校長先生の睡眠魔法
「ギル〜!こっちこっち〜〜!!」
ミラが大きく手を振って手招きしていた。
そこはルイーズ村の中心であり、数台の馬車が駐留しているターミナル。
馬は貴重な動物なため個人で所有している家はほとんどなく、保有している家は金持ちか野生の馬を手懐けたかのどちらかだ。
村人の移動手段の中心である馬車は1日に数本だけ王国方面に出ていた。
その中の「カラバ行き」という馬車の前にアルフォンスとミラは立っていた。
「この馬車がカラバ行きなの!そろそろ出発するらしいから、先に乗り込んでおきましょう。」
すでに数人乗り込んでいた。
商人や旅人の姿があり、中には知った顔の人物もいる。
「おや、ミラ。後輩かい?」
「あ、ペッツさん。おはようございます。」
「おはよう。おお、エドワードさんとカインさんのところの子か。そうか君達も今日からスクールの生徒か、よろしくね!」
「よろしくお願いします。」
2人は小さくお辞儀をした。
ペッツは村長の1人息子だ。
父親を尊敬しており将来は親の仕事を継ぎたいと考えているらしく、カインの勧めでスクールに通っている。
馬車は定刻通りに出発した。
馬車の通る経路は基本的にのどかな風景が続く道で、基本的に魔物などは現れない。
それは、カラバの街に王国の兵隊が駐留しているため、定期的に警戒を行なっているからだ。
物流のインフラを整える事が国の血脈となる事を理解している、先代国王が進めた政策のうちの一つでもある。
ガタガタと揺れる車内では子供の声が聞こえる。
「ねえ、なんでギルは鉈なんか持ってるの?僕は持って来てないけど、必要なんだっけ?」
(アルスなんで気付いたの!?)
「え?これ?ご、護身用?かな?」
「ギル、あんたスクールをどんなとこだと思ってるの!?」
ギルフォードは鞄の中から鉈を取り出した。
「そ、そうだね、とりあえず、在学中は鉈の出番はないと思うな〜〜。ギルフォード君それはずっと鞄にしまっておいた方がいいよ。」
ペッツは冷静を装っているが、目の前で刃物を持った後輩に少なからず動揺しており、
そこから話に加わらないように自習を始めた。
「そ、そうですよね、わかりました。」
(わかっとるわーい)
「そういえば、ギル。今朝の剣撃すごかったね!あんなのどこで覚えたの?父さんもびっくりしてたよ。」
「そうそれよ!アタシも聞きたかったの!!特にあの腰から抜く構えなんてどこで覚えたの??」
「あんなの、アタシも習ってないよ!!」
「あ、あれか〜〜、むか~しに、父上の仕事でユグドラシルに行ったとき、手に取った本に書いてあったよーなーなかったよーなー。。。」
「ねえ!その本のタイトルは覚えてないの!?」
「え、タイトル!?。。。。えっと~~、ご、五輪の書?。。。。ゴニョゴニョ」
「ゴリ?え?」
「ゴ、ゴーリンの書?だったかな~~、確か。」
「ゴーリンの書か、うーん、思い当たるところがないわね。覚えておくね!」
「あ、その~、結構前に読んだやつだからどうかな~、間違ってたらごめんね~。」
(五輪の書って宮本武蔵だっけ?居合いだっけ?二刀流だっけ??)
