エピローグ 3 ―了―
鍵を回し、エンジンを止めて――
そこに彼女は待っていた。
「おつかれだったじゃないか、光牙」
「……急に驚かすなよ。なんだって、そんなところにいるんだ」
夜の駐車場。死角になっていたフェンスに身を委ねて、園長が煙草を吹かしていた。小さく赤い光がちらっと輝いてふっと消える。
「たいしたことじゃないさ。あたしの愛車に傷でもつけられてないかって心配になってね」
「あいかわらずだな、アンタは――」
「なにをおっさんみたいな顔でしみじみ言ってんだい。さっさと戻りなよ。アンタには休んでた分、キッチリ働いてもらわないとね」
「うへぇ……」
「ふぅん。嫌そうな顔するのね。もしアンタが出て行きたいってなら――あたしはどっちでも構わないんだよ」
それはいつもと違う声色だった。
おもわずきょとんとして、光牙が振り返る。
彼女の表情は変わらない。いつものサイドポニーを揺らして、だるそうに垂れた瞳をまっすぐと向けている。だが視線は真剣である。
しばらくの沈黙を保ち、それから光牙はいつの間にか緊張していた肩の力を抜いて答えた。
「ったく、馬鹿言ってんなよ。さっさと戻って、あのアホタレに仕事を教えないとな」
「……そうしてくれるとあたしも助かる。アンタがいないと滝川のバカが色目ばっか使ってるからね。琴子ちゃんになにかあったら、こっちも困るんだよ」
「はは……滝川さんらしいな……」
呆れたように、光牙が笑う。
「それに――」
面白がるように園長が小声でぼそりと付け足す。
「あの子もアンタがいたほうが、ウチで長く働いてくれそうだしね」
「……なんかいったか?」
「いいや、べつに。ほらほら、さっさと急いだ急いだ。」
背中を押され、光牙が駆け出す。
かわいた夜空にアスファルトを弾く二人の足音が鳴り響いた。
―了―
完結設定を忘れてしまったので、
最後にあとがきを作成しています。




