6 親友の中の真友
「結構、広いですね!」
今日は、初めて新入部員が、花壇と畑の手入れに参加した。…と言ってもたった一人しかいないのだが…
「去年は、本当に、ここの花壇だけでしたものね。
本来は、お花を植えるだけだった様ですけど、
私達は、野菜や果物も育てたんですよ。
メロンは、ちょと、出来が悪かったですけど…
他はまあまあでした。
今年はもう少し、うまく出来るように工夫するつもりです。
それで、こちらの空きスペースもお借りしたんですよ。
でも、すぐ植えられる訳じゃないんです。
土から育てないといけないんですよ。
ねえ、七海くん!彼は私の師匠です。
お内が農家をされていて凄く詳しいんですよ。
頼もしいんです。」
「ヘーッ!夏機先輩って
そっちの方は凄いんですね。
お笑いの方は、からっきしですけど。」
「短亀ちゃん!
俺は、別にお笑いをがんばってる訳じゃないから
そう言われた方が逆に嬉しいよ!」
「七海!アンタその方が嬉しいって
顔が引きっ吊ってるよ!
核心を突かれて動揺しでるんだね。」
「ワーッ!七草一っ!
俺にお笑いの真髄を伝授してくれーっ!」
「しょうがないねーっ、その道は険しいよぉ!」
「わかった!俺、精進するよ!」
「七海!アンタ
いろいろナクサに弟子入りするよね!
ろくな事にならんのに本当、懲りんの一っ!」
「何だとーっ!
私はちゃんと成果を出してきたからね!」
「それはアンタにとっての成果だる。
再生数が上がる動画をとったり、
バカ笑いして喜んだり
自分の為にやってるだけだろ!」
「いや!七海の為にやった事が結果
そうなっただけだ。
鍛錬させた結果の産物だ!」
七草の話に七海が応えた。
「じゃあ、部室でまた、何かやるのか?
どんどん園芸と、かけ離れて行くぞ!
むしろ演藝団に寄ってきてるじゃないか!
そっちに全て飲み込まれてしまいかねん!」
「ヨッシー!アンタはどっちがいいんだい?」
「私はどっちもいらないよ!
くつろげる場所が在れば、それでいい!
部長には申し訳ないけど、それが本音だ!
ただ、ここの連中は気にいってる。
何かあったら一緒にやりたいと思ってる。
そこを外されたら堪らん寂しいだろうよ。
結局、それが私が部員としてここに存在している真髄なのかもしれないな!」
「ヨッシーさん。それで充分ですよ!
それこそ、この部自体が、存在する意義ですよ。
居たいからいる。やりたいからやる。
心の赴くままに活動する。
誰の束縛も強制も受けない。
自由の聖地が、ここにあるんです。」
部長は手を合わせ瞳を閉じて熱弁している。
その後ろにはお日様を背負い後光がさしている。まるで、マリア様か観音様の様だ。
「素晴らしい!
園芸部どころか部活の範疇を超えてますよ。
悟りをも、開いているとまで思ってしまいます。
凄すぎます。」
短亀ちゃんは感動を超えた何かを感じた。
「そんな大層なものじゃありませんよ。
コツコツ地味な活動を続けているだけです。
その事が、いずれ良い結果をもたらしてくれると
願って頑張っているんです。
園芸の本質もそこにあるんです。
まず土台となる土に
適度な養分と水を与える事から始めるんです。
やり過ぎもダメなんです。そうですよね。七海君!」
「ああ!そうだ。人間でも同じだろ。
暴飲暴食は身体の為に良くない。
適量ってのが肝なんだ。
そこが、ついやり過ぎてしまうんだ。
甘えさせたくなる。
飼い犬や猫がブクブク太ってしまうのもそうだろ。
世話をする者のエゴがでてしまうんだ。
結局エコじゃなくなってしまう。」
「うまい!七海!エゴとエコを掛けたとこ、
中々やるじゃないか!やれば出来るじゃないか!
私は褒めて伸ばすタイプだからなイイところは、
イイと褒めちぎって、ちぎり倒すぞ!」
「何か粉々になりそうだな....」
「ハハハハッ!最高!ホント!
夏樹先輩!頑張りましたね!
ところで部長さんと夏櫢先輩って
お付き合いされてるんですか?
