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桜子さんのショートショート

勇者 五右衛門参上!~福袋は神袋だったとさ~

作者: 秋の桜子

 ゴエモン ジュンビハイイカ コウリンノコトバ トナエロ


 福袋の中に入っていた、タブレットにそう標示がでた。さんざん、アレシロ、コレシロ、と注文を出してきたわけのわからんアプリ、ゲームなのか?なんなのかはわからないが、取り敢えず、最終段階らしいので、ここまで来たのなら、とそれに冗談半分に応える。


 一人暮らしのワンルームでもあるので、誰に見られる事もない、聞かれる事もない。


 福袋に入っていた何処か紋章の国の勇者を彷彿とさせる『装束』にバッチリ身を固め、手には俺が名付けたその名も『斬鉄剣』まあ、アレに『ナマエヲツケロ』と、指示された袋に入っていた剣のレプリカだけど……


 デパート販売員、二十八才、彼女、昨年クリスマスに去って行った、哀れな独身兄ちゃん、正月過ぎの四日の深夜、コスプレ衣装、手には斬鉄剣、反対側の手には『かみぶくろ』に詰め込んだ、カップ麺やらパンやら諸々……それにタブレットを放り込むと、まあ、この言葉にしとこう、


「勇者五右衛門!参上なり!」


 剣を空に捧げるように、一言カッコつけて言った。かー!ハズ!恥ずかしいぞー!一人暮らしでも引くー!


 ごっ五右衛門って!我ながらハズ!タブレットに何かハンドルネームをだったから、コレにしたけど、ハズっズー!衣装とまるで違うじゃん!こっぱずかしー!



 ☆☆☆☆☆


「はい?五右衛門って、そんなのりでここに来たの?」


 呆れた様に魔法使いが言ってきた。賢者もドン引きで俺を見ている。はぁ、まぁ、そんなのりですみません、と取り敢えず返事を返しておく。


「信じられませんね。本当にそうなのですか?勇者五右衛門は、我々とは違い、完成された状態で、この世界に降り立った時、既に神の福を授けられいた聖なる者、ですよ?それが、はい?」


 賢者もやはり、つっこんできましたか、そうなのですが、そうなのですよ。俺は皆様の様に、彼方の世界で試練やら苦難の人生の果ての『転生、転移』とは、ちょっとだけ、すこーし違うのです。


 福袋に入っていた。カミブクロに入っていた、タブレットの要求に応えて、そこに入っていた衣装を身にまとい、参上ー!と冗談半分に言ってみたら、ここだったという、気楽な情けない勇者なのです。でも名付けた武器のお陰で、最強とはなっているのです。


 貴方達を危険にさらす事など、今の今まで一度足りともなかったでしょう、この世界には『こんにゃく』は存在してませんから……


 なので、そんなつめたーい視線で、ここ、少し縫製が悪いわよ、と細かい事を言ってくるお客様の様な、冷酷な空気を可哀想な俺に、投げつけないでください。


 くっ、何で、何で……何でこうなってしまったのか……ああ!パーティーメンバーのお二人が、無言で、宿の食堂の席を立って行かれました。お二人からすれば、俺は理不尽な存在なのかもしれません……


 ☆☆☆☆


 あれ?限定販売の福袋が残った?ヤバい!数、きちんと数えていたよな、何故余るんだよ!ヤバい、仕方ない引き取っとくか……


 俺は担当の紳士服コーナーの限定二十袋……の筈だったのに、一つだけ残ったそれを見つけたのは、閉店寸前、もうお客様の姿は無い。一般的な袋は余っても、しばらく売り続けるからいいのだが、


 このイタリア産小物色々詰まってる、ワイシャツ三枚入ってる、ちょっとおしゃれなサラリーマンの貴方のための一袋、というこっぱずかしー名前がつけられた限定品は、余ってはいけない。


 限定二十の名前が廃る上に、フロアーマネージャーのおばちゃんのご機嫌が、ご機嫌が、悪くなるではないか!悪くなると、おばちゃんからのお年玉『地下売り場特製豪華お弁当』がもらえなくなってしまう。


 なので、俺はダッシュで、おばちゃんに見つからぬ様に、それとなくそれを掴むと、さささっとレジに通し、売り切りった!と報告。そしてお弁当を手に家路についたのだ。


 部屋に帰り、まぁ中身は知ってるけど確認すっかー、別のホールから持ってきて、置かれてたら……実家に送ろう、と重いながら封を開けると、驚いた事に何と、タブレットが出てきたのだ。


 はい?家電からか?でもその下衣服だし?剣?おもちゃ売り場か?うちのデパート、アニメショップ入ってないし、別の店の袋か?しかし、うちのロゴだしな……?


 中身はわけのわからんモノが、入ってる。まぁ、後で確認するか、と取り敢えずタブレットをオンにしてみた……


 アナタノナマエヲ ニュウリョク カッコイイナマエヲ ニュウリョク コウカイスルカラ カッコイイ ナマエヲ ニュウリョク


 はい?何これ……何かのアプリ?カッコイイ名前って?まぁ、この前ゲームで冗談半分でつけたアレにしとこう。と俺はうちこんだ。


 ゴエモン ゴエモン イマカラ シジニシタガエバ ユメト キボウト メイヨトチイト カネヲ アタエヨウ イエス ノー


 はい?やっぱ、ゲームアプリでも入ってたか?取り敢えずイエス、でどうなる?


