70 大晦日の日の出
「ヒーッ!気持ちイイっ!」
「ナクサ!アンタ痩せ我慢やめろよ!
ガタガ夕震えてるじゃないか!
さあ、中に入るよ!」
ヨッシーが七草を抱き抱えた。
フェリーのデッキから海を見ていたのだ。
出航してから 30分。
まだ遠くの海岸線に
街や工場の明かりが灯っている。
朝日はようやく昇り始めたところだ。
「嫌だーっ!日の出が見たいんだーっ!」
「明日、初日の出を見ればいいだろ!」
七草は宙に浮いた足をバタバタさせた。
「嫌だ一っ!今日の日の出は
今日しか見れないんだよーっ!」
「そりゃそうだけど。
それって、当たり前過ぎだろ!」
「それに宗像だと山からしか
朝日は上がらんのだぞ!
私らの住処も同じだろうが
日本は島国であって山国なんだよ。
今しか、海から昇る朝日を拝める
チャンスは無いんだよ!
だからヨッシー!頼むよ!
おねげーしますよ!お代官さま一っ!」
「わかったよ。私もそれ!拝みたくなったよ。
一緒に見よう。
そうだ。みんなも呼ぼう。呼んで来るから…」
そう言うとヨッシーは両腕を抱えながら
寒そうに休憩室に向かった。
七草は手すりにつかまって海を覗きこんだ。
「手すり冷たっ!
しかし、暗れーなぁ。真っ黒じゃん。
しぶきがすげーなぁ。結構早いな。
今ここから落ちたら助からんな。
でも、なんか吸い込まれそうだよ...」
「ナクサッ!」
「わっ!何大声だしてんだよ!
タマガールじゃないか!」
「タマホームみたいな言い方すんな。
それより何やってんだ。
そんなところから身を乗り出して
身投げするつもりか!このバカタレがっ!」
「海を覗いてただけだろ。
でもスーッと引っ張られそうになった
そんな気はしたなぁ。」
「霊に呼ばれたのかな?」
七海が余計な一言を言ってしまったので
七草の顔色が一瞬で変わった。
「あっ、ナクサ!どこ行くんだ!」
「休憩室!」
それだけ言うとスタスタと歩きだした。
「あちゃーっ!
オバケ、幽霊関係はダメだったろ!」
「そうだった!
七草みんないるから大丈夫だろ!」
それでも歩き続けてドアに近づいていた。
それをヨッシーが速攻で追いかけた。
「ウワーッ!やめろー!ヨッシー!離せーっ…」
ヨッシーが七草を抱き抱えて一回転した。
「ほらっ!もう昇り始めたよ。ア、サ、ヒ...」
「あっ!あ、ああ、あ一っ!
ああ...美し…..い。」
七草の瞳から涙がポロポロこぼれた。
「この時間、この一瞬を忘れない!だったな。」
「あっ、ああ、そうだよ!ヨッシー!
絶対忘れないよ。
今日の、この日の、この朝の、この時間の
この一分一秒の、この一瞬の、この…」
「あーっ、もうっ!なんか長げーよ。
「このこの」ダラケじゃないか!」
「ヨッシー!いいところで水さすなよ!」
「悪りぃ!ハハッ!」
「ありがとうな!七草。ヨッシー。
いい瞬間に出会えたよ。
そう言えば海から昇る朝日なんて
俺は初めて見たよ。」
「じゃあ、初日の出だな!」
「それは、また意味が違うと思うけどな。
ま、いいか!」
「でも、本当に素敵ですわ!
清々しくて、身が引き締まります。
皆さんと一緒に、この光景を見れた事
一生忘れません。」
部長はハタハタと揺れる黒髪をかきあげ
凛とした立ち姿を見せた。
半円球まで昇った朝日が
その部長の姿を橙色に染めた。
神だ。美神だ。女神降臨だ。
七海はそう思った。
みんなの潤んだ瞳もオレンジに輝いていた。
「そろそろ戻ろう。」
「そうだな!流石の私も少々冷えたよ。」
ヨッシーは就寝用の毛布を持ってきていた。
それに二人で、くるまって朝日を見ていたのだ。
寒いので、そのまま移動をした。
「オイオイ君達
そんな格好で歩きにくくないのかい?
二人羽織か?獅子舞か?ハハハッ!」
「温ったけーからいいんだよ!
七海も部長とやれば良かったのにな!」
ヨッシーの言葉に七草が反応した。
「駄目、駄目!
コイツら毛布の中で何やらかすか
わかったもんじゃねーよ!」
「なっ、七草先輩....」
「何だ?短亀ちゃん…」
短亀ちゃんが目配せしながら
上の方を指さしている。
何気なく首をひねり上を見ると
部長の顔が目の前にあった。
鼻が引っ付きそうだ。
まるで格闘技のゴング直前みたいだ。
血走った瞳で睨みつけている。
七草の顔色が真っ青になった。
「きゃーーっ!」
七草はドア前を素通りして
船尾の方に走って逃げ去った。
「よっぽど怖かったんだな。」
「そうですね。初めて聞きましたよ。
七草先輩の女の子っぽい叫び声。」
「意外と可愛いかったですね!」
「そうだな。ハハハッ!」
続く




