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蒼と翡翠

気付けば暗闇に包まれていた。

周りには何も無く、音もない。

文字通り無の世界だ。



なんだこれ?


どうなってるんだ?


ここはどこだろう?


あぁ、何もかもどうでもいい気分になってきた。


そうだ、このまま沈んでしまおう。


それがいい。


このまま考えるのを辞めよう。。。。。。



ふと深淵に、なにか気配を感じる。

形容しがたい不気味な意識がたしかにそこにはあった。

何かの生き物の髑髏のような煙がこちらに意識を向けてくる。


ケタケタと笑うようにこちらに何かを伝えてくる、

言葉なのか定かではないソレは何なのかわからない。

しかし、その発するソレは一つ一つがオレの体を形成していくのがわかる。


この髑髏は何なのだろう。


どんどん薄くなっていく煙を呆然と見つめていると、

フッと消えていった。



その瞬間、何かが頭をよぎる。

そうだ、思い出した。

オレはさっきまで生きていたはずだ!

何かの生き物を見かけたとき、次の瞬間には何かに撥ねられたんだ!



少しずつ意識がはっきりし始めた頃、

直感的に自らの死を感じた。



そうか、


オレは死んだのか。


人間死ぬときは本当にあっさりと死ぬもんだな。


ここは、死後の世界かな、


何もないんだな、


本当にあっけなかったな。


あぁ、まだまだやりたいことがたくさんあったのに。


くそう。


くそう。


死にたくねぇなぁ。。。。


くそう。


くそう。












??


微かに体が温かい気がする。


微弱ながらも熱を感じる。


何かに包まれている気がする


心なしか、周りも騒がしい。




オレは。。。まだ生きてるのか?


あ、目が開けられる


あれ?なんだかボヤけるな。


それに、うまくしゃべれない、

しゃべれないというより、しゃべり方がわからない。


でも、まだ生きられる!?


生きられるのか!?


嫌だ!まだ死にたくない!!


ダメだ!何か叫ばなきゃ!!




