五人姉妹の長女と鳥籠女優のお話
初めての投稿なので、拙い文章ですがよければ読んでください。
私達は五人姉妹。 生まれた時から一緒で、生まれた時からテレビの登場人物だった。
一年毎に作品が変わり、私達も新しい役を与えられる。
しかし、毎作振られる役は脇役ばかり。
だけど五つの姉妹という関係だけは変わらない。
主人公とヒロインの赤子として、戦争が舞台の世界では戦争孤児として、中には仮想世界の子役だったりした。
一生演じ続けるしかない私達にとっては、せめて主役ぐらいは努めてみたいと考えるようになるのは至極当然だと思う。
『卒業』できたらどんなにいいかと毎年考えるが、私達に『卒業』を与えられた事は一度も無い。
私達に自由は無く、このまま一生鳥籠に飼われ続けるのだと半ば諦めていた。
しかし、そんなある時――。
「今作の配役ってなんでしたか?」
「スポーツ名門校の代表選手……だって」
「ふ~ん。 昔みたいなセリフも無い脇役よりは進歩したよね、私達」
「もう! どんな配役だろうとしっかり演じないといけないんだから!」
「はいはい、あんたのいい子ちゃんロールはもうお腹いっぱ~い」
「む~。 ロールプレイじゃないもん!」
「はいはい、そこまで。 喧嘩しない」
「美久、悪くないもん!」
「でたでた、『美久は悪くないも~ん』。 あんたいっつもそれよねぇ」
「こらっ! 梨沙もこれ以上言うと怒るよ」
「はいはい」
「うっ……ぐすっ……」
「美久はその嘘泣きを止めなさい」
「は~い」
「毎日毎日本当に懲りないんだから。 沙織と玲もなんで止めなかったの?」
「その配役は恵莉花お姉さまの物でしょ? 私が奪うわけにはいきませんわ」
「その配役は……姉さんの物。 私の……ものではない」
「はぁ……。 まったく、あなた達は」
そうため息をついた私は、ふと壁に掛けられた時計を見る。
時間は AM:09.55 と表示されている。 毎年配役は違えど、5分後にいつものスタジオで収録が始まる。
「みんな、そろそろ仕事の時間よ」
「「「「はーい」」」」
「気持ちを切り替えなさい、今日がラストよ。 私達に失敗は許されない」
AM:10.00 時間通り、いつものスタジオに足を踏み入れる。
ここは私達『演者』の戦場で失敗すれば後が無い。『言葉』と『感情』を武器に与えられた役割を演じる私達のステージ。
「さぁ、行くわよ!」
今日もいつも通り私達の役割が始まる。
撮影が進み、お昼にはお弁当を食べ、夕暮れ前には撮影が終了した。
「カット! OKです。 お疲れ様でした」
『『『『お疲れ様でした!』』』
スタッフや私達演者含めて沢山の拍手がスタジオ内にこだまする。
そう、予定通り今日は撮影している作品の最終話収録日。
拍手喝采の中、一人の男性がスタジオに入ってきた。
「皆さん本当にお疲れ様でした。 本日の撮影でクランクアップとなりますので、毎年恒例ではございますが、この後卒業の発表となります。 ご存知かもしれませんが、皆さんの中からただ一人が卒業となります」
『卒業』とは、毎年作品のクランクアップ時に女優の中から唯一人だけが選ばれる大変名誉な事。
卒業する演者は『女優』という鳥籠から脱出できる唯一の方法。
選ばれる事なくしては自由になることはできない。
私達もいつかは卒業したいと思い、毎年この時を心待ちにしている。
長女である私も、今年こそ! と意気込んでいるが、残念ながら一度も選ばれた事はない。
どちらかと言えば諦めている。
今年も私達五人姉妹以外の演者が選ばれるだろうと思う。
「さて、今年は誰が卒業するのか――発表します」
ジャカジャカジャカとグランプリの結果発表時に流れる音がする。
クランクアップが終わる度に流れる音で、毎年卒業生を見送ってきた。
「本年度の卒業生は……。 空鳥 恵莉花さんです! おめでとうございます」
沢山の拍手が贈られてきた。 大事な妹達も泣きながら笑顔と拍手を送ってくる。
「おめでとう御座います。 お姉さま」
「……おめでとう」
「姉貴、おめでとう」
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「みんな……みんなありがとう」
あぁ、なんて幸せなんだろう。
ようやく……ようやく卒業できるんだ。
幾度この時を待ちわびただろう。
1歩……2歩……3歩と前を歩きだす。
「みんな、先に行くね」
涙ではなく笑顔で、私は妹達に最後の言葉を紡いだ。 これ以上の言葉は私達姉妹には必要ないだろう。
もう後ろは振り返らない、私は自由だ。 あとは前を向いて飛ぶのみ。
両足で地面を強く踏んで私は飛び上がる。
夕暮れ近く、空が私を夜の世界へ誘い込む。
下から吹き上がる冷たい風も私を優しく包み込んでくれる。
もう、小さな鳥籠で空を眺める日々は終わった。
これからは憧れていた大きな空を自由に私は駆けるだろう。
小さな鳥達はそんな私を祝福するかのように優しく小さな声で鳴いた。
『あぁ、これで――』
ここは誰も知らない『撮影島』。
配役しか与えられない『人形』だけが住む空中都市。
不要になった人形は卒業すると処分という形で地上に堕とされる。
今年もまた一体、一つの人形が地上に堕ちてその身体を躯と変えた。
今後も毎年降り続けるだろう。 『撮影島』を人々が不要とするまでは……。
とある深夜アニメを見たその日の夢が結構ハッピーエンドだったので書いてみたんですが、
書いてるうちに結末がこうなってしまいました。