「もしまた読む機会があったら今度は私にも貸してね!」
「あ、そろそろ、カラバの街につくよ!」
ユグドラシル王国に属する街カラバ、この街は王国の玄関口の役割を担っており各村の貿易拠点となっている。
多方面から行きかう物流はこの一箇所に集中し、食料品・衣類品・武器・宝石など大抵のものがここで手に入る。
門には警備兵がおり通行する馬車を一つ一つ検問していた。
普段はあくまで門を守護する程度だが、近隣で賞金首の目撃情報があったため一台一台を検問しているようだ。
門を抜けると馬車はターミナル広場に到着した。
大きな建物が立ち並ぶ街の道路は石畳で綺麗に整地されており、すべての通りが舗装されている。
ギルフォード達は馬車を後にした、入れ替わりでルイーズの村に向かう人々が乗車する。
ターミナルは村の中心に位置しており、目的地がどの方向でも容易に向かうことができる。
スクールは南東のあたりに建造されており、大きな敷地と建物は一目でわかるほど存在感があった。
このスクールという教育機関もユグドラシル王国が進めた施策の一つで、国力の増強を図るために意図したものらしい。
事実、元を辿れば建設から100年近く経つ由緒ある教育機関であり、
その恩恵は計り知れないものであった。
ギルフォード達が正門をくぐるとすでに多くの生徒がいた。
「わーー!!すっげーーーー!!ギルあっち見てよ、魔法の訓練してる!!あっちは剣術かな!?」
「すっげーー!!人もいっぱいだー!!」
アルフォンスは落ち着かない様子であたりをキョロキョロと見まわしていた。
登校中の上級生達が温かい目でクスクス笑いながら見守っている。
「ちょ、ちょっとアルス!恥ずかしいからあんまり大声で騒がないで!友達に笑われちゃうじゃない!」
「ああ、ごめんごめん。でもなんかワクワクしちゃって。わっ!何だあれ!!」
「なんだアルス、不安なんじゃなかったのかい?」
「そうなんだけど、同い年くらいの子が剣術とか魔術とかの訓練をしてるの見たら、なんだか体がウズウズしてきたんだ!!」
「早く行こうよ!ねえ、早く早く!!」
「ちょっと、わかったから落ち着いてよ!目立っちゃうじゃない!」
たしかに周りから痛いくらいの視線が3人には向けられていた。
確かにアルフォンスの言動は、はつらつとしており目を引くがそれでもここまでの注目は浴びないだろう。
そんな周囲の中から2人の影が近づいてきた。
「もう目立ってるぞ~、ミラ。」
そこには二人の少女の姿があった、
一人は金髪のポニーテールの少女、ところどころで紫のメッシュがはいっており、
キリッとした眉毛が印象的な少女。
名前はルル・ニードル。
もう一人の方は、少しボリュームが多い新緑のような緑色のくせ毛のロングヘヤーをもった、
ジトっとした目をした少女。
名前をアイナ・パブロン。
2人はミラの同学年で学友だった。
「あ、おはよう。ルル、アイナ。」
「おっす、おはよう!」
「お?そいつが噂のアルスとギルだな~?よろしくぅ!!」
「アタシはルル・ニードル!ルルでいいからな!」
「私はアイナ・パブロンといいます。」
2人はアルフォンスとギルフォードに挨拶した。
「ルルさんアイナさん、よろしくお願いします!アルフォンス・ジルフィールドです!」
「よろしくお願いします、ギルフォード・デオワルドと申します。」
(わ~、ミラの友達か~、いったいどんな子だろうな~。」
アルフォンスとギルフォードが一通り挨拶を返すと、
ルルがズイッと値踏みをするように2人に近づいた。
「いいね!新入生は元気が一番だ!」
「へぇ~、二人ともかわいい顔してんね、そしたらお姉さんが学校案内してあげよっか~?」
「ちょっとルル!あんまりこの2人をからかわないでよ!」」
「ルル、だめだよ。」
ルルに割って入ってきたのはミラではなく、アイナだった。
「多分2人はこの後入学式だから、案内はその後じゃないと。」
アイナは両手でギルフォードの手を握りじっと見つめていた。
「弟みたいでカワイイ、私弟いないからミラが羨ましい。うん、お姉さんが案内してあげる。」
「ええ!?ちょ、ちょっとアイナまで!?」
