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「お父様の予想は完全に外れましたわね」
「うむ……。これはどういうことだ?」
私は屋敷で父であるロス=フェレイラ公と食事を共にしていた。父は王宮に数人のスパイを置き、常に王家の情報を仕入れていた。しかし、それによると次の妃候補は聞いた事もない子爵令嬢の娘だという。なんでもヘンリー王太子が一目ぼれした。ただそれだけだったらしい。これに対しお父様は首をかしげていた。
「てっきりサマセット家の『サマンサ=サマセット』令嬢を王太子にあてがい、勢力の拡大を図ると思っていたのに……。王の意向も王妃の意向も全く無視の嫁選びをヘンリー殿下がされるとは……。それにこの婚姻には王妃は反対であるらしい……。何が起きているのかさっぱり分からない」
お父様はそう言ったきり、皿の上にあるハムを口の中に詰め込んだ。クチャクチャ噛むと口から僅かに肉汁が垂れた。その様が醜かった。
「お父様、はしたないですわよ」
「……」
娘の私の言葉も最早聞えていないみたいだった。きっと必死に思考しているのだ。この妃候補が選ばれた意味を探しだそうとしているのだろう。それは私も同じだった。
サマンサ=サマセットが選ばれれば王妃の実家であるサマセット家の意向で私を罠にはめたことになり。もしも、王妃様個人の意向であればそれ以外の妃を選び、王妃様が私を嵌めた事になる。
だが、そのどちらでもなかった。
サマンサは妃候補に選ばれず、子爵の令嬢とやらは王妃マリージア自身が妃候補に反対しているという。となると最早、王妃マリージアは純粋にシャーロットが男遊びをしていると信じ陛下に換言なさったとしか思えなかった。私は小さく呟いた。
「マリージア様も騙されていた……?」
お父様はこちらに顔を向けて頷いた。
「シャーロットよ。恐らくそれだ。マリージア王妃も騙されていたのだ……」
だが、二人ともこれ以上言葉が続かなかった。状況は振り出しに戻った。エドワード王とヘンリー王太子に換言したのはマリージア王妃、ここまでは分かった。だが、マリージア王妃に嘘を信じ込ませたのは誰なのか分からなかった。私は父ロスを見て悟った。お父様が何も言わないということは、この先の情報をまだ掴んでない事を意味していた。溜息をついた私はお父様と同じようにハムにかじりついた。肉汁がよだれのように垂れた。