71 バス停で漫才⁉︎
「ハーッ…疲れた。」
雑魚寝ができる休息スペースに
みんな集まっていた。
七草とヨッシーは
毛布に、くるまって横になっている。
「そりゃあ。全速力で
船を一回りしたら疲れるだろうよ。
おまけに一周して戻ってきて
捕まってどうするんだ。」
ヨッシーが呆れているが短亀ちゃんは違っていた。
「でも最後にヘトヘトになって
部長の胸に飛び込んだ時は感動ものでしたよ。
私の脳内ではサライが鳴り響いてましたよ。」
「一人24時間テレビだった訳だ。」
「部長もお疲れさまって、なんだ?
怒ってなかったのか?」
「あんな体力のない七草さんが
フラフラになりながら
こちらに向かって来るのを見てたら
何だか、いじらしくなってしまって
つい両手を広げてしまいました。
愛しさと憎らしさが入り混じって
何とも言えない気分でした。」
「切なさと心強さはなかったのか?」
「まぁ。篠原涼子さんですか?
茶化さないで下さい!ふふふっ!」
七海が、その会話を微笑ましく聞いていた。
「七草は?ああ....本人はオネンネか…
ヨッシーに添い寝してもらって
気持ち良さそうに夢の中か…」
「そのようですね!
憎まれ口を叩かれても…
結局憎めない不思議な人です。」
「そうだな。」
フェリーから降りると別府から
急行と普通列車を乗り継ぎ宗像に向かった。
七草が別府で温泉に入りたいと
ダダをこねたが、みんな無視した。
フェリーで3時間。列車で3時間半。
目的地到着は夕方になりそうだ。
温泉をご遠慮願ったのは当然だ。
「あ一っ!疲れた。ケツが割れたーっ!」
「オマエ…前回もそう言ってなかったか?」
「いや!前回は「尻が割れた」じゃなかったか?」
「知るかーーっ!
そんなん、どっちでもええわーいっ!」
「七海…楽しそうだな。」
「改めて言うなよ!恥ずいだろうが!」
「ちょっと、そこの二人!バス来ましたよ。
時間が空くと、すぐ漫才が始まるんだから…」
「漫才じゃねーし。ただの会話だ。」
「いいから、早くして下さい。
他のお客さまも、いらっしゃるのですよ。
あっ!すいません。お先にどうぞ。
ホラーっ、早く!」
「ああ、また怒られた。」
「七海!オマエが私の独り言に
いちいちツッコミ入れるからだろ!
私はアンタと、お笑いコンビを組む気はないよ!」
「俺だって、ごめんだ!
そもそも俺は、お笑い芸人なんてやらんぞ!」
「芸人なんてとは、なんだ!ナンテとは!
人を笑わせると言う崇高な職業に対して
失礼極まりない。
笑いは人を幸せな気分にさせるんだ。
笑いは人を救うんだ。
悲しい時さみしい時に寄り添ってくれて
つらい時苦しい時落ち込んだ時に
勇気を与えてくれるのが、笑いなんだよ。」
「最後は笑いなのか?お笑いじゃなくて!」
「お笑いは手段だ。笑いは行為そのものだ。
お笑いで生み出された笑いが
人々を幸せな気分にさせるんだよ。」
「そうか。なんか納得したよ!」
「単純だな!」
「素直って言えよ!」
「ヤダね!
「こーいつぅ!」
「ハハハッ!はっ⁉︎ おい!七草!
バス発車してるぞ!」
「何⁉︎ 」
「ちょっと、待ったぁ!バス!そのバス!
待てぇ!待ってくれ一っ!」
二人は、ゆっくり走り出したバスを
慌てて追いかけた。
すると最後尾の窓ガラスが開いた。
部長の無表情な顔が二人を睨んでいる。
部長が無表情と言う事は
怒りがマックスに達したと言う事だ。
「次の便で、いらっしゃって下さい!
私は、もう知りません!
では、お気をつけて!」
ピシャッと窓が閉まった。
バスが小さくなって行く。
二人は、その場にしゃがみ込んだ。
「ハァ、ハァ...今日はよく走るな。もう限界だ〜」
「ああ~。最高にヤベーよ!
もう、家に帰るか!」
「ハーッ⁉︎ 七海、何言ってんだ!
オマエらしくない。頭おかしくなったのか!
それは普段、私が発する言葉だろ。
7時間以上かかってんだぞ!
ここまで来るのに!」
「だって、また怒られるんだぞ。
おっかねーよ!」
「マジかっ!本当にビビッてんだな。
情っさけねーなぁ!」
「オマエだって!フェリーで睨まれて
一目散に逃げ出したじゃないか!」
「確かに!アレは怖かった。
アレだよ!よくテレビとかで言ってるだろ!
ダンナが腕力じゃ負けんけど
精神的な威圧感で嫁が怖い...とかな。
腕力でも勝てんのに、それは、ビビるよ!」
「そうなんだよなぁ。
威圧感が半端ねーからなぁ...」
「威圧感がどーしたんですか?
誰の威圧ですかっ?」
背後で声がしたので二人は振り向いた。
「あっ!」
「わっ!部長っ!」
部長が腰に手を当てて二人を睨みつけている。
「威圧感..…ですか?」
「いっ、いや...そうじゃなくて……
イー・アツさんって言う中華系ハーフの方の...
わーっ!ごめんなさい!」
「はい!素直が一番ですよ!
そろそろ次の便が来ますね。
バス停に戻りましょう。!
部長が先頭で何事も無かったように
スタスタと歩き出した。
「アンタら本当に懲りないね!毎回毎回。
こっちまでとばっちりだよ。
部長がいきなりビンポーン
「やっぱり降りまーす!」とか
やっちゃってくれるから…また、後戻りだよ。
疲れんだよ。アンタらのおかげで実際!」
「面目ない!」
「バスに乗ってからやりゃぁいいのに…
そしたら怒られないで済むのに何でかねぇ?」
「何か、夢中になっちゃうんだよね。
回りが見え無くなるって言うか。」
「いいコンビって事じゃねーの!」
「嫌だよ!あんな情けねーヤツ!
気持ち悪りいーよ!
コンビを組むならやっぱりヨッシーだ!」
「だ、か、らっ!私はやらんよ!
他にやりたい事あんだよ!忙しいんだ。」
「ケチーッ!」
「ケチじゃねーよ!ピンでやれ。ピンで!」
「できっかっ!そんな恐ろしい事。
緊張で爆発するわっ!」
「えっ!何が?」
「私の小ちゃなハートが
ドキッ!バキッ!ドカッーーン!ってな。」
「ナクサ。アンタそれ死んじゃうよ。」
「そだな。ヤベーな。」
続く