「もう!!私たちも遅刻しちゃうよ、早く行かないと!」
「いい!!アルス、ギル!!ここからはアンタ達だけで行くのよ大丈夫?」
「わかった、ギルがいるから大丈夫!」
「おいおい、また僕頼りかよ。」
「じゃあ、後でね!」
「え~まだいいだろ~~~~。ちょ、ちょっと~~からかっただけじゃ~ん!!」
「アルスく~ん、ギルく~んまた後でね~!」
「私はからかってない本気だった。あ~、また後でね~。」
ミラが二人の服を掴んでグイグイと校舎まで引っ張っていった。
ルルが名残惜しそうにヒラヒラと手を振っている。
(良い子たち。。。だよな?変な友達だったら遠回しに注意しようと思ったけど大丈夫そうだな。)
「さあ、初日から遅刻はまずい。アルス、僕たちも行こうか。」
このスクール名前をアトラス学園機関といい、生徒は1,000人以上が在籍している。
敷地内には寮も併設されており、遠くの村から学びに来る生徒もこの学生寮を利用している。
一番目を引くのがアリーナのようなコロシアムだ。
最新の技術を集めた建物は在校生を全員収容したとしても客席にはまだ余裕があり、最大で10,000人は収容できる程キャパシティだ。
ここまで大きな規模を誇る理由は、年に数回王国などで行われる催し物。
学校行事もそうだが、街で行う祭典や、コンサートなど行われる際に使用されるため、
必要以上の規模で創設されている。
そのほかにも大きな講堂も併設されていてコロシアムのそれとは打って変わり、
非常に長い歴史を感じる作りで、実質学校が建設されるずっと前から教会として存在しており学術的にも由緒正しき建物なのであった。
「“新入生は講堂に集合すること”って書いてあるけど、講堂ってどっちだろう。ミラに聞いておけばよかった。」
(それにしても広いな、気を付けないと迷いそうだ。建物も大きいしほんと○リー・ポッターみたい。)
「!?」
何かに当てられたかのようにアルフォンスは周囲を警戒している。
「アルスどうした?」
「うん、なんだか見られてる気がするんだけど。。。。」
「うん、言われてみれば確かに。。。」
ギルフォードとアルフォンスは周囲を一度見渡す。
毎日エドワードと稽古をしている2人は若干だが人の意識や思念といったモノを感覚的に感じ取ることができるようになった。
しかし、周りには人はいるものの特に特異な視線を放つ存在は見つけられなかった。
「気のせいかな、なんだかすごい力を感じたきがしたよ。」
「たしかに僕も感じた気がする、気のせいだと思いたいが。。。」
(早速誰かに目をつけられたかな?あんまり目立つことはしてない気がするけど。)
「とりえず遅刻しないように急ごうか、これだけ人が多く集まればそうそう手出しできないだろう。」
「そうだね、初日に遅刻はよくないもんね。」
2人は講堂に向かって歩を進めた。
気付けば、周りは歳が同じくらいの子供たちであふれている。
講堂前の受付に到着する頃には受付待ちの生徒たちで周辺はごった返していた。
そんななか、一部で人だかりができていようだった。
「ね、ねぇ、横入りしないでよぉ。じゃないと。。。。」
「ああん?オレ様が横入りしたって?」
「もししたとしても、それがなんか問題になんのか?」
「いいぜ、ほら先に行けよ!?行けるならな。ぎゃははは!」
「女子のくせに口答えできんのか~?できね~よな~?ぎゃははは!」
「ブースッ!ぎゃははは!」
「そ、そんなぁ。。。。。ブツブツ」
そこには3人の子供がおり、威圧的な態度を周りにとっていた。
先頭には甘やかされて育ったであろう体型の子供、
他2人は顔と目の細長い子供と、小柄で可愛らしい顔をした子供の男の子三人組。
彼等もまた今回の入学生であった。
(うわ~、でたでた。これでだけ多くの生徒いたらDQNも絶対いるだろうなとは思ったけど、早速見つけちゃったよ。特にあのブタちゃんがタチ悪そうだな、見るからに躾がなってない。鼻水を服で拭った跡があるし、爪の間は汚いし、髪はボサボサだし。ほんとこっちの世界でもいるんだな~。)
(待てよ、このパターンって、多分アルスが止めに行って騒ぎになっちゃうやつじゃないか?)
