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ハンカチとツイスターゲーム

作者: 焼飯海苔

雨とツイスターゲームと恋愛をお題に30分で即興小説ぽいもの。特にオチはなし。登場人物はフィクションです。

なんてこった。

家を出る前のテレビでは降水確率は10%だったのに、ああ、運が悪い。

傘もないし、カッパもない。自転車通学のくせに油断したのが仇になった。

今は7時50分。

あと少なくとも、どんなに頑張っても30分は学校につくまでかかるだろう。

ああもう、くそったれ。

ペダルを漕ぐ足に力を込める。立ち漕ぎをしたところで、そこまで移動時間に影響出るような距離ではないけれど、気分的にさっさと雨を振りきりたかった。

水滴をぶら下げた髪が目の前でチラつく。

そうこうしない内に自転車の前かごに入れたバッグが斑点模様を描き出していた。

徐々に制服に染み込んだ水分が体温を奪っていった。

夏に近づいてきた時期の雨にしては、思っていたより冷たい。

ずっと最高速で漕いでいるから汗も出てきて、首から下はぐちゃぐちゃだ。そして油断していたので案の定着替えなんて持ってきてない。タオルも、ハンカチもない。

ずぶ濡れで教室に入ることを考えると余計気が滅入る。

いや、もう何も考えちゃだめだ。もうどうしようもないんだ。

運命を受け入れるしかない。

宿命には抗えない。ただ、受け入れるのみ。

その耐え難い時間が過ぎるのを待つだけだ。大丈夫、ペダルを漕ぎ続けるだけの作業なんだから。

そんな感じで思考をオフにして漕ぎ続けた。



8時20分頃に学校につく頃には軽い涅槃の境地に達していたが、校舎の床タイルを見ると流石に現実を直視するようになっていた。

これ少しは服を絞ってから教室入ったほうがいいのでは……。恥ずかしさ云々より周囲に欠ける迷惑の方に気が回るくらいずぶ濡れだった。

でももう一時間目までの時間も短い。

トイレで少しだけ絞ってから教室に入った。

登校中は雨に浴びるほど濡れたけど、今度はクラスメイトの視線を浴びることになった。

「おい、小林だいじょうぶかよ。びちょびちょじゃん」

「天気予報あまく見てて、傘もカッパもタオルもハンカチも持ってきてないんだ、残念ながら、ハハ」

暗に誰かにタオルを貸してもらいたいと言ったつもりだったけど、誰にも届かなかったようだ。

席に座ると、濡れた下着に触れて酷く気持ち悪い。ここまで濡れているとむしろプールか海に入りたいくらいだった。一人になりたかった。

1時間目の国語が始まる。1組の齋藤先生が入ってきて、案の定一番最初に僕を見つけて

「谷岡、タオルないのか」と聞いてきた。

「持ってきてないんですよ……」

「あー、そうかじゃあだれか谷岡にタオルか何か拭くものを貸してあげて」

と先生が言ってもだれもそれをしない。

まあ、帰宅部でクラスの人とそこまで面識ない、いわゆるぼっちなんだから、それは当然の報いに近い。

そう思っていても、やはりその寂しさは冷えた体にこたえる。明日風邪ひきそう。

「寂しいクラスだな…」と一言呟いて斉藤先生は授業を開始した。

はあ、やっぱり風邪ひきそ。ていうか明日寝込みそう。と、雨水が侵入してふやけたノートと教科書を開く。


一時間と10分の苦痛に耐え、以前服の端のほうに水分を湛えた制服の冷たさで、尿意が訪れたので、休憩時間にトイレにいった。

トイレから出たとき、クラスの女子の酒井さんが「あ、谷岡くん」

「え、なに?」

「これで拭いて……」と渡されたのはかわいいクマの刺繍が入ったチェック柄のハンカチだった。

「あ、ありがとう」とワンテンポ遅れて言ったお礼と満面の笑顔は、酒井さんがすぐ後ろに振り返って走っていったので無駄となってしまった。

まさかこれで単にトイレ使った後の手を拭けということではないことくらい僕にだってわかっている。

ハンカチはバニラの匂いがしていた。

まだ制服の水の多い部分を拭き取り、少しは気持ち悪いのが和らいだ。時間が経って慣れたのもあるけど、酒井さんのハンカチがでかい。

そして単純に、いや単純であるがゆえに男の子は優しくしてくれた女の子に惚れやすい。

トイレから教室に戻ったときには、ハンカチ貸してもらって申し訳ない感情から、酒井さん大好きに変わっていた。

洗濯したハンカチを、手紙と一緒に靴箱に入れておくシチュエーションまで考えて、やっぱり普通に返そ、と考えなおしながら、こうなるまでの過程をノートの端に書き連ねた。


「なあんだ、あの事」

彼女は気が抜けたようだった。まあ、忘れていたようだし、無理もない。

「いやほんと、あのときはありがたかったんだ」

もう半年も前の事だけど。

「別にあのときは好意持ってなかったけどねえ」

「自分でいうのもなんだけど男子って周りが考えてるよりずっとバカだよ。それからだよ、酒井さんが印象残ってることは。」

「ふーん、なるほどね。じゃあ、とりあず罰ゲームしゅうりょー」

「はあ、はずかし……」

「こっちだってなんだかはずかしいわ。さて、じゃあツイスターゲーム二回戦目」

「またやるのかよ。どうせ罰ゲームもあるんだろ?」

「負けなければいいじゃん」

「それはそうだけど」

「負け慣ればいいじゃん」

「一文字消えて、意味変わってるんですが。というかこんな公開処刑慣れるわけない」

「負ければいいじゃん」

「はい……」甘んじます。



読了ありがとうございました。気が向いたらまた書きます。

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