64 チョン君のご乱心
短亀ちゃんとチョン君の出番だ。
「オーッ!カワイイーッ!」
また、大きな歓声が上がっている。
七草の出番が箸休めになり
感性が呼び戻されたらしい。
被害をこうむったのは七草だけで済んだようだ。
短亀ちゃんの乙姫様は水色とグリーンを基調として
海の女神のイメージを前面に押し出した
キュートな衣装だ。
ちょうちんのようなホットパンツが
白い脚を健康的に魅せている。
チョン君は同級生が来ている事を知り
ステージ裏で慌ててヨッシーに
変装メークをして貰った。
しかし、ヨッシーは、やり過ぎた。
折角のイケメンが台無しだ。
眉毛を極太に描き
頬は酔っ払いの様に真っ赤っか。
鼻毛まで描いている。
チョン君が後で鏡を見たら
気絶か発狂するレベルだ。
チョン君は繊細なのだ。
乙姫の後を浦島太郎が
お供の様について出てきた。
釣竿を肩にしょっている。
チョン君はオドオドしながら
なるべく短亀ちゃんの影に隠れ様と
しているようだ。
しかし、小ちゃな短亀ちゃんでは
それは、到底無理な事だ。
クスクスと会場から笑いが起き始めた。
大男が小柄で可憐な少女の後ろに隠れるように
コソコンしているのだ。
その違和感に何やら異様かつ面白味を感じたのだ。
二人が七草の横に並んだ。
全員揃い踏みだ。
司会者の合図で採点が始まった。
百人の観客が事前に商店街のアプリを
スマホで登録する事で採点に参加する事ができる。
液晶画面一杯に数字が映しだされた。
65点、70点数字がジワジワ上がって行く。
75、76。
そこでピタリ止まってしまった。
「おーっと、ここまでか一っ!」
司会者が叫んだが数字は伸びない。
「ヤバイ!ヤバイ!やばいぞ一っ!奥の手だ!
最後の手段だ!チョン君許せーーっ!」
七草が叫んだ!
その手にはコントロールが握られている。
「ナクサーッ!駄目だ一っ!」
ヨッシーが飛んだ。
コントローラーに、つかみかかったが
一瞬早く七草がスイッチを押していた。
そして、ぶつかった衝撃で
コントローラーは床に落ちた。
「ぎゃ一っ!」
「きゃぁー!」
「うわーっ!」
チョン君と観客。
両方から空気を切り裂くような叫び声が上がった。
チョン君の腰にセットした
浮袋型亀の首が一気に伸び上がったのだ。
それは2メートル程も有り
チョン君の股間あたりから
45度斜めに、やや弓なりに伸び切って
ピタッ!と、止まった!
チョン君は自身の姿に怯える様に
彼の体も後ろに45度程傾いたので
その長い首は天を仰ぐ様になった。
チョン君は完全にバランスを崩していたので
短亀ちゃんが、とっさに支えなければ
パタリと倒れていただろう。
ここでも短亀ちゃんの真髄がでた。
機転が効いている。
その頭部の首は、あの部室の、職員室から
エアコンの冷気を拝借した際に使用した
蛇腹ホースの残りを有効利用した物だ。
しかし、チョン君は
このステージで起きた全ての事を
無効にして欲しかった。
たった今、何百、何千と言う観衆の前で
この異様な姿を晒し辱めを受けているのだ。
自身が望みもしない異様な姿で
死ぬほど恥ずかしい思いをしているのだ。
仮装メークの下は頬だけでなく額から首まで
真っ赤っかになり冷や汗が噴き出ている。
肝心の、そそり立つそれは
亀と言うより龍の様に見えた。
ヨッシーが造形した、その姿は
あまりにもリアルで壮麗であり迫力があったので
それを見た観客は騒然として静まりかえっていた。
そこへ突然機械音が響いた。
首が一気に縮んだのだ。
その衝撃でチョン君の腰が引け
体は、くの字になった。
しかし、それで終わりではなかった。
"ガチャッ"再び首が伸び上がった。
またチョン君は弓なりに背後にのけぞった。
"ガチャツ、ガチャッ!"
亀首が伸びたり縮んだり連続運動を開始した。
コントローラーを落とした衝撃で
スイッチが壊れ誤作動したのだ。
チョン君はパニックに陥ったようだ。
ステージを狂ったように走り回った。
肩には釣竿を背負っていたので
それをよけるために皆、慌てて身を屈めた。
首が伸びたり縮んだりするたびに
チョン君の腰が前後にダンスの様に揺れるので
その姿が、まるで
ドジョウすくいの踊りの様に見えた。
ヨッシーの託したアホヅラメークも
功を奏したようだ。
あちこちで笑いが起き始めた。
極めつきは前列に並んだ小学生や幼稚園児などの
幼ない世代の笑い声だ。爆笑している。
「キャッキャッ!」
「ケラケラッ!」
…と腹を抱えて笑っている。
何の衒いもなく純粋に
ただその動きに反応し大笑いしたのだ。
それに釣られて大人達も笑い出した。
爆笑の渦が会場に溢れた。
すると液晶画面の数字が動きだし
すぐに80点を越え合格。
しかし、そのまま数字の伸びは止まらず
一気に100点満点になってしまった。
会場は歓声と祝福の拍手に覆われた。
釣竿の振りをよけて、しゃがんでいた部員たちは
一斉に立ち上がりジャンプして喜んだ。
両手を掲げ勝利の雄叫びを上げた。
しかし、そこに当の…
この勝利の功労者の姿は無かった。
ステージをさまよい右往左往した挙げ句
薄く作っていた商店街の手作りステージの
後ろの壁を突き破って飛び出していたのだ。
本人は右も左も前も後ろも
わからなくなっていたのだろう。
しかし、観客は
それさへも演出だろうと大笑いした。」
「あれっ!チョン君いないね!」
「そだな!」
部員達は背後で起きた。
壁の突き抜けには気付いていなかったのだ。
続く