「おい、君!!なんで順番を守らないんだ!!」
(うわ、やっぱり。。。。ん、誰??)
3人組に近づいて行ったのは眼鏡をかけた男の子だった。
当のアルフォンスはギルフォードの隣で眼を見開いて3人組を見ていた、
いつでも飛び出すことができるように姿勢を深くとっている。
否、飛び出すというより攻撃を避けるように姿勢をとっていたのだ。
静かなトーンでアルフォンスはギルフフォードに話かける。
「ギル、鉈持ってたよね?貸して。」
「待てアルス、流石に刃物はダメだ!ん!?」
その瞬間にギルフォードもその場の雰囲気に気が付いた。
そう、彼が見ているのは3人組ではない、順番を抜かされた“異様に長い髪をした女の子”だ。
彼女はブツブツ言いながらゆらりゆらりと体を揺らしている。
それはメトロノームのように奇妙な程、正確に揺れていた。
(おいおいなんだ、こいつ?なにする気だ?おい、メガネ君!近づかない方がいいぞ!)
「僕はさっき見ていたぞ!君たちが横入りしたところを!」
「そもそも、女性に対してその口の利き方はないだろう!!」
「だったら、なんだっていうんだよ!おい!殴るぞ!!」
様子を見守っていたギルフォードだが行動を開始する。
「ダメだ、あの子達殺される。行かなきゃ!!」
アルフォンスが大きく息を吐いた。
ふぅーーーーっ!!
アルフォンスが飛び出そうとしたその瞬間、
パンッ!!パンッ!!
と手の平で叩く音がした。
あまりにも場違いな音に、
それまでの張り詰めていた雰囲気がガラリと変わった。
「はいはーい、ケンカしないでさっさと並んで下さいね〜。」
その音の主は中年の女性だった、表情は穏やかで常にニコニコしている。
誰がどう見ても普通の中年女性だ。
「さあさあ、アンタ達は横入りしたんだろ?なら1番後ろに並んだ並んだ。」
「え、はいオレタチはモトモト並んでましたから!だから僕悪くないデス。」
「え?さっき横入りしたって言ってなかったかい?ウソじゃないだろうね?アタシはウソつくヤツが嫌いだよ?本当の事なんだろうねぇ?」
女性が3人組にズイズイと顔を近づけると、3人組はガタガタ震えだした。
目には涙を浮かべ、少しズボンも濡らした彼らは、急いで列の最後尾に並び直したのであった。
「そんで、ユラユラ揺れてるアンタ、。あんまり無闇やたらと考え込まないで、まずは先生達に相談しなさい!いいかい!?」
「あ。。。。。。はぃ。」
「うん、よろしい。」
「そしてメガネの君、注意してくれてありがとね。」
「はい!当然の務めです!!」
(ふぅ、なんだかとりあえず落ち着いたみたいだな。でも、あのおばちゃんすごいな。とっても“わかりやすかった”。)
「ギルフォード、今のすごかったね。」
「僕にはあんなにわかりやすくはまだできないよ。」
「そうだねアルス、多分あの人は本気出したらもっすごいだろうね。」
(“まだ”ねぇ。)
(まったく、アルフォンスが“ギルフォード”っていう時は大抵なんかあるんだよな。大方“自分であんな事ができるだろうか”ってところだろう。あいつ正義感強いから、自分の無力感を感じてんだろう。)
中年の女性が一連の騒動を解決し終えると、ギルフォードの方へ向きなおした。
そのまま、ズンズンと近づいて来る。
「んん?アタシに見惚れちゃったかい?ほらほら、いつまでもそこに突っ立ってないであんた達も早く並びなさい!」
「あ、はい。そうですね。失礼いたします。」
「はい!失礼します!!」
ギルフォード達は足早に列の最後尾に並び始めた。
先ほどまで我が物顔で威張っていた3人組も借りてきた猫のように静かになっていた。
中年女性は腕を組み綺麗に並び始めた生徒たちを眺めている。
「はぁ、まったく、今年はなかなか面白そうじゃないの。」
「あ!!コラ~あんた達、遊んでないで早く列に並びなさーい!」
