカ大使と会談を持ち考えをただした。

「ハハハハ反対の理由ですか大統領の指示です、宜しいかな」レイホードはそれだけ告げると煙草を一服し立ち去った。

「くそー何を隠しているんだ」

「ルノン博士やむをえませんなー議長職権で総会に呼び出しましょう」国連議長の親書は即日日本大使の風間に渡され翌日には井上の手元に着いた。


「ほーうどうしたものですかな」井上は閣議の席で閣僚達に意見を聞く。

「総理ー先日の発表の事ですか、俺も具体的な事を聞きたいですが白瀬さんはこの件で中心的に動かれていると聞きました、どうなんですか」

「総理そろそろ閣僚の皆さんにお話しする頃合いですな」

「司令官これからは皆さんの協力が必要だ、説明を願えますか」

白瀬は立ち上がり閣僚達を見据えた、井上が信頼し入れ替えたメンバー誰も事実は知らされていなかったが井上の行動を受け入れていた。

「閣僚の方々月にある帝国の基地にご案内したいが都合はどうですかな」

「司令官ー月と言われたが行けるのですか」

「はははは総理の努力で日本にはすでに数十隻の宇宙船が帝国から供与されてギニア開発のため休みなく活動していますよ」

「ほーう大したものですな、それで月まではどれくらいで行けるのですか」

「三十分もかかりません、昼までにはここに帰って来れますよ」

白瀬の話に全員あきれたが断る人は一人もいなかった。

白瀬は官邸の玄関前広場に搭載艇を呼び閣僚を乗せて出発ー閣僚達は初めての宇宙旅行にそわそわしながら窓から土星の美しさに見とれているうちに月の周回軌道に入り地表に開いた進入口から降下してアルファー基地に降りた。

「司令官ーここが宇宙帝国の基地ですか」閣僚達は施設を眺め驚いた。

遠くはなれた場所で多数の輸送船が無数のコンテナを積み込み多くの兵士が乗り込んでいた。

「そうです川田大臣ー御覧なればお分かりと思うが帝国は撤収の最中だ、太陽系から引き上げるのです」

「なぜですかこれほどの施設を捨てるなどもったいない」

「地球の変動が原因です、彼らは事業で太陽系に来ていた帝国の市民を守るためここに駐留してましたが市民が引き上げるから必用無くなったのですな」

「それでは変動は事実なのですか?」

川田の問いに白瀬は頷き、閣僚達は目の前で繰り広げられている状況を理解し昼前に官邸に戻った閣僚達は帝国の存在を知り貌付きは真剣、その日休憩も取らず閣議が続行されてこれからの日本の在り方を討論し最後に国連への対策を話し合った。

「司令官ーどうするね、すべて知らせるのはどうかなと思うのだが」

「総理ー知らせれば彼らは事実と確信し脱出のため超光速の船を要求してきますが全世界を相手に拒絶できますかー日本には限られた数しかなく分けるほどはないのです」

「司令官日本で船は建造できないのか」

「清水大臣残念ながら建造する時間がない、完全にシステム化されている帝国でも二年かかると聞いている。日本で作るにはドックの整備から始めなければならず十年は必要です」

「すでに災害が起きているころかやむを得んな」

「総理真実は隠したほうがいいーその役目を幸子に任せてもらえませんか」

「奥さんにかー」

「ハハハハー幸子は出しゃばりに足があるような人間です、面白いですよ」


日本に着いたメンズは大使館からクラークと善後策を相談して委員会と話し合うのが最優先と閣議が続いている官邸に行かずエニービルにある委員会にやってきて外からビルを見上げ思った。

「アメリカエニーと同じつくりだな中も同じなのか」エレベーターで十二階のギニア開発の事務所に行き、正面はガラスウォールで囲われガラス扉を開けて入ると井上の発表を聞き相談コーナーはギニアの事を聞きに来る人が溢れ普段より倍の係員が窓口に出て説明していた。

「すごい人だな、すまんが責任者に会いたい」

「あんた誰」リリカが聞いた、普段はインホメーションにいるが忙しい時は手伝いに来る。

「わたしはアメリカ大統領の使いでメンズというんだ」

「ふーん聞いてみるからねー」リリカはテレビフォーンをかけ要件を伝えると会うと返事。

「委員長が会うって、ついてきて」

「幸子―案内してきたよー」

「ありがとうみどりさん」リリカはずーずーしく幸子の隣に座りニコニコ、

「メンズさんはたしか国務長官でしたわねどのような御用かしら」

「井上総理の発表を聞きました、あなたは宇宙帝国の方ですか」

「ほほほほそうともいえますわねー、それがどうかしましたか」

「帝国の方なら船をお持ちですな、いくらで売ってもらえるのかな」

「船は帝国のものですから売ることはできませんわ、アメリカを捨ててギニア王国の市民になるのならお貸ししますわよ」

「我々は独自で惑星を探すつもりだから船だけあればいいのだが」

「帝国は今総動員体制で地球から市民や資材の引き上げにかかっていますからお譲りできるほど余っていませんの、ー来られても無駄でしたわねお帰りくださいな」幸子はそれだけ言うと席を立つと出て行き、一人残されメンズは憮然ー大使館に戻り報告した。


サーシアの小遣い稼ぎ

ホワイトハウスの玄関前に豪華な車が止まり赤毛の女性サーシアが現れた。

玄関に来ると受付に寄った。「帝国政府から来ましたサーシアですわ、大統領とお話があります」

「帝国ですかー?」

「そういえばわかります、さっさっと呼びなさい」

「大統領ただいま玄関に帝国からだと女が来ていますが」

「なんだとー帝国からだとー」

「はいそうです」

「応接室へ通せ、失礼のないようにだぞ」

「大統領ーどうしますか」

「まずは来た理由を確かめなければクラークはチャールズを連れ応接室に入った。

「私が大統領のクラークだが」

「侯爵のサーシアですわクラークー幸子から報告を受けまいりました、始めに帝国は地球人を助ける義務はありませんの、誤解のないように」

「そういわれるが日本には船を渡したではありませんか」

「ほほほほ日本に渡したのはソラリス政府で帝国ではありませんわ、帝国は引き上げで総動員ですから余分な船はありませんのよ。どうしても船が欲しければワシントン美術館丸ごといただければ個人的にわたくしの船を一隻お渡しするわよ」


