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 ドルレント大聖堂にコーネリアス王太子の声が響く。


「何を言う! シャーロット! 気は確かか?」


 私は含み笑いをした。


「ええ、もちろん気は確かですわ」

「こんなこと前代未聞だぞ!」

「分かっていますわ。だからここで話そうと思いましたの。いいかしら? まず私の噂に関して、噂をエドワード王とヘンリー元殿下に話したのはマリージア様である。ここまでは分かっていたわ。でも誰がマリージア様を騙したのか分からなかった。誰がマリージア様に嘘を吹き込んだのかが……。そして、マリージア様は何故その噂を信じてしまったのかも分からなかった……」


 私は大きく手を広げた。


「私は考え方を間違えていたの。マリージア様が誰に噂を吹き込まれか……よりも、何故その噂話を信じてしまったのかをもっと考えるべきだったのよ。当然よね。よくよく考えれば単なる噂話ならマリージア様は信じるわけがなかったわけだから。だが、マリージア様には確信があった。私のふしだらな噂が真実であるという確信が」

「意味が分からないな……。シャーロット……いいからこんな馬鹿げた――」


 私はその声を半ば無視して喋り始めた。


「ご自身の政敵であるウルスラ様とコーネリアス殿下が『ヘンリー殿下の権威と名誉を失墜させる為の噂話を振りまく準備がある』と、マリージア様は知ってしまったからなのよ。ウルスラ様陣営が用意した噂話であるなら反論が簡単にできる根も葉もない噂では無い筈だとマリージア様は思った。そこでマリージア様は先手を打つ事にした。私とヘンリー殿下の婚約を破棄することによってヘンリー王子を守ったのよ」

「それこそ君の妄想じゃないか! 証拠など何一つない!」

「証拠ならあるわ。イナンナ! 連れてきて!!」


 私がそういうと会場の一角に隠れるように息を潜めていたベイラー伯爵令嬢イナンナが自慢の黒髪を振りまわし、ドルレント大聖堂の外側の扉を開けた。太陽の光と共にそこに現れたのは元王妃マリージアだった。

 マリージアは赤い絨毯の上を歩き私の近くまで歩いて来た。この間、時が止まったように誰も言葉を発しなかった。マリージアは口を開いた。


「シャーロット=フェレイラの言っている事に間違いはないわ。ウルスラがコーネリアスと話している所を私は聞いてしまったの。シャーロットが男好きのふしだらであり、常時数人の男の快楽を必要とすると……。そして、それを理由に我が子ヘンリーを追い落とす計画も聞いてしまったの……。今思えば私が聞いていることを見越してその話をはじめたというわけだったのね……」


 コーネリアスは声を荒げた。


「喋るな!! 密通女が!! 父上! この女の討ち取りを許可してください! 父上! 父上!?」


 エドワード王は大きく目を見開いたまま、ビデオの停止ボタンを押したように静止していた。ウルスラは顔をクシャクシャにしながら顔を左右に振っていた。


「コーネリアス……、やはり……」

「母上は黙っていてくれ!」


 私はその様子を横目で見ながら続きを話した。


「なぜコーネリアス殿下がこのようなことをしたのか……。それはマリージア様から我等フェレイラ家を切り離し、自分の後ろ盾とし『ある目的』を達成するためです。その為にはフェレイラ家が持つ情報網がどうしても殿下には必要だった。マリージア様と密通を行ったサー・メリオットを探しだす為の情報網が」


 その時、大聖堂に響き渡るドスの聞いた声が私の耳に聞こえた。


「やめよ!! 我が娘よ!」


 それは私の父ロス=フェレイラの声だった。だが私は止まらなかった。


「コーネリアス殿下が画策していたのは密通の情報を使ってのヘンリー殿下の廃嫡。そして、自分がエドワード王の後継者になること。そして、私の父……ロス=フェレイラはその手助けをしました。その証人は私です。私は二人の会話を聞いてしまいました」


 その時、私の横にいたマリージアはエドワード王に向かって大声を出した。


「陛下! どうか御信じ下さい。確かに私はサー・メリオットと密通をいたしました。許されざる罪です。私にはいかなる罰を下そうとも構いません! ただヘンリーは! 可愛いヘンリーは! 間違いなくエドワード陛下の御子です!! お願いです陛下信じて下さい!! 太子に戻せとはいいません。しかし、せめてヘンリーには情けを」


 エドワード王はゆっくりと話し始めた。


「コーネリアスが全てを仕組んだと言うのか?」


 陛下は私に尋ねていた。私は答えた。


「その通りです」


 コーネリアスは叫んだ。


「父上騙されないでください! 俺はロス殿とただ、王室を正そうとしただけです! 密通をした腐れ王妃を追放し! 父上の御子ではないのに王太子を名乗る偽王子を罰したかっただけなのです!」


 エドワード王はこの言葉を聞き、コーネリアスを睨んだ。


「つまり……お前の策なのだな」


 コーネリアスは“しまった”という顔をし「いえ、違ます! そういうわけでは!」


 エドワードはコーネリアスを指さした。衛兵がコーネリアスの脇をしっかりと掴んだ。エドワードが叫んだ。


「連れて行け!!」


 コーネリアスは両脇を抱えられ衛兵に引きずられてゆく。


「父上! 父上!! 俺は! 俺こそが後継者に相応しい筈です! 俺こそが正しい筈です! 何故お分かりいただけない! 父上ええええ!! 父上ええええええええ」


 ドルレント大聖堂にコーネリアス王太子の叫び声が響いた。

 引きずられ去っていくコーネリアスと目があった。その目にはハッキリと私に対する憎しみがあった。ごめんなさい……コーネリアス。私はそう心の中で呟いた。


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