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しらないところで Annex  作者: 南 紅夏
3/3

インタビューの真実

「星の娘にまつわる伝承」 栞3・4の後に読むのがおススメです。

 春休みも終盤に差し掛かった、とある日の夜。

 湊太は、久しぶりにレビから借りていた本を読み進めていた。

 一人でそっとアステリアに移動しての読書タイムだった。


 「星の娘にまつわる伝承」と言う本の、レビ指定の栞部分を読み終わった時、秀人からの伝言メモが目の前にポップアップした。読み終わったタイミングで表示されるように設定されていたらしい。


 そのメモには、

「『星の娘にまつわる伝承』の栞部分読み終わったら、面白いからコレ見て」

 と書かれていた。

 そこにはグラーティア家の「家族フォルダ」へのリンクが張ってあった。


―――よくこんなの見つけたな。


 時々、秀人に関しては「検索の鬼」だなと思うことがある。

 リンク先に指定されていたのは、「家族フォルダ」に残っていた、3代目巫女のインタビューの映像データだ。


「これ、俺が見ても良いモンなのかな」

『5000年ほど前のデータですね。家族フォルダにあるので、問題ないと思われます』

 独り言のつもりだったが、グノメが相槌を打ってくれた。

「じゃあ、再生して」




 小柄な人間の女性が、カメラを覗き込みつつ位置の調整をしているらしい映像から始まった。

 彼女以外に映っているのは、ソファに向かい合って座ったエルフ二名。長いピアスをぶら下げた、髪の短い女性と、レビのように長い髪を無造作に束ねた男性が一名ずつだ。


 ソファの周りは、ぼこぼことした木の壁だ。表面を全く削っていない、大きさの揃っていない丸太が並んだような感じにも見える。


―――うわ、これ、洞の中?…『星の塔樹』の中の部屋だよ…


 カメラの調整が終わると、小柄な女性はカメラに向かって

「これから3代目巫女アステリア様に、『星の娘』の話を聞きまーす。インタビュアーは現グラーティア家当主のレイモンド様、音声に残らない部分…星アステリア様の言葉を、私、書記のルーナが担当します」

 と口上を述べた。


 ルーナと名乗った女性はソファに移動すると、エルフの男性のそばに座った。

 紙とペンを用意し、姿勢を正すと

「はい、レイ様始めてくださーい」

 と左手を差し出して合図した。


 ここから先は完全に動きのほとんどない、同じ画角の映像だ。


レイ:うーん、困ったな。一応巫女の事を書き残すのが役目なんだけどさ。「娘」の件は、俺の仕事じゃない気がすんだけどなあ。

巫女:いや、私は別に私の事も残してくんなくても良いんだけど。洪水の件あったしさ、もう今期は盛りだくさんっしょ?これ以上書かなくていいって。…あー、そうね、分かってるって。

ルーナ:え?何がですか?星アステリア様が何かおっしゃいました?

巫女:「私にとってはお前の記録より、娘の方が大事な問題だ」って言ってる。


レイ:まあ、書くけどさ。でも巫女姫の歴史の本とは別だよな、これ。

巫女:じゃあ、分身だけの本でも別に書いてやってよ、それでこいつの気が済むなら。

ルーナ:こ、こ、「こいつ」って…


巫女:はい、気にしなーい。さて、何から話すかな。私が、例のオリビアって子の存在を知ったのは、火山が活動始める前だよ。ブリナに地震がガンガン来始める直前だね。

レイ:ん?それまで知らなかったの?

巫女:そう、知らなかったんだよ。調査隊を火山に向かわせようって話になった時、当然周囲は『入ってはいけない森』じゃん?調査無理だよなって言ってたら、こいつが「私の娘を同行させれば大丈夫」とかワケわかんない事言い始めて。

レイ:娘って誰やねんってなったんだ。


巫女:まじで星の娘って意味不明じゃん?分かるように説明しろって怒鳴ったら、「初代の血筋で、一番美形と思われる夫婦の奥さんの腹の中の胎児に、自分の一部を切り取って埋め込んだ」とかヤバい事言い始めて。「だから、私の娘だ」とか完全にサイコパスな事ほざきやがりまして。

 ワケわからん、なんでそんなことをしたのかって問い詰めたら、「そろそろブリナの火山が活動しそうって思ったから、ちょっと見てみたくなった」とか言うわけ。はぁ?ってなって。

 そりゃ星に目なんかないけど、今までだって好き勝手に動物やら昆虫の目覗いて見てたわけじゃん?それで見りゃええやん、何ならドラゴン派遣しろやって言ったら、「違う、自分の目で見たくなった」って、もう言ってる事無茶苦茶よ。

 何て言えばいいの?こいつ、火山活動の事、最初「腹痛い」みたいな説明してたのよ。つまり、火山の噴火は下痢って事じゃんか。顔近づけて肛門見たいって言ってるようなもんじゃん?どんなプレイだよ。


レイ:おーい、言い方!品位な?一応巫女様なんだから。…ほらぁ、星が怒っておられるぞ。

巫女:いいんだよ、怒らしとけ。

 私が存在を知った時点でその娘、オリビアは成人しちゃってて。実はもうブリナの火山まで一人で行って見てきたんだよーって自慢げに言いやがって。人の娘乗っ取っといて、はじめてのおつかい上手にできましたーって娘自慢とかハァ?って感じ。しかもオリビア通じてどんどん言葉も上達して、逆に腹立つわ。…まあ、分かりやすくなったのはいいんだけどさぁ。


レイ:船便代とか交通費はどっから出てたの?

巫女:それがさ、星そのものが一部入っちゃってるからスタードラゴンも乗り放題よ。緑の子で呑気に空の旅。

レイ:いや、それ以外にも宿泊とか食糧とかもいるっしょ?