幸子は金の亡者

白石からホワイトハウスでサーシアがおこなった交渉の内容を聞いた白瀬はあきれて聞き返した。

「白石さん、それでアメリカは飲んだのか」

「今相談しているみたいだけどそれで決めるみたいよ」

「ハハハハーアメリカはサーシアに騙されるだけだ」

「騙されるって司令官どういうこと」

「サーシアはたった一隻渡すだけだから他の惑星などに行かれないよ、アメリカは船を作れると考えているからもらった船は調査のためバラバラー建造もできず美術品を取られて丸損だ」

「なんの意味もないっていうの」

「そうさーサーシアは合法的に欲しいものを手に入れるのさ、船だってどんなものかわからないぞ」

「どういう事よー」

「金の亡者が二人だぜ手を結んで考えるのはおなじさー」

「亡者って誰よー」

「サーシアと幸子さー、廃船置き場に眼をつけた幸子だぜ使い物にならない船を売りつけるのさ」

「まさかーそれじゃー詐欺じゃない」

「ハハハハアメリカは帝国に補償を求められないだろーあくまでサーシアが個人的にしたことだからな」

この時幸子はソラリスから届いた新造船百隻を月の工廠で機関船に改造中、日本政府に工事が終わったものから渡して試験運行をしていたが、船には商品の金物を乗せてソラリスの国々に送りソラリスから購入した新鋭機械をギニアに持ってこさせていた。

「そうよね空船で飛ぶのはもったいないからとテスト飛行で金物の運搬をさせるんですもの運送代金を国防軍の予算で払っていると総理は呆れてたわ」


ミリヤのアルバイト

試験運行に眼をつけたのがもう一人ミリヤがいた、彼女は地球から退避する市民が家具をコンテナに入れていたが運ぶ船がない、困ってベニーに文句を言った。

「ミリヤ―人が優先よ物は運べないわ」

「ベニー市民が軍の輸送船団が遊んでいるって騒ぐのよー何とかならない」

「ダメよー敵はいつ来るかわからないのよだから軍の船はいつでも出動できるように軍需品を積んで待機させるのが鉄則よ、民間で使うなんて考えられないわー」

しかたないわねーそうだわサチコがスクラップのテストをしていたわ

「もしもしサチコー」

「誰ー忙しいのよ」

「ミリヤーよサチコ、地球からソラリスまでコンテナを運びなさいよ」

「なんでわたくしが運ばなければならないの?」

「市民の家財道具なの、船があなたのとこしか空いてないからよ」

「わたくし引っ越し屋をするほど暇ではありませんわ」

「コンテナが三万個だからいいお金になるわー」

「料金をもらえるの・・?」

「もちろんよ一個五十トーラーよ」

幸子はすぐさま頭のなかに荷物室の広さを思い浮かべた。百メートルに三十メートルよ五段は重ねられるから一航海で三百個は運べるわ、総額で百五十万トーラーよミリヤどこに行けばいいの」

「秩父の地下空港よ」

「分かったわ、なんとか十隻送るわ」幸子は修理の終えた船にも国防軍の兵士を乗り込ませテスト運航をさせていた。

「司令官試験運行の追加です、百名よこせと奥様が言ってきましたわ」

「またかー何人連れて行ったら気が済むんだ、今回は何するんだ」

「コンテナをソラリスに運ぶそうですわ」

「今回こそは手間賃をもらわなきゃな、白石さん交渉してくれ」白石はエニービルにある委員会の部屋に幸子を訪ねた。「奥様ー司令官から兵士の手間賃をもらいたいと言われましたが」

「手間賃ですってー実地訓練なのよ、逆に授業料が欲しいですわガミガミ幸子は批判を延々と述べ最後に、「機会を差し上げたあたしは感謝されてあたりまえなのよ、わかったら帰ってそう言いなさい」白石はあきれながら司令部に戻り憤懣をぶちまけた。

「奥様には呆れましたわ、手間賃を要求するより感謝状を持ってこいですよ」

「くっそーあの銭ゲバめ今回もダメか」白瀬は宇宙に憧れている兵士を送り込むーこれで何人だ一人も返してくれんぞー

白瀬は嘆くが国防軍には宇宙に出られると若者のあいだで人気が高まりすでに十万人近くが新規に入隊しギニアの原野を這いずり回り開拓の先兵として重要な役割をこなしていた。

幸子は手に入れた兵士をギニア船団要員として輸送船の運行と管理要員としてすでに一万名を確保して地球とソラリスギニアなどの拠点に配置していた。

運搬でフルに稼働したから経験は豊富になり、植民開始時には政府の銀河鉄道船をしのぐ働きをする事になる。

月の基地で改修が終わった輸送船七十二番船を受け取った坂之下大尉は船長に任ぜられ、自分の船だと感じなから司令台に上がり操縦室の中を見回す、どこを見てもピカピカ機関は新品に交換されすぐにも飛び立てそう。

輸送船だが海賊の襲撃から守るため船体の前後に大口径のエネルギー砲が供えられており他に核ミサイルと武装搭載艇が二隻あった。超光速で飛ぶ核融合ミサイルに抵抗できるのは巡洋艦以上の艦だけだ、坂之下は地球では考えられない武装を持った輸送船に惚れた。