必死に生にすがりつく。


今だ不自由ではあるが、動かせる体をすべて動かし

文字通り全身全霊をかけて大声で叫んだ。


その瞬間、全ての感覚が鮮明に体を駆けていった。


それは紛れもなく生の感覚だった。






























人々が寝静まる頃。

村にある唯一の病院では、新たなる生命の産声が響き渡った。

時間としては深夜に当たるだろう、そんな時間にも関わらず歓喜の声が上がる。


「エドワード様、おめでとうございます元気な男の子ですよ!」


「うおおおおおおおお!」


男性は大きな声をあげて喜んでいた。


「ああ!これで我が家も安泰だ!!みてみろよ、すごい元気な子だ!!」


「おれの子供だぜ!信じられないよ!!」


男性は溢れ出す感情を抑えながら、慣れない手つきながらも、

生まれたばかりの子供を大事に抱いていた。

その目には少し涙も見える。


「ふふふ、エド、そろそろ私にも可愛い息子を抱かせてくれない?」


「おお、そうだな。スマン!」


「ほら、お前の母さんだぞ!」


まるでガラス細工の芸術品を扱うかのように、

父親から母親へ、その子供は手渡しされた。

生まれたばかりで、今だ目もはっきり開いてはいないが必死に蒼い瞳を母親に向ける。

その子供はしっかりとその小さな手で、抱き上げてくれた母親の存在を確かめていた。


「ああ、なんて可愛いんだ。男の子でこれでは女の子だったらオレはどうなってしまうんだ!」


1人で悶えている男性は、ふと顔をあげる。


「よし決めた!この子の名前はタロイモだ!ふふふタロイモ、我ながらいい名前だ!」


「どう思う!?エリーゼ!?」


非常に興奮気味の父親は、寝てないのであろう血走った赤い目を見開きながら、母親に問いかけた。


「はぁ、却下です。ほんとあなたのセンスだけはいつも疑うわよ。」

と疲労しているだろう母親は即答で相手の提案を打ち切った。

しかし顔は非常に穏やかで、とてもうれしそうに笑っていた。


「名前はもう決めているの、アルフォンスよ。」


「この子の名前はアルフォンス。」


まるで聖母のような慈愛に満ちた瞳で子供を見つめる。


「おお!アルフォンスか!とても良いな!タロイモも捨てがたいが、アルフォンスの方が断然良い!!」


「さすがエリィ~、愛してるよ~~。」


「はいはい、ありがとうございます。」


室内には仲睦ましい二人の笑顔と笑いが絶えなかった。

その声は途絶えることはなく、まるで彼らのこれからの人生を象徴するようだった。



ここに神の祝福を受けアルフォンス・ジルフィールドは誕生した。




翌日


村にはいつもと変わらぬ日が昇り、

暖かい春の日差しが村を優しく包んでいた。

緑は豊かで鳥のさえずりが心地よく響き、

川のせせらぎは人々の心を洗い流すように緩やかに流れていた。

村では至る所で、農作業にいそしむ人々や、

家畜を追い回す人々などを見かけることができる。


そんな村に、一軒の家がある。

他の家より一回り大きいその家の庭では、

まだまだ人々の眠気が抜けきらない時間にも関わらず、

2人の剣士が木製の剣を振るいあっていた。


「はあああああっ!!」


「よっと。」


「くぅ!ま、まだまだっ!!」


そこではエドワードと一人の少女が実戦さながらの剣技を交えていた。

エドワードは非常に無駄の無い洗練された最小限の動きで少女の剣を受けていた。

その動きは美しく、まさしく剣術の模範となるような動きだった。

更には口笛まで吹いている。


「ミラ、踏み込みが甘いぞ、ほら足に全然体重が乗っていない。」


その瞬間エドワードは足払いをする、それを捌ききれない少女は尻もちを着いた。


「あうっ」


その瞬間少女の首筋には木製の刃があてられる。


「はい、またオレの勝ち~。」


エドワードは大人げない口ぶりで少女におどけてみせた。

一通り茶化した後、剣をベルトに納め、結った赤髪を後ろに回した。

剣ダコが何度もつぶれてできたであろう、皮の厚い掌をミラに差し出す。


「はぁ~、浮かれている師匠から今日くらいなら一本とれる思ったのにぃ~。」


先ほどまで怒涛の勢いで戦士の剣を振るっていたミラは年相応の少女に戻っていた。

まだまだあどけない子供の雰囲気はあるが、将来美人になるような片鱗をみせている。

ミラは手についた土を払い、差し出された手に掴まり立ち上がった。


「このままじゃ、産まれたアルフォンス君のお手本になれないよ~。」

しょんぼりと肩をすくめるミラ。


「ミラはまだまだ子供だからしょうがないさ!大丈夫、あと100年くらいしたら良い勝負ができるよ!」


長寿と言われるエルフ族ならばこの話もおかしくはない。

しかし、ミラは普通の人間のため、この話はエドワードが只からかって言っているだけだった。


「そしたら私おばあちゃんになってるじゃないですか!」


ミラはほっぺたを膨らましながら、地団駄を踏んだ。