巫女:まあ、宿問題は、森に入っちゃえば好き勝手に寝泊まりできちゃうんだけどね。こっからが問題なんだよ。「魅了(チャーム)」の力を付与しておいた、色目を使えば大体何とでもなる、とかめちゃくちゃヤバいこと言い始めて。そのために美形夫婦を選んだって。

 いや、お前目が見える見えん以前に、美形だのなんだのそーゆー価値観も分からんやろ、って話じゃん?そしたら、私が教えてくれたから間違いないって言うのよ。


レイ:美形の判定方法、お前が教えたの?

巫女:言われてみたらさ、ここに来てすぐくらいに聞かれてたのよ、「初代の親戚筋で見目の良いの新婚はいないか」って。こいつ、世間話もすんのか、とか思いながら、フツーについ最近私が結婚のお祝いに行った夫婦の話をしちゃったのよね。「初代の妹の孫が、まあそいつもイケメンだけど、これまた美人な嫁さん貰ってた」って。

 顔色変わるわ、私がオリビアの人生壊したようなもんじゃん?そもそもうちの家系なんか、どこをどう切り取っても美男美女ぞろいじゃん?別にオリビアじゃなくても良かったと思うんだよ。私だよ、戦犯は~!もー!

ルーナ:うっわぁ…。


巫女:こいつの性格を受け継いでいたなら、かなり空気読まずに迷惑を掛けまくってたんじゃないかと思うんだよね。あーもう、まじでご両親に謝りたい…ごめん…マジでごめん…。


レイ:でもよ?星の代わりに視察に行くとか、巫女の仕事じゃん?お前が火山見に行けばよかったんじゃないの?

巫女:いや、言ったよ?でもさ、私がブリナまで行くと、私からの声が聞こえなくなるから会話がめんどいとか我儘言いやがって。

 実は就任直後に一回、実験したことがあったんだよ、憑依実験。なんか自由に動く方法ないかって相談されて、体貸してやってみたんだけどさ。『星の塔樹』が見えないところまで飛ぶと、完全に私の体から抜けちゃったの。だから、「巫女はこの『星の塔樹』から動かさず、この星中を好きに見て回れる分身が欲しかった」って…。


レイ:でも、オリビアは移民船に乗っちゃったんでしょ?で、今も戻ってきていない。

巫女:周辺の取材したんでしょ?移民船に乗るとき、オリビアは出産直後だったって。妊娠直後くらいから、ガラッと性格変わって別人みたいになってたって話じゃん。

 まあ私の想像なんだけどね、エルフって子供産んでも一人か二人で止めちゃうじゃん?このままだと1000年待たずに死んで星に戻っちゃう。自我が芽生えてたのかな、まだ自由に動きたかったんじゃないの?だから先の事考えて、「分身」は、赤ん坊の方に移ったんじゃないかって思うのよ。

 「分身」が自由に動ける状態だったら、何が何でもアステリアに残ったと思うんだよね。たとえ丘の上の屋敷に入れなかったとしても、「入ってはいけない場所」に好き勝手に住めちゃう子なんだから。

だから、自分で動けない赤ん坊の方が、あの時点でもう「分身」だった。

 「分身」の抜けたオリビアは、普通の弱い女の子だった。耳のせい、「魅了(チャーム)」の能力のせいで差別されて、噂されてさ。イヤな思い出しかないこの星を捨てて、移民船に乗った。…そういう事だよ。多分ね。


レイ:でも、星は「分身をこの星へ戻してくれ」って言ってるよね?

巫女:移民船の船長が、向こうで残って探してくれてるんだけどさ…。そもそも地球行きの船に乗ったかどうかも分んないじゃん?

 地球帰りの子と何人か話したけどさ。地球って、この星ほどあーだこーだ言わない、何考えてるか分かんない無口な星って言うじゃん?対話できねーって言ってたよ。

 地球のマナが協力してくれない、教えてくれないってなると、もう人海戦術しかないじゃん?足で探せってヤツ?しかも、見た目が普通の人間と同じような短耳となると、かなりムズいと思うんだよね。しかも完全に赤子の方に移ってるなら、もう本気で難しいと思うよ。ん?ああ…そうか、じゃあ間違いないね。


ルーナ:星アステリア様が今何かおっしゃいましたか?

巫女:妊娠した頃から、視界がぼやけてたってさ。動く命令も全く受け付けなくなってたんだと。

ルーナ:では、探すべき「分身」は、今現在20歳を過ぎた年頃の…女の子、で間違いなさそうですね。

巫女:もう、ほっといてやれよ…向こうで幸せなら、もうお前余計な事すんなって…いや、あんたの一部かもしんないけどさ?自分で切り離したんだから諦めなよ。

 自分で考えて赤ん坊に移ったとか、完全に自我持っちゃってるじゃん?子離れしなよ、いい加減。


レイ:でもさ、可能なら切り離してこの星に戻してやりたいよ。星のためじゃなくて、オリビアの子孫のために。

巫女:それなー、人格奪うとか最悪じゃん。そうなると、探すしかない…か?

ルーナ:見つけたところで、「分身」が戻る気なさそうな気がするんですけど。引っぺがす方法ありますかね?

巫女:そん時ゃ、こいつが何とかするんじゃないの?頑張って説得しろよ、お母さーん?




 ここで、録画が終了していた。


―――本の方と、感じが全然違う!


 当時の当主と3代目がかなりフランクに話す間柄で、湊太はちょっと驚いた。

 レビなんか、姪っ子相手で敬語だったのに。まあ、今のあの子は「星そのもの」が憑依しているから、そうならざるを得ないのか。…それよりも


「3代目、口悪ぅ…」


5000年前のファンキーなエルフのお姉さんに一言物申すと、湊太は画面を閉じた。



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