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しらないところで Annex  作者: 南 紅夏


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5/9

とある初夏の昼休み

大牙の日常回。

研究所構成員(この時点での年齢)

今回の登場人物

 橋内 澪(30)…静岡出身。若手の育成担当。

 小野寺 冬馬(28)…埼玉出身。

 楠井 和真(26)…大阪出身。大学は一浪して入った

 森 千明(25)…滋賀県出身。若干不思議ちゃん。

 東雲 大牙(24)…東京出身、ここでは一番のぺーぺー。






「今日、昼何にするー?」

 就職して1月半ほど経った5月、ゴールデンウィーク明けのある日の事だった。帰省を終えて今日から出勤の橋内さんが、若手全員が集まっている会議室を覗き込み、声を掛けて来た。


 勤め先の研究所は、とある製薬会社の工場敷地内にある。製薬会社側に行けば社食があるのだが、残念ながらこの研究所からはまあまあ遠いのだ。

 橋内さんがこういう質問をしてくるときは、大体外に食べに行かないか、というお誘いの事が多い。


「僕、今日バーガーの口です。なんで月見って秋だけなんだろ。月見バーガー食いてぇ…」

 俺は思いついたままの事を口にした。

「アホか!そんなん言われたら、俺も月見の口になるやんか!」

 2個上の先輩、楠井さんが卓上に突っ伏した。

「じゃあ私買ってくるよ。無いものじゃなくてちゃんと選んで」

 そう言いながら、橋内さんはスマホでモバイルオーダーの画面を開いた。


「いや、僕が行きますよ」

 先輩をパシリに使うのは気が引ける。一番新人の俺が行くべきかな、と挙手した。

「ええー?東雲君の運転、まだちょっと不安…」

「そこのマックでしょ?近いし平気ですよ」

 白衣を脱ぎながら俺が立ち上がった瞬間、楠井さんがバン、と机を叩いた。


「なんや、マックって。マクドやろ」

「…マックでしょ?」

「はぁぁ~!?『マクドナルド』言うてんねん。略したらマクドやろーが!どこにも小さい『つ』入ってへんわ!」

 時々、この楠井さんは面倒臭い。若干兄の氷牙に通じるところがあり、正直イラっとする。


「じゃあ、あそこのフライドポテトの正式名称知ってます?」

「…そんなん、マックフライポテトやろ…あ…」

 そこで俺は、にやりと笑って楠井さんを見下ろした。

「ほら、本家本元さんがマックっておっしゃってるんです。マックでしょう?」

「やかましわ、アホ!あんなん商品名や!店の名前ちゃうわ!」

 叫びながら、楠井さんは立ち上がった。


「私、チキンフィレオにしよ。鳥好きやねん。セットやのぉて、単品で、ナゲットつけてな?」

 楠井さんと同期入社の森さんが、急に会話に割り込んだ。彼女は何かいつもタイミングがおかしい人だ。悪い人ではないのだが、会話のキャッチボールが難しい。どうやら今の今までずっとメニューを見ていたらしい。

「うん…鳥、おいしいよね」

 生暖かい目で橋内さんが相槌を打った。

 森さんのマイペース発言で毒気を抜かれ、楠井さんは静かに椅子に座りなおした。


「前も何か揉めてたな?あー、アレだ。東雲君、ユニバーサルスタジオジャパンだ、略したら何になるのかって」

 若手男性陣では一番年上の、小野寺さんが俺の方を見てネタを振ってきた。

「USJでしょ?」

「ほらぁ!ユ()バやゆーてんのに!」

 楠井さんがいちいち立ち上がる。そのキレのいい動きに思わず

「ひな壇芸人…」

 と、口をついて出てしまった。


「森さん、ちょぉ…東雲君になんかゆーたって!こいつ関西人バカにしよるで」

 立ったまま、ひな壇芸人は同じ関西人の森さんに協力を仰いだ。

「バカにするわけないでしょ、するとしたら楠井さんだけですよ」

 俺はホワイトボードにここに居る全員の名前を書き込みながら、軽く反論した。名前を書き終わったところで、森さんの名前の横にチキンフィレオ・ナゲットと書き込む。

「なんやとコラー!」

 そこまで言うと、楠井さんはすとんと椅子に腰かけた。


「あー、東雲君の彼女、大阪生まれゆーてたもんなあ。関西弁喋ってるー?」

「ほぼ標準語ですよ」

 森さんの質問に答えつつ、俺もスマホでメニューを確認する。

「え?標準語なん?関西弁出ぇへんの?」

「なんか、キレた時だけ関西弁になってました」

「ん-?何か、ジャンプの漫画でいたなあ、そういう人」

 小野寺さんが、まばらなあご髭を撫でながら笑っていた。

「…じゃなくて、早く決めようよ、休憩時間終わっちゃうでしょ」

 橋内さんに急かされ、俺たちは慌ててメニューを決めた。




 結局買い出しは小野寺さんの運転で、俺が荷物の受け取り要員として同乗して行った。

「東雲君、仕事は慣れた?こっちの生活も…」

「お陰様で。まあまあ楽しくやってます」

「GWは、里帰りはしなかったんだっけ」

「逆に母と姉が押しかけてきましたけどね…小野寺さんは、埼玉でしたっけ」

「そ。まあ、俺も帰らなかったんだけどね」

 ある意味、若手5人の中で一番まともで常識人だと思うのがこの小野寺さんだ。でも、この人こそプライベートが読めない。趣味とか、そう言った個性が全然見えないのだ。


 GWは何してたんですか、と聞きかけて、何となくやめた。


 昼食後、橋内さんがお土産を会議室の机に広げた。うなぎパイと「こっこ」だ。

「おー、静岡と言えばこれだね」

 小野寺さんが、うなぎパイを手に取った。

「…そっか、橋内さん静岡か!」

 俺の中で、こちらへやって来るときの疲労感がどっと思い出された。


「…長いですよね、静岡…」

「長いよな、静岡」

 俺のため息交じりの発言に、小野寺さんが同意してくれた。

「…長いて、何がです?」

 不思議そうに首を傾げる森さんに、

「…横幅…?」

 俺と小野寺さんは顔を見合わせつつ答えた。そして、全員見るとはなしに橋内さんの方を見た。


「私の家はね、かなり神奈川寄りなのよ…だから」

 お茶を一口飲むと、橋内さんはものすごく長い溜息をついた。

「大阪に向かうと、めっーちゃ長い!のぞみ停まんないのよ?県内6駅あるのに、のぞみはドコにも停まんないの!」


「…おう…」

 唸りつつ、小野寺さんがのけぞった。

「あー…なんかスンマセン、余計な事言って」

 とりあえず俺も謝る。


「ま、帰る方法は新幹線だけじゃないからね。東雲君もそのうちラクな帰省方法見つかるよ」

 ふふん、と笑いながら橋内さんはうなぎパイを齧った。


 その3か月後、研究所の所長室に、移動のSSRアイテムがある事を知る。

 そんなチートを知る前の、新緑まぶしい初夏の出来事だった。


ユニークアクセス1000記念です。ありがとうございます。

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