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第四章 魔獣 part11 (光牙の決断)

「……なんの真似だ?」

「あの状態なら、わざわざあんたが出張らなくても、俺と忠孝さんで十分にトドメは刺せるだろう――」

 藤堂の持っていた重槍を光牙が奪い取る。すると、そのことに驚いたのか、藤堂と忠孝は顔を見合わせて呆けたような表情を浮かべていた。

「センパイ……もう本当にどうしようもないんですか……?」

 そう詰め寄る琴子に光牙はなにも答えなかった。口を噤み、黙って戦場を見渡す――

 庭園には血が流れすぎている。芝生にも、倒れている者にも、魔獣にも――

 おそらく戦いの終わりは誰もが望んでいることだろう。なおもけん制を続ける人獣族の二人が期待をするように自分に視線を向けているのが分かる。その気持ちは自分も同様だった。

(こんなこと――続けていたらいけないんだ……)

 手のひらに槍の重みを感じながら、そう一人ごちる。

「センパイ、どうしたんです……?」

 ずっと無言でいる光牙に心配になったのか、琴子が困惑する。その顔を見るなり、銀色の半獅子は堅く引き締めていた表情を緩めてふっと微笑を洩らした。

 そして告げる。

「……先に謝っておくぞ。俺は今から乱暴な真似をオマエにするが……しばらくのあいだ我慢して協力してくれ」

「へっ――? え、ええと……それはどういう――」

 素っ頓狂な声をあげて琴子。だが光牙は彼女の返事を待つ気など毛頭ない。

「こういうことだよッ――!」

 それは一瞬の出来事だった。だれかの制止する間もなく――

 光牙はあらん限りの力で手に持ったばかりの重槍をできる限り遠くの地面へブン投げると――代わりに琴子の細い身体を腰元から抱えこんでそのまますばやく自分の双肩に担ぎあげた。そして、獣化した脚力を存分に揮って、その場をすばやく退散する。

「なっ――!」

 小さく悲鳴を漏らしたのはおそらく忠孝だろう。冷静な藤堂がそんな風に取り乱すとは考えにくい――とはいえ光牙に振り返って確認する余裕まではない。そんな悠長な真似をすればすぐにでも捕まってしまう。

(今、この場で俺がやるべきこと……それは――)

 白い霧。突然に訪れた天恵を睨みつけ、それが悪化することをひたすらに願いながら――光牙が叫ぶ。

「静音! 助かりたいならついてこい! 俺がオマエを救ってやる――!」


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