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剣の向け先

この村、ルイーズ村の朝は今日も早い。

まだ朝日が差し込んだばかりの時間でも、早いものはすでに仕事に従事している。

ギルフォードの日常も例外ではなかった。


むくりとベットから起き、眠い目をこすりながら着替えを行う。

テレビやスマートフォン等が無い以上、暗い夜の部屋で時間を潰す方法はあまりないため、

自然と暗くなったら寝て、朝日が昇ると同時に起きるような早寝早起きな体質になった。

すでにアヤタンは朝食の準備を終えており、玄関の掃き掃除を行っていた。

食卓にはパンとスープと燻製肉、フルーツが並べられておりテーブルを彩っている。


カインとリーズレットはまだ寝ていた。

カインは夜遅くまで仕事をしており、必然的に寝るのが遅くなってしまう。

そしてこの世界の人々は知らないであろう、彼は低血圧なために朝がめっぽう弱いのだ。

ではリーズレットはなぜかというと、

ただただ近くでカインの仕事しているところに見惚れているのだそうだ。

リーズレットはあまり頭が良くないのでカインの仕事の事はあまり理解できていないようだが、

真剣な眼差しで仕事をしている横顔を眺めているのが彼女の密かな幸せなのだ。

カインもそんなリーズレットに悪い気はしないらしい。


朝食を食べ終えるころに玄関の方で大きな挨拶が聞こえた。


「アヤタン師匠!おはようございます!!」


「ミラ様、おはようございます。ギルフォード様は朝食をとられていますよ。」


「ありがとうございます。」


ミラが元気よく玄関から入ってくるのがわかる。


「お、おはようギル!」


「おはようミラ。わざわざ毎朝迎えに来なくてもいいのに。」


「だ、だってほら、カインさんって朝とっても弱いじゃない?だから、きっとギルだって朝は弱いはずじゃない!兄弟子としては面倒を見なくちゃね!」


「ミラは優しいね、僕もミラが兄弟子で鼻が高いよ!」

(ふふふ、かわいいなぁ。きっと必死に言い訳を考えてから迎えに来てくれてるんだろうな。)


「そ、それと。。。。。」

ミラが口ごもると、なにかモジモジしていた。

稽古着の端をつかみ何か小さな声で自身を奮い立たせている。


「そ、それとギルにはまだ渡せてなかった誕生日プレゼントもあるし。。。。」


小さな掌には小さな木彫りのペンダントがあった。

白樺のような白い木目に文字が彫られている。


「み、見た目はちょっと悪いんだけど。。。そ、そう!魔法効果があってね!うん、すごいの!」

(バカかアタシは!!そんな効果あるわけないじゃろが!!)


「そうなんだ!!魔法アイテムか~うれしいな~!!どんな効果なの?」


「えぇ!?効果!?えっと、そ、それは。。。。そ、そう、無効化!!魔法攻撃の無効化!!」


「うええ!?マジかよ!!!あ、ごめん取り乱した。それはかなりすごいね!」

(オイオイ、まあまあなチートアイテムじゃないか。かなりの終盤で手に入るようなヤツじゃん。)


「う、うえええ??そんなすごいことなの!?どうしよどうしよ。。。」


(あ、そういうことね。なんか見た目が少し雑だったから逆に本当かと思っちゃったよ。)


お世辞にも売り物になるようなものでは無いだろうが、彼女の努力は形に現れていた。

手には塗料のようなものがかすかに付いており、手作りで作成したであろう事がわかる。

よく見るとミラの胸元にも同じ形のモノ首から下がっていた、


(健気でとってもいい子だな~、悪い男がつかないようにしなきゃな。)