ぴょこんと後ろで結んだ栗色の髪の毛が揺れる仕草は非常に可愛らしい。


「さ、今日の稽古はここまでだ。ミラ、いいか、オレはエリィのところに行くけどミラは日課をこなしておくんだぞ?」


ヘラヘラした態度から一転、すべてを見透かすような蒼い瞳をミラに向け、

姿勢を正したエドワードは一家の主の振る舞いでミラに諭した。

ミラもその行動に対し背筋を伸ばし対応をする。


「はい師匠、それではエリーゼ様が戻る頃にはご飯も用意しておきます。」


「ふむ、では今日は特別にデザートも許~す。」


その瞬間ミラの顔がぱっと明るくなった。


「やった!」

小さくガッツポーズをしたミラは、足早に家の中に駆けていった。

実際剣術は一人前でもまだまだ子供である。


稽古着から普段着に着替えたエドワードは、はやる気持ちを抑えつつ家を出る。

向かうは愛しの妻と息子が眠る、村で唯一の病院だ。



エドワードの容姿はそれなりに整った顔立ちで、背も高く毎日剣を振るっているため筋肉も隆起している。

髪はこの国でも珍しい深紅の髪色をしており、後ろで無造作にかるく束ねている。

容姿端麗で武術にも長けている彼は喋らなければ、貴族の雰囲気をも漂わせる。

性格も非常に快活で行き交う村人は常にエドワードに声をかける。


「お!エドワード!!子供が産まれたんだって?おめでとう!」


「これじゃあ、もう夜遊びできないな!エリーゼちゃんを大切にしろよ!」


「アンタこんどウチに寄ってきな!こないだ、魔物を追っ払ってくれたお礼に御馳走するよ!」


いつもなら、グダグダと他愛のないことを話すが、

今日は適当に挨拶しあしらいつつ、足早に通り抜けていった。



村の病院は教会を兼ねている。

むしろ、教会に病院が併設されているというところか。

もちろん、朝早いこの時間でも礼拝者はいる。

エドワードは一通りの作法をこなし、そそくさと病室へ向かった。


「おはようエリィ、体調はどうだい?」


「あ、エド。私の方は大丈夫よ。昨日治癒してもらったから。」


ベットには絹のようなブロンドの髪を左の肩でかるく結った女性が、小さな子供を抱きかかえていた。

ただ座っているだけにも関わらず、どこか気品が漂うその姿はまるで絵画のようだった。


「アルフォンスも元気そうだな。」


「ええ、とっても元気よ。」


昨日よりはっきりと目を開いている子供はキョロキョロ周りを見渡していた。

父親譲りの、一切の不純物を有さない澄みきった蒼い瞳だった。


「なんだか、この子からはとても不思議な力を感じる気がするの。親バカかもしれないけど必ず立派になると思うわ!」


エリーゼには特殊な予知能力のようなものはない、

特に根拠があるわけでもないがそう感じるのだ。

母親の第六感とでも言うのかも知れない。


「オレとエリーゼの子供なんだからそうに決まってるじゃないか~!」


エドワードはエリーゼとアルフォンスを両手で包み込むように抱きしめて、心の底から思った言葉を並べた。

そんな両親のやり取りを聞いていたのかいないのか、

アルフォンスは大きな欠伸をして、すやすやと眠りに落ちていった。


経過はすこぶる順調で、母子ともに健康だった。

一通り挨拶を終え身支度を始める。

ある程度準備を終えて、一息ついたエドワードはエリーゼに話かけた。


「そういえば、今朝もミラが張り切っていたよ。これからはお姉さんになるんだからっていつもよりも、数倍稽古に励んでいたんだ。」


エドワードは思い出し笑いを浮かべる。


「そうなの?それなら早くミラにもアルフォンスに会わせてあげたいわ。」


「そうだね、ミラもうちの娘のような感覚はあるし、2人は兄弟のようなものだね。家も騒がしくなるなぁ。」


ミラとアルフォンスのやり取りを想像し、自然と2人から笑みがこぼれた。

食卓に座るアルフォンスにミラが世話を焼くシーンが鮮明に2人には見えるのだ。



「あ、そういえば知ってる?隣のお部屋でも同じタイミングでお子さんが産まれたのよ!」


「ああ、さっき聞いたよ!カインのところの子供だろ?あっちも男の子だってさ!」


「そうなの!なんだか親近感が沸くわね!」


「そうだな!カインとは付き合い長いけど、まさかパパ友になるとはなぁ。」


「まったくだよ、僕としては不本意で仕方ない。」


病室の入り口には、青白いスラッとした男が立っていた。

非常に心地の良い声を持つ彼の言葉は病室を支配した。

先ほど、エドワードに向けて放った言葉もなぜか悪い気はしない。


「なんだよ、今更だろ?これからもよろしく頼むぜカイン!」


カインはエドワードを無視してエリーゼに話しかける。


「エリーゼ、おめでとう。かわいい子供だね。」


「ありがとうカイン!あなたも子供が産まれたんですってね、おめでとう!リーズレットは?」


その後ろには少し幼い見た目にも関わらず、女性らしさを合わせ持つかわいらしい女性が小さな子供を抱きながら立っていた。