 ゴエモン ゴエモン マズハ ショクジヲシロ ハラゴシラエ タダシ アルコール キンシ イエス ノー


 はぁ、まぁそうさせていただきます。俺はお年玉の特製豪華お弁当を食べる。ビールが飲みたかったのだが、取り敢えずやめておく。で、終われば、どうしよう、気になるタブレット。


 イエスと書き込んだ。何が、どーなる?気になって寝れん。


 ゴエモン ゴエモン フロ フロ セットモスル イエス ノー


 はぁ、まあ、そうさせていただきます。俺は浴槽に湯を張ると、入りそして言われた通りに髪を乾かして、イエスと書き込む。どーなる?これ?


 ゴエモン ゴエモン ショウゾクニ キガエロ キチント キガエロ


 はぁ、まぁ、そうさせていただきます。ここまで来たなら、コスプレの様なそれを着てみましょうか、興味が無いとも言えません。そして、イエス、と


 ゴエモン ゴエモン ケンニナマエヲ ツケロ ツヨイ ナマエヲ ツケロ ソレガ ブギノ チカラニナル


 はぁ、まぁ、そうさせていただきます。五右衛門なので、アレにしましょうか、と俺はそれに名前をつけた。そしてイエス


 ゴエモン ゴエモン カミフクロニ ショクリョウ ツメロ ショクリョウツメロ


 はあ?わけのわからん事に少し考えていると、タブレットのソレが、セッションを要求してきた。


 ゴエモン ゴエモン カネガバンバン ハイルゾ サイゴマデ ヤレ カネ バンバン


 はぁ、まあ、そうさせていただきます。金は欲しいですからね。働けど、働けど、我が給料上がる事無く……取り敢えず片付けたらいいか、と買い置きのカップ麺やらパンやらスナック菓子を詰め込んだ……


 ☆☆☆☆☆


 ああ、何でこうなってしまったのか、あの後袋の中のタブレットが、カッ!と光ったので、反射的に目を閉じた俺が再び目を開くと、そこはお約束の展開だったのだよ。


「勇者殿ー!御光臨、皆の者!我らをお救いになられる勇者殿が、御光臨されましたぞー!」


 異世界の神殿、一段高くなっている舞台に俺、立ってたのだよ。カッコつけてるのは当然だよ。


 そう指示が書かれていたのだから……仕方ないよ、名前も俺はしっかりと言ってたしな。勇者五右衛門ってさぁ、さぁ、かー!こっぱずかしー事思い出したよ。


 目の前には神官始め、王国も、家臣も兵士も、国民も、ずらーと平伏してんだよ。コスプレ衣装のデパート販売員にさぁ、


 お救いくだされーってさぁ、デパート販売員の俺に願いをこめてるその、圧倒的な力を持った視線が集中したのだよ。


 だから……だから、断れなかったんだよ。泣きたくなったよ。神官が俺に言ったんだよ。俺の手にした袋を見て


「おおー!それが『神袋様』我が神がその『福袋、紙袋』という発音に引き寄せらると、一つの袋に御光臨されし御品、素晴らしいそのお力、我らに、完全されたお方様を召還させるとは!これぞ神の奇跡」


 はあ?何でそうなる?何でそうなるー?何でそうなるのか?


 すると、中身は神とやらが詰めたのか?一つ中身を棄ててか?


 それとも、一つ余分に作ったのか?人智を越える力を使ったのかぁー!何をしてくれる、何を!余計な事をしやがるな!


 責任者出てこーい!このクレームは何処に言えばいいのだ?色ムラがあるって、ほつれがあるって、汚れがあるって、見えんのだけどな、俺には見えんのだー!


 でもすみませんと、クレーム言われたらキチンとマニュアルに従ってだな、処理してるんだ、だから、たがら……


 何で、紙袋に神袋がゴロで重なっただけで、袋に神さん降臨するのか!誰か説明しろー!と俺は叫びたいところだったのだが……


「勇者五右衛門殿、我が国をお救いできませんか、そのお力をお貸しください。この通り、国民に成り代わりお願いいたします」



 国王陛下にそう丁重に言われ、しかも深々と、頭を下げられ、美人な王妃様にも下げられ、美少女の王女様からは、ラブ視線を贈られたらー


 頭を下げる日々を送っている俺には、なんというか、あがらえきれない高揚感に襲われてしまったのだよ。


 最近、色ムラやらほつれが、に悩んで転職考えていたのも引き金になったのさ。そして気が付くと自然に……



「はい、かしこまりました。全力で対応いたします」



 そう、転職してしまった。


 この世界で勇者家業に転職となった。


 デパート販売員が勇者五右衛門になった瞬間。

 

 まぁ、そうさせていただきます。


 神様に選ばれた事ですし仕方ない、これも運命です。


 イエス……でよろしいです。はい。



『終わり』






















































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