「この船ならアメリカをせん滅できるぞ」

坂之下を船団長に輸送船十隻は地下の空港に列を作り降りていく、「ハニーシティー管制だ、ギニア船団はナンバー九十から九十九のピットに降りろ」

管制塔から着陸地点の指示があり探すとそばにコンテナの山が見えた、奥が見えないほど積まれている。「大尉ーあんなに箱がありますぜ」

「うんあれを積むのかな」船はスコープ脚をせり出しながら降下、ガクン着地する。

「輸送艦へ貨物室の扉を開け、これより積み込みを始める」

船のスピーカーが喚き荷室係の黒岩伍長は上部扉を開き待っていると飛揚装置がコンテナを掴み飛んできた。

「わをーすごいぞ王国はああして積むのか」

コンテナは列を作り次々と積み込んでいくからあっという間に作業は終わり発進した、大気圏外で全船揃うのを待ちソラリスに向かった。

「大尉ー積み込みが大変だと思っていたけどみんなロボットがしてくれるのですね、こんな任務なら楽でいいす」

「無事にソラリスに着ければな」

「なんですー変なことは言わないで欲しいです」

坂之下は危惧していたが船団は無事ソラリスの空港に到着、荷下ろしが済むと黒岩が聞いた「大尉ー市内を見学する時間はありますよねー」

「無理だな、君も見ただろーあのコンテナの山を、あれを運び終えるまでは諦めろ」

「そんなーここまで来て遊べないなんて蛇の生殺しだー」どの船も同じような雰囲気、船長は部下をなだめ帰ろうとした。

「輸送船―扉を開けーこれよりギニアに運ぶ品物を積み込む」

巨大な機械が分解され梱包されて荷物室に入れられていく。

「大尉何を積んだんですかー」

「ああー伝票では工作機械だ、それと肥料かあの侯爵は俺たちをこき使うみたいだな」

船団はギニアに着きエネルギー砲で石化した地面に降りると飛揚機械が飛んできた。

「荷物室の扉を開けーぐずぐずするなー」スピーカーが喚いた。

「何だと―この野郎」

「黒岩やめろ」スクリーンに言い返しているのをみて坂之下は注意した。

「大尉ーあのやろう俺に喧嘩吹っ掛けてきたんですぜ」

「いいからー損するだけだぞ」

軍人の世界は狭いからどこに行っても喧嘩相手に出くわす、黒岩もそんな相手に出会ってしまった。

ギニアで喧嘩しながら作業しているころ幸子はミリヤから送られてきた入金伝票を眺めニコニコ。

「一航海十五万トーラーよ、あと十航海は固いわよね」

ミリヤもまた自分の口座に九百トーラーを入金「すごいわー、これはわたくしのアルバイトだからいいのよね、おうちでも買おうかしら」


幸子は国連で大騒ぎ

ギニア船団がフル稼働し資金が蓄積されていくのを確かめニコニコの幸子はアルファー基地に部隊の応援を頼んだ。

「侯爵国連ビルを封鎖すればいいのだな」

「そうよーこれからはわたくしたちに手だししないよう教育を与えるのだわ」

「分かった、大隊を送ろう」

幸子が招かれた当日の朝、国連ビル上空に全長百メートルの駆逐艦十数隻と数十機から成る戦闘機の編隊が展開、地上には広場に真っ白いロボット兵士の部隊が銃を担ぎ国連ビルに入館しようとしている人たちのチェックをして通していたから出勤してきた人たちは緊張しながら列に並び戸惑っていた。

「なんだーロボットのようだぞ」国連職員のビルはそんな様子を眺めて言った

「映画のロケだろー中に人が入っているのさ」同僚のハントは嘯く。

「こんな事言ってられんよ俺は入るからな」ビルは玄関目指して列から出て歩き出すが突然ロボットに塞がれた。

「なんだよー俺はここで働いているんだぞ」

「この建物は帝国が管理している、入館には所定の手続きを踏め」

「なんだとー誰が決めたんだー」

「誰でもいい従わなければ逮捕する」


大統領官邸ではクラークがデービスと口論していた。

「大統領ーニューヨークに未確認の戦闘艦隊が現れました、軍の出動を願います」

「ダメだ艦隊は帝国のものだ、彼らは国連ビルに用があるらしくってアメリカにではない、アメリカはギニアに植民するから国連の事で帝国とトラブルは起こしたくないからな」

「ですがこれではアメリカの威信が無くなります」

「デービス君、国民の命の前には威信などどうでもいいと思わんか」


国連ビルの前では市警の警官が警備に出動していたが飛行物体が降下してくるのを見た。「警視上空に円盤でーす」

円盤は悠々と着陸ー扉が開き大隊長のコルチナ中佐が降りるとキラキラと輝く指揮棒を振りながら兵士の間を巡り尋ねた「みなさん首尾は如何かしら」

「ハッ隊長順調です」

「よろしいですわ間もなく侯爵様が到着されます」

レモンイエローのミニスカ制服を纏い白く長い脚を際立たせて闊歩するコルチナは集まっている群集の眼をひきつけ得意満面の笑み、兵士の一人が集まっている幹部の前に来て吠えた。

「お前たち間もなく侯爵様のご到着だ、ついてこい」

「まてお前たちは誰だ何のためにこんなことする」

「ハハハハお前たちは侯爵様を今日の会議に招いたろー忘れたのか、帝国の貴族をよぶならそれ相当のもてなしが必要だーわかったら早く来い」

兵士は警察の指揮官グロモンをジロリ吠えた。「消えろ五分やる」

「ググググここはアメリカだお前たちに命令されないぞ」

「ハハハハ侯爵がお前たちには教育が必要と言ったのが分るな、貴様来い」

兵士はグロモンの襟首をつかむと引き倒し背中を踏みつけた。

「命令に従うかそれともここで死ぬか選べ」

「くそっ―引き上げろー」

グロモンはぼろきれのように警官たちの前に放り投げられすごすご去っていく直後円盤がもう一隻降りてきた。コルチナを頭に円盤の前で整列、敬礼で出迎え幸子は円盤から出て辺りを見回した。

「侯爵様ここは問題ありませんわ国連の方が出迎えています、お声をかけてくださいな」

「いいわよ、コルチナ中佐」幸子は並んでいる幹部を眺めニコニコと笑顔で言った。「皆さんお迎えご苦労様、議場に案内してくださいな」

ウラブレルは苦虫をかみつぶした顔して幸子を睨みつけるが兵士に守られているから手が出せない、ーこの女は誰なんだー

兵士に小突かれながら先に立ち議場に向かう様子をテレビで見ていた井上奈津子は呆れていた。

「お父さんー侯爵様はこんな事して恨まれるわよ」奈津子は他人事のように言う。

「おまえもそう思うか、ビルの中をみなさい兵士だらけで国連総長は面目丸つぶれだぞ」

ホワイトハウスに国連から救援の要請が来たがクラークはテレビで国連ビル前の広場で起きた出来事は見て知っていた。「チャールズ君軍の出動を禁じる」

「大統領どうしてですか」

「チャールズ君俺は帝国と手を握る考えだ、それが国民をギニアに植民させる近道だからな敵にはしたくない」

議場の入り口と部屋の中には国連の警備員ではなくロボット兵士が警戒に当たり幸子に敬礼をして通した。

各国の代表たちはロボット兵士に見張られながら席に着いていくが議長席に幸子が向かうと驚き抗議の叫び声を発した。

幸子はずかずかと議長席に上がってチラッと議席を睨みコルチナに目配せ。

議場の中はざわざわヤジと歓声が混じり騒々しいなかでコルチナはヤジを飛ばしている大使を腕で示すと兵士は空中を飛びながら摘まみ上げ通路に投げた。

ギャーアードッターンウワァー、暫く悲鳴が聞こえていたがやがて静まり幸子は大使たちに問いかけた。

「わたくしに聞きたいことが有るそうね、なにかしら」

連れ去らわれた大使をみて誰も発言しない、ウラブレルは総長室にいて事務長の報告を聞き怒りを見せた。「なんでアメリカは軍を出さない」

「総長ーアメリカ政府は国連の事には手を出さないと言っております」

「ふざけるな―大使を呼べ」

「呼んでいて何もないの?失礼ねー帰りますわ」幸子は呆れた。

国連の力でギニアを奪い取る計画だった蘭国のセ大使は出鼻をくじかれ幸子がコルチナとすたすた帰って行くのを挫折感を味会いながら見送り、テレビをみていた井上は島田を呼んだ。

