第1章10 Operation Table Dragger 2-2 王女
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザード・アクチュアル〕
〈高速情報艦”ドライケンプブルグ” 艦内 - 晩餐室〉
老年の男 ―― もとい副元帥付き執事がドアを開けた、
その先には物凄く豪華で高額そうなインテリアに囲まれたロングテーブルや椅子が見え、テーブルの上には人数分の銀食器。そして天井にはシャンデリアが吊るしてあった。
「・・・・すごい。」
私は思わずそう口走ってしまった。
「どうぞどうぞヘール方々、お好きな席に。」
そう副元帥に言われ、私、アッテンボロー、コンパイル少佐とCIC副室長のウェッセンシューロン中尉はそれぞれ好きな場所に座った。私が座った正面には副元帥、そして右横にはアッテンボローとその隣にウェッセンシューロン中尉が居た。
「まるで小さな宮殿ですね。」
私は正面に居る副元帥にそう言った。
「そうですなヘール・・・・元は言うとこの晩餐室、皇家関係者専用に設計された物なんですよ。」
「へぇ・・・・・皇家ですか。」
「ええ・・・来ましたよ。」
すると私の前 ―― 副元帥の後ろに位置するドアが観音開きに開き、白黒フリルのメイドが十人 ―― 一部は銀メッキなカートを押しつつ ―― 出て来た、そして彼らは我々の前に前菜の肉のステーキとサラダを出した。
「ヘール中将、頂きましょう。」
「では・・・・。」
私はそう促されば拒否する訳にも行かず、ステーキをカットしてサラダと共に口に運んだ。
「これはうまい!!」
「うまっ!!」「美味いですね。」「素晴らしい。」
私を見た他の3人はその料理をそれぞれ口に運び感想を述べていた、
それを皮切りに晩餐は始まった。
「副元帥、これは貴国の何という・・・・?」
「その前菜はアンテイルペウザーと言いまして、ジャーメルライヒ産ロトブッレの肉を塩でまぶしアンテイルというソースに漬けて焼いた物に、アンテイルをゲルミューズ・・・・食用菜にかけた・・・まあ我々にとって朝食で食すほどの国民食です。
中将の口に合った様で、良かったです。」
すると刹那、
「皇女殿下の、ご入来ぃー!!」
そんな声と共に右奥のドアが開き、人が出て来た。
そう、皇家である。
出て来たのはまだ女性とも呼べぬ年若な少女であった、白を基調とした青と赤のまるで軍服のデザインの様な服とジャケットに。また紅色のロングスカートと白のロングソックスを履いていた。まさに、人々が呼ぶ美少女である。
まあ・・・・・・可愛らしい美少女である。
「このお方は ―― 。」
すると彼女はそう言おうとした副元帥に制止を掛け、
「妾の名はフロイライン・ヴォン・エリン・ジャーメルライヒ、乗船を歓迎する。
そして妾の晩餐会を楽しんでもらって嬉しい、ヘール方々。」
そう言うと彼女はその緑色の目を私に向けてきた。
私は、
「フロイライン殿下、我々一同この晩餐会を楽しんでおります・・・・・ありがとうございます。」
そう言った。
すると彼女はモジモジし、
「そ、そうか・・・・それは良かった。」
「? どうかされましたか、殿下。」
「い、いや・・・。
妾も食べるかの。」
そう言い、トトトと奥に空いていた席に座りアンテイルペウザーを食べ始めた。
[一時間後]
「このアンテイルペウザー、素晴らしく美味でした殿下。ありがとうございました。」
晩餐会も終わり、私はそう殿下に礼を言った。
「そうか、妾も嬉しいぞ。」
さっきから彼女は何か・・・少し顔を赤くして照れている、何なんだろうか。
「では殿下、我々は会談が ―― 。」
そう言いかけた副元帥をまたもや彼女は制止し、
「カイテル、妾はこのヘール中将と一対一で会談したいのだ。」
「しかし、殿下・・・・・。」
「カイテルパウアー ・・・、二度は言わぬぞ?」
「・・・殿下の御心がままに。」
すごいなー殿下パワーは、こっちまで気圧されるな。
私は直ぐ様、
「アッテンボロー、コンパイル、ウェッセンシューロン。」
「「「はっ。」」」