「ちょっとあんた、どこ行くのそっちはまだ行っちゃだめよ!!」
ギルフォード達が受付に到着すると
出身の村と名前を答え、入学の案内と紅い鳥を象ったブローチを受け取った。
よく見ると他の生徒はまた別のブローチを受け取っているようだ。
「ではブローチをつけて、講堂内にお入りください。」
ギルフォードはブローチを服に付けながら順路通りに講堂内へ進む。
「ギル、ブローチ一緒だね!よくできてるけど何だろうねこれ。」
「多分何かのグループ分けだと思うよ、クラスか何かじゃないかな。それにしてもよくできてるな、結構高価なものなんじゃないか?こんなもの子供に渡して。。。。。。。うわぁ、すげぇ。」
講堂内に入ると世界が一変した。
まるで天界に足を踏み入れたのではないだろうかという錯覚を覚えたのだ。
そこは真っ白な大聖堂のような作りで、息を呑むような神秘的な空間が広がっている。
室内は静寂に包まれており、その荘厳な雰囲気を察してか新入生たちは異様に静かになっていた。
ステンドグラスは七色に光り輝き優しい陽射しが室内を包み込む、
まるで神が生徒の門出を祝福しているようだった。
事実100年以上の歴史を誇るこの大聖堂は部分的に修復されているもののいまだ威風堂々としており、
先の大戦の際にも残った非常に歴史的な建物で、王国としても貴重な文化財として扱っている。
定時になると数名の人物が壇上に現れた。
いずれも同じ式典用のローブと装飾品を着飾っており、特別な式典であろう事を表していた。
その中から、美しい立ち姿の初老の女性が前に出た。
「静粛に。」
「私は副校長のレディ・グランサムです。」
「では、只今よりユグドラシル王国アトラス学園機関第60期生の入園式典を執り行います。」
「モルガン校長、お願いいたします。」
「あ、はい。」
小太りの中年男性が代わって前に出てきた。
非常に高級そうな背広のような黒い服を着ており、頭部は少々毛髪が乏しい。
室内は快適な温度にもかかわらず、手に持ったハンカチで額から出た汗を常に拭いている。
「え~、私が校長のチャーリー・モルガンです。皆さまご入学おめでとうございます。え~。。。。」
男は当たり障りない会話をつらつらと話始めた。
いい意味で聞きやすく、悪い意味で全く内容が入ってこないそんな話し方だ。
それは特殊な魔法等を使っているわけではなく、ただただつまらないだけの事だった。
(うわぁ、こっちの世界でも校長は話長いのか~。誰かぶっ倒れちゃうんじゃないかな。)
(あ、さっきのメガネ君。すごいな真面目に聞いて相槌まで打って、メモまで取ってる。)
(こっちにはあのヤバイ雰囲気の子だ、うわぁまたブツブツ言ってる。ん?アルスどうしたんだろう。)
アルフォンスはバレないように後ろに振り向く。
「ギ、ギル、どうしよう。ね、眠くなってきた。もしかしてあの校長先生って。。。」
「あぁ、多分あれは魔法だ、間違いない。それもかなり強力なヤツだろう。アルス修行はもう始まってるみたいだ!」
「や、やっぱりっ!よし、集中しろ僕ぅぅぅうううう!!」
それから数十分後
「であるからして、皆さまも歴史に名を残せるような人生を歩んでください。」
「これで校長の挨拶とさせていただきます。」
長い長い呪文詠唱がおわり、苦痛から解放された生徒の喜びが拍手となって響き渡る。
生徒達は終わりの見えない戦いの終止符に歓喜していた。
それを勘違いしたのか、モルガン校長もご満悦だった。
「はぁ、終わった。それにしてもさっきから副校長にペコペコしすぎだろ。露骨に機嫌取りに行ってる感じだな。おい、アルス起きろ~。」
「はっ!?くっそー!まだまだ修行が足りないか!次こそ克服してやる!」
「それでは各生徒は、受付時に渡されたブローチを付けてそれぞれの教室に行きなさい。」
「受け取ったブローチがあなたたちのクラスを表しているので、各自地図を見て移動することとします。」