「総理何か御用ですか」

「あー島田君間もなく人がくるが俺は出かけていないぞ」

「総理どこかにお出かけですか」

「ああーここにこもるからな」そう言って執務室の扉を閉めた。

「島田さんお父さんはどこかに行くの」

「はいーここで居留守ですヒヒヒヒ」部屋のドアを指で示し薄笑い。


アメリカは幸子に下る

二千二年六月資金を増やしニコニコの幸子へアメリカから会談の申し込み、幸子はふっと考えた。

「売りつけたポンコツ船の苦情かしら」

約束の日、エミリー大使に案内されてクラーク自らエニービルに現れた。

「クラーク大統領ですわ侯爵」エミリーがクラークを幸子に紹介した。

「よく来られましたわ幸子ですー今日はどのようなお話かしら」

「国連でのお手並み大したものですな、帝国は我々を石っころのように扱うのですか」

初めてお会いしたのに抗議ですか、大統領閣下も大した度胸ですわ」

「はははは褒めたつもりでしたが失礼した、今日は搭載艇で参りましたが国からここまで三十分もかからずに来ました。それで要件ですが先日ベニスから聞きましたが船は売ってもらえないがギニアの市民になるのなら植民の機会は頂けるのですか」

「ホホホホその通りですわ、具体的な条件は後で係りの者と相談ですが基本は簡単ですのよ、軍と外交は王国評議会が独占しますのであなたが放棄すればギニアのなかでアメリカ州として生きられますわ、政府は評議会の下に置かれ終身制の貴族院とそれぞれの州から議員を選びギニア王国議会を構成しますわ、各州の自治組織として地方議会が置かれて州内の行政に携わりますわ」

「侯爵そのなかで日本はどうなるのですか」

「ほほほほアメリカとなんの違いはありませんことよ当然よね」

話し合いは基本条件が合意できれば後は官吏に詳細な詰めを任せるだけ、クラークは銀河鉄道の設計資料を手にして国に帰った。

クラークはワシントンに戻ると閣僚を集めてギニア植民の計画を話し合っていたが補佐官のチャールズがにこやかな顔つきで部屋に入って告げた。

「大統領ー行方不明になっていたデービス長官の部下から連絡が入っています、帝国に捕まりギニアにいるそうです」

「なにーまだ繋がっているかー」

クラークは席を立つと急いで通信室に行き銀河ネットのスクリーンを見てホッとした。「君たち無事だったのか」

「はい大統領本官はジャクソン中佐ー部隊の指揮官で部下は全員無事です。

王国からアメリカがギニアに来ることになったからと釈放されました、これからどうすべきか命令をお願いします」

「ギニアにいるのだな、アメリカの部隊が間もなく向かうから彼らと合流したまえ、家族には連絡しておくから心配はないぞ」

数日後家族を乗せた宇宙船がグリジアの空港に着き再会を果たした。


蘭国の思惑

「主席、マグマの吹き出しは止まったみたいだがこれで終わりか」

「カイト委員ー科学研究院の所長に聞いたが国連では日本の発表した危機はありえないと断定したからこのまま収まるだろうと意見だ、どっちみち溢れたマグマが冷えて固まるまでは一年くらい掛かるそうだからそれまでは何もできんよ」

「主席ー国連の発表だが私は信じない、権力を守りたい連中のたわごとだな」

「カイト委員ーそのように言う根拠はあるのか」

「アメリカに潜り込ませてある諜報員からアメリカが太平洋の調査を一年以上続けていると報告だ、日本で円盤騒動が起きた時期から始められているこれは偶然か」

「カイトー何が言いたいのだ」

「主席ーアメリカは日本から地球破滅の情報をなんらかの方法で得て独自に調査を始めたのだ、アメリカは日本の発表が事実だと確信する証拠を持っているから見ていればいいー日本に追随するぞ」

「カイト委員君は国連の発表は間違いだというのだな、-それではわが国は如何すべきか提案を聞かせてもらおう」

「主席ーカイト委員の意見は聞きましたが俺は国連の発表に賛成しますな、地球が燃えるなど空想映画の見すぎだハハハハ」リュウは馬鹿にしたように言い放った。

「リュウ委員は物事をよく見てから言いたまえ、先月ここで起きた現象の原因を知っているのか」

「なんだとカイト委員ーあれは単なるホットポールの爆発だ、ここでは初めてだが地球単位では普通にみられる現象にすぎん」

「主席このような話を続けていても何の成果もありません、蘭国としてギニアへの植民にどう対応するか決めるべきです」カイトは決断を促した。

「主席私もそう思う、今は方針を早く決定し国内の復興に全力を注ぐべきです」

「他の委員諸君はどう考えるかヘナンー君はどう思うかな」

「ハッ主席ー儂は日本の発表は欺瞞でも真実でも蘭国の国民十五億人をギニアに植民など技術的に不可能夢物語に過ぎません、行きたい者だけ行けばいいと考えます」

「ふむー君は国民の意思に任せるというのか」

「俺は反対だ、それでは国内の復興はどうなる」リュウは吠えた。

委員会は延々と続き結論には至らなかったがカイトの意見は軍部を動かした。

紫禁城の中に置かれている参謀本部ではシュウ参謀総長が部下を前にして真剣な眼差しで語り掛けた。

「諸君ー儂はカイト委員から日本が公表した地球破滅論について国の安全を預かる軍としてどう判断するか聞かれた」

「参謀総長ーどのようにお答えしたのですか」

「フフフ儂は科学者ではない、判断は政府に任せるとね」シュウは一息いれ煙草をスパーと一息吐くとテーブルについている将官たちを見渡した。

「政治的な判断は別にして日本が異星の社会と繋がっているのが知らされたー放っていていいのか」

「総長ーその事ですが俺は信じられませんな今まで地球以外に生物が存在しているか調査をして来ましたが見つかっておりません、日本の言う宇宙帝国など想像の産物ですな、日本が世界をたぶらかす理由を知りたい」

