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今日は私の17歳の誕生日だった。フェレイラ家の屋敷には私の誕生日を祝う多くの参列者が訪れた。ここで私とコーネリアス殿下との婚約が発表された。拍手がわき上がった。男遊びが激しい女との結婚……。コーネリアス殿下自身がそんな目で私を見ない事は知っている。だが、世間の好奇な眼差しに果たして殿下は耐えることができるのだろうかと思った。杞憂だった。コーネリアス殿下は、そう噂されればされるほどむしろ得意となり、くだらない噂話など信じる方が愚かなのです、と参列者に言って回った。これが意外なほど私は嬉しかった。何だかんだ私は噂話を気にしていたのだと思った。気づかないふりをして、強がって、笑って、そして……。私はコーネリアス殿下からの愛がこれほど自分の心を動かすとは思っていなかった。誕生日は本当に楽しかった。
だが、次の日からコーネリアス殿下は私と過ごすよりも、むしろお父様と過ごす時間が長くなった。一日の大半をお父様との相談に費やしているのだ。私は一度気になって扉の外でひっそりと聞き耳をたてた。お父様の声が聞えてきた。
「殿下、性急過ぎますぞ!」
次にコーネリアス殿下の声が聞えてきた。
「いや、あなたのおかげで誰かまで特定できた。あとはこれを父上に奏上するまで」
「殿下! 奏上すると言っても陛下は聞きますまい。王妃様とウルスラ様のいつもの争いかと思われるだけです」
「なにか方法はないかロス殿」
「……情報が中立であると陛下に思わせる必要がございます。対立するこちらの陣営からの情報ではなく、むしろ王妃様側の陣営に属する者にそれを立証させる必要があります」
「そんな事ができるのか?」
「わかりません……、殿下、お時間を下さい。絵図を描いてみましょう」
何の話をしているのかと思った。王妃様と殿下のお母様であるウルスラ様との争いとは何か? そういえばお父様とも最近まともに話をしていない気がした。私はまた自室に戻り考えた。お父様からはまだ噂の犯人を特定できたというお話はうかがってはいない。となると殿下がさきほどお話になっていた『誰か』とは私の噂とは全く別のお話だったのだろうか……。
『あたなのおかげで誰かまで特定できた』
……分からなかった。ただ、1つだけ理解できたのは、私は知らないうちに恐らく王妃様とウルスラ様との争いに巻き込まれたということだった。いや、王族との結婚というのは果てのない王家を巡る政争に巻き込まれ続けることなのかもしれない。お父様はそれを望んでいた。部外者でいるよりもプレイヤーでいることを望んだ。
――私は……どうなのかしら?
分からなかった。だが、私がロス=フェレイラの娘シャーロット=フェレイラである以上、政争を繰り返す運命を受け入れるしかなかった。