第1章9 Operation Table Dragger 2-1
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム:ヤン コールサイン:ウィザード・アクチュアル〕
〈艦隊旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ CIC〉
[2分後]
あれから何だかんだ言って、結局の所私達第3艦隊と不明艦隊との空包の撃ち合いは2分も続いた。
「さて・・・・どう出るかな、室長?」
「さあ・・・・。」
室内から火薬のむんとした匂いが消え、ただただ静寂のみがCICを支配した。
5分・・・・
10分・・・・
20分・・・・、そして25分・・・・。
「出ないな・・・。」
「はい。」
「司令!! 不明艦より発光信号です!」
「読めるか?」
「はっ・・・では、
” こちら・・・えーっとジャーメルライヒ? 帝政共和国海軍、貴艦隊の活躍にいたく感動した。謁見を求む”
です。」
「ふーむ・・・室長。」
「は。」
「中央司令部に報告してくれ。」
「了解。」
室長はそう頷くとCICを出た、
だが彼がCICを出たと同時に。
「司令!! 不明艦隊から通信が発信されています。」
「掴めるか?」
「はっ・・・・微弱ですが即に特定されています。」
「・・・・分かった、スピーカーに出せ。」
「はい。」
するとCICのメインスピーカから大量のノイズを伴った音が聞こえてきた。
〈ザー ザザザーッ、 ガガピピピーッ・・・・
こ・・・ら、ジャーメルライヒ帝政共和国・・・軍副元帥のリヒャルト・ヴォン・カイテルパウアー。
貴・・・隊の奮闘に感・・・した、よしんば・・・答されたい。〉
「オペレーター、マイクを。」
私はCIC内の通信オペレーターの所へ歩き、そう言った。
「どうぞ。」
オペレーターからマイクを受け取った私は、PTスイッチを押し込み話し始めた。
「ユーレイン連邦海軍 第3艦隊司令官の森田呉里中将です、通信の感度を上げられたい・・・・副元帥閣下。」
〈ザザッ・・・これで良いか?〉
「はい。」
〈では・・・・ウェンリ中将、一度会談を行わないか?〉
「・・・はい、こちらからそちらへ行きましょうか?」
〈ふむ、そうされたい。〉
「了解しました、いつ頃に致しましょう?」
〈では・・・30分後でいいか?〉
「・・・はい。」
〈では・・・また会おう、中将。〉
そう声の主 ―― 副元帥は言うと、通信は終わった。
「ふう・・・ありがとう。」
「はっ。」
「これから忙しくなるぞ・・・・
格納庫のシーホークをいつでも出せるように、人選もだ。
本艦のみ乗員用武器庫を開放、各兵装も実弾を装填しいつでも使用できるように。
百が一、万が一の為だ・・・・ブリッジに戻る。」
「「「「「「「「「了解。」」」」」」」」」
私はそう令すると、CICを出た。
〔ユーレイン連邦海軍 特殊強化グループ チーム1隊長 河元 虎朗 少佐 TACネーム: アッテンボロー コールサイン: アルファ1〕
〈艦隊旗艦 プリンツ・オイゲンⅡ 後方ヘリ甲板〉
仲間からマージャンで金を巻き上げている所に司令の身元警備を行なえとのお声がかかり、俺は装備を数分で整えヘリ甲板へと向かった。
「よう。」
「あ、アッテンボロー。」
俺の士官学校からの旧友は、白い将官礼服を着て他の人員と共に居た。
「お前さん、どう思うよ?」
「何が?」
「・・・今回の事だ、この功で消されるか昇進するか・・・・な。」
「・・・その状況による・・だな。」
「はは、お前さんらしいや。」
すると格納庫から白色塗装の シコルスキー MH-60R LAMPSⅢ シーホークが出てきて、ローターが回転し始めた。
「よし・・・行くぞ。」
旧友はそう告げると、俺と他の随伴員に搭乗する様に促した。
〔ユーレイン連邦海軍 第3艦隊 司令官 森田呉里 TACネーム: ヤン コールサイン: ウィザード・アクチュアル〕
[10分後]
〈フォード島沖上空 - プリンツ・オイゲンⅡ所属 シコルスキー MH-60R LAMPSⅢ シーホーク(コールサイン: ベクター)機内〉