ウンケイ陸軍大将は鼻息荒く発言すると室内は賛成の怒号に包まれた。

「ウンケイ大将に聞くが国連に現れた帝国の部隊はなにかな役者か何かなのか」ソウリン海軍総監は疑問を投げた。

「ハハハロボットなど着ぐるみに違いない、日本の特撮技術を使えば本物らしく作れるわい」

「そうかな、それでは円盤をどう説明する、あれも糸で吊るしていたのか」

「ググ何かの細工に違いない」

「どうやらウンケイ大将は頭が固いようだ、それで兵士一千万を統率できるのか、部隊に戻り意見をまとめて来てもらいたい」

「総長ーまずは日本の真意を探るのから始めるのはどうですか」

「そんなことは分かっている、やつらは惑星一つを自分たちの植民地にしようとしているのだ」

「そのような事は許せん」

「ならどうする蘭国も植民するか」

「そうすべきだーそうだーーーー」将軍たちから賛成の声が響いた。

「分かった君たちは植民地を持つべきだと考えているのだな、ではどうする」

「総長ー日本からギニアを奪い取ればいい、蚊ほどの戦力しかない国だ容易いだろー」キム航空総隊司令官が静かに語った。

「キム大将ー日本には帝国から与えられた空飛ぶ要塞があるぞ落とせるか」

「ふふふふしょせん飾り物よー図体が大きければいいものではない、戦闘機は要塞から離れて飛べば済むこと」

会議は意見が続き結論を得ないまま終了しカイトは日本に潜入させた諜報員に要塞の情報を調べるよう命じた。

この時日本にいたリンは情報部少佐の身分を隠し大使館を隠れ蓑にアメリカの動きを調べていた。

「コウー一年前CIAのデービスが来ていたが何をしていたのか調べろ」

「了解」コウはアメリカ国内に展開していたシンジケートを動かし、当時のデービスの動きを探るとリンに報告した。

「指揮官ーCIAは一年間に二十名近くの人員を送り込みギニア開発の女を目標に攻撃を繰り返しましたが敗退し多数の人員を失いました、それが総理の例の発表以来活動を停止しております」

「アメリカは何かしようとしているのかーコウ探ってくれ」

この時アメリカ国内では重化学工業から軍事産業まで大統領命令で列車の建造に取り掛かる直前だ、クラークが持ち帰った設計図書を参考に主要部は変えず居心地の良い室内へ変更が加えるなどしていた。

「指揮官ーアメリカは日本の宇宙鉄道に参加します、そのための車両の生産を始めました」

「コウーそうなると植民に動き出したのだな」

「はいそう思います」

「俺はシトラだ支配人に会いたい」コウはアメリカ政府が調達している機器を探ろうとエニーに行ってみた。

「フーンアポはないみたいね、会えないから一度戻って約束を取って来て」インホメーションにいたアンジェラは顔を上げずにそっけなく言った。

「いるのなら呼んでくれ」

「規則だから駄目よ、さよなら」アンジェラはそれだけ言うと違う客と話を始めてしまった。

「グググ俺を無視するのか」


ロシア

ロシアの大統領グロレオは国連の様子をテレビで知ると東京にある大使館に指示を出した。

「大使ーモスクワからです」

「何か言ってきたのか」

「はいーギニア植民の可能性を探れと指示です」

「そうか明日一番で官邸に出かけるぞ」

「大使ーギニアの話なら官邸より委員会よ」イリヤが話に口を出した。

「分かったギニアの委員会に会談を申し込んでくれ」

マルクとイリヤが開発委員会に出向いたのは二日後、マルクはエニービルに来て慌ただしいのに気づいた、広いホールは上の階から降ろされた荷物の山になっていた。

「イリヤいつもこうなのか」

「ううんいつもはチリ一つないきれいなホールよ」

インホメーションにより委員会室のある階を聞きあがっていく。十二階で降りガラスの仕切りの向こうが委員会室、扉を開いて入った。「ロシアの大使だが委員長に会いたい」

「おまちです、会議室へどうぞ」受付の女性の案内で会議室に入ると幸子が待っていた。

「委員長の幸子ですわ、ロシアの大使閣下がなにかしら」

「我が国にギニアへの植民を願えないかな」

「条件が合えば構いませんわ、これがギニア王国の条件ですから検討してご返事もらえないかしら」幸子は植民仕様書をわたした。

マルクはざっと見て特に問題になる項目はないと知ると尋ねた「ところで下がずいぶん混雑してますなー何が起きるのですか」

「ほほほほ避難するのよ、いよいよエニーもいなくなりますわ」

「ほーう日本ではすでに始まっていたのですか」マルクは災害が事実だと改めて認識し幸子から受け取った資料をロシアの大統領に送った。

グロレオは帝政になれ親しんでいたロシア市民は幸子の提案は抵抗なく受け入れると知っていたから植民は容易に決まり列車の建造にかかるとともに預けられた輸送船二十隻で植民地の整備にかかった。


ドイツ

ドイツのホイラー大統領は国連に帝国軍が現れたことで井上の話に疑問の余地がないと知り国連の判断に疑問を抱いた、「俺は日本人を知っている、彼らは始めるまでは慎重なのに今回どの国より早く動いたのは帝国から確かな証拠を見せられたに違いない、帝国と対等に話せるのは地球人の代表で日本人ではない、その事を実力で知らしめれば彼らも気づくだろう」

「ウイーンカッシュー帝国に地球の代表は我らゲルマンだと教えなければならん、日本を降伏させギニアを奪い取れ」

「はっ大統領ー日本の植民計画要領では国内の主要五百十二か所に銀河鉄道の発着基地を設けて植民者の乗り込みにほぼ一日停泊します、ギニアに行くには列車に兵士を潜り込ませるのはどうでしょうか」

「宇宙船を奪う方法はないのか」

「はい銀河鉄道の牽引船は衛星軌道から降りません、列車だけ降ろす計画です」

ウィーンカッシュは衛星軌道にいると考えていたが船は列車を切り離すと整備のため月の基地に降りる。

「大統領ー船を狙うのならギニア船団の輸送船ですな、相模湾に大規模な停泊地を持っていますがわが軍の力だけでは難しいでしょう」

「なぜだ」

「はいアジアまでそれも海に囲まれた島国です、入国制限をしている状況では兵士を送り込む手段が限られ少数しか作戦できませんーせいぜい潜水艦一隻に乗せ泳いで侵入する程度です」