「ありがとう、すごくうれしいよ、一生大事にするね!」


ギルフォードは受け取ったペンダントを首から下げた。

不安そうだったミラの顔に笑顔が戻った。

初めて作ったプレゼントに喜んでもらえるか不安でいっぱいだったが、

それは受け取って貰えたのを確認し安堵した表情だった。


「アルスにはもう渡してあるの、これで三人お揃いだから!」


玄関の入口で行く末を見守っていたメイドのガッツポーズがチラリと見える。


「さあ、今朝も日課の剣術稽古に行きましょう!」


アヤタンは二人が玄関から出ていくのを確認し一礼をした。

数件先のエドワード邸までは数十メートル離れているが、

二人が庭先に入るまで遠くから見守っていた。


エドワード邸の庭ではすでに金髪の少年が準備体操を行っていた。


「あ、ギルおはよう!いよいよ今日だね!」


「おはようアルス、そうだねワクワクするね。」


「僕はドキドキの方が強いよ~、でもギルもいるしミラもいるからちょっと安心するよ。」


「アルスならきっと大丈夫だよ。」


「へへへ、そうかな?その言葉だけでもちょっと自信がついたよ。」

「あ、ギルもそのペンダント貰ったんだね?これで三人お揃いだ!」

「あれ、でもギルの方がなんだかちょっとだけ凝ってる気が」


「はいはい、アルス!日課の素振りから始めるよ!!師匠が来る頃には終わらせておこう!」


「え?あ、うんそうだね!よーーーーし!!やるぞ!!フンッ!!」


彼らは毎朝、決まった型の素振りを決まった回数行っている。

あどけない子供の雰囲気はほとんど残っておらず、無心に彼らは木製の剣を振った。

この年齢でここまで剣が振るえる事はかなり異例だ。

もちろん剣自体を振ることは一般的な子供でもできるが、ここまでの回数はそうそう振ることができない。

幼い子供が3人も揃えば遊んでしまったり、お喋り等を始めてしまうものだが、

彼らはそんなことは一切せずに黙々と課題をこなしていた。

課題が終わるころには朝日も昇りきっており、いたるところから朝食の匂いが立ち込めていた。


「ふう~~、終わった~、やっぱり疲れるね。型の素振りなんてもういいんじゃないかな~、父さんがいうからまあやるけども。」


「はぁ、はぁ、アルス早いな。でもこういった基礎が、特に型は大切だよ。はぁ、はぁ、極限の状況なんかじゃ、頭で考えることよりも普段からやってる事が一番うまくいくからね。」


「そっか、ギルはすごいね!なんだか大人の人みたいだよ。」


「え?い、いや、父上が言っていた言葉のそのまま受け売りさ。」


「へ~、カインさんって武術にも詳しいんだ~。」


「へ?いや、まあ、そうだね~~。」


「そうだな、今では想像もできないかもしれないがカインも一度剣をとったことはあるからな。まさか、あいつからそんな言葉が出るとは。」


そこには稽古着に身を包んだエドワードの姿があった。

普段とは違いその表情は真剣で別人のそれである。

エドワードもほんのり汗をかいており、彼もまた素振りを終えたのだろう。


「あ、父さん!!おはようございます!」


「エドワードさんおはようございます。」


「うん、おはよう。それよりお前たち素振りは終わったのか?」


「はい父さん!僕は終わりました!!」


「すみません、僕はまだ途中です。」


「そうか、それは別に構わない。早ければいいというものでもないしな。」

「そうだな、二人ともミラの素振りを見てみろ、お前たちはあれを見てどう思う?」


ミラは1点を見つめて静かに剣を振っていた。

年齢を増すにつれて型の素振りの回数は増えていくので、ミラの方が必然的に時間がかかるのだが、

それでも弱音を吐かずに剣を振っていた。


「うーん、特に不思議なところはない気がするな~。」


「そうか、ギルはどう思う?」


「そうですね、とても美しくて綺麗だと思います、見惚れますね。」


「!?」


スポーン!

ミラの手から木製の剣が飛んで行った。

慌てた様子で明後日の方向へ飛んで行った剣を取りに行く。

戻ってくるときには、また何かブツブツ言っていた。


「はぁ、ギルおまえな~。全くミラもミラだっつーの。」


ミラとギルフォードは素振りに戻った。


「でも確かにお前らのいうことは正しい、そもそも剣術というのは正解があってないようなもんだ。」

「と、オレは常に思っている。」

「例えば、アルスが思った不思議なところはないということは、ミラはごく自然に息を吸うように剣をふるっているという事だ。そしてギルが言っていたことに関しては、同じ軌道を描いて乱れる事なく振るえていることの表れだという事だ。」

「早いからいいというわけでもないし、ただただ回数を振ればいいというわけでもない。一刀一刀に自分の理想を重ねることが大切だ。」

「と、オレは思ってる。」


「父さん、さっきから思ってるばっかだね!」


「まあ、父さんも結局聖王級だからな。」

「おれもせめて、煌帝級くらいになれてれば本当の剣術が何かを教えられたかもな。」


「はぁ、はぁ、でも、はぁ、聖王級でも弟子を取れるほどの、はぁ、実力なんですよね?」


「まあな、でもオレからしたら煌帝級から上が本当に強い剣士だと思うんだ。特にあのキョウの国の爺さんは、もはや人間じゃないくらいの化け物だったしな。あれぐらいじゃないと剣術の何たるかなんてのは理解できてるとは思えないわけよ。」

