<間章>
2XXX年。
一つの戦争があった。
世界的な不況、人口爆発、広がる格差、はたまた宗教か民俗か。
何が原因だったかなんて今となっちゃ誰もわからないよ。
ただ誰もが覚えているのは、そういうピリピリした時代だったって事。
そんな緊張状態が何年も続いてね。
遂に張り詰めていた緊張の糸が切れたんだ。
そう、第三次世界大戦さ。
とは言っても、人類はすでに二回もそれを経験しているからね。
まあ、それなりには”暗黙のルール”が守られていたよ。
でも、いつだったか、どこだったか。
使っちゃったんだよ。
核を、それも都心部へ向けて。
それから先はお察しさ。
正義の名の下による報復につぐ報復。
疑心暗鬼から広がる戦火。
地上にヒトの住むところが無くなるのにそう時間は必要としなかったよ。
地上の95%が汚染され、地下シェルターにほぼ全ての人類が移転した頃になってやっと我に返った各国は、互いの不干渉を確約、戦争は終結した。
そこから先は、決して楽な生活ではなかった。
食料の問題、閉鎖空間から出られないストレス、シェルターの故障の恐怖。
毎日、明日を迎えられるか不安な日々を過ごしていたよ。
中には、仮想世界に意識を写し、今の不安な世界からの離別をはかる……なんていう無茶な方法も各地で行われたらしい。
正直に言おう。
それが、主流になりつつあった。
誰もが過酷な現実から逃げたかった。
そのうえ、戦前から世界中の名だたる天才が集まって作られていたシステムだっていうならなおさらだ。
だが、そんな中で一つの企業が発見したと言う新しいウィルスによって別の道が示された。
それは、ヒトを超人に変えてしまう奇跡のウィルス。
無限の可能性の変わりに、強い感染性と危険性を兼ね備えた未知のウィルスだった。
もちろん、そんな夢物語はだれも信じない。
誰も見向きもしなかった。
だがあるとき、世界中のシェルターである病がはやった。
正式な名前は忘れてしまったが、発症者のそのこと如くが壮絶な苦しみを十日間味わった上で死を迎える病。
地球を荒らしたヒトへの神からの罰、誰からとも無く「天罰」と呼ぶことになった病だ。
仮想に逃れるにも、処置に耐えられるだけの体力さえ残っていなかった。
だから、藁にもすがる思いだった。
多くの不確定要素と、リスクを承知の上で人類はそれに未来を賭けた。
結論から言おう。
人類はもう一度、地上に帰ることが出来た。
これまでの人間の枠を超越した肉体と、特殊な力を携えて。
その上、大地や自然にウィルスが作用し、驚異的なスピードで地球は浄化を進めていった。
予想外の出来事ではあったが、あまりにもうれしい誤算だった。
ただし、都合のいい事ばかりではない。
そう、ウィルスは人間以外の動植物にも作用した。
あるモノは驚異的な進化を遂げ、童話で聞くような魔物と呼ばれる生物になった。
またあるものは、その身体を数倍にも巨大化させた。
科学にファンタジー、超能力に超人的身体能力。
世界をまるで夢や幻のように一変させたウィルスは以降こう呼ばれた。
――夢幻ウィルス。