「分かった、威力のある武器は持てないのだなうーん応援がいるなー」

ホイラーが悩んでいたころ隣国イギリスでは幸子から出された提案を審議していた。


イギリス

「首相ー国と王室を捨てろというのか」

「ロビンソン議員、ギニアに移るとはそういう事だ」

「王室の意見を聞くようだな」

「議員の諸君、我々には選択肢が三つある、侯爵幸子の臣下としてギニアに行くか幸子からギニアを奪い取るかそれとも何もせず地球とともに滅びるかだな」

「首相ー間違いなく事変は起きるのですか」

「ああーそのことはアメリカと意見を交わしたが間違いないそうだ、帝国の侯爵から船を一隻手に入れたが失敗した」

「どうしたのですか」

「研究してみて我々の能力では技術的に無理で知識を初めから学び直さなければならないとなハハハ」

「それではいやでも帝国から船を手に入れなければならないのですか」

「そうだ、アメリカの選んだのは日本と連邦を組むことだ、今ではアメリカでも列車を作り始めたよ」


フランス

大統領のスュルルガットは閣僚を集め世界の動きを話し合っていた。

「外務大臣ー日本の発表した事で世界はどう動いている?」

「はい、ロシアの動きが微妙ですな、アメリカは公然と日本と手を組んでおります、まあ―今までの関係からすれば当然ですな、それに対し蘭国は敵対している代表格ですか」

「ほーう代表とは他にもあるのですか」

「ええー日本と言う国ですがアジアでありながら蘭国の影響が及ばない唯一の国と言いますかー、ですから東南アジアの国々で日本と歩調を合わせる国はありませんな。それとまだ知られていませんが隣の国ドイツです、蘭国の敵対心を利用してギニアを横取りしようと画策している様子が見えます」

「そうですか世界は三分割していますね、わが国はどこを目指しますか」

「大統領ー問題は日本の主張する事変が起きるか否かです、調査はされているのですか」セオルビッテ内務大臣は尋ねた。

「ああーもちろん科学評議会に任せてあるからーもう判断できるのではないかな教育大臣」

「はい、評議会では災害の後何度か北海の海底を調べて原油の流出が爆発の原因だと意見で一致しました、海底はヘドロが十数メートル堆積し爆発跡を埋めていますから発生現場の特定はできませんでしたが特に変わったことは見られませんです」

「ふーむ、聞いた通りだセオルビッテ大臣」

「大統領ー国内ではどうですか、何か変化は報告ありませんか」

「うん特にないが、大臣は日本の発表を信じているのかな」

「ええー日本だけでなくアメリカも動いているとなれば一概に否定はできませんな」

「ハハハハアメリカは単にギニアに食い込みたいだけだ、地球から脱出するわけではない」

スュルルガットはベニーがばらまいたにせ情報に踊らされアメリカの本心を誤解したためフランス国民に脱出の機会を失わせる事になるとはこの時考えていない。

「大統領それではわが国はどう判断するのですか」

「フフフ決まっているではないか日本が銀河鉄道を開通させたらギニアに向かえばいい、無人の惑星だからな日本だけでは使いきれまい」

「分かりました、大統領は災害は起こらないとご判断ですな」セオルビッテはもはやフランスにいては先がないとこの時決心、家族をアメリカにいる友人へ預けることに決め妻のリリアンに言った。

「リリアンー君は子供たちと先にアメリカのジェリアスのところに行きなさい、話はついているからな」

「あなたはどうするのですか」

「俺もあとから行くから心配するな、事態の発生までまだ時間はあるからな」

国に見切りをつけたのはセオルビッテだけではない、数万の人々がギニアに脱出を目指しているアメリカロシアイギリスの国々へ縁故を頼り抜けて行った。


ギニアの会議

二千二年八月ギニアへ植民を表明したアメリカロシアイギリスの四か国の開発チームが揃い、グレジアシティーの会議室で睨み合いが始まった。

「この大陸はすでに日本で開発を始めてますからなあなたたちは他に願いますな」温帯に横たわる一千万平方キロの大陸を日本が占有すると宣言。

他の三か国はもともと日本の植民惑星に居候するのだからと渋々認め他の地を取り合い、アメリカは現在の倍二千万平方キロの大陸を得てニンマリ、残りは王国の直轄領となって全体の半分を占めていた。

裏話だがこの時藤田は赤道にあるギニアのハワイと呼ばれる島を欲しいとごねて宮城を呆れさせたが幸子の一言で収まった。

「藤田さん、あなたは影の功労者よー島の女王になるのもいいわね」

「えー奥様ーいいんですかー嬉しい」藤田は席から立ち上がり満面の笑み。

藤田が燥いでいるのを気にせず会議は植民者の食料が議題になった。

「食料などをソラリスから購入するため貴金属や芸術品などをソラリスで販売し帝国通貨に変えますので集めてください」委員会の購買担当官新倉が発言。

「財産を差し出せと言うのですか」

「強制ではありませんよ、ですが植民者は食べ物がないと困るでしょ」

「ググググ自給自足でやればいいのか」イギリスの代表はロンドン美術館の秘蔵品を手放すか自力で食料を調達するか二者択一を迫られた。

「そうなりますー王国の支援はただではありませんから、域内では自前の通貨でいいですがソラリスとの取引では帝国通貨しか通用しませんので選ぶのはあなただ」

ワシントンでは十月に入ると列車が一両完成したと報告を受けたクラークは開拓者を送り出す事を命じた。

「大統領ー向こうには何もありませんが」

「チャールズ補佐官ー残り時間がない、向こうには王国の都市があるから必用な物は手に入るはずだ、心配ない」

チャールズは不安気に部屋を出て担当補佐官に植民者送り出しを命じたが蓋を開けてみると十月は一列車一万三千人だったが翌月には十万人を超えアメリカ人の開拓者魂は今も失われていないことを示した。

二千二年十二月ー累計五十万人が広い新アメリカ州に入植、ソフィーとジャニスの夫婦は村ぐるみで干上がったテキサスの土地を捨ててギニアに入った、村人の数は合計百二十三人、開拓した土地はすべて所有できると山に囲まれた草原十二万ヘクタールを新たな村として政府に申請し地球から運んできた機械を総動員、半数で開墾にかかり残りの村人たちは山に入り食料を確保した。