「とにかく、お前らもオレを超えられるくらいの剣士になれよ!まあ、オレを超えるのは無理だろうがな!はっはっは!!」


「ふぅ、師匠。本日の素振りは終わりました。」


「はぁ、はぁ、僕も終わりました。」


「おう、終わったか。よしお前ら、今日も実戦感覚で打ち合いしてみろ。じゃあ、アルスとミラからだ。

アルスは片手で剣を持て、ミラはその場を動かないで打ち合うこと。」


訓練場の空気が一変した。

ピリッとした空気が張り詰めるその場は、戦場のような空気を漂わせていた。

エドワードの力だろうか、彼の発言だけでその場を変えてしまうのだ。


「はじめ!!」


「ふーーーー、さあ!!こぉぉぉいっ!!」


「いくぞー!!でやーーーーー!」


カン!カン!と乾いた木がぶつかりあう音がこだまする。

アルスは荒々しくも相手の急所を狙うようにミラに剣技を放つ、

子供とは思えぬほど真剣にぶつけ合う闘志は、毎日普段から行っている事がよくわる程だった。

この世界では4歳にもなると大分発育もすすんでそれなりに自立して行動できるのだが、

ここまで鬼気迫るほどの稽古はできるものではない。

周りからも「まだ、早いのではないか。」「そこまでしなくてもよいのではないか。」

などと、不安の声もあるがエドワードが師匠であるならとみな安心する、

エドワードが聖王級であるという事の所以だ。

事実、聖王級という段位であるが、実力はそれ以上かもしれないとの噂もある、

昔修行中にとある事故に合い、そこから修行をすることをやめているそうだ。


「たあーーーー!」


アルスには露骨に疲れが見えており、剣筋が大振りになっていた。

そんな隙をミラは見逃すわけもなく、上段から振り上げられるその一太刀を横から叩き落し、

すかさず腹部に一撃を入れた。


「ふっ!!」


「ぐえ、ぃってーーー!!」


「はい、そこまで。」


エドワードの一言にその場はのどかな空気に戻る。

目の前で自分の子供が、木製ではあるものの剣で打ちのめされたにもかかわらず彼は冷静だった


「ふふ、今日もアタシの勝ちね!」


「あー、くっそー!また、勝てなかった!」


「アルスはまだまだ集中力が足りないな、あと相手がミラだからって仲間意識が少し残っている。」


「いてて。うーん、でもミラと本気で斬り合うなんて想像できないよ~。」


「まあそうかもしれないが、それでもだ、いつでも敵として認識できるようにならないとだめなんだ。」


「エドワードさん、なんだか昔にご経験があるような言い方ですね。」


「え?ま、まあな。」

(ほんとコイツは鋭い子供だなぁ、カインにそっくりだぜ。)

「あーそれでミラだけど、相手にペースを握らせない戦い方ができるようになったみたいだが、あともう少しなかんじだ。」

「剣だけじゃなくて視線や体の動かし方でもっと相手のペースを狂わせる事ができるようになるんだ。」

「よし、じゃあ次はオレとギルだ。そんじゃギルは好きに打ち込んで来い。」


「僕は特に制約とかないんですか?」


「うーん、お前はまだなんだか隠してる気がするからそれまずはそれを引き出す。」


「僕は結構本気でやっていますが?」


「ギルが意識してないところで隠れてる能力があるようだからそいつを刺激するんだよ。」


腹部を抑えたアルフォンスが立ち上がる。


「うん、確かに僕もギルの剣にはそんな雰囲気を感じるかも。」


「まあ、そんなところだ。よし、ギル好きに打ってこい。」

(アルスも妙に鋭いところがあるからな、親ながらこいつの将来も楽しみだ。)