何か二人の間に
特別な空気感が漂っているんですけど。」
「ええ!そっ、それは、あの、その、はっ、はい!
つっ、付き合ってはいますけど、
今はその、少し距離を置いていると申しましょうか。
我慢していると申しましょうか?」
「最近セックスしてねーんだよな!」
「七草さん!」
部長が、慌てて七草の口を塞いだ。
「ウグッ!ウグググッ!ぐるじっ..・・」
「部長っ!ストップ!鼻も塞いでるっ!」
ヨッシーが、慌てて、引き離した。
「ああ!それは申し訳ありません。
でも、そんな事、公衆の面前で言うなんて
非常識過ぎます。」
部長は怒り心頭だ。その気迫に七草はビビリまくった。
「わっ、悪りぃ、悪かったよ。
そんなに怒んなよ。あーあ、怖っ!」
「部長さんって優しいだけじゃないですね!
締めるところは、締める。
凛としたその姿、凄く美しいです。
女として、憧れます。」
短亀ちゃんが部長をキラキラした瞳で見つめている。それを見たヨッシーも同調した。
「そうなんだよ。
言う事は筋が通ってるし説得力もある。
納得できる話をしてくれるんだ。本当凄いんだよ。
ひねくれモンの私でも心酔してしまったよ。」
「ヨッシーは部長教の信者だからな!
洗脳が終わっとる。」
七草が皮肉った。
「また、そんな言い方!
普通に尊敬してるだけだよ!」
「ヘーッ!凄いなぁ。私も入信しようかなぁ。」
短亀ちゃんが感心しているが、
ヨッシーは、冷静に諭した。
「だから、そんな部長教なんて存在しないから!」
それでも短亀ちゃんは引き下がらなかった。
「今からでも、作ればいいじゃないですか!
きっと信者は続々と集まると思いますよ。」
短亀ちゃんは、ノリノリだ。
「それじゃ本末転倒だろ。
本業の園芸部が短亀ちゃんしか入部していないのに
部長教に人がたくさん集まったら…。
いよいよ園芸部の存在意義が、問われるよ。
それは、自分達にも突きつけられる問題になる。」
「それは、そうですね。
部長教で集めてそのまま園芸部に入部させたりしら
それこそ詐欺部になってしまいますものね!
それは、さすがにマズイですね。ハハハッ!」
短亀ちゃんが納得したところで部長談話。
「そうですね。それに規定人数さへ足りていれば
別にそんなに焦る事も無いですしね。
のんびりやれるし、その方が良いかもです。
正直、七草さんの世話で
手一杯なところもありますしね。」
「オイ!オイ!なんだよ。それーっ!
私がまるで、わがままな2歳児みたいじゃないか!」
「まるででもないし、みたいでも無い。
その通りだ!」
「うそだーっ!うそだーっ!そんな事あるかーっ!
私は高校二年の女子校生様だーー!」
「何で、様を付けたんですかね?それにしても
ホントに赤ちゃん見たいになるんですね」
「えっ⁉︎ 」
「ホラホラ!短亀ちゃんに
恥ずいところ見せてどうすんだ?
先輩らしくしろよ。
何で、ここで、赤ちゃん帰りの技を
披露してるんだよ」
「ヤバイ!ヤバイ!どうしよう?
ヤバイとこ見られた!七海どうしよう?」
「心配すんな。それも、オマエの一部だ。
部活でこうして付き合っていけば、
そのうちオマエのイイところも見てもらえるさ。」
「そうだよ!
数少ないイイところ見つけてもらえるよ。」
「ヨッシー!アンタ本当に私の親友なのかい?
最近つくづく心配になってくるよ!」
七海が割って入った。
「親友ってのは、そんなもんだろ。
相手が気持ち良くなる事ばっかり言ってるのは、
ただの友達だ。
相手の事を思って敢えてキツイ事も言えるのが
真の友達だ。
その点ヨッシーは親友の中でも真実の友
真友といえるんじゃないか!」
「七海一っ!
アンタいつも、いいアシストしてくれるよ!
お笑いは、からっきしだけど。ありがとう!」
「待てっ。ヨッシー!
間にさみしいヤツ挟んでたぞ!」
「気にするな!素直に喜べよ!」
「そうだな!」
続く