「すごいわーここにもいるのね」ソフィーはジャニスが車に乗せてきた三頭の牛を見て喜んだ。

「ああーあの山の向こうにある草原にいっぱいいるよ、牧場を作るんだ」

「素晴らしいわーここに来てまだ何日もたっていないのよーあたしたち一躍牧場経営者ねフフフフ」

ジャニスは村人の力を借り農地に向かない山のふもとに柵を作り、百十二ヘクタールの牧場を作った。

ソフィーは手伝ってくれた村人たちに捌いた牛肉を作業の対価として渡し、農場経営をアピール。

その様子は取材に来ていたテレビ局が地球で放送したから人々をギニアに引きつけた。

「大統領ご覧になりましたか」

「チャールズ君何かな」

「ギニアに渡って成功した若夫婦の物語です、人々が早くいけば牧場が持てると列車に押しかけて大変ですよ」

「ほーうそんなことが有ったのか」


地球混乱の始まり

ヨーロッパの混乱

国連に帝国が現れた事でヨーロッパ各国は日本が帝国と関係を築いていることを認めるしかなかった。

すでにロシアとイギリスは日本と手を組みギニアへの切符を手に入れ、脱出の準備にかかっていると知りフランスとドイツは国策の誤りに気付いた。

ドイツ大統領官邸ーウラウピッテェ大統領は窓から外を見ていたが姿は不安そのもの、後ろに控える補佐官に問うた。

「グラウスー地球は終わりか」

「私にはわかりませんがいまだにこの景色が無くなるとは思えませんな」

「これからどうしたらいいー?」

「ギニアへの植民を進めるべきですな、そのためには宇宙船を手入れなければなりませんのでアメリカと交渉します」

ドイツはアメリカとイギリスに船の割譲を求めたが時はすでに遅かった。

ホワイトハウスの応接室で大使のシラクはじっと返事を待っていたが補佐官から大統領の意向を聞き希望が立たれたと知った。

「大使閣下ー日本が発表したときが大勢を決したときなんですもう遅いんです、これからは国のことより家族を助けるべき幸いあなたたちはアメリカにいるー脱出のチャンスがあります」

「君は国を裏切れというのか」

「はははは国民を守れない国など守る意味がありませんよ」

チャールズの言葉で大使の重しが取れた。

ドイツ大使は本国に結果を報告した後辞職願を送り付け音信を断った。

大使に逃走されアメリカとのつながりを断たれたドイツの大統領は幕僚長と軍総長を官邸に呼び情況を説明し決断を明らかにした。

「諸君かねてから検討していたが日本から植民地を奪い取る」

「大統領ー事態が起きても起こらなくとも植民地は日本人から奪い取るべきです、だいたい劣等民族のアジア人が宇宙に出るなどアーリア人の私には耐えられませんな」

「わしはまだ信じられんよ本当に起きるのかー諸君日本からギニアを奪い取る計画を立ててくれ」


フランスではべつの動きが始まっていた、イギリスアメリカの動きを見ていたフランスのプーリアス大統領は科学相から地球破滅が避けられない事態と知らされると脱出用の船の建造を命じた。

「大統領ー無理です、時間がありません」

「セイラスーなぜできないというー日本には何隻もあるではないか」

「大統領は日本から得ろと言われるのですか、ドイツや蘭国など申し入れしましたが拒絶されたのを覚えていないのですか」

「軍需長官ー国民の命がかかっておる、方法は問わずやるしかないがそうは思わんか」

「戦争になりますが」

「やむを得んよ、やらなければ絶滅が待っているのだ」

セイラスはプーリアスの気迫に押され省の自室に戻ると軍の友人を呼んだ。

「ナッシュビルー大統領の命令だ、わしは地球脱出のための宇宙船を作らなければならん、そのため日本の持つ船が必要なのだが手に入れられないか」

「軍需長官それは難しいな、日本とは離れすぎているから軍を動かせばすぐに気づかれるぞ。ここは小規模な部隊で隠密裏に奪うしかないな」

「できるかー」

「日本の大間港にはすでに諜報員を忍び込ませてあるからわかっているが船は奪えても手に入れられないぞ、それでいいのか」

「どういうことですか」

「船はコンピューターが管理しているらしい、たとえ船を奪っても人間には操縦が出来ないしコンピューターを外そうとすれば間違いなく自爆機能が働く」

「何も手に入らないという事か」

「その通り、奪い取るのはあきらめ独自に開発するのを進めるね」

「君のいう事はわかったーしかし時間と知識が足りないんだ」

「セイラスー日本やアメリカでは宇宙列車を建造していて超光速飛行は出来なくとも惑星間飛行は可能らしい、ギニアは無理だが火星には行かれるぞ」

「本当か」

「ああー帝国が日本に建造の技術的な知識を与えたようだ、彼らは帝国から重力のコントロール装置を大量に買った、それさえあれば気密構造の船体を作って宇宙を飛べるだろーだから君も資料をもらえばいい、超光速の宇宙船を作るより安くたやすいはずだ」

「分かったそれがあれば国民を地球から脱出させられるな」

「ああーそうだ、情報では帝国は月にある基地を捨てるらしい空き家になった施設を借りるのはどうかな」


ドイツやフランスの政府が対策を練っている最中宇宙帝国の出現に衝撃を受けた市民はギニアへの植民を目指してロシアとイギリスへ動き始め、ポーランド人で土木技師のジェイソンとロミはニュースで国連に宇宙帝国の代表が現れたと知り唖然。「日本の言っていたことが本当だったんだ」

「あなたどうなるの」

「ロミー日本政府は先月に発表しただろー地球に住めなくなるんだ、いままでいい加減な事だと誰も考えていたけど宇宙帝国が事実なら発表も嘘とはいえないだろー」

「どうしたらいいのよ」

「イギリスとロシアが日本と手を結んだらしいんだ、宇宙船を提供されたからやつらは脱出の準備にかかっているそうだ」

「ポーランドの政府はどうするつもりなの」

「分からないがドイツは日本に宇宙船を分けろと要求したらしいが拒否されたんだ、日本の建設会社で働いているデボンから死にたくなければ規制がつよくない今のうちに日本に来いと言ってる」

「政府には船がないのね、ドイツで造れなければ死ぬか日本に向かうかよね、あなた行く方法はあるの」

「危険だけど一つだけ」

「どうするの」

「俺が趣味で作った潜水艇だよ、あれで日本のどこかに上陸するんだ」

「そんなのムリよ日本まで何万キロもあるのよ」

「はははロミー近くまで船に積んでいくんだ、それなら可能だろー」

この時市民の一団が船で日本に強行上陸を計画していた、東南アジアから行くらしい。

ジェイソンは計画していたグループに接触が成功した、グループでは個人ごとにボートを使う者や水中スクーターなど様々な手段で潜入を計画していた。ジェイソンはそんな彼らの仲間に加わり持っていた土地や財産を金に換えて分担金を払い船で潜水艇と一緒に東南アジアの港に向かった。