「なんだか大分買いかぶられている気がするけど、わかったよ。」


ギルフォードは深く深呼吸をした、

得意の中段の構えから剣先をエドワードに向ける。

それに対して、エドワードは構えない、

相手の出方を伺ったまま同じ姿勢を保っていた。

剣先を向けているのはギルフォードのはずだが、目には見えない剣先を無数に受けている感覚だった。

気付けばギルフォードの額には汗が噴き出ており、剣を握る手からも汗を流していた。

意を決したギルフォードは勢いよく踏み出す、


五月雨式に繰り出す剣は的確にエドワードを捉えているはずだったが、

どれもこれも手ごたえがなかった。

避けられたり、最小限の力で受け流されたり、

剣を振っているギルフォードの体は右へ左へ大きく揺さぶられてしまう。

意を決して上段からの振り下ろす姿勢で斬りかかった。


「クソッ、全然当たらないぃッ!!」

(ほんとに戦士として目の前に立つと別人だろコイツ、とりあえずやれることをやってやる!)


そして上段からの一太刀を浴びせる瞬間、薙ぎ払いの型へモーションを移し替える。

振り下ろしに比べて避けずらいであろう太刀筋に切り替えたのだ。

渾身の力を込めた一太刀だったが、空を切る。

エドワードは上体を逸らし最低限の動きでギルフォードのなぎ払いを避けたのだった。


(ちっ、そんな事だろうと思ってたさ!)


ギルフォードはそのまま前進をやめなかった、

エドワードが避ける前提での一太刀だったのだ。

勢いを殺さず振り抜いた右腕を折り曲げる、

自然と回転するように次の攻撃へ移った。

回転を加えた一撃は、勢いを増し斜めからの切りおろしへと変わりそのままエドワードへ向かった。


その瞬間エドワードが少し驚いた顔をした気がしたが、次の瞬間には右手に持った剣の背で一撃をいなしていた。

背後を取られると感じたギルフォードは、急いで距離を取ろうとしたが、次の瞬間にはエドワードの剣の柄がみぞおちに入った。


「ぐうぅ。。。」

(まじかよ、これで手加減してんのかよ。)


「おいおいギル!さっきのは驚いたぞ、いったいどこで覚えた?」


「うぅ、はぁ、はぁ、思いつきです。」

(な訳ねーだろ、昔ハマったゲームの技だよ。)

(こっちの世界ならある程度再現できるみたいだけど、一発で看破するかよ普通。)

(ていうか顔、全然驚いてねーじゃねーかコノ野郎、ていうか痛えなコノ野郎!!)


「はあ、はあ、じゃあ、次はもっとすごいのやってやりますよ!」


「そうか、じゃあ俺もちょっと本気出さないとな。弟子たちの前で少しでも良い経験を積ませてやるのが俺の使命ってもんだしな。」


次の瞬間、エドワードは武器を持ち替えた。

左手に剣を逆手にして持ち右手は拳を握っていた。

初めて師匠が構えるポーズを取っていたので、ギルフォードだけでなく、アルフォンスやミラも食い入るように見ていた。

特にミラに関しては手を顎に当てて小さな声でブツブツと呟きながら眺めていた。

それは眺めるというより獲物を見定めるかのような視線だ。


ギルフォードはまた中段で剣を構えて剣先をエドワードに向けた。

呼吸は乱れているため肩で息をしている。


(なんだよあれ、構えただけで別人かよ。ええい、もう出し惜しみはなしだ、実際出し惜しみなんてしてないけど、あの技を試してみるしかない。)

「行きます!」


「いつでもいいから打ってみろ。」


次の瞬間、ギルフォードは両手に構えた剣を左の腰に抱えた。

それはいわゆる居合の構えだった。

体制を低くし、もう一度勢いよく踏み出した。


「ほう、あの爺さんと同じ技か?でもな、」


今度はエドワードも迎え撃つ。

右手を素早く出し、ギルフォードの手を抑えこんだ。

柄の部分をガッチリと抑えられた剣は抜ききる事が出来ずに固まっていた。

ギルフォードは今まで経験したことがない敵意を受けて頭が真っ白になった。

そのままエドワードの剣が下から上に切り上げられる。


「誰に向かって剣を向けている」


エドワードはゾッとした、

そんな声が聞こえたのだ。

自分の身体に恐怖がねっとりと纏わりつく感覚、

本能的に身の危険を全身で感じた。

やられる前にやらねばという気持ちが強くなり、躊躇なく本気で剣を振り上げた。


ゴンッ!!