「副元帥閣下との会談に臨んでくれ。」
「はい。」「了解。」「そちらも頑張れよ、ニヒヒヒ。」
ちっ、アッテンボローはいつも一言多いな・・・・悪友め。
そう言う間にも私と殿下を除く他は晩餐室を出て、残ったのは私と殿下だけとなった。残るものと言うとただ一つ、静寂だけである。
「さて・・・・殿下、会談はここで?」
「いや、妾の部屋で。」
彼女 ―― もとい殿下は私にそう告げ、晩餐室のドアを開けた。
殿下に案内され晩餐室を出て、彼女と一緒に歩くとやけに豪華に装飾された廊下にたどり着いた。
「ここが妾の部屋じゃ。」
そしてその廊下の奥に位置している観音開き式のドアの前でそう言い、ドアノブをひねり開けた。
ドアを開けた先には、まさに宮廷映画や歴史長編ドラマなどでよく見かける光景が広がっていた。
広々とした部屋にレースをつけたクイーンベッド、紋章が付いた調度品、金銀宝石が鏤められたシャンデリア、エトセトラ。
「お帰りなさいませ、殿下。そちらの殿方は・・・・。」
すると白黒フリルなメイド服を着た2、30代のメイドが近寄り、礼をすると殿下にそう聞いてきた。
「こちらは妾の客人・・・あの艦隊の司令官じゃ、シュレンネイダー。」
「!! あらあら、これは大変ご無礼を。」
殿下の返答にメイドはそう驚き、
「ヘール閣下。エリン殿下の従者をしております、エヴァンチェリンと申します・・・どうぞお見知りおきを。」
私の方に向きそう言って礼をした。
「は、はぁ・・・・。」
「ではヘール閣下、私はお飲み物の用意を致しますので・・・・。」
そう言いそのメイドは別の部屋へと消えていった。
「さて・・・”本題”の前に、”妾”の話をするかの。」
メイドが去るのを確認するかの様にそう言い、彼女はフゥ、と一息付いた。
「ここからはお堅いのはなしじゃ、そう・・・・・妾の事はフロイライン、と呼んでくれ。」
「では・・・・フロイライン様」
「様、もなしじゃ。」
「はぁ・・・では、フロイラインと。」
「うむ、くるしゅうない。
・・・妾の父上と母上はジャーメルライヒを統治しておった。」
そう言う彼女の顔は・・・・、そう・・・回想に耽る少女の物だった。
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ CIC副室長 ヤマモト・ウェッセンシューロン中尉 TACネーム: ローレライ コールサイン: チャーリー2〕
晩餐の席で司令と別れた私達は、会議室で副元帥との会談に臨んでいた。
「さて、デーム・ウェッセンシューロン。会談を始める前に紹介したい。」
そう、この会議室には別に数人の将官が居るのだ。
「まず共和国海軍第2艦隊のオーギュスト・ザムエル・ワーレン上級大将。」
「どうぞよろしく願う、デーム。」
赤茶の大柄な男がそう言い、
「共和国海軍第1遊撃艦隊のショルツ・ビッテンフェルト中将。」
「よろしく、デーム。」
赤色のイノシシみたいな男が言い、
「共和国海軍 第2近衛艦隊副司令のアマデウス・バイエルライン少将。」
「どうぞよろしく、デーム嬢。」
「共和国海軍参謀局のタレントル・ヴォン・グレービー少将。」
「どうも。」
年若な男2人がそう言った。
「そして共和国海軍元帥付参謀のシークフリート・アイゼナッハ准将。」
最後にガリヒョロな中年が礼をした。
「ではまず我々ジャーメルライヒ帝政共和国について説明しよう、
ジャーメルライヒ帝政共和国はスイース大陸の東北部にあり、南にコルリス帝国と北にウスリタン王国が面しています。人口は300万、代々世襲の国家元首が国を治めております。
軍事力に関しては、海軍が大陸第四位の強大な物で、陸軍もそれなりにある。
さて、グレービー少将・・・・今回について説明を。」
「はい、
さること3週間前、フリッツ陛下宛にコルリス帝国国王の名で書簡が送られて来ました。その内容は”盟国になり領土を明け渡せ”という、何とも理不尽な物でした。陛下は当然お怒りし、これを無視いたしました。
その1週間後、再び同じ書簡が送られ。そして先週、コルリス帝国軍は宣戦同時攻撃をして来ました。