地球脱出を計画していたのは彼らだけではない、多くのヨーロッパ人はドーバー海峡を渡ってイギリスを目指したがイギリス政府は大陸と繋がっている海峡トンネルを閉鎖し鉄道も止めて人の流入を止めたがボートで渡ってきて植民の担当大臣は苦慮していた。

「首相このままでは国内に外国人が溢れ計画通り植民が進められません」

「内務大臣ー君の言いたいことはわかるがどうしたらいい、帰れと言っても戻るような状況ではないぞ」

「首相ー彼らをドイツに帰す方法があります、帰して流入が止まっている間に海峡に機雷をまいて阻止線を張ります」国防大臣のサンダースが提案した。

「どのように帰すのかな」

「首相耳をお借りしますごにゅごにょ」

「君ーそれは可能なのか」

「私に任せてください、すでに計画は練っております」

サンダースの補佐官マーカイドは欺瞞の事実を知らされず大臣から大陸の市民を助けるのだと聞かされ意気揚々とドイツに着いた。

大統領官邸でウラウピュッテ大統領はマーカイドの訪問を受けた。「君がイギリス政府の使いか」

「はいマーカイドといいます、首相からギニアに一緒に行かないか聞いて来るよう命じられました」

「ドイツとイギリスが手を組む話かな」

「はいそうです」

「具体的な事を聞かせてもらうか」

「はい大統領閣下」マーカイドはサンダースから指示されたように伝え、存在しないレムリア帝国太陽系総督の植民許可書を見せた。

ウラウピュッテ大統領は会談を終えると直ちに閣僚を招集しイギリスの案を承認すると列車の建造に取り掛かった。


ドイツはサーシアの罠にはまった

「サーシアーヨーロッパで面白い事を始めたようね」

「はい皇后さま、ドイツは列車を作り始めましたわ」

「それでどう収める考えなの」

「イギリスが防衛体制が整うまで時間を稼げればよいのです、あとは幸子が収めますわ」

「ほほほどういう事かしら、幸子も知らないのではありませんか」

「ほほほほ細かい事は気にしませんと」

イギリス国内でドイツが列車を作り出したと報道を聞くとドイツ人は一斉に国に戻り始めた、列車の建造に加わろうがスローガンとなり国民一丸になって行った。

列車建造は隣のフランスにも伝わり、ギニア開発との交渉を目指していたセイラスを動かした。

「バランードイツに行き列車の設計図書を手に入れろ」

「はいーですが―わが国とドイツは関係が良くありませんが」

「そのような事は分かっている、なんとしてでも手に入れろー」サイラスは軍事的手段もいとわない。

バランは特殊部隊を結成するとドイツに乗り込んだ。

「フランス政府軍需省のバランです、大統領閣下に初めてお目にかかります」

「ふむーそれで何か用なのか」

「はい、お国で手に入れました宇宙列車の資料を一部いただけないかご相談に参りました」

「ほーうフランスでもギニアに行こうと考えられた、だがただで差し上げるのはなー」

「どれほどで譲ってもらえますか」

「出来高でどうかな建造した車両の三十パーセントを代償として頂きたい」

ウラウピュッテ大統領はバランの飲めない案を提示したが脇が甘かった。

列車建造現場では設計図書が無造作に取り扱われていたから作業員に化けた特殊部隊兵士が手にするのが簡単だった、兵士はまんまと設計図書を複写に成功したので部隊は退散フランスに帰ると検討に入ったが愕然ーこれでは意味がないと分かった。

「バラン重要な装置の資料がひとつもない、どういうことだ」

「セイラス大臣何が足りませんか」

「異星の技術全てだ、重力コントロール装置もない、どうやって飛ばすんだ」

「大臣これが全てですドイツもそれは承知のはず、どうするつもりでしょうか」

「ふむ考えられるのは完成品を帝国から購入だな、以前日本政府は大量に買い込んだと情報を得ていたがこのためだったのか」

「大臣だとしたらわれわれには手に入りません、帝国はわが国と接触しようとしません」

「それなら奪い取ればいいではないか、一組あればそれをもとにコピーを作れるだろー」

フランスで機器強奪の計画が進められていた時ドイツでは日本駐在大使がギニア開発に来ていた。

「委員長ドイツの大使が意味不明な事を言ってますが」

「なにかしら」

「列車に組み込む装置はいつもらえるのかとかです、どういう事ですか」

「知らないわードイツとは列車の建造契約は結んでいないはずよーいいわわたくしが聞きます」幸子は部屋を出て受付カウンターに現れるとドイツ大使を探した。「大使お久しぶりよね、何か欲しいですって」

「ああー委員長列車に乗せる装置だ、いつになったら送られてくるのかな」

サーべリッシュの問いに幸子は頭を捻った、ーこの人何を話しているのかしら

ー「大使何のことかしら、わたくしはそのような約束してませんわ」

「委員長忘れては困るこの通り許可書もあるのだぞ」サーべリッシュは太陽系総督がだした許可書のコピーを見せた。

「なにかしら」幸子は受け取って一読すると思わず笑みがこぼれた。

「これはずいぶん大仰に作られてますが偽物ですわ、誰が持ち込んだのですか」

幸子の偽物と言葉にサーべリッシュは唖然「嘘だーなんで偽物と言われる」

「ほほほほ太陽系はソラリス王国の領域よ帝国は総督などおいてませんわ、いない者の名前をかたるなんてこれをどこから手にいれました?」

幸子は用紙の図柄を見て思ったーこの用紙は帝国のものよ、地球では手に入らないわー、このような事を考えるのは彼女しかいない、幸子はこれがサーシアの謀略だと気づくのにさほど時間を要しない。ーなるほどねードイツを黙らせたかったのかしら。

「委員長それではこれは何の価値もないと言われるのか」

「そうですわ、わたくしではなくこれを持ってきた人間にお聞きなさいよ」

サーべリッシュ大使館に戻ると大統領に騙されたと報告。

ウラウピッテェはイギリスに怒りを覚えたが騙し騙されるのはヨーロッパの国々では日常茶飯事、気を取り直すと軍部が進めていた蘭国との共同戦線に舵を取った。

「軍総長を呼べ」

「大統領―お呼びですか」

「うむイギリスに騙された、蘭国との計画はどうなっている」

「はっ準備は出来ております、閣下の命令があり次第部隊は蘭国へ移動し潜水艦戦に取り掛かります」

「よし、実行せよ」

それから五時間後二機の大型輸送機に部隊が乗り込み蘭国の青島空軍基地に飛び立った。

































































































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