今度は、自分の目で信じますわ
王宮の謁見の間は、冷たい空気に包まれていた。
玉座の前で、第二王子レオンハルトが震えている。隣には青ざめたフィオナ。
その光景を、アデリア・ローゼリアは静かに見つめていた。
「陛下、先日の件では多大なご心配をおかけしました」
王は溜息をつき、言った。
「アデリア嬢、そなたに責はない。だがこの愚息には償いをさせねばなるまい」
「父上、もう一度だけ機会を……!」
「民の税を使い、私的な贅沢と虚言を繰り返した者に、どの口で言うのだ」
玉座の間が静まる。
王は宣告した。
「レオンハルト。お前を第二王子の座から退け、辺境での奉仕を命ずる」
「そ、そんな……!」
護衛に連れられ、王子は消えた。
アデリアは胸の奥に小さな痛みを覚える。信じるとは、時に残酷だ。
だがもう、彼女は“誰かの信仰”ではなく、“自分の意思”で信じる人になっていた。
謁見後、カイルが近づく。
「……終わったな」
「ええ。殿下はきっと、これからが本当の学びですわ」
「姉さん、最後までそれか」
「人が変わることを、わたくしは信じていますの」
数日後、ローゼリア邸。縁談の手紙が山のように届いていた。
アデリアは一通一通眺め、蓋を閉じる。
「どれも立派ですが……」
「断るんだな」
「ええ。勧められて信じるのは、もう終わりですわ」
窓辺で風が揺れる。
カイルが言った。
「じゃあ今度は、自分の目で確かめてほしい」
真剣な瞳が向けられる。
「俺を信じてくれないか。誰かの言葉じゃなく、姉さん自身の判断で」
アデリアは一瞬黙り、それから微笑んだ。
「わたくし、あなたの言葉なら信じられますわ」
陽が傾き、部屋を橙に染める。
彼女は優しく言った。
「信じることは、美徳であり、時に試練ですわ。でも今は少し誇らしいの」
「どうして?」
「だって、今は自分で選んだ人を信じていますもの」
かつて信じることは彼女を縛っていた。
けれど今は、それが翼になっていた。
アデリア・ローゼリアは、自分の目で選んだ幸福を信じている。