次の瞬間、ギルフォードは顔を跳ねあげられ意識を失い、

身体はドサリと音を立てて力なく地面に倒れ込んだ。

一撃を打ち込んだ後に残心をしているエドワードは大きく肩で息をしていた。

アルフォンスもミラも動かずにじっとしている。

ふと我に返ったエドワードは慌ててギルフォードを抱えた。


「ふぅ、よかったケガはなさそうだ。危うくリーズレットに殺されるとこだったぜ。」

「まったく何だったんだ今のは、ここまで焦ったのは久しぶりだ。」

「おい、アルス母さんを呼んできてくれ、あとミラは水を用意してくれ。ん?」


アルスとミラが慌てて駆け出した。

エドワードはギルフォードの顔に傷がないかを確認する、幸い大きな怪我はなかった。

しかしおかしい、エドワードは本気で剣を振ったはずだ、

死ぬことはなくとも、傷や大きな痣ができてもおかしくないはずなのだ。

ふと、握っていた剣に目を向ける、

木製の剣は折れていた、いや折れていたというのか、折られていたのだ。

劣化で折れたような跡ではなく、横から起きな衝撃によって破壊されていたのだった。

エドワードの剣は切り上げる前に刀身が砕かれており、

かろうじて鍔の部分でギルフォードの顎をかすめたようだった。


「はっ、なんてやつだよこいつは、マジでオレなんか超えちまうかもしれないな。」

「まあ、そう易々とは越えさせないけど。ちょうどいいや今日から子供達のスクールも始まることだしその間はオレも剣の修行に戻るか。」


エドワードの中で轟轟と闘志が沸き上がるのを感じる。

アルスがエリーゼを連れて戻ってきた。


「エド、どうしたの?」


「ギルが意識を失ったみたいなんだ、ちょっと見てやってくれ。」


「あらー、これはリズには言えないわね。」

「わかったわ。ミラ手伝って!」


「あの一撃はどうやったんじゃろ。。。。。。え?あ、は、はい!」




数十分後、

ギルフォードは目が覚めた。

そこには満足そうにギルフォードに膝枕をしているミラの姿があった。

鼻歌を歌いながらエドワードとアルフォンスの打ち合いを見ている。


「あ、ギル目が覚めたみたいね!」


「あれ、なんでミラが?」


ギルフォードはミラの膝から起き上がった。


「えっと。。。僕はどうしてたんだっけ?」


「師匠と打ち合いをしてて、打ち所が悪かったみたいでそのまま気絶しちゃったのよ。」


「そっか、やっぱりエドワードさんにはまだ一太刀も浴びせられないか。」

(だめだ途中から全然思い出せない。)


「う~ん、なんかよくわからなったけど、エドワードさんも少し本気だった気がする。」

「アタシとやるときもたまにああいうときがあった気がするし。」

「それよりもギル!すごかったねあの技!どこで覚えたのよ!」


興奮したミラの顔がズイっと近づいた。

純粋に目を輝かせているミラの瞳はまるで女の子が大好きなお菓子に向けるものだった。


「こらこら、ミラ。まだギルだって頭がボーっとしてるんだから後でにしなさい。」


アルフォンスと稽古を終わらせたエドワードが近づいてきた。


「あ、師匠お疲れ様です。」


「気分はどうだギル。」


「なんだかすっごい体が重いです。」


「そうか、じゃあいつも以上に全力が出せたみたいだな。今後は、この力が使えるようになる事が当面の目標ってところだ。」

「よし、とりあえず今日の稽古はここまでだ。今日からスクールだろ?遅刻したらいけないからそろそろ準備しなさい。」


「はい、ありがとうございました!」


3人同時に元気な声で挨拶を行い、その日の稽古は幕を閉じた。





ギルフォードは自宅に戻ると、アヤタンが迎えてくれた。

なんとなく頭がまだズキズキするような気がしていた。


「おかえりなさいませ、ギルフォード様。お着替えを用意しておりますのでお召ください。」


「ありがとう、アヤタンさん。」


「。。。??」

「少し顔色が優れませんね、お薬をご用意いたしましょうか?」


「うえ!?、い、いや大丈夫です、ほんとすごい観察眼ですね。」

(うええ!?なんで気付くの!?この人マジでやばすぎ、ほんと気が抜けない。。。)