「わからないものは、近くの先生方に質問をすること、では誘導に従い移動を開始してください。」
この学校ではクラスがいくつかあり、卒業までクラス替えはなく同じクラスのまま卒業をする。
クラスは4つ
『プルームローズ』『タイガーリリー』『スナップドラゴン』『ヴァイオレットカラパス』
以上の4つに分けられる。
「えっと、僕はプルームローズか、アルスもプルームローズみたいだね。」
「そうみたいだ!よかった〜ギルと一緒だ!!ほんとよかった~~。」
「もしギルがいなかったらどうなるか。。。そういえばミラはクラス何なんだろうね?」
「えーっと、多分ヴァイオレットカラパスだと思う。」
「前にブローチを見せてもらった気がするから。」
「そっか、ミラとは別なんだね、残念。」
「まあ、学年も違うからね。そもそも同じクラスでもなかなか会うことも無いだろうし。」
「それじゃあプルームローズの教室に、行こうか!」
新入生は各々の割り振られた教室へ向かっていった。
校舎は五角形の形をしており、3階建ての作りで研究室や図書室などほとんどの機能がある。
「はいはーい、新入生のプルームローズの教室はこちらですよ〜。」
20代くらいの男性教師が手招きしている。
髪はボサボサで体躯も線が細い、来ている教師用ローブもサイズが合っていないのかブカブカだ。
教室にはすでに数名の生徒が各自の席に着席していた。
ギルフォード達も各自の席に着いた、目の前の机には背部に校章が刺繍されたローブが置かれている。
「それではみなさん揃ったかな?え~っと、まあいいか、先に始めましょう。」
「え~、本日からこちらのクラスを担当しますスプライトといいます。」
「どうぞ、みなさんこれから10年近くになりますが、よろしくお願いします。」
「それでは、ぼちぼち出席を確認しますね~。」
「ボッス・ベネットさ~ん」
「はい!」
「タッキ・ウドウッドさ~ん」
「はい!」
(なんだかこういうの久しぶりだな~、この瞬間ってやっぱワクワクする。それにしてもクラスが10年近く変わらないっていうのもなんだか怖い気がするな、めんどくさい奴いたらどうしよ。)
(いや~、みんな緊張してるな~、まあこれが初めてだもんな。オレが珍しいのか。)
(あ、アルス緊張してる。ていうかよく見たらアルスの隣空いてるな。初日から遅刻っていう事はヤバイ奴が隣っていうパターンもあるな。)
「ジョージ・ボナパルトさ~ん」
「はい!!!」
(あ、さっきのメガネ君同じクラスだったんだな。多分委員長は彼がやってくれるはず、おれは保健係でも立候補するか。)
「ジュリエット・メメントモリさ~ん」
「は、はぃ」
(うわ、あの子も同じクラスかよ、なんもなければいいけど。。。あ、アルス緊張して気付いてない。)
「ギルフォード・デオワルドさ~ん」
「あ、はい」
「フレイア・デアウルズさ~ん。。。。。。。」
「あれ?フレイアさ~~~ん?」
「初日からお休みですかね~?大丈夫かな~?」
と、その時。廊下からバタバタ走ってくる音が聞こえた。
足音はこの教室で止まると次の瞬間、バアンと大きな音と共にドアが開く。
「はぁはぁ、す、はぁはぁ、すみ、はぁはぁ、スミマセン!!」
「フレイア、はぁはぁ、デアウルズです!!」
アッシュカラーのミディアムボブの女の子が息を切らせながら入ってきた、
彼女は否応にも目立った第一印象となってしまった。
「うん、じゃあギリセーフってことで、そこの席だから座ってね~。次~」
「は、はい!」
その少女の何気ない歩き方一つで育ちの良さが漂っていた、
教室内の数人は彼女の異質さに気付いるようだった。
(あ。あの子多分普通の子じゃないな。いや、いい意味でね。)
「アルフォンス・ジルフィールドさ~ん。」
(お~い、アルス~呼ばれてるぞ~!)