甲板からシーホークに乗り込んで十分経った所で、件のジャーメルライヒ某が見えて来た。
「機長、発光信号は使えるか?」
ローターの消音装置が効いている機内で、私はそうパイロットに聞いた。
「はい、どういたしますか?」
「こう信号を送ってくれ、
”こちら森田呉里中将、通信求む。”
これを2回だ。」
「了解です。」
すると機長は機首のリモート式ライトを操作し、信号を送った。
[さらに2分後]
「司令、不明艦隊から通信です。」
機長が発光信号を送ってしばらく、シーホークの機内は静寂その物だったが機長の声によって元に戻った。
「貸してくれ。」
「はい。」
そう言うと彼はヘルメット内蔵インカムの使用権限を移してくれた、私は自分のヘルメットの側面に付いているPTスイッチを押しこう告げた。
「こちらは森田呉里。」
〈おお、中将か。〉
「我々のヘリ・・・・、ごほん 回転翼機が見えますか?」
〈ああ、ハブスチラウバー・・・いや回転翼機を誘導すれば良いか?〉
「はい。」
〈では・・・(サーチェンテを点灯させろ)(全てですか?)(ああ。)
今私の座乗している艦の夜間灯を全て点灯させた、見えるか?〉
するとシーホークの窓から見える薄暗い艦隊に、戦艦サイズの光の塊が見えた。
「はい。」
〈それの後方に着陸してくれ。〉
「了解しました、では。」
そう言うと私はヘルメットを取り、こうパイロットに言った。
「彼の言った通りだ、着艦させてくれ。」
「はっ。」
シーホークは高度を下げ、上空を一回転する様に飛行すると着艦準備に入った。
しばらくして、シーホークは副元帥が指示してきた戦艦級船舶の後方 ―― つまるところ艦尾に着艦した。
「ドア開けますよ。」
「ああ。」
私と共に付いて来た随伴員の一人、司令付参謀のコンパイル少佐がそう言いシーホークのスライドドアを開けてくれた。
「ありがとう。」
「いえ。」
外は即に夜で、暗くなっていたがこの戦艦級船舶とその周囲が出す明かりで何も問題はなかった。
しかしながら、今私が立っている戦艦クラス船舶 ―― いやもうこの際戦艦と言うべきか ―― はかなり異様だった。
そう、戦艦の要である主砲を搭載した砲塔が存在していなかったのだ。
1906年にかつての大英帝国が世界初の弩級戦艦 ―― ドレッドノートを建造してからというもの、戦艦には大小差異はあれど主砲は搭載している物だ。
―― いやこれは異世界から来た艦だな、まあいいか。
さらに深く考えると、旧日本帝海の扶桑型にも少し似ている。
そんな考えに耽っていると、数人の男女がブリッジかこちらに歩いて来た。
一人は金髪の中年男、
一人は茶髪でスポーツ刈りの若くあどけない男、
一人は黒と茶のミックスでセミロングの髪を持った女性士官、
一人は”ガリヒョロ”なインテリ系男子、
そして、一人はボーイッシュな女性士官であった。
「あ・・・・。」
「モリタ・ウェンリ中将かな?」
金髪の中年が私達の前でそう言った。
「はっ、そうです。」
私はそう言い、中年に対し敬礼した。
すると中年は答礼し、
「そうであるか、
私はジャーメルライヒ帝政共和国海軍副元帥、リヒャルト・ヴォン・カイテルパウアー。
貴官に会えて光栄極まる、ヘール。」
「貴方が・・・・、こちらこそ私のような物が。」
そう会釈した。
「中に案内する前に紹介したい、よろしいか?」
「はい。」
「では・・・、
右から私に付いている参謀のカーテライト・クライツェル少佐。」
「カーテライトです、会談の間は書記として同道します。よろしくお願い致します、ヘール方々。」
ボーイングな女性士官がにこりとしてそう言った。
「次に情報将校のマクペル・ブレーザー少将。」
「ブレーザーです。」
「次にこの高速情報艦”ドライケンプブルグ”の副艦長、エリカ・デートルリッヒ・ヴォン・バーベルファイザー大佐。」
「エリカです、見学してくれてありがとうございます!」
セミロングな女性士官がスマイル全開でそう言ってきた。
「最後に、”ドライケンプブルグ”の艦長、アルバート・フロンツェ中将。」
「どうも。」
「おいおい・・・・中将、他にも言ってくれ。」