「リズ~!おめでとう!これで私たちもママ友ね!!」


「ありがとうエリィ~!」


少し小走りでエリーゼの元にリーズレットは駆け寄った。

2人はキャアキャアと戯れあっている。


「ふふふ、そうだねママ友だね~!!うちの子はギルフォードっていうの、エリィのところはアルフォンス君だよね?」


「わ〜〜、ギルフォード君よろしくね~~!ていうか、なんで知ってるの!?」


「昨日あんなに大声で騒いでたら、こっちまで嫌でも聞こえてくるよ~。」


「ああ、エドの声大きかったもんね、本当にごめんなさい。」


エドワードは明後日の方向を向いて知らん顔を決め込んでいた。


「ううん、いいのいいの!なんだか、賑やかで私も元気になれた気がするから気にしてないよ!」


昨日、アルフォンスが産まれる同時刻、

偶然か必然か隣の病室でも別の子供が産まれていた。


村でも1番優秀な商人、

カイン・デオワルド

それを支える妻、

リーズレット・デオワルド


2人の間にも神の祝福を受けた子供が産まれたのだ。


エドワードが隣で五月蝿く騒いでいる時、

カインも人並みに我が子の誕生を喜んでいた。


その子供は最初薄く目を開き、周りを見渡していた、

まだ見えないはずの目を必至に使い、

何かを確認するように見渡していたのだ。

その瞳は溜息が出るほど綺麗な翡翠の色をしており、

見る者の心を奪っていく程美しかった。


その後、小さな声を振り絞り力の限り手足を動かしながら子供は泣いていた。


子供の名前はギルフォード・デオワルド。


アルフォンスよりも小さい泣き声をあげ、

彼もここに誕生したのであった。



2人の母親は意気投合し将来のことまで話し合い盛り上がっていった。

すぐには鎮火しそうにもないので、少し離れてエドワードとカインは話を始める。


「エドワード。ミラちゃんには真面目に稽古をしてるんだろうな!?」


「当たり前だろ、これでもおれは聖王級の剣士だぜ?それにミラは筋がいいから、将来すごい剣士なると思うぞ!」


「ならいいが、僕は正直驚いているよ。キミが弟子をとるとか言い出した時は3日も持たないと思っていたがまさかここまで続くとはな。しかし、くれぐれも変なことを教えるなよ?」


「わかってるって、そういえばお前の方はどうなんだよ?」


椅子に座るエドワードは前のめりになり、話を進める。


「ああ、仕事のことかい?」


「最近大きな案件が舞い込んできてね、それがうまくいけばこの村もかなり発展すると思うんだ。」


「特に王国の方ではモノの流通が激しくなっているみたいで、この機会を逃すのはナンセンスだと思う。」


カインの口調に少しずつ熱がこもりだすのがわかる。


「自給自足だけのこの村にもいつかは限界が来るかもしれないんだ、今のうちから打てる手は打っておきたいところだね。」


「そ、そっか。それは確かにアレだな!!」


自分で振った話にも関わらず、カインを熱くしてしまったことにエドワードは後悔した。


「まあ、あんまり仕事にのめり込み過ぎるなよ?まだ、オレ達も若いんだから家族を大切にしようぜ。」


「君に言われるまでもない。しかし、商売は生モノだ君と違って僕は忙しいものでね。」


「へいへい、さいですか~。」


エドワードは口をとがらせて納得がいかない様子で返事をした。

そんなエドワードの反応を気にもせず、

カインは椅子から立ち上がりリーズレットに話かける。


「さあ、リズそろそろ家に帰るよ。」


「あ、カイン、そうだね!そろそろ帰ろっか。」


「じゃあねエリィ。また、そのうちギルと遊びに行くね!」


子供を抱いているので、大きくは振れないが、

手をひらひらと力いっぱい振り、

リーズレットとカインは病室を出て行った。

未だ興奮気味のエリーゼも少しずつ落ち着きを取り戻していき、深呼吸をした。


「は〜〜、リズのところとも一緒なんてとっても嬉しいわ。」


「ははは、こんな不思議なこともあるもんなんだね!」


小さな声で、ウニャウニャと子供が泣く声がする。

アルフォンスが少しぐずりだしたので、エリーゼは慣れた手つきであやす。


「さあ!オレ達もそろそろ帰ろうか!ミラが料理を作って待ってくれているんだよ!」


「そうなの?ミラの料理楽しみだわ。」


エドワードとエリーゼもミラが待つ家に帰るべく、病室を後にした。





地図で見ると見つけるのも少し困難な小さな村で2人は産まれた。

奇跡的に同時に産まれた彼らは、何かが引き寄せあうように数奇な運命を辿っていく。

自分で名前を決めたくせに、たまに間違えてしまいます。


誤字脱字を見つけると、本当に自分の仕事の雑さが目立つ気がします。


これから、少しずつ話は進んでいきますので、

何卒、温かい目で読んで頂けると幸いです。


ありがとうございました!

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