陸軍はほぼ総崩れ、頼みの綱だった海軍も半数がコルリスの息がかかっており降伏いたしました。
私の居た参謀局は幸いフリッツ陛下の下で動いておりコルリスの息はかからず、しかもこの事をすぐに察知致しました。陛下の勅命で首都に居た艦隊の内、第2近衛、第3近衛そして第2親衛艦隊は我々参謀局、少数の陸軍そして殿下を連れ出港致しました・・・・しかし第1近衛、第1と第3親衛艦隊は陛下の殿する為残られました。更にコルリスの息がかかっていない半数は殿をする為に残ると決められた5個艦隊を除く17個艦隊が全て我々に合流いたしました。
しかしナイトハルト・ミュラー准将の第362戦闘群とアルベルト・メッツァー中将の第3艦隊の行方が不明です。
これが今回についての概要です。」
「・・・・。」
つまり彼らは隣国に潰された訳か・・・何とも悲しい。
「・・・・ありがとう、では貴国について聞こうか。」
すると何とも言えない顔の副元帥がこちらに振って来た。
「了解しました、では・・・・
我々ユーレイン連邦国は今朝、原因不明の事情によりこちらの世界に移転いたしました。」
「何だと!?」
「「えっ!?」」「「「「「「「何!!」」」」」」」
「そんな事が・・・・あるのか!!!」
ビッテンフェルト中将がそう叫び、テーブルを叩いた。
「言葉を慎め中将。」
そんな中将に副元帥は鬼面でそう告げた。
「はっ・・・すみません閣下。」
「しかし・・・そうですか。」
鬼面から神妙な顔つきに戻った副元帥は、そう言った。
「はい、副元帥閣下・・・
そして、貴国は我々ユーレイン連邦に亡命を希望しておられるのですね?」
副元帥に対して私はそう言い、彼らの本音をぶつけてみた。
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザート・アクチュアル〕
メイドの出した紅茶を2杯も飲み終わる頃には、彼女の話もほぼ聞き終わっていた。
「・・・・・・。」
彼女と私との間にはただ静寂だけが残っていた。
「・・・・頼む、」
すると彼女はその緑色の瞳を私の目線に合わせ、そう沈黙を破った。
「は・・・・?」
「頼む!! 妾・・・・いや妾達を救ってくれ!!
必要とあらば・・・そなたに妾の体を捧げても良い!!」
体を迫り出し、私の顔に近づいてそう叫んだ、何か今サラッとあかん事言ったなこの殿下。
「ちょちょちょ・・・殿下、つまり貴方方は亡命を望んでいると?」
すると彼女はコクリ、とウルウル目で頷いた。
「はぁ・・・・ちょっと時間を・・・。」
そう言いポケットから軍用タブレットを出すと、電話帳からある人物に連絡を付けた。
〈こちらコヤブ、・・・ヤンか、どうした?〉
その人物とは、私の兄で海軍元帥の森田三辻である。
「ちょっと問題が。」
〈問題か・・・珍しいな、どした?〉
「今件の不明艦隊の首脳と会談しているのですが・・・先方がこちらへの亡命を希望しています、どうします?」
〈亡命か・・・少々厄介だな・・・
(ブルーコバルト・・・・総帥、フォード島沖の不明艦隊が亡命を希望していますが・・・・如何いたします?)(今は情報が求められているし、傷ついている他人を無視できないわ・・・・亡命の件は許可するわ、あとは第3艦隊に任せて。)(了解。)
・・・・亡命の件はこの通りだ、残りはヤン・・・・・頼んだぞ。〉
「了解しました。」
〈ではな。〉
そう言って電話は切れ、私は息を吐き出した。
「フロイライン。」
すると彼女は悄気た頭を上げ、私を見た。
「亡命の件ですが、今上層部に確認した所・・・・認めるとのことでしたので我々第3艦隊が責任を持ってその言葉を実行致します。」
そう告げると彼女の顔がぱぁ、っと明るくなり。
「ありがとう、ヘール!!!」
私に抱き付いて来た。
女性特有の柔らかい匂いと温かい体温、そしてそれに混じって香水を感じれ。CかDあるその豊満な胸が私に押し付けられた。
「・・・・あの・・・・。」
「あ、ああ・・・・すまないヘール。」
しかし彼女の顔は、何か不満か?という顔だった、
いやはや・・・・。