「はぁ・・・・まあ・・・なんか中将しています。」
「・・・・という事だ、彼は艦運用の仕事があるので別行動となる。
さて、中へ案内しよう。ヘール。」
そう副元帥は言い、艦内へと案内し始めた。
〈高速情報艦”ドライケンプブルグ” 艦内 ―― ブリッジ〉
シーホークから我々は副元帥達に案内され、左舷から艦橋構造物に入ってエレベーターでブリッジに上がった。
ブリッジでは士官・下士官などが忙しく動いており、どの時代でもブリッジは変わらないものだと感じ得た。
私はつい、
「変わりませんね・・・・。」
そう思わず呟いた。
「おや、中将・・・驚かないのですか?」
すると副元帥がそう尋ねて来た。
「いや、私も新任の頃はこの様な艦の艦長をしておりました。」
「ほう。」
「今でも私の旗艦は古風でして、7、80年前に建造された艦なのです。
ま、中身はほぼ別物ですが・・・。」
「ヘール中将閣下。」
するとセミロング士官、もといエリカ大佐が尋ねて来た。
「はい?」
「質問いいですか?」
「どうぞ。」
「中将閣下の・・・ユーレイン?連邦では戦艦を如何程所有しておられるのですか?」
「戦艦ですか・・・軍事機密で多くは語れませんが、予備役艦隊一個で残りは”軍事遺産”として各地に保存されています。」
「ええっ!! それだけですか?」
「はぁ・・・、そうです。」
まさかとは思ったが・・・・大艦巨砲主義か・・・。
「そうですか、ありがとうございます!! ヘール。」
「はい、そう言えば」
「はいっ?」
「ヘールって、どんな意味があるんです?」
「あ、ごめんなさい。
ヘールっていうのは、古ジャーメルライヒ語で”様”っていう意味があります。」
「そうか、ありがとう。」
「勿論です!!」
この人、スマイルマシーンだな。ニコニコの加減がない・・・・。
「・・・・中将、次の場所へ案内しよう。」
するとスマイルマシーン、もとい大佐を待っていた副元帥がそう言って来た。
「はい。」
「と言ってもすぐドアの向こうだがな、どうぞ入ってくれ。」
副元帥はそう言い、加密性の高いドアを開けた。
・・・・なんだこれは?
ドアの向こう側は青色灯のみが付いており、モニターや電算機器などが配置された一種の戦闘指揮所(CIC)だった。
オペレーターが十人、この場所に詰めており彼らはヘッドホンを耳にモニターへと向き合っていた。
「これは・・・?」
他の随員も似た様な考えのようで、周りをキョロキョロしていた。
「これは ―― 」
「副元帥、これは私から説明致します。」
「・・・そうか。」
するとガリヒョロもといブレーザー少将が副元帥にそう告げた。
「ヘール方々。」
少将はこちらを向いた、そして
「この区画は我々ジャーメルライヒ帝政共和国海軍が開発・実用化に漕ぎ着けました”E”計画の一部・・・・”戦闘集積所”であります。
考えるに、この計画は既存の戦闘体系を大きく変化できる可能性を秘めています・・・・。ヘール方々、特に中将閣下。」
「はい?」
また私か。
「閣下はどう思われますか?」
「我々の運用思想に少し似ていますね、本当に。
ですがこれ以上の事は軍事機密故、発言できない事をお許し下さい。」
このままペラペラ言ってしまったら、あかん。
俺のカンがダメだと言っている。
「そうですか・・・・感謝しますヘール中将。」
「では次の所へ・・・・。」
[一時間後]
「そろそろ晩餐の準備も揃うところか・・・・どうです?」
会談より何か観光ツアーの様な事をして1時間、副元帥がそう言って来た。
「よろしいのですか? 私の様な・・・・。」
「いいのだよ、ヘール中将。いやウェンリ中将。」
「では・・・・お言葉に甘えまして。」
「向こうで”本題”について会談と・・・・会って貰わなければならない御方が居るからな。」
「はぁ・・・・。」
そんな話を副元帥としていると煌びやかに外装が施されたドアの前にたどり着いた、ドアの前には執事らしきスーツの老人が立っていた。
「セバスチャン。」
「カイテルパウアー様、晩餐の御準備が出来ております。」
「そうか、入る。」
「かしこまりました。」
そんな会話が副元帥とその男の間に続き、その老年の男はドアを開けた。