「アルフォンス・ジルフィールドさ~~~~ん!」
「え!?あ、は、はいぃっ!!」
ガタッ!!
アルフォンスは勢いよく席から立ち上がった。
「うん、元気があってよろしいですね~。もう座っていいですよ~。」
「ジョンソン・スタックさ~ん」
先ほど勢いよく入ってきた少女の事もあり、
アルフォンスが勢いよく立ち上がったことが周囲を笑わせていた。
クスクスと笑い声が少しだけ聞こえる。
アルフォンスは耳と顔を真っ赤にし俯きながら座りなおした。
「アルフォンス君、よろしくね!」
「え?あ、うん、よろしくフレイアさん!」
「お互い恥ずかしい紹介になっちゃったね。」
「そ、そうだね~、多分ギルにも笑われてると思うよ。」
「ギル?お友達?」
「うん、後ろに座ってるんだけど、生まれた時から一緒にいる幼馴染だよ。あの子。」
(もちろん笑ってたよ、笑ってたというかホッコリしたよ。まったく、アルスのヤツ、今入ってきた子に気を取られていたみたいだな、カワイイ奴め。でも、確かに気になるな、どんな子なんだろう。あ、こっち向いた。そーかそーか、もう仲良くなっちゃったか、まったくエドワードの血だなぁ。)
「は~~い、それではこれで全員ですね~。」
「みなさん改めてこれからよろしくお願いします。早速ですが目の前にあるのは学校指定のローブです。これを着ているときはみなさんがアトラス学園機関の生徒である事を自覚して下さいね。それと良くできていますが特別な効果がかかっているわけではないので期待しないでください。気付いてるかと思いますが学校にいる間は常に装着しておくことです、これから10年近く着ていくローブなので大切にしましょう。」
(ふ~ん、確かによくできてるよな。なんか魔法が掛かってると思ったんだけどな、気のせいだったか。)
(それにしてもあの先生胡散臭いな、確実にインドア系だ。理科室とかでヤバイ実験してそう。多分こいつは魔法使いで毒系とか死霊系とかに長けてるんだろうな。)
「そういえば~、先生の事まだ紹介してませんでしたね。私は魔法の授業を受け持っています~。ほとんどの魔法をある程度使えますが、一番得意なのは~、神聖属性ですかね~。ちなみに、講堂で気付かもしれませんが、大きな教会があったかと思います。私そこで神父をやってますので~、何かあったら質問でも懺悔でもなんでも来てくださいね~。」
(まさかの神父様かよ、この世界の神父は何を基準に決めてるんだか。でも、魔法か、楽しみだな~。ていうか俺でも使えるのかな。魔法といえばやっぱりイオ○ズンだよな!いや、ギ○デインもいいな。あ~、楽しみだ!!)
そう、ギルフォードはワクワクしているため、自分のカバンに鉈が入っている事を完全に失念していたのであった。
入学式ってワクワクしますよね。
頑張って理想のキャラで心機一転やっていこうと思っても、
気付いたら元のキャラになってる記憶があります。
続きます。