「使用人としては当たり前のことでございます。」


ギルフォードは2階の自室に戻り着替えを済ませた。

身体に痣ができているかと思ったが、擦り傷ひとつなくとても綺麗だった。

生まれつきあった背中の痣を除けば真っ白な彫刻のようである。

先ほどまで着ていた稽古着をアヤタンに渡したのだが、

部屋を出て洗面所を覗くと、彼女は何故か稽古着の匂いを嗅いでいた。

その行為に何となく恐怖を感じたので、ギルフォードはそれ自体を見なかった事にした。

改めて1階の居間に戻るとそこにはカインとリーズレットの姿がみえた。


「あ、おはようギル~。」


「あ、おはようございます母上、父上。」


「おはようギル。」

「今日からスクールだったね、準備はできているのかい?」


「はい、準備はできています。」


「あ~、ギル~、ママは寂しいよ~~。」

「別にずっとお家にいてもいいのに~~、これからママは何をしたらいいの?」


「リーズレット、スクールなんて日帰りなんだからギルだって夕刻には帰ってくるだろう?」

「昨日からずっと心配しているが、カラバの町だって馬車なら1時間もかからないんだから。」

「今日は僕も仕事が少ないから、君に付き合うよ、だから早くギルを行かせてあげなさい。」


「本当に~?じゃあ、いいけどさ~。」

「ギル、イジメっ子がいたらぶん殴っちゃっていいからね!」

「あと、女の子に声かけられてもぶん殴っちゃっていいから!!」


リーズレットは両手にこぶしを作り、シュッシュッと数回拳を出してみせる。

それをみて何を思ったかアヤタンはハッとして居間から出て行った。


「母上、僕がそんなことするような息子に見えますか?」

(この子冗談で言ってるんだか、本気で言ってるんだか。でもそれがかわいい。)


「そうだね、カインにそっくりだもんね。」

「うんうん、ギルならきっと大丈夫だ!」

「くぅ~、まったくいい男になっちゃって~。」


ドタバタと戻ってきたアヤタンの手には鈍器のようなものが握られていた、

しかしその場の空気を察したのか、すぐさま自分の後ろに鈍器を隠してた。

普段通りの何食わぬ顔をしているが、少し顔が赤くなっていており、

ギルフォードと目が合った際はすぐさま目を逸らした。


「母上、僕はまだ4歳ですよ?まだまだ子供です。」

「それに母上やアヤタンさん以上の女性なんて知りませんよ。」

(あ、やりすぎたかな?)


「ううう、アヤタン。。。今日はお祝いにしましょう。。。ううう」


「そそそそ、そうですね!きょ、今日はルイーズ村の全員で総力を挙げてお祝いをしましょう!!」


二人は涙目になり鼻水を垂らしながら抱き合っていた。


「はあ、ギル、どこでそんなこと覚えた。」

「外ではあまりそういう振る舞いをするなよ?結構面倒なことになるぞ。」

「ここはいいから早く行きなさい。」


「は、はい、父上がいうとなんだか説得力が違いますね。」

「で、では、アルスたちも待ってると思いますので行ってきます!」


「ギル、たくさん学んでくるんだぞ。」


「はい、父上。」


「ううう、帰ったらお話し聞かせてね!」


「はい、母上。」


「お気をつけて行ってらっしゃいませ!!」


「はい、アヤタンさん」

(あ、また鼻息が荒くなってる。。。)


ギルフォードは勢いよく玄関から飛び出し、

馬車の乗り合い場所に向かって走っていった。


「はぁ~、行っちゃったなぁ。。。」

「さてと、アヤタンにお茶でも淹れてもらおうかな~。あれ?」

「アヤタンそれ何?」


「いえ、な、なんでもありません。」


「ギルに持たせるならもっとあの子にバレないように持たせないとダメだよ?」

「ところでカイン、今日何杯お茶飲むの?」


「え?まだ2杯目だが。」


「旦那様、恐れ多くもこれで8杯目でございます。」


「そ、そうか。。。。ギルは大丈夫だよな。。。」




ギルフォードは足早に歩く。

(まさか父上・母上なんて言葉を使う日が来るとはな~、やっぱり慣れない。)

(しかし、入学式っていうのはやっぱりワクワクするな。小学生の頃を思い出すし。)

(それにしても鞄が重い気がするなぁ。。。。なんか重いもの入れたかな?)

(え?何これ?な・・・・鉈??)


鉈って包丁より怖いですよね。


なんか包丁は身の回りにあるものなので、まだ現実感が湧きますけど、

鉈ってまず身近にないので尚更怖いと思います。


次からはスクール編に突入です。

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