翡翠の風
採石場で出会った黄金色の少女はガリガリと、一心不乱に法石を食らっていた。
声を掛けるのも躊躇われるほど必死に瞳と同じ色の石を食らっていた。
「誰?」
整っているからこその凄みで俺を睨みつける瞳には暗い色が混じっている。
「……トーマ」
我ながら情けない、震えた声が漏れた。
「ふぅん」
興味がないというようにそっけない返事が返ってきた。
石をゴクリと飲み込んで、
「何しに来たの?」
「君がいるから、作業が止まってしまって皆困っているんだ」
「それで?」
「……だから、」
「出てってほしいわけ?」
その時、彼女の凄みが彼女の顔の造りだけでなく彼女の中の暗い感情からくるものだと悟った。
「君はそのための生贄。そうでしょう?」
その通りだ。近しい肉親のいない俺は彼女を追い出すための必要な犠牲とされた。
「私達は人間なんか食べないわよ。見てわかるでしょ?」
確かに。彼女は俺と会話をしながら法石を食べている。
誰も餌と会話をしようなんて思わないだろう。俺だって、豚と会話をしようものなら変人と言われかねない。
「そういうの困るのよね。あんたみたいなの貰ってどうしろというのよ。私は鬼じゃないんだから」
彼女を見た人はどこをどう思ってこんな勘違いをしたのか。
彼女は鬼のようにごつくはなく、細身で何より綺麗だ。キラキラと光る法石のような美しさがある。
それゆえの凄みはあるが。
「私は此処に養生しに来たのであって、あなたたちの生活の邪魔をしたいわけじゃないのよ。できることなら、不干渉でいたいわ。」
ああ、なるほど。だから彼女は緑色の法石ばかり食べているのか。
法石とは不思議な力を持った石だ。
彼女の食べている色には癒しの力があると言われている。
とても高価であるため俺は見たことがあっても使ったことはない。
「それに、ちょっと前までは此処に人間なんかいなかったかんだから」
彼女が言うちょっととは人が三回死んで生まれるほどの時だとわかった時、やはり鬼とは違っても、人とは違う異形の者だと再認識した。
「で、君はどうするの?」
「へっ?!」
名残惜しそうに指をなめながら、
「だって、捨てられてのでしょう?」
捨てられた。その言葉が胸に刺さる。
生贄と言えば町のため皆のため、聞こえはいいが用はそういうことだ。
「しょうがないから私が拾ってあげよう」
お腹が膨れて満足したのか、彼女は立ち上がり伸びをして満足そうにニヤリと笑う。
「人間を飼うなんて奇妙なことそうそうないから、これも気まぐれよ。
ついてきなさい。トーマ」
自慢げに長くとがった耳を立て、黄金色のふわふわした髪をなびかせ、翡翠色の瞳をキラキラと光らせ、俺と同じ年ごろに見える少女は風を纏う。
「あ、名前……」
風に飛ばされないように差し出される腕にすがりつく。
「あら、言ってなかったかしら?」
嵐のような豪風の中、気持ち良さそうに目を細めて彼女は言う。
「レラよ」
俺とレラは町から飛び立った。
採石場はしばらく嵐がやまなかったらしい。