8 チョン君って何モン?
「失礼しまーす!友達を連れて来ました!
チョン君です!本名は….。」
「いいよ!どうせ入部する気ないんだろ!
だったら、あだ名でいいよ。
私達もあだ名で呼び合ってるし…。」
七草が素気なく応えた。
「こっ、こんにちは...」
「緊張しなくていいよ。
何か飲む?コーヒーにお茶に紅茶。
その中の、どれかだけど。」
ヨッシーは、サバサバしているが優しい笑顔で対応をした。
「じゃあ、コーヒーをお願いします。」
「だってさ、部長!スペシャル淹れてやってよ。」
ヨッシーの注文に部長が溢れる様な笑顔で応えた。
「はい!承知しました。
腕に寄りを掛けて淹れさせて頂きますよ。」
「あっそんな!部長さんが淹れられるんですか?
そんな恐縮です。」
チョン君の緊張が、中々解けなかった。絶世の美女達の対応に戸惑ったのだ。面白い先輩達と聞かされ容姿など期待もしていなかった。
これ程の美少女達がこの狭い部室の中に同時に存在する事自体が奇跡だとさえ思えたのだ。その様子を察して七海が声をかけた。
「大丈夫だよ!部長は人が喜ぶ事が大好物なんだ。
美味しい顔見せてやれば、それでお釣りがくるよ。」
短亀ちゃんは部長の手伝いをしてコーヒーカップなどを揃えている。
「凄いですね。色々揃ってるんですね!
電子レンジに冷蔵庫か!」
チョン君が感心しているので七海が説明した。
「まあ、正式に認められてる訳じゃないけどね。
黙認して貰ってるんだ。
まあ、それも部長の日頃からの学校にたいする貢献の賜物だ。
間違った事はしないだろうと言う信用の元に成立してるんだ。」
「そうなんですね。」
「ナクサ!彼、何だか七星に、似てないか?
顔もそうだけど。雰囲気とか...。」
「どぉーこがぁ!
七星の方が一千倍も一万倍も男前だよ!
比べようがないわ!」
「アンタッ!本人、目の前にして失礼な事この上ないね!すまんね!
最近、彼氏が転校してね。
ハートブレイク中なんだ。」
「そっ、そうなんですか!それは、寂しいですね。」
「はい、はい!コーヒー!入りましたよ。どうぞ!」
部長が笑顔でコースターに乗せたコーヒーを運んできた。部長と短亀ちゃんで、配膳した。途端にコーヒーのいい香りが漂った。
「良い豆って言うか、高け一豆らしいから
よーく味わいなよ。」
「ヨッシーさん!折角召し上がって頂くのですから
気軽に楽しんで頂かないと。
「そうだった。堅苦しい事言って申し訳ない。
好きに味わってくれ。でも本当に美味いんだ。
部長の愛情増しだからな。」
そう言いながらヨッシーもコーヒーを口にした。
チョン君は、カップを口元に持ってきて、まず香りを楽しんだ。
香ばしくも甘い香りが鼻をくすぐった。
充分香りを味わってから口内にコーヒーをそそぎ入れるとほろ苦さが香を包み込み、香りと味の両攻撃を堪能した。
「うん!確かに、美味しいです。
部室でこれが頂けるのはかなり贅沢ですね。」
チョン君の感想にヨッシーも同調した。
「そうだろう!もう、これは、至福の時だよ。」
「ありがとうございます。嬉しいですよ。
そんなに褒めて頂いて、ご馳走した甲斐があります。」
部長が笑顔で応えた。
「どう?チョン君!」
短亀がニッコリ顔でチョン君の顔を覗き込んだ。
「ヤバイよ!俺、このコーヒーで洗脳されそうだよ。」
「ダメだよ!チョン君。しっかりしなよ。
物で吊られたりしたら駄目だ。
自分がやりたい事と符合しなければ
選択するべきじゃない。」
七海も笑顔でアドバイスした。
「でも、人間の心理って不思議なものですね。
入るな。入らなくていいよ。
そう敢えて言われると何故か、
逆に入りたくなるものなんですよね。
何だろって覗いてみたくなる。
好奇心をくすぐられるんですかね。
天の邪鬼な性格なら、なおさらですよね。」
「で、入部したくなったの?」
「…かも知れないです。でも、何も組織に属さないと言う事への執着心は変え難いものはあるんですよね。」
「でも学校に来てる以上、既に組織に属しているじゃないか!それこそ、変え難いぞ!」
「そこなんですよ。
最低ラインの組織図からは逃れられない。
たった一人で人間は生きて行く事は、出来ないですから。
それに組織に属す事が義務ずけられています。
まず国に属し県や市町村に属し家族もある意味組織ですかね。
でも、その中で、なるべく省けるものは省いていたい。それが僕の思いですかね」
「それは、それでいいんじゃないか。
自分で出来る範囲の事は
変えたくなったら変えればいいし
ただ、そこに、こだわり過ぎたり
留まったままで居続ける事は
ないんじゃないかな。」
「はい!そうですね!」
「ヨッシー!やっぱ似てたな。」
「そうだな。」
「でも何でだ。入学式から、こっち今まで全然気づかなかったぞ。
私が、ダーリンに似たヤツを気づかないなんて事。
あるか?」
「たまたま、合わなかっただけじゃねーの!」
「アンタも知らなかったんだろ?
部員みんなが知らなかったなんて事があるか?」
「たまたまだって、気にすんな!
何、動揺してんだ!」
「そっ、そんな事はないけど
アイツは、部室に近づけちゃ、いかんな?」
「何でだよ!部長が自由の聖地だって宣言したんだぞ。
来るものは、拒まずだろ!
ナクサがそれを決めることは出来んよ。」
「波乱が起きるぞ!ヤツは、ただモンじゃない。
その事は、みんな肝に銘じておくべきただ。」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
続く